第98話 ゴーレム娘 VS. クマ①
82 ~ 99話を連投中。
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― 回想終了 ―
そんなこんなで、オズがワンダブルを成立させて、私をあっさり追い抜いていったため、不本意な噂が広まってしまったのだ。ね?悲劇でしょう?
…………え?悲劇じゃなくて喜劇だろって?
いやいや、マジで大変なんだから。
仲良しアピールの一環としていつも一緒にいるけど、今度は『噂を否定するために無理して一緒にいる』とか噂されてるんだから。『否定するため』ってのは事実だけど。
あれから二週間くらい経ったから、さすがに面と向かって『喧嘩してるの?』みたいなことを言ってくる人はいないけど、お義母さんとか義姉さんに『大丈夫なの?』みたいなことを聞いてくる人は、まだまだいるらしい。
…………まぁでも、他人にどう思われてても事実は違うんだから、どうでもいいと言えばどうでもいい話なんだけど。
「そういえば、そろそろハチ入ったかなぁ」
「え?なんですか?」
「や、ほら。ハチ。この前 空の巣箱設置したじゃん。そろそろ入ってないかなぁって」
「まだ設置してから二週間くらいですよ…………でも、帰りに見ていきますか」
この前、オズと『ハチミツの採取』のクエストに行ったときの話だが、オズが妙に興味を持ったのだ。養蜂に。
『お姉ちゃん。私もハチミツ育ててみたいです』と、瞳をキラキラさせて言ったオズが可愛くて、『育てるのは『ハチミツ』じゃなくて『ハチ』でしょ』なんて野暮なツッコミは欠片も出てこなかったと言っておく。
商業ギルドに確認したところ、『分蜂したハチを捕まえるのは別に構いませんが、設置場所は考えていますか?カフォニア山脈外縁部は、一応商業ギルドが借りている土地ですし、他に適した場所は少ないですよ?』とのことだった。
設置場所については、オズに当てがあるとのことだったので、見様見真似で作った巣箱を商業ギルドの巣箱の近くに設置させてもらったのだ。
カフォニア・ハニービーは季節に関係なく分蜂するので、後は運だけだが…………オズの喜ぶ顔が見たいので、早いところ入ってほしい。
「楽しみだねぇ~」
「そうですね。……………………ところで、まだ回想終わらないんですか?」
「え?終わったよ?」
「なら早くしてくださいよくまおこってくまーーーー!!」
「ぐごおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」
オズの悲鳴を合図にしたわけでも無いのだろうけど、上空からロックグリズリーのボディプレスが降ってきた。
はい。まだ戦闘中です。
降ってくるロックグリズリーは平均的な体格の3m程だが、こいつらは地魔法で攻撃を強化するので、アレは見た目以上にヤバイ。
私はオズを背負ったまま、斜面を落ちる勢いを殺さず微かに方向を変えると、《ショート・ジャンプ》で圧縮した空間を抜けて大きく距離を取った。
一瞬で開いた距離の先で、ロックグリズリーが地面に落ちるのを見た。
ズズン……!!!!
その体格に相応しい重低音が響いて、着弾地点を中心に20m程の地面が浅く陥没する。地魔法でボディプレスの効果範囲を拡大しているのだ。
効果範囲内にあるものは、全て等しく平らに均されてしまった…………そう、等しく。
陥没した地面はよくて1cmだろうが、小石しかなかった地面も、1mほどの岩があった地面も、等しく真っ平らだ。
この魔法。結果がえらく地味なんで大したこと無いと思いきや、対象の防御力をある程度無視して圧撃が入るから、なかなかに強力な魔法なのだ。
対処法は、対抗魔法でレジストするか (王道)、魔法以上に防御力を上げるか (ゴリ押し)、効果範囲外に逃げるか (邪道)…………いずれにしても面倒なのは変わりない。
ロックグリズリーは砂煙すら上がらない (砂煙も潰されるから) 着心地から、ムクリと起き上がると、
「…………………………………………チッ」
明らかに舌打ちして再びこちらに駆け出してきた。
「やっぱり知能高そうだね」
「そうですね。ロックグリズリーの中でも上位の個体ではないでしょうか?あの魔法だって、普通は効果範囲 5mくらいですよ?」
「私を殺してくれたやつより上位の個体かな……どう思う?ナビ」
『知らんがな』
ナビがつれないわぁ。根拠がなくても、ただ同意して欲しい時だってあるんだよ?
