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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
7章 襲撃!! 嘆きの魔獣
108/264

第100話 オズ、家庭菜園を始める

100 ~ 140話を連投中。


10/12(土) 13:00 ~ 未定。

前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

「お姉ちゃん。ここにお願いします」


「はいよ」


私はオズの指し示す台の上に、カフォニア・ハニービーが入った巣箱を設置した。

商業ギルドのとは違って、作業しやすい高さに巣箱がある。あっちのは、魔獣に襲われないように木の上にあって作業しづらかったからね。


結局ハチが入った巣箱は四つ。捕獲用の空巣箱は10個用意したから、まずまずといったところだ。

それぞれ 東西南北の通り道に近いところに設置した。


「それじゃ、《スリープ・スウォーム》解除するよ」


「わくわく。わくわく」


「刺されないようにね~」


『ここまで離れていれば大丈夫だと思うが』


設置を完了した後は、それぞれから等しく遠い中心付近に移動すると、スキルを解除する。


…………………………………………


しばらく変化は見られない。

だが数分もすると、数匹のハチがそこかしこを飛び回る姿が目に入るようになった。

それらは私たちには目もくれず、視界一杯に広がった花畑を忙しく飛び回っている。


「成功かな?」


「はい。あとは人型農耕用デバイスに管理を任せればOKです」


「そんなのあるんだ……」


「作りました」


オズが左手を上げると、それを合図に背後から鈍色に輝く人形が多数現れた。

それらは綺麗に区画された花畑に向かうと、身を屈めて作業を再開する。具体的には雑草取りだ。


……………………かつての超文明の兵器でもあるんだけどね、アレ。


「それにしても、いつの間にこんな状況に……」


「空の巣箱を設置してからです。ある程度大きくなるまでは屋内で育ててましたので、気付かれなかったようですね」


「後々この施設を発見した人は、まさか空間転移するための施設だとは思わないよね~」


『よくて食糧プラントだな』


そう。ここはガア・ティークル。

セピア色を背景に真っ白な建物が中心にズドンとあるだけの、どことなく空虚な雰囲気を漂わせていたこの場所も、今や陽光降り注ぐ青を背景に建物を中心に八分割された花畑が囲む、生命力に満ち溢れた活気ある世界へと生まれ変わっていた。


とはいっても、生き物は今のところハチしかいないんだけど。


なお、異相空間と現実空間の境い目がセピア色だったのは劣化防止のためだったらしく、休止モードを解除した段階で通常の空色になっていた。


驚きの変貌を遂げたガア・ティークルであるが、それは屋外だけに留まらない。


ガア・ティークル内はオズが断捨離した結果、三重円に配置された各部屋 (貸店舗らしい) 内はすっからかんになった。

掃除もされずに朽ちるに任されていたのは、貸店舗の返却手続きが済んでいなかったため、元々のオズの権限では立ち入れなかったためらしい。

が、オズが情報生命体に進化したことにより、その辺はどうとでも出来るようになった。

その結果、オズの遠慮容赦のない選別の嵐を乗り越えられる物は、ネジひとつすらそこには存在していなかった。

『黒人形のような管理外の危険物を排除する』という大義名分があったのも効いたのかもしれない。

『断捨離が終わった』と聞いて私が覗いた部屋には、壁以外に視界を遮るものは何も無かったのだから。


それだけでも大きな変化だったが、さらに今やこうである。


「ここは『トマト部屋』で、こっちは『じゃがいも部屋』です」


「……………………家庭菜園ってレベルじゃないな……」


「大丈夫です。《ファーマー》を修得しましたから」


「そうね……これはもう農園だね……」


「これはもう籠城出来るよね~……」


『改めて言うが、ここで暮らせば余裕で今生を全う出来るぞ。今ならオズもいるし』


「…………………………………………さ、最終手段だから……」


『大分悩んだな……』


隠遁するにはまだ早すぎるけど、似たような生活は送ってたのよね、おじいちゃんとは。


…………話を戻そう。

一時期 壁以外 何も存在を許されていなかった元貸店舗群であったが、現在はこのようにオズの屋内農園と化していた。

それぞれの部屋の中には現在50cm程の土が敷き詰められ、丁寧に耕されたそこには種々様々な野菜が、部屋毎に分けられて育てられていた。トマト、じゃがいも の他、ニンジン、玉ねぎ、かぶ、大根 等々…………八百屋で見掛ける野菜はほぼ全てここにある。

