第108話 ゴーレム娘、クエスト内容を聞く
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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数日後。
グランディア家にやって来たのは領主の次男にして領軍副長である、ディアス・テモールだった。
用件はズバリ『軍備品の運搬』の打診だ。
つまり目的は私ではなく、ワンダブルを持つオズ。
にも関わらず 話し合いの場には、オズだけでなく私、義姉さん、お義父さん、お義母さんまで同席していた。
そんなつもりは無いと思うが、次男が責められているように見える…………
そう感じるのは私だけでなく次男も同様のようで、席に着いてどことなく小さくなっているように見える。
「(頑張れ~、次男~)」
周りにバレないはずはないが、一応声を潜めてエールを送っておく。
……………………周囲の圧が高まった気がした。
「そ・れ・で? 何の御用件でしょうか?」
「いや、用件は伝えたろ……」
「はあ?」
「もう一度説明させていただきます」
オズがやたらとドスの利いた声で次男を威圧する。
本来であれば無礼も無礼であろうが、グランディア家の面々がオズ贔屓のため次男は粛々と受け入れざるを得ない。
「あらあら……嫌われているわね~、ディアス君。自業自得よ」
「前に説明したと思うが、オズリアもこの前のお前の狼藉を知っている。諦めて受け入れろ」
「狼藉という表現は止めてください……」
…………さすがに可哀想になってきた。
「お義母さん、お義父さん。私は気にしてないので、そろそろ許してあげてください。さすがに二度目をしたらアレですが。
それと、オズ。あんまり意地悪しないの。それにお義父さんたちの威を借るのは感心しないよ?」
「むぅ……………………ごめんなさい」
「よろしい。次男もごめんね。何だかみんな目の敵にしてるみたいで」
オズが不承不承といった雰囲気でこちらに謝るので、次男には私から謝っておく。
なお、お義父さんたちの方は『ふん……』という感じです。
「あ、あぁ…………いや、謝るならちゃんと名前で呼んでくれねぇか?」
「えぇぇ…………今さら『ディアス様』とか恥ずかしいし……」
「いや、『様』はいらねぇから……」
「「「「「『…………チッ』」」」」」
「……………………次男でいいです」
私を除く全員 (ナビ含む) から舌打ちされると、次男はガックリと項垂れて意見を取り下げた。
なんかごめん…………でも、呼び捨ても不味いでしょう……
「そ、それで、えぇと……『軍備品の運搬』のクエストについて、ワンダブル特典で先に話を持って来てくれたんだっけ?」
「あ、あぁ。大体そんな感じだ。正確に言えば、まだ依頼は受理されてないから、この場は依頼人からギルドへの依頼内容の説明の場で、後で説明すると二度手間になっちまうから一緒に聞いてもらってるようなものだな」
そう言って次男は私たちが手に持つ紙を指し示す。
それはギルドの掲示板に貼られる依頼書と同じもので、以下のような内容が記載されていた。
依頼名:軍備品の運搬
依頼人:領軍
場所:テモテカールより南方へ約三日、街道付近
期間:約九日 (移動 六日、戦闘 二日、予備日 一日 を予定)
募集人員:約50人
報酬額:80,000テト/人 (期間増減に合わせた変動なし) + α (簡単な臨時クエストあり)
対象:軍馬 約80頭の群
内容:領軍の行軍に合わせて軍備品を運搬、補給拠点間の運搬、補給拠点での雑用。アイテム袋の支給はないので、運搬方法は各自用意。詳細はギルド員まで。
受注に当たり、事前教育を実施するので参加のこと。
大体こんなことが書かれていた。
ルーカスたちに聞いていた通り、南側の街道に魔獣が現れたらしい。
