第107話 ゴーレム娘のなるようになーあれ
百合展開にご注意ください。
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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チュンチュンチュンチュンチュン…………
「…………………………………………」
次の日。……………………そう。次の日、である。
何の次かって? はははっ……
…………………………………………はぁ。
何はともあれ、次の日である。
ベッドで横向きに眠る私の腕の中には、小さな寝息を立てるオズが納まっており、背中には義姉さんが抱き付いてきている。
……………………昨日は大変だった。
詳細は省くが、まず騒ぎを聞き付けてやって来たお義父さんと義姉さんに、即行バレた。オズと一線を越えたことが。
……………………いや、キスくらいで『一線越えた』は言い過ぎか?
世のお父様方は娘が産まれると、赤ちゃんの内に愛でる流れでキスをするという。
そして、娘が恋人を連れてくると『残念だったな!! 娘のファーストキスはすでに俺のモノだ!!』と言って、致命的に嫌われるのだ。絶縁されないだけ有り難く思いなさいよ。
それはさておき、このような父と娘の関係を指して『一線を越えた』と言わないのであれば、私とオズについても『一線を越えた』とは言わないに違いない。うん。
まぁ、言語表現はどうでも良いとして、つまり私がオズにガッツリとキスしたことが二人にバレた。
でも、怒られたり気持ち悪がられたりするかと思ったけど、そんなことはなかった。普通に受け入れられたよ……
一応言っておきますが、これは普通の反応じゃないです。
昨夜の酔っ払い共は、なんやかやと囃し立てたりして肯定的な雰囲気だったけど、あれは自分とは関係の無い第三者視点であったからそうであっただけで、『自分の身内が』、となるとまた反応は異なっただろう。
……………………だよね? 異なるよね? 私の常識おかしい訳じゃないよね? 約120年の時の流れは同性婚どころか姉妹婚を容認してないよね? いや、してたらこんなに悩まなくてもいいんだけど!!
…………ま、まぁ、あの時 私は、悪いことをした瞬間を親に見つかった子供みたいな気分だったところ、予想外に許されてびっくりしたわけです。
お義父さんは『仲が良いことは良いことだな!! 良し!!』とか言うし、義姉さんは『私ともちゅーしましょ~』とか言うし、それを見てやっぱりみんな囃し立てるし…………一応、義姉さんとのちゅーは回避しましたと言っておきます。
なお、大音声で騒いだ件は、グレイス君が〆られて一件落着しました。
まぁ、あの騒ぎを止めずに放置してたのだから、自業自得ですよね。
その後、二人はそのまま食事を開始してしまったので、そのあとの仕事は父姉参観のようになってしまった。
ここも大変だった。恥ずかしかった……
そんな感じで主に精神的に疲労して帰宅したのは、いつもより早めの時間だった。
ウェイトレスのみんなが気を利かせて、閉店と同時に帰らせてくれたのだ。
その気遣いは、是非ともキス云々で騒いでいたときに発揮して欲しかった。
そうして就寝したのはやはりいつもより早い時間だったが、疲労により睡眠時間が延びたためか、起床時間はいつもと同じ時間帯となったようだ。
そして目覚めると、腕の中にオズがいるわけですよ。
私の義体というかフレッシュゴーレムは、人に比べると毒耐性が高く、解毒能力も高い。
それはアルコールに対する分解能力にも表れていて、オズの酔いも帰るときにはすっかり醒めていたようだった。
そのため、昨夜の帰宅や入浴の時など気不味くなるかと危惧していたけど、意外にオズ本人としては気にしてない様子。あ、ナツナツは叱っておいた。
もしかして、姉妹でキスするのは普通だと思ってる? それだと説明が必要だなぁ……
ちなみに私はちょっと気にしてる。するよね、普通。
けど 私の心労を除けば、昨日のアレコレもメリットは大きかったのかな。
まぁ、あの酔っ払い連中が私たちの不仲説をどれだけしっかり訂正してくれるのかは不明だけど、キス騒動と一緒に喋ってくれれば、すぐに噂として広がるだろう。
