第96話 回想中⑪ (ゴーレム娘と三つの土下座)
82 ~ 99話を連投中。
6/15(日) 13:10 ~ 20:00くらいまで。(前回実績:1話/21分で計算)
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オズがDランクになり、『ダーチョの卵でちゃちゃっと稼いできます』と言って出掛けた日。私も錬金術師ランクがEランクになりました。え?Fランク飛んでる?そっちもサクッと終わりましたよ。
冒険者ギルドと違ってランクアップに必要な評価点が少ないのか、大量に得られるのか分からないですが、GランクもFランクも4 ~ 5回納品したら、昇格のための試験を受けさせてくれました。
G → Fランクの昇格試験は『研磨剤の納品 (100個)』で、F → Eランクの昇格試験は『緩衝液の納品 (100個)』でした。
どんだけ必要やねん。
もちろん一発合格です。というか、どっちも一回作ればあとは繰り返すだけなので失敗のしようがない。
『なんで皆やらないんですかねぇ……』と呟いたら、『単位時間当たりの作成数が少ない、つまり稼ぎが良くないからです~』とのこと。世知辛いですね~……
いくつか作ってて気付きましたが、Gランクは単純作業 (砕くとか加熱するとか) を丁寧に行うことが、Fランクは錬金レシピ通りに行うことが、昇格するのに必要な資格というか技能だったようです。
ここまでは作業代行だけで作れるものばかりでしたが、Eランクではついに術式転写が必要な『ポーションの納品』などの依頼が現れ始めました。
E → Dランクの昇格試験は『ポーションの納品 (100個)』だろうか……
モニトロさんに『優秀な子が入ってくれて助かるわ~♪でも、すぐに昇格しちゃったから研磨剤、あんまり作ってもらえなかった~』と言われたので、併設店舗で売ってた堅硬石を買い占めて、全て研磨剤にして納品してあげました。1,000個ほど。
そしたらすんごい真顔になって『ねぇ……色付けるから、必要な時、頼んでもいい?いいよね?いいって言って』と迫られたので、月に一回、Gランククエストを大量受注する約束をしてしまいました。
どうもこういう基本アイテムは、不足するとモニトロさんのような職員さんが作る羽目になるらしいです。
『疲れないけど疲れるの!!』とかおかしなことを言ってたが、『(肉体的に)疲れないけど(精神的に)疲れるの!!』みたいな意味だろう。多分。
そして今日、Fランククエストも同様の約束をし、代わりに素材を共同購入出来る権利を手に入れました。これは需要が少ないため併設店舗に並ばない素材を、安く購入できる権利です。
通常、そういう素材を入手しようとすると、商人に追加料金を払った上で仕入れてもらうしかないですが、大抵足元を見られて高額な追加料金を請求される上、商人も慣れない素材のため目利きが効かず、品質の悪いものが届くことも多いらしいのです。
ギルドの共同購入ならば、他の錬金術師と合わせて依頼することになるので追加料金を抑えられる他、ギルドが懇意としている商人のため品質が悪いことも少ない、とのこと。
Cランク以上限定のサービスですが、その辺はちょちょっと誤魔化しておいてくれるらしいです。
正直、そんな本腰を入れて錬金術やるつもりはないので、メリットが薄いと思ったのですが、『珍しい食材も買えるよ~』の一言で飛び付きました。
とりあえず、以前オズが言っていた『チョコレート』と『カカオ』を注文しておきましたが、モニトロさんも首を傾げていたのでダメかもしれないです。
そんな感じで最近は錬金術師ギルドに入り浸っていたが、そろそろオズと一緒に冒険者ギルドのクエストをこなせるようになりそうだ。
Cランクになったら、そろそろ別の街に行ってみたいところ。足が欲しいな。やっぱり馬かな?
そんなことを考えながらお義母さんに頼まれた食材を探しに、まずは八百屋に来た。
「いらっしゃ~い!!おや、ルーシアちゃん。今日はなんだい?」
「いつも通り、ニンジンとかキャベツとかですけど…………何かオススメあります?」
「ありゃ、お眼鏡に適わなかったかぁ~。残念。オススメはこれだよ。ほうれん草。炒めて良し、スープにして良しだよ!!」
「ふむ……………………コレとコレとコレとコレ下さい」
「毎度あり~♪」
ここの店はよく利用しており、私が『気に入らなければ買わない』ことを知ってるので、欲しいものを言葉にできる。
中には、『ニンジン下さ~い』『これだよ!!』『…………やっぱりいいです』『ウチのニンジンがダメだってのか!?』みたいな人もいますので。そういうところは二度と行かない。面倒い。
店主さんが、指定したほうれん草を束ねていると、
「そういや、最近はどうだい?」
「『どう』と言うと?」
「冒険者ギルドの仕事のことさ。最近『冒険者ギルドで見掛けない』みたいな話も聞くけど」
「誰ですか、そんな話をしてるのは……」
「『人形遣い』さんは有名だからね~。いきなり増えるし。冒険者だってこういう店を使う奴等は多いからさ」
「迷惑な……」
ていうか、『いきなり増える』とか言わないで。虫か私は。
「それでどうなの?」
「ちょっとここ最近は冒険者ギルドはサボってたので、まぁ噂の通りです、多分」
「そっかぁ~…………御愁傷様」
「は?」
『ちゃんと働きなさい』的なことを言われるのかと思ったのだが……御愁傷様?え~と、意味としては『残念だったね』とかだよね。別に残念なことはないんだけど?
それとも『働かない残念な穀潰しめ!!』的な意味ですか!?
