第103話 護身用武器、その威力
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10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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鍛冶師たちの間で始まった醜い押し付け合いの結果をしばらく眺めていると、
「おやっさ…………なに騒いでるんだ?」
入口の方から聞き覚えのある声が入ってきた。
「あれ? グレ兄。いらっしゃい」
「…………なんだ、グレ坊。俺は今 傷心中だ。後にしろ」
「グレ坊……」
「おい、そこを拾うな。可愛くない方うげぼはぁ!?」
入ってきたのは、ギルド飯店店長代理のグレイス君だった。
こちらを見るなり失礼なことを言おうとしたので、とりあえず一発打ち込んでおく。
え? やり過ぎ? 大丈夫大丈夫。殴られると分かってて言ってるんだから、期待に応えてあげてるだけだよ。
「おぉ。さすがに速いな」
「俺 たまに思うんだけど、人形遣いってあんなに身体能力必要なんか?」
「あるんだから必要なんだろ?」
「グレ兄。自業自得~」
「こ、こおおぉぉぉぉ…………」
それなりに手加減しているのは分かっているようで、殴られた場所を押さえて踞るグレイス君を、誰も気にしていなかった。
「シ、シランデきさま……」
「なにさ。人の名前も覚えないわ、暴言を吐くわ、自業自得でしょ」
「お、俺だけじゃないだろ…………」
「アンタのは、明確にバカにしようって意思が込められてるじゃん」
「…………………………………………それは否定できんな」
「ふん!!」
「あぶな!!!!」
ちっ…………避けられた。
床に沈み込んだまま器用に避けたグレイス君が、転がる勢いを利用して立ち上がった。
思った以上に元気だな。
「やれやれ。冒険者の力で攻撃してくんなよ」
「手加減はしてるでしょが」
「手加減してこれかよ。…………バカ力め」
「もう一発欲しいのかな?」
「どぅどぅ……落ち着け」
なおも絡んでくるグレイス君に応えていると、
「グレ兄とルーシーちゃん。仲良しさんだねぇ」
「「どこが!?」」
「そんなところがだ」
全くの偶然だがハモってしまい、思わずグレイス君を見ると、あちらもこっちに視線を寄越しているところだった。
「動きもバッチリだね」
「最近のギルド飯店の名物は、店長代理と看板娘の漫才だと、もっぱらの噂だ」
チコリ父娘の言う噂は、全く当てになら無いことが先程判明したばかりなので、信用ならない。
えぇ、ホントに。
「俺も聞いたな」
「同じく」
「廊下まで響いてくるから、それに釣られて思わず入店してしまうと言ってたな」
……………………し、信用ならな……
『残念ながら、私も聞きましたね』
『そだね~』
『ルーシアナ。現実から目を逸らしても仕方無いぞ』
…………………………………………ちくせう。
確かにウェイトレスしていると、『今日は漫才しないの?』とか『今日も面白い声が聞こえてきたから、見に来たよ!!』とか言われることもある。
ギルド飯店の宣伝にもなっているようだし、基本的には放置していたのだが、まさかグレイス君と仲良しだと思われていたとは…………
「おい、チコリ。漫才コンビは千歩譲って言ってもいいが、仲が良いはやめろ。風評被害だ」
「そうだよ、チコリちゃん。グレイス君には、プリメーラさんという厄介な彼女候補がいるんだから」
「シランデきさま……それも違うと何度言ったら分かるんだ」
「私の名前も覚えられない鳥頭には、過ぎた彼女候補でしょう?」
バチバチバチバチ…………
私とグレイス君の間で見えない火花が激しく飛び交った。
まったく。これを見て一体どこが仲が良いように見えるというのか…………
「ルーシーちゃんもグレ兄も楽しそうだねぇ」
「グレ坊がまさかロリコンに目覚めるとはなぁ」
「というか、子供を雇って部下にして手篭めにしたのか……………………犯罪だな」
「グレイス。おかみさんに紹介するときは、奥歯のひとつやふたつ覚悟しろよ」
「違うと言っとろうがおんどりゃーーーー!!!!」
ダメだなこれは。何を言っても都合の良いようにしか受け取らないつもりだ。
(ムダな) 反論はグレイス君に任せて私は離れておく。
あと、私とグレイス君の年齢差は五歳くらいだから、ロリコンは言い掛かりでしかないけど、わざわざ訂正してやることもなかろう。
騒ぐ連中は放って、離れていたオズの隣に移動する。
オズは先程から黙ってこちらのやり取りを見ていたが、隣に並ぶと右腕を取ってくっついてきた。
「どうしたの?」
「……………………別に」
あ、あれ? なんか怒ってる??
