第97話 回想中⑫ (ゴーレム娘、妹に追い抜かれる)
82 ~ 99話を連投中。
6/15(日) 13:10 ~ 20:00くらいまで。(前回実績:1話/21分で計算)
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
(完)じゃない。
四人で連れ立って移動しながら話を聞く。
「それで?」
「え~とですね、まずはダーチョの卵なんですが、無事手に入りました」
「それはよかった」
「……………………手に入りすぎました」
「……ぉい」
この時、ようやくオズが上げた『私以上の成果』に思い至る。
「つまり『ワンダブル』?」
「はい……」
ここで、『ワンダブル』について説明しましょう。
『ワンダブル』というのは、『ワンクエスト、ワンアップ』のことだ。つまり、『そのランクに上がった最初のクエストでランクアップを果たす』ことを言い、特に『Dランク以上 かつ 上位ランク冒険者の補助がない』場合を指す。
ご存知の通り、昇格ポイントはノルマ+αの成果を上げて入手できるため、自分と同ランクのクエストを受けている場合、ランクアップに必要な量を貯めるのにE ~ Gで10回程度、D以上で100回以上のクエストをこなさなければならない。
これにはもちろん昇格ポイントを得られなかった場合も含まれるので、効率的に行えば半分とか、もっと少ない回数に抑えられる。私のように。
だがさすがに『一度のクエストで』となると、運と実力が必要になってくる。
クエスト完了期限だって決まっているし、採集系にしろ討伐系にしろ 余程大きな群に連続して遭遇し、全て採集・討伐し、持ち帰らなければならない。
正直、狙って出来るものではないというか、机上の空論でもないと成立しない奇跡なのだ。
ゆえにワンダブルを成立させると目立つ。この上なく目立つ。
「さすがにワンダブルされちゃ、そりゃあ、私の色々をかっさらっていくよね……」
「内容的には『卵をたくさん採ってきた』だけなんだけど、『ワンダブル』のネームバリューがね……実際、他の人が出来るかって言ったら出来ないし、条件も満たしてるから、凄いことなのは確かなんだけど……」
「うぅ……」
食堂でお茶をしつつ、みんなで頭を抱えた。いえ、考えたところでやってしまったことは変わらないのですが、この前 目立つなって言われたばっかりだからね…………
「ちなみに、オズのギルドカードには『Dワンダブル』が記録されたので、他の冒険者ギルドでも優待が受けられるわよ。希望すればだけど」
「優待って~?」
「新しい街に行った際 宿を優遇してもらえたり、希望するクエストを優先的に回してもらえたり……とか?正直、ウチのギルドにワンダブルなんていなかったから、ちゃんと調べないと分からないのよね……」
「騒がれる割には微妙……」
「あぁ~~……納品する前に、ちゃんと卵の数を数えておけばぁ~~…………」
オズが凹んでいる…………目出度いことなんだけどね。
『事故は偶然が重なって起こる』と言うが、どこかで何かが違っていれば起こらなかったことなのだ。
・偶然 ①:予想以上に卵が多かった。
オズがダーチョの群に遭遇したのは二回。一回目は途中でダーチョが卵を撃ってこなくなったため、途中で切り上げた。そのときオズたちは、『途中で終わったから400個くらいだろう』と根拠なく思い込んでしまったらしい。
だから、二回目の群は小さめだし、最後まで撃たせれば丁度良いと考えたらしいのだが、終わってみたら1,200個くらいだった。
先程も言ったが、一回のクエストでランクアップする『ワンダブル』なんて、起きることではないから、どこかで無意識に『1,000個は いっていない』と思い込んでいたのだろう。私の時も厳密に言えば、912個だった。
・偶然 ②:卵の数を確認しなかった。
オズとナツナツが卵の数を確認できたタイミングは二回。
一回目のダーチョ戦後と二回目のダーチョ戦後。どちらかで数えておけば、納品数を900個くらいに調整して、残りは後日納品なり自家消費なり出来たのだが、それを怠った。
まぁ、本人たちは1,000個もないと思い込んでいたし、数えるのも億劫な量なのだが、これをしておけば回避できた。