『分かっている。……今がそのときでは無いこともな』
バレた……
『ふっ…………無駄に毎日 理不尽な目に合っているわけではないからな』
そういうこと言うから苛めたくなるんだよ?
それはともかく……
「《フル・スキャン》」
名前:―
性別:男
年齢:32歳 (長寿命)
種族:ロックグリズリー
レベル:28
HP:7,380
MP:6,808
力:2,452
体力:3,760
魔力:2,980
敏捷:1,536
運:Worst
特殊スキル
・???
・???
・地魔法の才 Lv.??
・???
取得スキル
・???
・???
・健脚
・???
・剛牙
・ロック・プレス
・???
・打撃拡大
・???
「やっぱ強いよねぇ!?」
『そのようだな』
「お、お姉ちゃん。私にも見せてください」
『ちょっと待て』
ナビがスキャン結果をオズと共有させる。
今までの《スキャン》では、スキルは基本的に『不明』だったが、《フル・スキャン》にレベルアップした結果、意識を集中させれば一部のスキルは分かるようになった。名前だけだけど。
「うわこれ長寿命個体じゃないですか!!なんであんな普通の大きさなんですか!?っていうかなんであんな浅いところにいたんですか!?」
「長寿命個体ってなにさ!?」
『平均よりも寿命の長い個体だ。特に10年以上 上の個体を指す。このような個体は、その寿命に比例してステータスが高く、経験豊富で危険なことが多い』
「なんでホントにそんなのがいるの!?」
そんなことを話している内に、距離を詰めたロックグリズリーが大きめの岩を軽く飛び越える。
それを狙って……
「《アストラル・ブロウ》」
「【精矢降雨】」
私とオズの精神魔法が、宙に浮いて身動きの取れないロックグリズリーに降り注ぐ。
が、ロックグリズリーは慌てることもなく、私の精神弾を地魔法で強化された牙で噛み砕き、オズの精神矢を瞬間的に毛皮を覆った薄い砂の装甲で防いでしまった。
くっそ。もう、完全に学習された。
「なんで見えないのに迎撃出来るのよ……」
「アレは多分、魔力の流れを感じてますね。野性の本能かもしれませんが、何かしらのスキルで強化されてると思います」
「精神魔法で体力を削るのはもう無理か……」
呟く間に着地したロックグリズリーは、速度を落とさず距離を詰めてくる。
私はロックグリズリーに体の正面を向けたまま、斜面を落ちるように飛び降りていった。
その間にも、
「【水弾乱撃】」
背中に掴まったオズが、アサルトスタッフを軽く前に向けて、進行を邪魔するように無数の水弾を降らせていく。が、ロックグリズリーは全く意に介さない。
水弾を浴びて、全身をぐっしょりと濡らしながら、一直線にこちらへ突っ込んできた。
「オズ」
「はい」
私の声にオズは、軽くスナップを利かせて袖の中に杖を仕舞うと、ぎゅっと力一杯しがみつく。
オズの袖の中には小さなアイテム袋が仕込まれており、そこに杖を仕舞ったのだ。
ちなみに出すときは、アイテム袋の内部拡張率を下げることで、杖が自動的に押し出されてくる。魔力供給量に応じて内部拡張率が変化するアイテム袋だ。
普通はわざわざ内部拡張率が変化するアイテム袋なんて創らないけど、アサルトスタッフ 3mくらいあるからね……オズの身長の倍だよ。『簡単に手に取れて、持ち運びしやすいように』と考えたらこうなった。
まぁ、それはともかく……
ギャギギャン!!!!
速度の乗った切り裂きを[アイテムボックス]から取り出したベースブレイドで、斜めに受けて衝撃を逃がす。さらにその一部を落下速度に追加して距離を稼いだ。
チラリと見たベースブレイドの刀身には傷ひとつ無い。さすがですね。
だが、ロックグリズリーもそれは予想していたらしく、攻撃の反動で遅くなった体に即座に追加の加速を入れて追い縋ってくる。
…………このままだと、地面に落ちる前に二撃目を喰らいそう。
「オズ」
「はい」
ベースブレイドを少し上に掲げると、
ボバァ!!!!