軍馬…………まぁ、馬系魔獣であることは間違いない。
「この軍馬って、どんな魔獣なの?」
「「「「「「『馬』」」」」」」
「打ち合わせしてんのか あんたらは!!」
まさかの次男を含めた全員の回答がハモった。
「おーけい、落ち着け。ただの冗談だ。ハモるとは思わなかったけどな。
まず、軍馬の見た目は普通に馬だ。個体としてはCランク魔獣に相当するが、防御力は低い方だ。
特徴は『軍』の名が示す通り、集団行動することだな。この『集団行動』とは、弱い草食魔獣などが行う個体の生存率を上げるための『群れ』でなく、効率的に狩りを行うための『組織』だ。内部では、誘導役・攻撃役・防御役など役割分担がはっきりしている。何より特殊なのは、この『組織』が『組織全体が生き残ること』を第一目標としていることだな。
つまり状況によっては、組織が生き残るために少数を囮として切り捨てることもある。例えそれがボスだったとしても、だ」
「ボスもて……それがいなくなったら組織も維持できないんじゃないの?」
「どうも優先順位があるみたいでな。ボスがいなくなっても、すぐに次のボスが現れるらしいぞ」
「ふーん」
危機意識が高いとでも言うのかな? 万一の状況を想定して備えておくのは。
「それと普通 魔獣が群れる場合は、同種族・同属性で群れるものだが、軍馬の場合は属性が複数混成であることが多い。これは組織として取れる選択肢の幅を広げるためと言われていて、実際問題、こちらの攻撃や防御手段に応じて対応を変えてくることが想定されている。
…………まぁ、この辺は俺たちの仕事だから、お前らには関係ないが」
「よろしくね」
戦闘は領軍の担当だからね。私たちの担当は物資の運搬。
「依頼内容は、そこに書かれている通り、俺たちが行軍するのに合わせて軍備品を運搬すること、途中で設営する補給拠点間で軍備品を運搬すること、各拠点での雑用。
最初のは分かりやすいだろう。領軍と一緒に移動してもらう。一日分移動したら、補給拠点を作って次に行く。
その次のは、街とその補給拠点間での運搬をしてもらう。目的地が三日の場所だから、街、補給拠点A、補給拠点B、前線拠点の各間の運搬だな。要するに前線に常に必要な軍備品が届くように、その流通を担ってもらう。
最後のは、各拠点に留まって備品整理などの雑用をしてもらう。それとあって欲しいことではないが、運搬の冒険者が魔獣の襲撃などにあってしまったときなどのバックアップの意味合いもある」
「なるほど…………でも、戦闘が二日で終わる公算なのに、随分しっかりとバックアップ体制を整えるんだねぇ」
領軍が何人いるのかは知らないが、彼らの九日分の物資でも、私の[アイテムボックス]には収納できる。
てっきりそれを頼まれるのかと思ったのだが……
「あくまで予想は予想だからな。想定外に延びる可能性もある。
それに今回の行軍は演習の側面も強い。だから長期化する場合を想定しての実地訓練も兼ねてるんだ。軍馬は領軍が出張る魔獣としては、最低クラスだからな。
だから、お前に全部運んでもらおうとは考えてないぞ、一応言っておくと」
「…………顔に出てます?」
「ノーコメントだ」
思わず敬語で問うてしまったよ…………出てるってことだよね、それ。
次男は説明を終えて、一応出されていた紅茶を一口啜って一息つく。
「とりあえず、説明は以上だな。どうする? 受けるか?…………って、俺が聞くことでもないな。
姐さん。これで問題ないか?」
「そうね。これで受け付けしておくわ」
そういう義姉さんの手元には、私の手元にある依頼書よりも分厚い書類が握られている。恐らくは私の依頼書にある『詳細はギルド員まで』の部分が記載されているのだろう。
そちらは義姉さんたちに任せて、私はオズに聞く。
「どうする? 受けてみる?」
「私はどちらでも……」
「私もどっちでもいいよ~」
