第105話 オズ、初めてのウェイトレス
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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「かんぱ~~~~ぃあはははははははは!!!!」
「いらっしゃいませお客さま!! 何名様ですか!?」
「お~~い!! 注文頼む~~!!!!」
「お待たせしました!! 猪とキノコのチーズ焼きで~す!!」
「酒!! うま!! 肉!! うま!!」
「ご注文どぞ~~!!」
今日も今日とて、ギルド飯店は賑やかだった。
開店と同時に客が雪崩れ込み、一時間もしない内に店内はほぼ満席といった混み具合になってしまっている。
現在、テーブルとテーブルの間は、人ひとりがギリギリ通れる程度の隙間しか空いていない。
私がバイトを始めた当初はもっと広かったはずだが、気付いたら徐々にテーブルが増えていた。物理的にこの辺が限界だろう。
ついでに言うと従業員も増えており、ウェイトレスだけで1.5倍くらいで、厨房もフル稼働だ。
こうなってくると、ウェイトレスも客もルールを決めて移動するようにしないと、そこかしこで渋滞が発生してしまい実質的に移動が不可能となってくる。
ではどのようなルールを設けているかというと、奇数番目の通路と偶数番目の通路で進行方向が決まっているのだ。縦横共に。
そして注文を取る際は、ウェイトレスは必ず横方向の通路に立つ。
こうすれば縦方向には必ず移動できるし、横方向の移動も少し移動すれば可能になる。
後は横移動を優先して動くことにすれば、移動が滞るということは基本的になくなる。
このルールを適用しているのはウェイトレスだけなのだが、通路を動き回るのは主にウェイトレスだし、床にデカデカと矢印が描かれているので、よほど捻くれている者でも無い限り、客も無意識にか同じように動いてくれている。
とはいえ、通常このテーブルの席全てが埋まる程 客が入るのは、ピーク時の一時間程でそれ以外は七割程度の稼働率となっている。
七割は空きが多い? いえいえ、各テーブルは四人用がメインとなっていて、これは冒険者パーティが基本的には四人であることを根拠としているが、それ以外の人数であることはそれなりにあるのだ。
三人パーティなら1テーブルに付き空席は1つで済むが、五人パーティなら2テーブル使って空席が3つも出来てしまう。
このようにどうしても空席は出てきてしまうのだ。
その結果が稼働率七割だ。
では、稼働率MAX近い時の状況はどんな状態か。
それは1~2テーブル=1パーティで使用するのではなく、一席=一人として割り当てた状態だ。つまり相席上等で、入るところに客を押し込んでいくわけだ。
もちろん同じパーティメンバーを端と端のテーブルにやるようなことはしないが、例えば五人パーティ×2の場合、4人、1人+3人、2人で3テーブルに押し込めたりする。
当然 相席は『1人+3人』のテーブルだけでなく、最後のテーブルに後から二人放り込まれて『2人+2人』になる。
このような効率重視の座席配分なんて、苦情がわんさか押し寄せてくるようなものなのだが、幸いにも不満は挙がっていない。
どうやら、相席した者同士で存外に仲良くなることもあるらしく、むしろ好評だったりする。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はいつもと違ってピークの時間が来る前に稼働率MAX状態へと移行している。その理由は当然…………
「ご、ご注文、どぅぞ……」
「おぅ、シランデちゃ……………………縮んでる!!!?」
「あれ!? 可愛い方じゃん!!!! 珍しい~~」
「可愛くない方は…………あ、いた!!」
は~~い、いますよ~~…… (ひらひら)
オズが注文を取りに行ったテーブルの一人が、こちらを見つけて指差すので一応手を振っておく。
そうです。
今日からオズもシフトに入っているので、このようなやり取りが先程から何度も発生しているのです。
別に今日からオズがウェイトレスに入るということを宣伝した訳ではないが、たまたま今日訪れた客がそれに気付き、物珍しさからなかなか帰らないため、早々に稼働率MAX状態へと移行しているのだ。
しかも、
「ご注文は以上ですね。少々お待ちください」
「お~~い、妹ちゃ~~ん!! 次こっちお願~~い!!!!」
「は、はいぃ!! ただいまぁ~~!!!!」
と、みんなこのようにまだまだ仕事が遅い新顔に声を掛けるものだから、さらに遅れ気味だ。
まぁ、これに関しては先輩ウェイトレスがそれとなくフォローしてくれてるので、大きな問題はなっていない。
特に顔見知りのプリメーラさんとテトラさんが、良くしてくれている。
問題はオズが先程から半泣き状態であることだが…………まぁ、人見知りが再発しないのであれば、このくらいは試練だと思って頑張ってもらおう。
