第104話 護身用武器、その副作用
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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魔石に封じられた雷がなくなるのに、10分程度掛かった。
いや正確に言うと、途中で再チャージしたから、ホントはもっと早くに終わってたはずかと…………オズはバレてないと思ってるかもしれないけど、私たちには分かったよ…………
未だに動けないグレイス君を、オズがスタンロッドでつついている。
「セコイスー。早く動かないと、またバチバチいきますよー」
「……………………や……………………ば……………………」
「セコイスー」
まだまだ体の痺れは抜けないはずだ。一応 《フル・スキャン》による体調チェックによれば、致命傷にはなっていない。が、麻痺はしばらく継続すると出ている。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………えい」
「あばばばばばば!!!?」
「オズちゃーん!? さすがにその辺で止めたげて!?」
さすがにチコリちゃんがオズを止めた。私が止める気配を見せないからだが。
チコリちゃんが決死の覚悟でオズを後ろから羽交い締めにし、グレイス君から引き剥がす。
まぁ、そんなことをしなくても、オズの持つスタンロッドの魔石は、すでにくすんだ青色。もう雷が出ることは、再チャージしない限りはな
「【雷電充束】」
おかわり入りましたー!!
ものの数秒でくすんだ青色の魔石は、煌々とした黄色を取り戻す。
でも、さすがにこれ以上 グレイス君がビチビチするのを見るのは気が咎めるので、チコリちゃんと一緒に止めることにする。
「オズ~。さすがにそこまでだよ~」
「はい。分かってますよ」
私がスタンロッドを持つ手を押さえながら言うと、チコリちゃんが首をがくがく振って同意する。それに合わせた訳でもないだろうが、オズもすんなり同意した。
オズはスタンロッドを腰に吊るすと、チコリちゃんの拘束から逃れる。
「それでチコリさん。状態観察が済んだら回復しますけど、どうしますか?」
「い、いや、状態観察というか…………グレ兄大丈夫なの?」
「えぇ。放っておけばしばらく麻痺が続くでしょうが、回復すれば問題ありません。元々非殺傷武器に分類されるものですし」
「そ、そうなんだ……」
オズとチコリちゃんがそんな話をしている間に、チコリ父をはじめとする鍛冶師さんたちは、グレイス君の体に群がり始めていた。
「ふーむ…………あんなに激しく痙攣していた割には、目立った外傷はないな」
「スタンロッドだっけ? あれが当てられてたのはこの辺りか…………ちょっと赤くなってるな」
「おーい、グレイス~? 意識はあるか~?」
私もどんなものかと後ろから覗き込むと、確かにスタンロッドを当てていた場所が少し赤くなっていたものの、火傷や裂傷などは見られない。
そして、顔の前で手の平をぷらぷらされると視線が釣られて動くことから、意識はあるものの体を動かすことが出来ない状態のようだ。
あとは回復して後遺症が残らなければいいのだが…………まぁ、オズの反応を見る分には大丈夫だろう。
「治癒魔法を掛ければ、すぐに動けるようになりますよ。後遺症もありません。……………………まぁ、私を見るたび逃げ出したくなるかもしれませんが」
「だ……………………に……………………か……………………」
えーと…………『誰が逃げるか、○○○ (罵倒) 』かな? 普段のグレイス君の言動から考えると。
チコリちゃんも含め、一通りグレイス君の観察が終わった後、オズが《完全回復》を掛ける。
麻痺だから《完全快復》かと思ったけど、『毒や呪いなどに依るものでは無いので、快復系ではなく回復系で』とのこと。ややこしい。
《完全回復》をかけ終わると、ゆっくりとグレイス君は身を起こし、まずは床に座って一息ついた。
「あぁ~……ひでぇ目にあった…………」
「事前に説明した通りのことしかしてませんから、自己責任でしょう? これに懲りたら、安易に自分の体を差し出さないことです。勉強になりましたね?」
「……………………おい、シランデ。お前の妹、ムカつくんだが」
「オズに手を出したら、さっき以上の目に合わせるからね」
「へぇへぇ」
グレイス君が私を振り返り苛立ちを隠さずに告げるが、当然に優先するのはオズの方だ。
私が答えと共に軽く睨むと、右手をひらひらさせて話を終わらせた。
「お姉ちゃんに手を出したら、さっき以上の目に合わせますからね」