『まぁ、そんなに危険度は高くなさそうだしな』
ヤバかったら、最悪ガア・ティークルに空間転移で逃げられるしね。
「受ける場合は、やっぱり拠点間の運搬の方がいいでしょうか? そちらの方がより危険も少なそうですし」
「あ、いや、ランクが上の冒険者から前線に近い方を担当してもらうぞ。だからCランクが少なかった場合は、お前らが前線拠点付近担当の可能性は高いな」
「…………………………………………そうですか。まぁ、私たちだけで軍馬と闘うよりは安全ですからね。それに基本、戦闘は任せても良いのでしょう?」
「返事するのにそんな葛藤が必要か…………まぁ、ちゃんと相手はしてくれるみたいだし、良しとしよう。
とりあえず回答としては、その通り。戦闘は任せてくれ。お前らの方に魔獣は抜かせねぇよ」
「なんかフラグっぽいね~……それ」
「なんだそりゃ?」
「伏線というか何というか……シャンデリアの下にいて『落ちてこないから大丈夫』って言うと、落ちてくるみたいな」
「ふーん?」
説明したものの、次男にはイマイチ響かなかった。無念。
一連の流れを見ていた義姉さんが、まとめに入る。
「じゃあ、参加ってことでいい? それなら、手続きは私がやっておくけど」
「お願いします。ところで、他の冒険者を推薦とかって出来ます?」
「推薦? 誰?」
ここでこの前、ルーカスに口利きをお願いされていたことを思い出した。
「ルーカスたちのパーティ。Cランクだし、四人パーティだし、悪くないと思うけど」
さすがに女子トークしたいから加えてとは言えない。参加したらするけど。
「あの子らかぁ…………私的には優先的に話を回してあげてもいいけど、そうする理由がね……」
「あ、やっぱり?」
それは少し考えたのだ。
ワンダブル特典は、あくまで『自分に』優遇が受けられる特典だ。
他人を優遇させてもらうためのものではないので、もしそうしてもらった場合、ギルドが根拠なく一部の冒険者を贔屓することになる。
…………まぁ、義姉さんと私たちみたいに、個人的に贔屓してるのはよくあるみたいだが。
「なんだ。その冒険者とは仲が良いのか?」
悩む義姉さんの回答を待っていると、次男が不思議そうに聞いてきた。
「まぁ、それなりに…………なんで不思議そうに聞くの?」
「いや、お前、基本的に一人で依頼を受けていると聞いていたからな、姐さんに。そっちの妹が現れてからは二人で受けるようになったらしいが」
「……………………いつの間にそんな話を……」
義姉さんと次男が話をする機会って、そんなにあったっけ?
グランディア家とテモール家の家族的な付き合いはお義母さんがやってるし、休日の義姉さんは私たちと一緒にいることが多い。
平日はそもそも次男も仕事で忙しいだろうから、遭遇する機会なんて早々ないだろうし。
首を傾げていると、次男ではなくお義父さんが答えをくれた。
「まぁ、ギルド員だからといって、常時ギルドにいる訳じゃない。領主のところに提出する資料なんかは、全部セレスにさせている。その時じゃないか?
…………ちなみにセレス任せになってる理由は、みんな嫌がるからだ」
「「「『…………………………………………』」」」
「師匠……その表現はもうちょっと考えてくれませんかね? 違うぞ。別に平民が来ると嫌がらせされるとかねぇからな?」
「何も言ってないよ」
「顔面が主張してたわ」
顔面言うなや。表情でいいでしょ。
「ちなみに私は『気に入った娘がいたら手籠めにしてるんですね、変態野郎』という意味です」
「私も~」
『同じく』
「してねぇよ!! あと、そのナリで『手籠め』とか言うな!!」
いつの間にか 私と次男の間に立っているオズのお腹に腕を回して膝の上に乗せる。ついでに、やはり私と次男の間の机上にいたナツナツも捕まえてオズの膝の上に乗せておく。
これで突然の暴挙には出られないはず?