あとは…………
「おい、シランデ妹!! 出来たぞ、持ってけ!!」
「今注文取ってるでしょ!! 私が持ってくから意地悪すんな!!」
グレイス君が意地の悪い顔をして、時たまこのように無茶振りをするのを止めなければならない。
この前は『酷い目にあっても、新人を気遣えるのは尊敬する』とか言っちゃったけど、撤回させてもらおう。
ねちっこい意地悪がヒドイ。例えば、
「ねぇ…………なんでオズのネームプレート『妹』になってるの?」
「分かりやすいだろ?」
「分かりにくいわ!!!!」
とか、
「オズの制服……………………なんで色違うの?」
「目立つだろ?」
「目立たすなや!!!!」
とか。
確かにネームプレートが『妹』でも、みんな私の妹だってことは分かっているので問題ないし、制服の色が違くてもウェイトレスだと分かるのでこちらも問題ない。
ただそうする意味もないので、スムーズに飲み込めずイラッとするのだ。まったく。
ちなみに私のネームプレートも『シランデ』のままで、ここでは『シランデ』『ルーシランデ』『ルーシア』の三種類で呼ばれている。
別に同名の者はいないので間違われることも無いのだが、これもグレイス君の意地悪のひとつだ。直しておくって言ったのに。
まぁ、本当に嫌なことはしないし、こういう子供みたいなことをするから、歳上であることも気にせずストレートに言いたいことも言えるので、概ね職場環境は悪くない。
もしかしたら狙ってやっているのかもしれないが、それだったらもう少し違う方法を考えてほしい。
とりあえず、カウンターに並べられた大量の料理を全て収納し、配膳することとする。
いつもはこの量を収納すると軽いどよめきが起きるのだが、今日はみんなの視線はオズに向いているので静かなものでいや気のせいだわ普通にうるせぇ。
…………というか、この量が置いてあるってことは、私が取りに来るって予想してたな……?
手ぶらのまま、端の列まで移動すると、縦の通路を進みながら配膳を開始する。
その列の配膳が終わるとひとつ隣の通路に移り、今度は逆向きに進みながら同様に。全ての縦通路を移動すると考えればよい。
その途中で他のウェイトレスたちから注文票を受け取り、まとめてカウンターへ。時々私が注文を取ることもある。
3/4程進んだ所で、注文中のオズとすれ違う。どことなくフラつき始めている気がする。
「オズ。大丈夫?」
「あ、お姉ちゃん…………だ、大丈夫です。セコイスがニヤニヤしながら見てるので、弱音は吐けません……!!」
「あの野郎は…………」
視線を追って見ると、オズの言葉通りにこちらを見てニヤついているグレイス君の姿があった。
料理を置いてすぐに引っ込んでいったが、確かによく見る表情だったので間違いない。
仕事に慣れないオズを気に掛けているとも取れるが、まぁあの表情は、からかい:気遣い=80:20くらいだろう。
奮い立たせるように気合を入れ直すオズに、
「無理しないでね」
「はい」
優しく頭を撫でて通り過ぎた。
その後ろで
『セコイスってなに?』
『店長代理のことです』
『だはははははははははは!!!!』×たくさん
と、雑談が始まっているので、これを利用して少し休めるといいのだけど。
そのまま最後の列まで配膳を進め、最後の料理を出す。
「お待たせしました~。白いチキンの何かです」
「お前、相変わらず名前覚えないのな……」
そのテーブルにいたのは、シフトに入るとほぼ確実に会うルーカスたちのパーティだった。
「あ、ルーカス一味」
「それ盗賊みたいだからやめて」
「ルーカス一派」
「どっかに大元がいそうだな」
「ルーカス一家」
「まだ家族じゃない」
「……………………『まだ』?」
「あ」
特に意味のない私の雑談で、フェリスさんが恐らく重要事項を漏らした
「…………………………………………」
「…………………………………………」
無言で見つめ合う私とフェリスさん。
いつも通りの無表情を保っているように見えるが、フェリスさんの瞳は、内心の動揺を示してユラユラと揺れているのが見て取れた。
グレイス君ばりに意地の悪い笑みが浮かぶのを、表向き抑えて話を続ける。
「そうですか~~……『まだ』家族じゃないんですか~~」
「そ、そう。その通り。嘘は言ってない」
おっと失敗。口調に漏れた。
ただ、こういったやり取りには慣れていないのだろう。動揺した様子で反射的に答えるフェリスさん。
その言葉に困ったような表情を浮かべるのは、キリウスさんだ。
残りの二人は、私と同じような顔をしている。
なるほど なるほど。
「そうですよね。私たちみたいに姉妹で冒険者やってる方が珍しいんですよね」
「え……? …………あ、いや、そうでもない。家督を継ぐのは長男に任せてその弟妹は揃って冒険者になったり、兄姉が冒険者やってるのを見て弟妹も冒険者になることは多い」