どことなく声が平坦で固い印象を受ける。あまり聞いたことのない声だ。
『少しだけ頬を膨らませている顔も可愛いなぁ』とか、あまり関係ないことに思考を奪われつつ、突然のことにオロオロとしていると、
「だああああぁぁぁぁ!!!! いい加減にしろ!!!! 俺は鍋を買いに来ただけだぞ!!!!」
ついにグレイス君がブチ切れて、大声を上げた。相変わらず短気だね。
……………………武器工房に調理鍋を買いに来た? せめて包丁ではなく?
武器を造る職人と日用品を造る職人は、どちらも鍛冶師だが必要な技術はまるで違う。
同じく鍛冶師だからという理由で武器職人に調理鍋の作製を依頼するのは、同じギルドだからといって錬金術師ギルドに魔獣討伐クエストを依頼するくらい的外れな行動だ。
そのくらい分かってると思うんだけど……
そう思って見ていると、
「やっぱりかよ。俺が趣味で造ってるヤツだから、あんまりよくねぇだろ?」
「おやっさんの腕を信用してるぜ。でも、専門じゃない分だけ負けてくれ」
「後半が本音過ぎんだろ……」
……………………なるほど。
知り合いが趣味で造ったのを安く仕入れてるのか……専門じゃないから『安くしてくれ』って言いやすいし、本当の素人でもないからそれなりに信頼できる、と。
セコいわ……セコイス君め。
そんなことを思いながらチコリ父とグレイス君のやり取りを眺めていると、チコリちゃんがやってくる。
「や~、グレ兄は時々調理器具を無心しに来るんだよね。お父さんが趣味で造ってるやつ」
「セコイス君だね」
「セコ兄だからね」
「おいこら聞こえてんぞ」
「聞かせてんのよ」
「いいぞチコリ。もっと言ってやれ」
「くっそ、逆らえないと思って好き勝手言いやがって……」
「なら技術料も払え」
「御自由に酷評してください」
金を払いたくないグレイス君に勝ち目はなかった。
結局グレイス君は、20程の鍋等を頼んでいた。
「え~……それで、おやっさま。代金は如何程になりますでしょうか」
「おやっさま……」
「おやっさんの最上位だって」
「へぇ~……」
どうでもいいわ。
両手でゴマを擦るグレイス君の前で、チコリ父は顎髭を手で撫でながら天井を見上げてしばし考えると、
「そうさなぁ……………………今回はその身体で払ってもらおうかな」
「え゛!!!?」
「親方!? その歳でまさかの男色!?」
「お父さん!? お母さんというものがありながら!!」
……………………男色?
『ねぇ、オズ。男色って』
『お姉ちゃんは知らなくていい言葉ですよ~ぅ』
『うんうん。忘れようね~』
『くそ。油断した。防音が間に合わなかった……』
えぇ~と…………忘れることにします。
そんなことを話している内に周りの話も進んでいく。
「おやっさん…………………………………………どこまでだ?」
「待とうか、グレ兄。いやマジで」
「グレイス、お前…………さすがにどうかと思うぞ…………」
「お前らこそ待てや。そうじゃなくてだな、嬢ちゃんらの武器の実け…………的だよ」
グレイス君が難しい顔をしてチコリ父に聞き、チコリちゃんと先輩鍛冶師がゲテモノを見るような目でグレイス君を止め、チコリ父が呆れたように全員に説明する。
「ああ~~……」×たくさん
「的…………? いや、その前になんか言い掛けなかったか?」
「気のせいだ。いやな、嬢ちゃんの妹の方が新しい武器を造ったんだが、ああいう的じゃ効果を正確に測れないんだと。だから、誰か人間に試して欲しいんだが……」
「まてまてまてまて!! 武器の的になるなんてごめ」
「タダにしてやる」
「やったりゃーーーー!!!!」
右腕を天高く掲げて的になった。
「グレ兄を見てると、自分の身を大切にしなきゃなって思うよね」
「そだね……」
チコリちゃんが腕を組んで頷くのに、曖昧に返事をする。
お金が大切なのは分かるけど、それを使う自分をおざなりにしすぎでしょ…………
「まぁ、安心しろよ、グレ坊。藁人形に試した結果は、そこにある通りちょっと焦げただけだ。大したこたぁねぇだろ」
「どれどれ…………なぁんだ、この程度かよ。よゆーよゆー」
……………………人はそれをフラグという。
しかし、余裕をぶっこいたグレイス君は、何故かこちらに向き直り、
「だが、お前らの武器の的になるなら、おやっさんだけじゃなくて、お前らからも何か対価がなくちゃな」
「……………………セコイスめ」