斜め上から撃ち込まれた圧縮空気弾が、落下軌道を強制的に地面方向にねじ曲げる。同時にベースブレイドを横に流して、余計な衝撃を拡散させた。
「と」
私が地面に足を付けるのと、ロックグリズリーが再びボディプレスを仕掛けるため飛び上がったのは同時だった。
「!!!!」
ボディプレスの軌道が浅い。どちらかというと体当たりだ。あれは地面に落ちた後も速度が残って、横滑りしてくるだろう。
『狙われたな』
そうだ。あのまま落ちるに任せていたら、無防備に切り裂きの二撃目の餌食になっていた。それを避けるために空気弾を受けて着地を早めたが、結果後ろへと体を流す速度はさらに乗っている。ここから左右に移動するのは難しい。
そこを狙われた。ここで焦って左右に避けようとすれば、恐らくバランスを崩して後ろに転げ落ちるだろう。だが後ろに飛んでも、ボディプレスから続く横滑りの体当たりを回避するのは至難だ。
ぎゅっ……
首に回ったオズの両腕に、さらに力が入った気がした。
『大丈夫よ』
ナビだけでなく、オズとナツナツにも届かせるつもりで心に思うと、
「……………………ふっ!!」
左足を強く蹴って右に飛ぶ。同時に右に流していたベースブレイドを思い切り左へ振り抜くと、そのまま手を放す。
作用反作用の法則。ベースブレイドの質量が左に飛んだなら、同等の質量が右に飛ぶ。つまり私だ。
『収納する』
手放したベースブレイドは、ナビが速やかに[アイテムボックス]に収納してくれた。
焦って左右に跳ぶとバランスを崩すなら、落ち着いてやればいいのよ。
オズを背負っている分 速度が足りないが、ベースブレイドに与えた力の分、体は右方向に流れている。さらに《ショート・ジャンプ》で圧縮した空間を抜ける。
距離にして凡そ30m。ボディプレスの効果範囲外だ。
「どうよ」
『やる前に一言言ってくれんか?』
「お姉ちゃん、《ショート・ジャンプ》で圧縮した範囲が広すぎて気持ち悪いです」
「超不評」
頑張ったのに……しくしくしくしく……
『そろそろ目的地だ』
「了解」
ロックグリズリーが私よりも下へ落ちていく間にチラリと背後を見ると、急な斜面の中に一部だけ平地と言っていい勾配のスペースが、山脈を構成する山と山の間に存在していた。
そこが私たちの目的地だ。
『ルーシアナ、ロックグリズリーを見ろ!!』
僅かな時間 視線を逸らした隙に、ロックグリズリーが何かをしたらしい。ナビが鋭く警告の声を上げた。
慌てて視線を戻すと、
「…………なにしてんの?」
ボディプレスの途中で体を捻り、空を見上げているところだった。
??ホントに分からん。
「ゴアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!」
判断に困っていると、そのまま空に向かって咆哮を上げる。
????空に威嚇?何かいる?
もしかしたら有翼系魔獣でもいるのかもしれないと思い視線を追ってみるが、雲のない晴れ渡った空は、一点の濁りすらない青だった。
うん、何もいねぇ。
二人の見解を聞く前に、次の移動先へ小さく後方へ跳ぶ。そろそろ落下速度が、私の制御できる範囲を超えそうだから気を付けないと。
その一瞬だけ意識を空から大地に逸らし、再び戻すと、
「あれ?」
青が汚されていた。
灰色の靄のようなものが、空の一部を侵食している。
ズゾォォォォンンンン…………
ロックグリズリーが大地に着地する音が、鼓膜を震わせた。
空中で身を捻りこちらに頭を向けた俯せ気味の着地だ。大地に深く爪を突き立てているため、予想よりも横滑りはしていない。
とにもかくにも、平地へ移動を……
『ルーシアナ!!上だ!!岩雪崩!!』
「!?」
ナビの警告に改めて空を汚す靄に視線を移すと、ようやく靄の正体が分かった。
人の頭程もある、無数の岩石だ。それが上の斜面に次々と降り注いでくる。
ガ……ガガ……ガガガガガガガガガ!!!!