「まぁ、持って産まれたものは仕方無いさ!!不貞腐らずに頑張んなね!!お姉ちゃん!!」
「え?え?」
「ほら、お眼鏡に適うか分かんないけど、コレもあげるから!!ファイト!!」
「あ、ありがとう、ございます…………?」
よくわからないまま、規格外品と思しきでっかいトマトとほうれん草を渡された。
詳しく聞きたいが、すぐにお客さんと話し始めてしまったので、邪魔は出来ない。
『なんだろ……』
『さぁ……?』
ナビも含めてポカーンである。
よく分からないまま次のお店、乳製品店に行く。
「らっしゃい!!お!!可愛いけど可愛くない方のお姉ちゃん。今日は可愛い方はいないのかい」
「張っ倒しますよ!!…………オズは冒険者ギルドの仕事です。私は今日はないので」
「あぁ~……………………嬢ちゃん。自業自得ってもんだぜ、それは。妹さんに当たっちゃダメだぜ?」
「なんのことだか分かりませんが、たとえオズに嫌われることはあっても、私が嫌うことはありませんよ」
「嫌われることすんなよ……」
「そういう意味じゃないですよ」
何故かこっちのおっちゃんにもよく分からんことを言われた。
さっきのと合わせると、『私に残念なことがあって、オズに八つ当たりすんなよ』ってこと?いや、でもそれだと自業自得がよく分からん……
おっちゃんは、『やれやれ』と言わんばかりにため息をつくと、
「ほれ。サービスしてやっから、妹に当たったりせず、しっかりと頑張れよ、若人よ」
「え?ありがとうございます……じゃあ、コレとコレとソレ下さい」
「あいよ。そういや、珍しいチーズが入ったんだが、見るかい?」
「ぜひ」
「ちょっと待ってくれよ。…………………………………………これだ」
「デカ!!」
おっちゃんが取り出したのは、一抱えもある大きな円形のチーズだった。『ドン!!』と重い音を立ててカウンターに置くと、少し包装を剥がして中を見せてくれる。
「10年モノの超硬質チーズ。名をパッジャーノ・デニーノという、チーズの王様だ。熟成時間に比例した濃厚で芳醇な風味が特徴で、料理に加えればそれだけでワンランク上の上質な世界に引き上げてくれる」
「へぇ~、確かにすごそう。いくらです?」
「その塊で5万テトだ」
「高!!」
「小分け販売にも対応してるぞ?」
「ん~……………………いや、塊で買いますよ。珍しいってことは、次はいつ入荷するか分からないんですよね?小分けで買ってオズが気に入ったら、我慢させることになっちゃいますし」
「……………………そっか…………本当に仲良いんだなぁ、おまえら…………よぉぉし!!もう一個おまけしてやるから、約束だぁ!!何があっても喧嘩するんじゃないぞ!!」
「ありがとうございますぅぅ!?でも、なん」
「おら行った行った!!おっちゃんとの約束を忘れんなよ!!」
「人の話を聞いて~~~~!!!!」
男泣きを始めるおっちゃんに、二段重ねされたチーズを持たされて強引に背中を押された。
な、なんで私とオズが喧嘩すると思われてるんだ??
その後もいくつかのお店で似たようなやり取りがあり、その度に増えるおまけに比例して、私の疑問も膨らんでいった。
まとめると、
・私に残念なことがあった。
・それは自業自得。
・その結果、オズと仲が悪くなる危険がある。
・もしくは、すでに仲違いしていると思われている。
・オズが可愛い。
・オズが優秀。
・オズが頑張り屋。
……………………etc.
私はともかく、オズに関して悪い内容はなかった。むしろ実際以上に持ち上げて、『敵わなくても仕方ないよ』みたいなことを言われている……
……………………………………………………………………………………結論。
『オズが私以上の成果を上げた。』
これ以外ない。
なんで私がその程度のことでオズを嫌うと思われているのかは分からないが、まとめると多分こう。
私の成果で一番分かりやすく浸透しているのは、ベーシック・ドラゴン討伐だが、これ以上の何かを討伐したのだろうか……?
でも、この辺にベーシック・ドラゴン以上に危険な魔獣はいない(そもそもアレもイレギュラー)し、もしそんなのと遭遇したらナツナツ経由で連絡があるはず。
となると討伐ではない可能性が高いが、そうなると何をしたのかさっぱり分からない。
一応ナビに連絡してもらうと、『当方、グランディアにて謝罪の用意あり。のんびり来てください』と返答があったらしい。何をしたのやら……
グランディア家に帰るまでにも、顔だけは知ってる冒険者たちにも同じような反応をされた。
そして、ちょっと疲れて玄関の扉を開けると、
「…………………………………………ただいま」
土下座が三つあった。右が大で、左が小で、小の上に極小が乗っている。
「なんで土下座……」
「Style DOGEZAは本気の謝罪表現だから」
「確かにそうだろうけど」
土下座 (大) が、そんなことを言った。
「「「ごめんなさ~い……」」」
「…………本当なら『内容による』って言うところだけど、まぁ、いいわ。ふざける余裕はあるみたいだし」
Style DOGEZAってなにさ。初めて聞く表現だわ。
私のセリフを聞いた土下座 (小) と (極小) はしかし、
「いえ……冗談みたいな展開でしたが、ホントに怒るかも……」
「何したの、ホントに……」
「何をしたと言われると『確認を怠った』くらいしか思い付かないんだけど~……」
Style DOGEZAのまま話し始めそうだったので、土下座 (極小)を抱えあげて胸に抱き、土下座 (小) の腕を取って立たせる。
「義姉さんは自分で立って」
「おねーちゃん、泣いちゃうよ……?」
「……………………仕方無いな」
土下座 (極小) を土下座 (大) の頭に乗せて、空いた手で土下座 (大) を立たせる。
こうして土下座から三つの命が生まれたのだった。(完)