「もうやだ、この姉妹……」
振り返った先でオズの笑顔が迎え撃つと、額に手を当てて天を仰ぐ。
オズはそれに満足したように頷くと、
「一応確認しますが、どこか違和感はありますか?」
「んー? ……………………大丈夫そう、かな?」
「ほい。立てる?」
「補助はいらねぇよ」
グレイス君は座ったまま、手を開いたり 体を捻ったりした後、立ち上がってその場で軽く体を動かして調子を確認している。
なんか、前より元気そうだな。
「あれ? 治癒魔法の影響か? なんか攻撃喰らう前より調子がいいような……………………あっ!!!! 肩凝りが治ってる!!!!」
一応説明しておくと、治癒魔法で肩凝りは治らない。つまり……
「えぇ。先程のアレ、筋肉が弛緩しますので、肩凝りに限らず凝りがなくなることもあります」
「おぉ~~……久しぶりに気分爽快だわ。今回の数少ないメリットだな!!」
「……………………お望みなら何度でもやってあげますよ、えぇ何度でも」
「それはごめん被る!!」
嬉しそうに肩を回すグレイス君に、オズがおかわりを提案するが、さすがに頼むとは言わなかった。
当たり前か。
でも、肩凝りが治るのか。電気量を調整したら、肩凝りだけ治せたりしないかな?
いえ、お義父さんとかたまに辛そうなので。
『どうかな、オズ?』
『それは難しいですね……先程のセコイス並に繰り返し電撃して、完全に弛緩させないとダメですから』
『そりゃダメだわ……』
残念。
『…………気絶させた上で電撃するって手もありますよ』
『拷問かな?』
白目を剥いたお義父さんの周りで、悪い顔しながら電撃するお義母さんと義姉さんの姿が思い浮かんだ。
『いや、さすがに無いだろ……』
『でも、お義父さんが乗り物酔いするからって理由で、お義母さんに気絶させられてたらしいし……』
『それとこれとは別だと思うよ~』
『基本は仲良いですし、気絶してるお義父様に電撃はしないと思います。……………………するなら、気絶しないレベルのをちょいちょい当てて反応を楽しむかと』
『『『それだ』』』
いや、より酷いわ。
四人でそんなことを話している内に、グレイス君の方も自分の体調確認が終わったようで、気付いたらチコリちゃんたちに囲まれて質問攻めにあっていた。
「グレ兄、ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫だって。さっきも言ったが、的にされる前より調子がいいぞ」
「意識はあったのか?」
「あぁ。ずっとはっきりしてたから、もう痛いのなんのって」
「グレ坊、スタンロッド当てられたとこ、もっかい良く見せてみろ」
「あ? あぁ……ちょ!? こんなとこで脱がすんじゃねぇ!! くそ親父!!!!」
「黙れや。おい、押さえろ」
「サー、おやっさー!!!!」×たくさん
「ぎにゃーーーーーーーー!!!!」
「ちょ!? お父さん!?」
「オズ~、ちょっと離れてましょうね~」
「そですね」
グレイス君に屈強な鍛冶師共が群がって接触箇所、つまり右足の付け根を見ようとズボンに手を掛けた……ところでオズと一緒に背後に向き直った。
これから見苦しいものが顔を見せそうな気がして。
「あっ……」×たくさん
「下着まで下ろしてんじゃねぇか!!!!」
「みぎゃーーーーーーーー!?!!!?!! アオグロマイマイーーーー!!!!」
やはり顔を見せたようです。グレイス君のアオグロマイマイ。
それと目が合ったチコリちゃんは、あまり可愛くない悲鳴をあげることとなりました。
まぁ私は見ても気にしないですが、オズに見せる訳にはいけません。
あと、グレイス君のプライド的にもね。お義父さんのと比べちゃいますよ。
「くっそ…………ひどい目にあった…………人によっちゃ、トラウマもんだぞ…………」
「気にすんなよ」
「それは俺のセリフだ…………」
「グレ兄……………………私に言うことは何もないの?」
「親父に言えよ。俺は被害者だろが」
「マイ兄め……」
「それやめろホントやめろ」
なお、アオグロマイマイというのは、50cmくらいあるでっかいカタツムリです。
名前の通り青黒い縞模様の毒々しい体を持つ普通の動物であるが、毒はないので危険ではない。…………が、その見た目で嫌われることの多いカタツムリである。
私も不意に森で見つけると引く。
とりあえず、数人にトラウマ間際の衝撃を残しつつも、スタンロッドの試し打ちは終わったようだ。鍛冶師たちも、チコリ父娘を残してそれぞれの仕事に戻っている。
…………果たして何か得られるものはあったのだろうか……?