当然それらは重力に引かれて下方…………私たちがいる斜面を通って平地まで。岩雪崩となって蹂躙する。
「グルオオオオォォォォォンン!!!!」
さらには、私たちより下方へ落ちていたロックグリズリーが、『俺を忘れるなよ?』とでも言うかのように咆哮を上げ、下から迫ってくる。
前門の岩、後門の熊、だ。
ロックグリズリーにとって、あの程度の大きさの岩石は、然程危険でもないのかもしれない。
『いや、落ちてくる岩石は、アイツが魔法で出したものだ。まだ干渉は続いていると思われる』
『簡単な軌道修正くらいなら出来ると思います』
『頭が回るな!!』
擬似的に多対一の構図を作り上げた。それも挟撃だ。
私は次の着地で身を捻り岩雪崩から背を向けると、重心を前に倒しての跳躍に移行する。
その進行方向上にはロックグリズリーがいる。まずはアレをやり過ごさないと!!
小刻みなジャンプを繰り返しつつ、二度目の跳躍でついに限界速度へと達した。ほぼ自由落下に等しい速度だ。
秒毎に距離が詰まり、10秒で0になった。
「ガアアアアァァァァ!!!!」
ロックグリズリーは、右の爪に地魔法で付与した岩爪を大きく開いて、大降りの一撃を放つ。
よく見ると、腕の振りに合わせて空中の砂粒が、『ビチッ!!』『バチっ!!』と弾かれている。これはボディプレスと同様に、岩爪本体だけでなく、周囲に効果範囲を広げていると見た。
『ナビ!!オズ!!《ショート・ジャンプ》』
『《クリア・プレイト》』
『【水低氷化】』
二人に合図を送ると、狙い澄ましてロックグリズリーの股下に飛び込む。
先程、ロックグリズリーに浴びせた水がオズの魔法で瞬時に凍りつき、切り裂き動作を妨害する。飛び込んだ距離は《ショート・ジャンプ》で圧縮され、その先の地面には《クリア・プレイト》の平面力場。
抵抗の無い平面力場は、大地を滑台としてグングン速度を上げていく。
ナビが用意してくれた出っ張りを掴んで体を固定し、平面力場上からロックグリズリーを見ると、岩雪崩が直撃しているところだったが…………やはり、大きなものは不自然な軌道を描いて避けていった。
『ルーシアナ、あと数秒で壊れる!!跳ね上げるぞ!!』
『了解!!オズ!!』
斜面上に顔を出す、爪のような岩を使って平面力場を跳ね上げると、その衝撃で平面力場は微細な砂となって消えていった。
残るのはすでに制御限界を超えた速度で平地に吹っ飛ぶ私たちだけだ。
『《積層断空》』
両手両足を大の字に広げ空気抵抗を稼ぐ私の前に、多重の魔法障壁がビッッッッシリと連なる。オズが作り出した弱めの減衰型障壁である。
私の《クリア・プレイト》とオズの《積層断空》。どちらも魔法障壁という点では同じだが、その防御方法は大きく異なる。
私の《クリア・プレイト》による魔法障壁は、平面力場と呼んでいる通り、一定以上の力が加わるとそれに比例した反発力を発生させる『場』を発生させる。これは、加えられた力のピークを過ぎるか限界を超える力が加わると破壊される『反発型の魔法障壁』だ。
イメージとしては薄い石壁。壊れるまでは一切攻撃は通らないが、壊れてしまえば残りの攻撃は抵抗なく通り抜けてしまう。
オズの《積層断空》による魔法障壁は、一定の力が加わると空気抵抗が増すように纏わり付いて力を弱め、一定量の力を打ち消すと消滅する『減衰型の魔法障壁』だ。
イメージとしては厚い水壁。完全に防ぐことは出来ないが、消滅するまでは全ての攻撃を弱めることができる。
どちらがいいとかいう話ではなく状況によるのだが、このような感じに住み分けされている。…………まぁオズの《積層断空》は、『反発型』に切り替えることも出来るが。
つまり何が言いたいかと言うと、落下速度を少しずつ低下させていきたい場合、『反発型』よりも『減衰型』が向いている。
向いているのだが…………
『これって飛び込み失敗して、お腹から『パーン!!』と行くのに似てるよね……』
『頑張れ』
『ファイトです』
『泣きそう……』
パーン!!と行った。