・偶然 ③:義姉さんがオズの計画を知らなかった。
オズは私と違って[アイテムボックス]を持っていない。そのため、オズが納品する量も『一般人に比べると多いけど許容範囲』だったため、別室で納品などはしていなかった。
その結果、いつも通りに受付で納品したことにより、不特定多数に目撃され、一気に騒ぎが大きくなった。
事前に『ダーチョの卵を大量に納品する』と分かっていれば、私と同じように別室で納品となっただろうから、いきなり不特定多数にバレることはなかっただろう。
・偶然 ④:義姉さんが席を外してた。
上記の③に重なるが、オズの納品の時、たまたま義姉さんは席を外していた。
ギルド員として良いことでは無いだろうが、義姉さんは私やオズが行くと、仕事をする前に無駄話を始める。
大体『今日はどうだった?』から始まるので、いつも通り義姉さんがいれば、卵を出す前に気付いた可能性もあった。
・偶然 ⑤:代わりのギルド員の声が良く通った。
声には色々な種類がある。甲高い声、野太い声、ハスキーな声、子供のような声…………
ギルドの広間には、当然のように冒険者たちの雑多な声で埋め尽くされているし、受付嬢たちの女声も大体はこれに呑み込まれてしまう。
だが、時々こういった音の波に呑み込まれず、薄い刃のように『スッ……』と通る声の持ち主は存在する。吟遊詩人などは好例で、実力のある者なら混乱の極みにある集団をたった一言で制することも可能と言う。
まぁ、そこまではいかないかもしれないが、今回義姉さんの代わりに入っていたその受付嬢は、このタイプの声の持ち主だった。
オズが卵を出した瞬間の『えっ……!!』の一言で広間中の視線を集め、続く『これ……!!ワンダブルいくんじゃないですか!?』の一言で運命が決まった。
せめて普通の人なら声も呑まれ、気付かれても周囲の数人だったろうに…………
そんなこんなで、義姉さんが戻ってきた頃には、もう手の施しようがなかったらしい。オズそっちのけで好き勝手に騒いでいるから、途中までオズ由来の騒ぎだと気付かなかったとのこと。
なもんだから、気が付いた頃には噂話はギルドの外にまで広がっており、曰くこうなった、と。
『おい、聞いたか!?人形遣いの妹がワンダブルを成立させたって!!』
『マジか!?あの可愛い方だろ!?』
『ランクは!?』
『Dワンダブルだ。つまり今Cランク!!』
『この前冒険者登録したばっかりじゃない!!お姉ちゃんだけでなく、妹ちゃんも優秀ね~』
『可愛いしな』
『人形遣いとしての能力はないらしいけどな!!代わりに魔法技能が凄いらしい』
『可愛いしな!!』
『おい、このロリコン捕まえとけ』
『天才型の姉、秀才型の妹ってとこかしら』
『頑張り屋だね~。ここんとこ毎日いたもんな~』
『そのお姉ちゃんの方はどうしたんだ?喜んでたか?』
『いや、いなかったな』
『そういや、最近見掛けないわね』
『サボりか?』
『この前まであんなに頑張ってたのに…………気が抜けちゃったのかしら?』
『かもな~。領主様から直々に報奨をもらったり、ギルド長に養子縁組したり、名声って面じゃ一気に貰いすぎたろ』
『ランクもまだDだったはずよね』
『えっ!!後から来た妹ちゃんに抜かれちゃったってこと!?』
『サボってたら、妹にランク抜かれたのか?』
『言っちゃ悪いが、自業自得だろ……』
『これが切っ掛けで仲が悪くなったりしないといいけど……』
『天才型って失敗に弱いらしいからな』
『そういや、前はどこに行くにも一緒だったのに、最近はバラバラのことが多いな』
『!!それってもう仲が悪いってこと!?』
『その可能性もあるってことだよ』
……………………勝手に仲違いさせんなや。
いや、別にこんな話が展開されたところを見たわけではないが、概ねこのような話が展開され、『妹の活躍に嫉妬する姉』みたいな構図が流布されているらしい。噂って怖い。
どうりで私に話し掛けてくる人たちの反応は、両極端に分かれていると思った。
つまり、私たちが仲違いしてる前提で、『私を慰める系』と『私を叱る系』。具体的に言うと、八百屋のおばちゃんが前者で、乳製品店のおっちゃんが後者。