通常 屋内で植物を育てると、肥料や水やりなどの面で屋外で育てるよりも管理が大変になるのだが、人型農耕用デバイスとやらがきっちり管理しているのだろう。


…………だが、それにしても不可解なことがある。


「ねぇ、オズ。家庭……農園始めたのって最近だよね?」


「そうですね。まだひと月経ってないです」


「だよね。記憶違いじゃないよね。…………なんでもう収穫出来てんの?」


そう。なんで私が『八百屋で見掛ける野菜はほぼ全てここにある』と言えたのかといえば、何故かどの部屋の野菜もぷっくりと大きく育っており、例の人形が黙々と収穫していたからだ。


「ほら、あのトマトとか、確かに今が収穫の時期だけど、ひと月じゃあそこまで育たないよね?」


「そうですね。物理的にあり得ないですね。…………物理的にあり得ない場合は、大体魔法です」


「大体あってるけど大雑把だな…………つまり時間制御系の魔法ってこと? この部屋ごと?」


「はい。それぞれの部屋毎に収穫の直前くらいまで加速しました。どうせ見せるなら収穫のところをと思ったのと、一度 植え付けから収穫までの流れを確認したかったので」


「無茶苦茶するなぁ……」


経過時間を加速させたり停滞させたりする魔法は、料理や錬金術で使う【熟成】や【劣化軽減】などがあるが、対象とする単位体積・時間当たりの消費MPがバカみたいに多いので、普通は対象を絞って行うものだ。決して部屋ごと行ったりしない。


「まぁ…………オズは《地脈直結》を待ってるし、そもそもこの施設 地脈から魔力を抽出してるんだもんね。余裕か」


「はい、余裕です。ついでにそれぞれに適した自然環境に調整もしてあります。それでも現在の休止モードで可能な程度の負荷でしかありませんよ。そんなわけで、おひとつ如何です?」