そうすれば、少なくとも不仲説は早々に消えてなくなるはずだ。
むしろ、余計な情報を追加しないかの方が心配で、やっぱりデメリットの方が大きいんじゃないか? くそー。
…………ナツナツには、後でお仕置きを追加しようそうしよう。
と、随分と長考してしまったが、二人が目覚める気配は一向に訪れない。
説明は不要と思われるが、前にはオズ、後ろに義姉さんがくっついているので、起きるに起きられないのだ。
いつもなら就寝時はともかく、起床時には割とバラバラになりがちなので、別々に起きても特に支障はないのだが…………珍しいこともあるものだ。
「…………………………………………んゅ」
ボケッとしてたらオズが小さく身じろぎして、さらに密着してきた。
個人的な感情で気不味くなっているとはいえ、嫌いになったわけでは無論なく…………近寄ってくるのを拒んだり、遠ざけたりするようなことはしたくない。
……………………はぁ、仕方ない。今日は寝坊させてもらおう。
起きるのを諦めた私は体の力を抜いてリラックスし、空いた腕で艶やかな髪を梳くように撫でる。
「……………………ふへぇ~……」
オズの口からは緩んだ声が漏れた。
私の義体をベースとして使用しているので、髪質も私と同様にクセのひとつもなく、とても触り心地がよい。
私の数少ない自慢でもある。
起こさないようにだけ注意して、撫でるのを続ける。
不意に思い立って、指に絡めて朝日に透かすと、キラキラと宝石のように輝いた。
これは初めて気が付いたな……
「残念。ちゅーすると思ったのに…………」
「!?!!!?!!!?」
突然 耳元に囁かれた声に、思わず悲鳴をあげるところだった。
しかしその悲鳴は、気合いで飲み込んだのと、『さっ』と後ろから伸びてきた手の平により、外部へ漏れることは防がれる。
強張る体で顔を巡らせれば、
「おはよー」
「……………………おはようございます」
寝起きの余韻を感じさせない義姉さんが、ニコニコと私たちを覗き込んでいるところだった。
「…………今日は早いですね」
「早起きして、ルーシアナが寝てる間に悪戯しようとしたんだけどね~」
「……………………また出禁にしますよ?」
「え~~♪ 未遂だから許して?」
「まぁ、いいですけど」
「わ~い。じゃあお礼に」
ちゅっ……と軽く頬にキスされた。
……………………今 未遂が既遂になったよね?
「いや、今のはお礼のちゅーだから。悪戯じゃないよ?」
「……………………ちなみに悪戯は何をするつもりだったんです?」
「そんなこと口に出せないわー」
「出てけ」
後ろ足に蹴りを放つが、器用に絡み付かれて拘束される。
「く……」
「ちなみに具体的に言うと~」
「口に出せるんじゃん」
「まず脱がせます」
「まずと来た」
「次に揉みます」
「腹か」
「さらに舐めます」
「よし出てけ」
「そして我慢の限界に達したら○○○○○○○○」
「朝っぱらから何言っとんじゃーーーー!!!!」
思わず大声で叫んでしまった。叫ばざるを得なかった。
さらには、私とオズを抱くように廻されていた腕が、モゾモゾとネグリジェの中に忍び込み、まさぐっていく……………………腹を。
「あ……………………ホントに触り心地がいいかも」
「本気で怒るよ……?」
ちなみに、咄嗟に《リバース・エコー》を展開していたので、私と義姉さん以外に声は聞こえていないはずである。
私、よくやった。
……………………が、声は聞こえなくとも隣でこれだけバタバタ騒いでいれば、オズが目覚めるのは当然だった。
「……………………んぅ…………ぉはよう、ございまふぅ…………」
「お、おはよう」
「おはよ~♪」
私の腕の中から、オズが目を擦りながら身を起こす。
続いて私も…………と 行きたいところだが、義姉さんの腕が未だネグリジェの中にあるので、それは出来なかった。
ネグリジェの上から義姉さんの手の甲をつねるが、あまり効果はない。
……………………でもまぁ、いいか。姉妹だし。
諦めて私も身を起こすと、潜り込んだ腕に引っ掛かって、下着が丸見えになった。
……………………やっぱ、よくねーですわ。
義姉さんの腕をぺちんと叩いて、タオルケットを引き上げて一時措置とする。