予想と異なる展開に不審な表情を浮かべるものの、わざわざ墓穴を掘る必要はないと考えたのか、素直に答えてくれる。
「そうなんですかー。フェリスさんたちもそうなんですか?」
「私たちは姉さん……リリアナと私、ルーカスとキリウスが兄弟姉妹。最初はリリアナとルーカスが冒険者になってて、その後に私とキリウスが加わった感じ」
「もしかして、幼馴染というやつですか?」
「そんな感じ そんな感じ。四人で良く走り回ったのは、良い思い出」
「走り回ってたのは、お前ら三人だろう。俺は引っ張り回されてただけだ」
「む…………嫌だったの?」
「そ、そんなことはないが……」
当時を思い出してか、不満気な目をして言うキリウスさんに、フェリスさんが『文句でもあるの?』とでも言いたそうな視線を向ける。
慌てて訂正する姿に、いつもの落ち着いた雰囲気はなかった。しっかりと尻に敷かれているようだ。
静かにいちゃつき始めるカップルは置いておいて、リリアナさんに話を振る。
「で、お二人は何時から付き合ってるんです?」
「おっとぉ? 一足飛びに来たわね?」
「実は俺らも知ったのは最近なんだよな。お前に最初に会った2ヶ月前くらい? 『実は付き合ってるんだ』って言われてな。あれは驚いた」
「まぁ、怪しいなぁとは思ってたけど。真っ赤になっちゃって、とっても可愛かった♡」
「はははっ。だが、キリウスにはもう少し前に出て欲しかったなぁ」
「大丈夫よ、この二人なら。フェリスは意外と脳筋だからね。後で手綱を引いてもらわないと」
「ちょ、ちょちょちょちょ!!!! ねぇさん!!!?」
「に、にいさん!! ちょ~~~~っと待とうか!!!!」
フェリスさんとキリウスさんが付き合ってる前提で話し掛けると、リリアナさんとルーカスがノリノリで話してくれた。
多分話したくて堪らないんだろう。聞いていないことまで暴露してくれる。
それを聞いていたキリウスさんが、真っ赤になって話を遮ってきた。
「そ!! そんなことより、ほら!! ルーシア、あれは知ってるか!?」
「知っています。では、告白した時の状況を原稿用紙10枚程でどうぞ」
「えぇ!? 予想外な展開!?」
そりゃそうだ。『知っているか?』とだけ聞かれて、分かるはずもない。
だが、目的語を告げずにこちらに話を振った以上、どう解釈するかはこちらの自由である。
「告白の場所は? 決め手となった一言は? さぁさぁ!! お答えください!!」
「お、それ俺も聞きたいな」
「私も~♪ そもそもどっちからコクったのぉ~?」
「「…………か、勘弁してください……」」
追い詰められた二人が揃って机に沈んだところで勘弁してあげることにした。
そろそろ仕事に戻らないと怒られるし。
「それじゃ、今度また教えてくださいね。これはお祝いのサービスです」
『でん!!』と、取り出したのは、フルーツケーキである。
よくある食材しか使っていないが、オズの一手間が加わっているので、果物単体でも美味しく頂ける一品だ。
「あら、ありがとう」
「お、サンキュー。俺、甘いの苦手なんだが、お前のは結構イケるんだよな」
「ルーカスのは甘さ控えめにしてあるからね」
他のより素材の味が強く出るようになっている。これもこれで美味しい。
「あ、ありがと……」
「ははは……いただくよ。お礼と言ってはなんだが、先程 話題逸らしに使おうとしたネタを教えよう」
「あ、適当に言った訳では無かったんですね」
「一応な」
リリアナさんがケーキを分けるのを横目に、ルーカスが説明を引き継ぐ。
「このテモテカールは、主に南北に流通の動線が流れているだろう。ここは王国の南端に近いから、北は王都行きで南は開拓村やそれに成功した農村行きだ」
「そうですね」
西はガアンの森、東はカフォニア山脈に挟まれた立地のこの街は、主街道が南北に走っている。どちらもある程度離れたら途中で分岐するが、大雑把には流通は南北に流れると考えて良い。
「その南側の街道を、ある魔獣の群が居座ってるらしい。そのせいで南部の村々とここの間の流通がほぼ断絶してるんだと」
「…………ヤバくない?」
「長期化すればヤバイわね。村の方は食糧に関しては問題ないでしょうけど、それ以外は完全にこの街頼りだからね」
言われてみれば、ここ最近 農産品の質が変わって、少し高くなっている気がする。
南からの流通がストップしてるからなんだね。
「魔獣が居座ってから、もうすぐひと月。冒険者での解決は難しいとして、そろそろ領軍が動きそうなのよね」
「……? 出てましたっけ? そんなクエスト」
全てのクエストを把握しているわけではないが、Cランク以下だったらよく見ているから気が付くと思うんだけど。
「その魔獣は、単体ならCランクなんだが、群れると危険度が跳ね上がるタイプの魔獣なんだ。だから、Aランクの掲示板に出ていた。まぁ、普通は気付かないよな」
「それは気付かないですね……」
逆になんでこの人達はそんなの気付いてたんだろ…………あれ?