とオズが言ったが、差し出してきたのは収穫を終えた人形だった。


「あ、ありがとう」


差し出されたトマト受け取り、思わず条件反射的にお礼を言うと、


「どういたしまして」


人形は流暢な言葉と会釈を返して去って行った。


…………………………………………


「喋るんだ…………アレ…………」


「一応、接客用のデバイスを流用しましたので。繊細な動作が可能なんです」


「なるほど……」


領主のところで会った執事のおじいちゃんのような、綺麗な会釈だった。やりおるな……


受け取ったトマトを見ると、ズッシリと重さがあって色が濃く、放射線状の筋が沢山走っていた。

見ただけで良品だと分かりますね。これがあったら、即買いです。

無意識に表面を軽く擦って一口齧ると、『じゅわっ』と果汁が溢れて、優しい甘さとほのかな酸味が口一杯に広がった。


「ふぁ……!! これ美味しい!!」


「ホントだ~~♪」


「それは良かったです。生食用だけでなく調理用のものなど、目的別に栽培する予定ですのでご期待ください」


『ルーシアナ、後で私にも』


「任せて」


「お料理屋さんでも開けそうだよね~♪」


「それにはもうちょっと面積を広げないとですね」


私たちが口々にオズを褒め称えると、オズも満更でない様子で頷いていた。


……………………料理屋否定しないんか。


でも、そういうのもいいかもしれない。

オズの人見知りも完全に無くなったみたいだし、たまに屋台みたいなのを出してみても面白いかも。


正直、オズの料理の腕なら話題になるのは間違いないと思う。

問題はオズに悪い虫が寄ってくる危険があることだが、ナツナツと協力すれば闇討ちは容易いから大丈夫なはず…………


「ふふふ……」


「お姉ちゃん? どうしましたか?」


「ルーシアナ~…………ゲスい顔してるよ?」


「失礼な…………オズと屋台でもやったら楽しいかなって思っただけだよ。不定期に開く屋台とかなら、急いで面積を広げなくても良さそうだし」


『いいんじゃないか? 評判になれば幻の屋台とか言われるかもしれないぞ』


「私、たくさんお客さん呼び込むよ~♪」


「え゛っ!?」


ナツナツ、ナビと(にわ)かに盛り上がるが、オズからは分かりやすく驚愕の声が上がった。

理由は分かるが、敢えて意地悪に聞いてみる。


「あれ? 何か問題ある?」


「いや、え~と…………ほら、場所とか許可とか……」


「そだね。商業ギルドに確認しないとね」


「あとは、ほら…………や、屋台とか、用意しないと……」


『既存の屋台を《フル・スキャン》で構造分析して《どこでも錬金》で作ればいいな』


「……………………お、お義父様とかお義母様とか、反対する、かも?」


「大丈夫だと思うけど~?」


「……………………………………………………………………………………ま、まだ接客は難易度高いんで許して下さい……」


ついに言い訳が出てこなくなったオズは顔を覆うと、その隙間から絞り出すように本音を漏らした。


「可愛い」


「可愛い」


『可愛い』


「や、やめて下さいよ!! それに見た目はお姉ちゃんと同じなんですから!! お姉ちゃんの方が可愛いですよね!?」


「それはない」


『ノーコメント』


「げふぅあ!?」


ナツナツとナビが瞬時にした否定に崩れ落ちるしかない。


わ、私も同意見だけど、ちょっとはフォローしてくれてもいいんよ……?


「オズの方が可愛いんだよ~? 何故か♪」


『残念ながら統計的にも証明されてしまっているし、ルーシアナも認めているので、つまり諦めろ』


「改めて言われると効くな……」


「ふああああぁぁぁぁ……」


この話題は無駄にダメージが入る…………精神力回復のためにオズを愛でよう。うりうりうりうり……


「お、お姉ちゃん!! そんなお腹にぐりぐりしないで~~~~……!!」


現状を説明すると、床に直座りした私が、立ったままのオズのお腹に顔を押し付けてグリグリしているのです。

そしてナツナツが対応案を挙げる。


「解① 腕を払って逃げる」


『ルーシアナが泣くぞ』


「そんな酷いこと出来ません~~~~!!」


「解② くすぐる」


『体勢的に無理じゃないか?』


「ルーシアナは、割とどこでも反応するから大丈夫~。そこからなら、耳とかうなじとか~」


『なんでそんなこと知ってる……』


「飛び込み営業~♪」


『試したのか……』


「えっと…………」


「…………………………………………」


一応、グリグリするのをやめて待ってみる。


「……………………ムリ」


再開した。


「にょああああぁぁ~~!!」


「解③ 単純にしゃがむ」


「それです!!」


グリグリする分、ガッチリとは押さえていなかったので、するっとオズのお腹が下にいった。


『代わりにいつも通りに撫でくり回されるだけじゃないか?』


「しまった!?」


ご期待に応えて、いつものように撫で回した。





「堪能………… (うっとり)」


「変態だぁ」


『変態だなぁ』


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


バタバタと抵抗するオズを適当にいなして、全身を撫で回して 全身にうりうりしてやった。

今は私の膝の上でぐったりしている。


変態じゃないよ。姉妹の戯れだよ。


『そういうことするから、セレスもしてくるんだぞ』


「世界は循環してるよね~……」


「してない!! 私で止まってます!!」


ガバッと身を起こしてオズが叫ぶ。


「「『…………確かに!!』」」


セレス → 私 → オズ → ??


「つまりオズがセレスにうりうりすればOK?」


「それ、多分いつの間にか攻守が逆転します……」


セレス → 私 → オズ ← セレス


「ならナツナツ?」


「どんとこ~い」


「申し訳ありませんが、サイズ差的にどう頑張ってもされる方です……」


セレス → 私 → オズ ← セレス

        ↑

       ナツナツ


「なら、ナビ……」


『実体が無いし、あったとしても男でその輪の中に入る根性ないぞ。夢茶会ならともかく』


「なら、タチアナ~?」


「もっとムリ」


       タチアナ

        ↓

セレス → 私 → オズ ← セレス

        ↑

       ナツナツ


『いや、もうこうしたらどうだ?』


ナツナツ → タチアナ → セレス → ルーシアナ → オズ (上位者は、下位者全員を対象とする)