「セコイスですね。記憶しました」
オズが身内以外を敬称無しで呼ぶのは珍しい……もちろん、それが親しみに依るものではないことは、声質からも半眼になった表情からも想像に難くない。
なお、私の君付けも親しみに依るものではありませんよ。
こちらを期待した瞳で見るセコイス君にイラっとしながら、
「一応聞くけど、セコイス君の希望は?」
「セコイスやめろ。そうだな。妹の方もバイトに入ってくれると助かるな。お前と同じ条件にするぞ」
「却」
「いいですよ」
セコイス君の希望を即座に却下しようとしたら、オズの方から了承された。
朝に接客関係を嫌がっていたのを覚えていた私は、不思議に思ってオズを見る。
「あれ? いいの?」
「えぇ。ついでに気絶したりケガしたりしたら、治癒魔法で回復もしてあげますよ。代わりにコレが空になるまで試させていただきます」
「……………………オズさん? なんか不機嫌じゃない?」
「別に」
いや、絶対機嫌悪いでしょ……
私がオズの機嫌を治そうと試行錯誤してる傍らで、チコリちゃんとセコイス君はこんな会話をしていた。
「…………おい、チコリーヌ (ひそひそ)」
「誰が小型犬か!! (ひそひそ)」
「よく通じたな……チコリ + 犬…………それよりも、なんか俺 嫌われてね? (ひそひそ)」
「そりゃそうだよー。オズちゃんにとってグレ兄は、『お姉ちゃんに近寄るウジ虫野郎♡』だもの (ひそひそ)」
「……………………判断を誤ったかもしれん………… (ひそひそ)」
「墓前には良い鍋供えてあげるね (ひそひそ)」
「死んだらいらねぇよ…… (ひそひそ)」
聞こえなかったけどね。
結局オズの機嫌は治せずに、一歩前に出るのを見送った。
「さて、あまりダラダラと時間を掛けても無駄ですし、サクッと終わらせましょう」
「……………………なにを?」
「セコイスの人生を」
「待てや。あとセコイスやめろ」
「セコ兄。ホントに墓前には何がいい?」
「供え物はいらんから、死ぬ前に止めろ。あとセコ兄やめろ」
『ぱんぱん』と乾いた音を立てて、手に持ったスタンロッドを手の平に叩き付けて威圧するオズ。
あー…………オズが不機嫌の原因は、セコイス君か。
特に何かしたようには見えなかったけど、それなら悪いのはセコイス君だね (断定) 。
『ルーシアナ……ホントに分からないの…………?』
『ルーシアナはオズにホント甘いよな……』
『ナツナツ。ナビ。それ以上は禁止です』
『え? え? 何の話?』
『お気になさらず』
セコイス君を連れたオズは、藁人形を退かしたスペースに移動すると、
「じゃ、コレを握ってください」
「あ~~……腕は料理人の仕事道具なんで、別のところに……」
「そですか」
あっさりと引いたオズは、おもむろにスタンロッドの先端をセコイス君の右足に当てた。
「いきますよー」
「お、おぅ!! 来やがれ!!」
「さーん。にー。い」
バチバチバチ!!!!
「ぎゃぴん!!!!」
セコイス君が不思議な悲鳴と共に飛び上がると、真っ直ぐに伸びた姿勢のまま90°前転して顔面から床にぶっ倒れた。
というか、オズ…………カウントの途中でやったね……?
なお、チコリちゃんを含む鍛冶師さんたちは、セコイス君のあまりのリアクションに呆然としている。
「セコイスー。大丈夫ですかー」
つんつん。
「…………………………………………」
「セコイスー」
つんつん。
「…………………………………………」
「……………………えい」
バチチチチ!!
「びょぴょん!!!?」
ビタビタン!!
「えい」
バチバチ!!
「みみょみょみょん!!!?」
ビチビチビチビチ!!
「えーい」
バチチチチチチチチ!!!!
「あがががががががが!!!!!!!!」
ビクビクビクビク!!!!!!!!
オズがなかなか見せないSい顔になって繰り返すのを、私たちは黙って見ているしかなかった。巻き込まれたくなくて。
「うふふふふふふ……」
バチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!!!!!
「ごじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!!!!!!!!」
びるびるびるびるびるびる!!!!!!!!
……………………セコイス君も面白い反応を返すよね…………