「外で言うなよ? 本っっ当に言うなよ?」
「「『怪しい……』」」
「お前の発言の影響力を考えろ。義理とはいえ、ギルド長の娘なんだからな?」
オズたちに翻弄される次男に、『まぁまぁ』と手の平を見せて落ち着かせ、
「だ、大丈夫だって。ナツナツはそもそも人前に姿を現せないし、オズは頭良いからちゃんと考えるって」
「考えた上で実行しそうだと思うのは気のせいか?」
「…………………………………………」
「否定しようや…………」
否定出来なかったんだよ……
えーと……
「ほら、ナツナツにオズも。私、別に次男のこと嫌いじゃないから、そんなに目の敵にしなくていいんだよ? いきなり模擬戦挑んできたのは、まぁどうかと思うけど」
「……………………ルーシアナ…………お前ももっと自分の発言の影響力を考えろ…………さらに悪化したじゃねぇか…………」
「あ、あれれ?」
言われてみると、二人がさらに不機嫌になってる気がする…………
「でも『次男のこと嫌いだから、目の敵にしなくていいよ』っておかしいよね? 別にそれで二人の好感度が上がる訳でもないし、『泣きっ面に蜂』って感じじゃない?」
「う、うーん……………………だが、そいつらの態度が嫌悪から無関心に変化するなら、プラスマイナスはプラスの気も……」
「何を言ってるんですか。お姉ちゃんが嫌いなヤツは、私の敵です」
「みーとぅー」
「マイナスにしかならねぇ!!!!」
次男が『ダン!!』と勢いよく両手を机に叩き付けた…………と、見せ掛けて既の所で止めていた。
器用な…………
「ふふふ…………ディアス君も大変ね。ちなみにその二人を乗り越えても私たちがいることは忘れずに」
「タチアナさん…………ないですから。どっちかって言うと、母上とタチアナさんで盛り上がってるだけじゃないですか……」
「あらそう? でも、それはそれで嫌われる原因だと思うけど」
「……………………どうしたらいいんだ……」
???? お義母さんと次男の間でよく分からない会話が成された。
何か二人の間で、『語るまでもないナニか』があるようなのだが、当然私にはなんのことだか分からない。
「お義母さん……何の話です?」
「ヒ・ミ・ツ♡」
「……………………次男」
「タチアナさんが秘密って言ってんのに、俺が言える訳がない」
「……………………オズ」
「知らない方が私たちにとって都合が良いので秘密です」
「『同じく』」
「……………………義姉さん」
「言われると意識しちゃうことってあると思うのよね」
「……………………パパ」
「ぐふぅあ!?」
ダメ元でお義父さんに媚びたら、先手を打ったお義母さんの肘がめり込んだ。
一応、何と呼び掛けたかは聞こえていたらしく、『グッ!!』と親指を上げて幸せそうに気絶した。なーむー。
「はぁ……まぁ、いいですけど。それで、ルーカスたちは推薦できないの?」
「んー…………じゃあ、こうしましょう。ルーシアナたちとルーカスたちをひとつのパーティ扱いにしましょう。クエスト中はどうせバラバラにして再編するし、特に問題はないはずよ」
「あ、なるほど。そんな手が」
「まぁ、なるべく元のパーティメンバーになるようにするけどね。
でもこれがバレると、他の冒険者からも同じようなこと言われて面倒なことになるかもしれないから、こっそりとね? 早めにルーカスたちと口裏合わせましょう」
「了解。今度見掛けたら連れてくから、義姉さんの方でも見掛けたら捕まえといて」
とりあえず、ルーカスたちとパーティを組む方向で落ち着いた。
建前としては、『クエスト受けた時は今後もパーティを組み続けるつもりだったけど、クエストが終わったらやっぱり気が変わっただけ』だ。
「お前ら…………仮にもギルド長の前でそういうこと言っていいのか……」
「大丈夫よ。白目剥いてるでしょ?」
「あ、冗談じゃなかったんだな」
グランディア家ではよくあること。
でも、実はこの状態でも話は聞いてるっぽいんだけどね。だから、大丈夫な理由にはならなかったりする。
「さてと。それじゃ、そろそろ御暇させていただきますよ」
話が一段落着いたと見たのか、紅茶をグイッと飲み切ると次男が立ち上がる。
「分かったわ。人数が揃ったら連絡するから、準備は進めておいて。多分、一週間は掛からないと思うから」
「おぅ」
……………………にも関わらず、誰も見送りをしそうにないので、私が行くことにする。
オズたちの次男へのヘイトがさらに上がる気がするが。
「じゃ、私が見送ってくるね」
「あら、そう? お願いね」
「ディアス。分かってるわね?」
「私も行きます」
「私も~」
「オズとナツナツは留守番。喧嘩腰だからね」
「う……」
「えぇ~~……」
「……………………正直、いらねぇんだけど」
案の定、付いてこようとした二人には留守番を命じる。まぁ、二人ともナビ経由で状況把握くらいするだろう。
二人が行動を起こす前に、次男の背中を押して退室させた。
「ほら、行くよ~」
「あ、あぁ……」
「いってらっしゃ~~い♪」
お義母さんに声を投げ掛けられながら廊下へと出た。