「これだ」


「これだね」


『だろう?』


「序列は別にどうでもいいんですが!? 結局私に溜まってきますよね!!」


そういえばそんな話だった。


「じゃあ私にする? とりあえず抵抗しないことを約束しよう。ほれほれ」


『無抵抗』を示すため、両手を広げてアピールした。

オズは私を『じ~~……』っと見つめて逡巡しているようだ……


「…………………………………………最近、自分の理性が恨めしいんです……」


そして、あまり見ない虚ろな表情で視線を逸らしてそう言った。背後の負のオーラがすごい……


「一度はっちゃけちゃえば、そんなの働かなくなるって~♪ ナビみたいに♪」


『おぅふ…………』


「普段のナビと夢茶会のナビは、ほぼ別人だからねぇ~……見た目からして」


『お恥ずかしい……だが、変わったと言えば、オズに敵う者などいないだろう? 見た目的にも性格的にも』


「「……………………たしかに」」


「お恥ずかしい!!!!」


私の膝の上で、顔を覆ってイヤイヤした。


うん。もう初めて会った時の面影は皆無だね。皆無過ぎて、始めからこうだったつもりでいたよ。


『それだけはっちゃけておいて、今更何を躊躇うことがあるのか……」


「そ~~ゆ~~のとは違うんですよ~~~~……」


「ほらほら~。好き勝手に撫でくり回してみれば、すっきりするかもよ~?」


「カモ~ン」


再度 両手を広げて『無抵抗』を示してアピールした。


「…………………………………………ムリ」


『結局オズが損するだけか』


「なにか後押し? みたいなのが必要かもねぇ~…………酒か!!」


未成年に飲酒禁…………あれ? オズは5,013歳だからOKか?


「あ~……………………どうしても嫌ならあんまり構うのやめるけど……」


「…………………………………………ノーコメント」


明らかに違うことを言いたそうだったけど、何度も口をぱくぱくさせて出てきたのはそれだった。

でも、意味分からんのだが……


「ルーシアナからして欲しいってさ~」


『自分からは恥ずかしくて出来ないから、ルーシアナからして欲しいが、もうちょっと抑えて、みたいな感じだな』


「ノ~~~~コメント~~~~…………」


「なるほど~……」


顔を覆ってイヤイヤするオズに苦笑しながら、抱き締めるように両腕を回して一緒に立ち上がった。


「あ、ありがとう、ございます……」


「どういたしまして」


こういうことはオズ的にはOKらしいので、イマイチ加減が分からないのだが。


『つまりそういうところまでなのでは?』


『ノーコメント』


たまにガッツリいきたい時がくるんです。

疲れた様子のオズを連れて残りの部屋を見て回ることにする。

とうもろこし、メロン、すいか、イチゴ…………果物型野菜も充実しているようです。


「あれ? この部屋は?」


最後に見た部屋は他の部屋と違って狭く、床に土は敷かれているものの、植物は生えていなかった。

代わりに白い玉みたいなのが、少しだけ顔を出していた。


「……………………ナニアレ」


鶏卵(けいらん)です」


「けいら……なに?」


「鶏卵。鶏の卵です。ダーチョはさすがに無理でした」


「養鶏するの~?」


「まぁ、実験的に。上手く孵ったら外で放し飼いしようかと」


「親鶏いないけど大丈夫なん?」


「鶏卵は37℃、湿度60%程度を保ち、時々転がしてやると孵化するらしいです。ほら、汎用デバイスが転がしてるでしょう?」


オズの指し示す方を見ると、鈍色の円筒がひとつ摘まんで転がし再び土に挿す、という作業を順に行っているところだった。


「なお、孵化したばかりのヒヨコは、最初に見た動くものを親鶏と認識して付いていくので、アレはこれから大変ですね」


「ひでぇな」


鈍色に輝く円筒の後を追って列なるヒヨコたち…………


シュール……


「とりあえずこんなところですか。どうですか、新生ガア・ティークルは」


「うん。すごいね……農園だけど」


「果樹も植えよう」


『牛とか魚とかはどうだ?』


「乞うご期待」


「やるんだ!?」


まぁ、楽しそうなので良しとする。




予想してましたが、行を跨いだ位置調整って、閲覧状況によってずれるんですよね。


       タチアナ

        ↓

セレス → 私 → オズ ← セレス

        ↑

       ナツナツ


これの↑↓の矢印は、オズを指してるのが正解です。

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