いい加減揉むのをやめてください。成長しちゃうでしょ。腹が。
一先ず義姉さんは無視し、オズの頬に手を添えて顔を上げさせる。
「体調は大丈夫? 二日酔いとか」
「ふぁ……………………ふぅ。はい、大丈夫です。念のため寝る前に《滋養強壮》を掛けておきましたから」
確かに手の平に伝わる体温に異常は見られない。若干高めなのは寝起きだからだろう。
「《滋養強壮》って言うと……」
「身体活性の向上魔法です。今回は特に基礎代謝を上げましたので、アルコールもすっきり分解済みです」
「そう。よかった」
「…………なにそれ超便利」
義姉さんも起き上がりながら呟く。
身体強化系と違って効果が分かりづらいが、身体を最適な状態に維持する力を強化する魔法……とでも言えば良いか。
決して二日酔いを防止するための魔法ではない。
「お義姉さまが酔った時には掛けてあげますよ」
……………………決して二日酔いを防止するための魔法ではない。
忘れそうなので、二回言った。
「あ、そうだ」
「? どうしたのオ」
何かを思い出したオズが、ふと呟きを漏らす。
『なんだろう?』と思った私も、同じような口調で聞き返す。……が、最後の『ズ?』の音は吐き出すことは出来なかった。
徐{おもむろ)に顔を近付けてきたオズに、口を封じられたからだ。……………………口で。
「……………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………」
「…………………………………………ぷは」
たっぷり30秒程を掛けると、オズは離れて一息吸った。
背後の義姉さんからは愕然とした雰囲気が伝わってくるが、その反応は私のものではなかろうか?
「えーと……オズさ」
「はむ」
おかわり入りましたー。
「……………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………」
「…………………………………………ぷは」
今度は少し短かった。気がする。それはともかく……
「オズ、ストップ」
「はい。まぁ特に何かするつもりは無いですけど」
「……………………キスしたじゃん……」
「それはもう終わったことですので」
「まぁ、確かに…………ではなく。なんでいきなりキスしてきたの?」
至って真っ当な質問だと思うのだが、オズは不思議そうに首を傾げた。
「え…………? 昨日、お客さんの中に『寝起きにもしてんの? やっぱり』とか言う人がいたからです。これで完璧ですね」
「そーですね……………………その酔っ払い誰だ」
「顔まで覚えてないです……」
まぁ、冒険者に限定しても何百人といるからなぁ……でも、見つけたらまずぶん殴る。
一先ず、着々とダメな大人に誤常識を蓄積させられているオズの知識を急いで修正しなくてはならない。あと、他人の話を簡単に信じるな、とも。
簡単に話すことをまとめ、いざ 説明しよう…………というところで、義姉さんがプルプルと震えているのに気が付いた。
「義姉さん?」
「ふ、ふふふふふ……」
声を掛けると、クレッシェンド式に笑い声が大きくなっていく…………どしたん?
「どしたん?」
脳内音声が思わず漏れた。と、
「も~~~~~~~~二人ばっかりず~~る~~い~~!!!! お姉ちゃんも混ぜなさ~~~~い!!!!」
「え、ちょ、ぎゃ~~~~~~~~!!!!」
私たちの様子を見ていて我慢できなくなったらしい義姉さんが、私ごとオズを抱き締める。
体勢とステータス差は如何ともし難く逃れることは不可能だ……
「ん~~……んべ」
「ストップです。お義姉さまとキスはダメと言われてますので」
「な~~ん~~で~~よ~~……」
「オズ、でかした……」
『まずはオズから』と言うかのように顔を近付ける義姉さんの顔面に、掌を当てて接近を遮るオズ。
ガッツリと掴まれたまま不満の声をあげる義姉さんは置いておいて、オズによくやったと合図を送った。
昨夜も似たようなやり取りが何度もあり、その度にこのように防いできたのだ。
「まぁ正直に言えば、どうしてダメなのかよく分かってないんですが、なんでダメなんです?」
と、オズが聞いてくる。
やっぱり姉妹でキスは普通だと思ってる?