しっかりと身嗜みが整え終わっていることを確認して、私たちも会話に戻る。
「アオグロ君。終わった?」
「殴んぞ」
「……グレイス君。ところでオズのバイトの件なんだけど、制服はあるの? 次のシフトから入れようとか考えてるんでしょ?」
「あ? ……………………あぁ……そうだったな。お前の予備があるから大丈夫だろ。キッチリ働いてもらうからな?」
「契約の分は働きますよ」
忘れてたな。
「まぁ、私と同じ程度の内容なら大丈夫でしょ。あ、でも私のような収納魔法は使えないから、そこは覚えておいてね」
「分かってるよ。まずは普通の新人と同じように扱う。それにどっちかってぇと、お前と一緒に看板娘だからいるだけでもいい」
「了解」
「む。舐めないで下さい。注文と配膳ですよね? それくらいなら出来ますよ」
「さよか。ま、できる範囲でな。シランデ、ちゃんと気にかけてやれよ?」
「言われなくても」
急遽決まったオズのバイトについても簡単に打ち合わせておく。
先程は酷い目にあったグレイス君であるが、それはそれとして新人を気遣えるのは、ちょっと尊敬する。
「……………………グレ兄って感情引きずらないよね。さっきまでオズちゃんにバチバチされてたのに」
「まぁ、それが対価だからな。的になる代わりに、鍋の代金タダになるのとシランデ妹がバイトに入るの。これで『やっぱり代金払え』とか『バイトなしで』とかって言い出したらキレるぜ、俺は」
「おう、持ってけ 持ってけ。…………実を言うと『タダはやり過ぎたかなぁ?』とか思ってたけど、十分に儲けたわ」
「そうだろうよ、ちくしょう。ちなみに俺が来なかったら誰がやる予定だったんだ?」
「俺」
「…………………………………………」
チコリ父のセリフになんとも言い難い視線をオズに向けるグレイス君。
「なんですか セコイス、その目は…………試したいと言い出したのはチコリさんたちですし、親方さんを的にするのを決めたのはチコリさんたちですよ」
「チコリ…………」
「い、いやー…………まさか、あんなに威力があるとは思ってなかったから~…………」
オズの説明を聞いてそのまま視線をチコリちゃんに向ける。
チコリちゃんは慌てて言い訳をしているが、その視線は威力の強弱は関係ないと思うよ?
「まぁ、親方さんが的だったら、一度で終わらせてたでしょうけどね。バチバチ」
「……………………この言い表し様の無い感情。どうしてくれる……」
「私に言ってます? ふむ……それでは、どうにかして差し上げますから、まず譲渡してください」
「頓知かよ」
「まず、どんなものか調べませんと、方策も立ちませんからね~」
オズとグレイス君が軽妙なやり取りを繰り返している…………この短期間でずいぶんと仲良くなりましたね。お姉ちゃん、ちょっとジェラシー。
『ルーシアナ。こういっては何だが……』
『ルーシアナとグレイス君も同じような感じだからね?』
…………………………………………そんなことは。
と、思っていると、
「グレ兄とオズちゃん。仲良くなったねぇ」
「え? あぁ……そうだね。私も思ってた」
「ルーシーちゃんとグレ兄そっくり」
「…………………………………………さよか」
不覚…………