「ごめんね。せめて私が受付にいれば、こんなことにはならなかった…………かもしれない……可能性が……無きにしもあらずなんだけど」
「めっちゃ言い淀んでるじゃないですか。まぁ、確かに義姉さんがいても、似たようなことになってた気がしますが」
義姉さんがいれば、偶然 ⑤が消えて、偶然 ④が改善されるけど、完全に防げてた可能性は低い。よくて噂が広まるのが遅くなるくらいだろう。
「となると、やっぱり私かなぁ~。適当でいいから戦闘中に数えておけば良かったんだよね~……ルーシアナは実際 数えてたんだし~……」
「いや、あれ《感覚調整》で知覚速度を限界まで上げてたから出来たんだよ。通常状態だと難しいんじゃないかなぁ……」
確かあの時は知覚速度を10倍にしても、一秒に一個の卵が飛んでくる感覚だったから、通常状態だと一秒に10個。それが10秒以上続くから、100以上を一気に数えなくてはならなくなる。
それは戦闘中に難しいだろう。
「お姉ちゃん……」
「ん?だからってオズが悪いなんて言う気はないからね?」
「でも……」
「『でも』なぁに?もちろん、怒ってもいないし、嫌ってもいないよ?」
「……………………はい。ありがとうございます」
「さしあたって、今度は私がちゃちゃっとランク上げちゃうから。ちょっと待っててね」
「はい……」
う~ん……オズが凹んでいる。さっき噂話の中に『姉は天才型だから失敗に弱い』とかあったが、ホントに失敗に弱いのはオズなんだよね。
というか、綿密に計画を立ててから実行するタイプだから、ハプニングに弱いのだ。もっとも、ハプニングも含めて計画を立てるから、周りからはそうは見えないのだが。
どうしたものかと考えていると、
「とりあえず噂が一段落するまで、不自然なくらい仲良しアピールしておいたら?悪い噂って、良い噂よりも長引くものだから。
……それと、別にルーシアナがランクアップするまで、オズに待っててもらわなくてもいいんじゃない?Dランククエストを受ければルーシアナだけ昇格ポイント稼げるし、そもそも差は300くらいだしね。
CからBランクに上がるのに必要な昇格ポイントは10,000だし、大した差じゃないしね」
「その10倍ずつ増えてく仕様、なんか意味あんの……?」
D → Cが1,000で、C → Bが10,000、B → Aが100,000だ。なお、A → Sは1,000,000稼いだ上で特別なAランククエストをクリアする必要があるらしい。
なお、取得できる昇格ポイントも同様に上がっていくので、理論上はみんな数年でAランクになれるはずだが、BやCランクで足踏みすることが多い。なぜならクリアするのが精一杯で、+αの成果を上げるのが難しいからだ。
まぁ、それはともかく
「なら、明日は私とクエスト行く?またハチミツの採取に行こうと思ってたんだけど」
「行きます」
義姉さんの言う『仲良しアピール』だけでなく、オズの気分転換も兼ねて提案してみると、すぐに同意された。一緒にクエスト行くの楽しみにしてたからね。
ちょっと気分を持ち直したオズに安心して頭を撫でていると、
「ただいま~」
「「「「おかえりなさ~い」」」」
お義母さんが帰ってきた。
「お母さん、どこ行ってたの?珍しい」
「あら、セレスちゃん?私がいつもいつも家でゴロゴロしてるとでも?」
「…………いえ、さーせん……」
にっこりと義姉さんを威圧するお義母さんからそっと視線を逸らした。私も義姉さんと同じように思ってたのは秘密です。
「ルーシアナちゃん、ちょっと」
「何も思ってないですよ!?ごめんなさい!!」
「……………………何を思って謝ったかは、後で聞きます。それよりちょっと来なさい」
「墓穴……!!」
だって、あのタイミングで話し掛けられたら、ねぇ?
不安そうなオズに手を振って、お義母さんの後に付いて別室に行く。
そして、お義母さんは鍵を掛けると、
「ねぇ、ルーシアナちゃん。変な噂を聞いたんだけど、叱られる準備はいい?」
「待って」
完璧に噂を信じとるやないけ。噂を信じる前に義娘を信じてほしい。
…………噂が全くのデタラメだと説明するのに一時間くらい掛かった。
ちなみにお義父さんは、噂を鼻で笑って訂正してくれてたので、私たちの好感度は爆上がりしました。