「えぇとね? まず大前提として、姉妹でキスって普通じゃないからね?
それに私やオズと違って、義姉さんは普通に人間でギルド長の実娘なんだよ? 将来、誰かと結婚とかって話になったときに、『義妹とキスしまくってた』みたいな噂が広まってたら、足を引っ張っちゃうかもしれないじゃない。男っていうのは、兎角『初めて』っていうのに拘るらしいし……」
「…………そんなこと気にしてたの? ルーシアナ……………………おっとなぁ」
「昨夜、大勢の前で『ちゅーしましょ~』とか言ってた時点で、すでに手後れだと思うのですが……」
「うぐ……」
そんな気はしてた。でも、噂だけなのと本当にそうなのは、また別…………のような気がするんだけど。
義姉さん本人が全く気にしない様子なので、気の回しすぎのような気もしてくる……………………が、キスするのは普通じゃないんだから、ここで抵抗しない理由にはならないはずだ。
…………と、思索に耽った私は、隙だらけだった。
「ん……………………」
「…………………………………………」
気付いた時には義姉さんの顔が焦点の合わない位置にあってつまりそういうこと。
…………………………………………もういいや、なるようになーあれ。
不本意ながら、これで…………五度目? にもなれば、呼吸の仕方も分かってくるというもの。義姉さんから離れるまで無抵抗にされるがままでいた。
然程 時間は掛けずに離れると、義姉さんはオズとハイタッチして喜びを表現する。
「いえ~~い。これでお姉ちゃんもなっかま~♪」
「人が気を回してるのに…………もういいです。オズともちゅーしちゃってください」
「じゃ、遠慮なく」
「いえ、私が遠慮します。『お姉ちゃんとだけ』と決めてますので」
「ガッッッッデム!!!!」
まさかのオズ拒否…………節操がないのは、むしろこちら側だった…………
流れるように拒否られた義姉さんは、オズに伸ばした両腕をそのまま下に下ろして神を呪った。
義姉さんは多神教型の自然信仰なので、どの神を呪うのかは不明だが。
「おはよー……………………何やってんの?」
この段階に入って、ようやくナツナツがドールハウスから抜け出してきた。同時にナビも目覚める。
「おはようございます。ちょっとした戯れです」
「たわむれ」
「お義姉さまが『キスしよー』と言ってきたので、拒否させてもらっただけです」
「あぁ…………………………………………セレス。そういうのは、もっと大事にした方がいいと思うよ~?」
「『どの口が言う』」
「てへ」
私と目覚めたばかりのナビのセリフが被った。
元はと言えば、昨夜ナツナツが酔っ払い共に『キスだね!!』なんて言わなければ、こんなことにはなっていなかったのだが。
「でもほら~、いい後押しになったんじゃない? もう何でも出来そうでしょ~?」
「そうですね。……タガが外れすぎた気もしますが」
「…………? 何の話?」
ナツナツとオズが分かり合ったようにそう言うと、互いに頷き合った。
分からないのは、私と義姉さんだけだ。
『ほら、この前ガア・ティークルに蜂の巣箱設置した時に、『理性が邪魔して、オズからルーシアナにふざけられない』とかって話をしただろう。あれだ』
『……………………あれか!!』
納得しました。分からないのは、義姉さんだけになりました。
そんなこんなで、全員起床。さぁ、今日も頑張りますか。
…………………………………………なお、この後 お義母さんに根掘り葉掘り聞かれて、早速出鼻を挫かれると言っておきます。