「でも、それがどうしたんです? Aランクなら私たち受けられませんし、そろそろ領軍の方に移管されるんですよね?」
「テモテカールの領軍は然して大きくはない。だから物資運搬などの後方支援系の任務は冒険者ギルドに回ってくるんだ。そうなるとクエストランクとしては、CかDになるはず」
「護衛も就くし、運搬距離も長くないから狙い目」
「なるほど」
それで私たちに話が回ってくるんようになるんだね。
「まぁ、近くに隣国が無いから出来る運用だよな。領軍も普段は治安維持がメインだし、後方支援部隊を用意している余裕は無いんだ」
確かに戦争する可能性があるなら、他国の人間が入りやすい冒険者を、軍内に組み込むことはしないだろう。
下手をすれば、内部情報が筒抜けなんてことにもなりかねない。
「でも、いいんですか? そんなの教えてくれて。競争率高くなっちゃいますよ?」
何人受注出来るか分からないが、テモテカールにいるCランク全員ではないだろう。
私に報せたことで、ルーカスたちが受注出来るチャンスは減る。…………まぁ、増えるのは一組だけだから、大した違いでもないが。
「まぁ、普通はそうなんだが。お前の妹、この前ワンダブル成立させただろ? だから多分、優先的に話が行くはずだ。だから、ここで教えても教えなくても同じことなんだよ」
「あぁ~~…………なるほど」
無駄に目立ったデメリットが大き過ぎてすっかり忘れていたが、クエストを優先的に受けられる特典があったんだった。
そうか。こういう時に使えるのか……
こっそりと内心で頷いていると、言いにくそうにルーカスが続けてくる。
「それで、だな。もし『他の冒険者で推薦したい者はいるか?』みたいな話になったら、俺らを薦めて欲しいなぁ、なんて…………」
「ふむ……………………対価は?」
「フェリスとキリウスのアレコレを深堀りする権利をあげよう♪ 移動中に女子トークで盛り上がろうよ♪」
「交渉成立ですね♪」
「「おいいいいぃぃぃぃ!!!!!!!!」」
冗談めかして対価を聞くと、即座にリリアナさんが対価を示した。横槍が入る前に了承すれば、案の定当事者二人から抗議の声が上がる。
私はわざとらしく後ろを振り返ると、
「あ、そろそろ いい加減仕事に戻らなくちゃ。じゃ、オズに話が来たらちゃんと推薦しておきますね」
「おぅ、頼む」
「よろしく~♪」
「こんのクソ兄貴め!!」
「覚えてろ……」
ドロドロの恨めしい目付きの二人は、兄姉に任せて仕事に戻ることにする。
まぁ、事前に知らせておけば、話したくないことと、話してもいいことの選別くらいしておくでしょう。
え? 聞くな? ……そんなご無体な。
7章予告で伏字になってた部分。
でも○○○のに当たって、ちょっと繋がりが薄いかなぁ~と思いまして。それで事前に○○○なる話を追加して、そのネタとして○○○して、ついでに○○○する下地を作って…………
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でも○○○のに当たって、ちょっと繋がりが薄いかなぁ~と思いまして。それで事前に○○○なる話を追加して、そのネタとして○○○して、ついでに『ルーカスたちもカップルにして』○○○する下地を作って…………




