表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

エルフの涙

その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。

朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。

街の人々は、男のことを

「約束を守る男」

と呼んでいた。


エルフ<森人>達は、元々街近くの深い森に住んでいた。

しかし人間達が「開発」と称して、エルフの森の木をすべて伐採してしまった。

エルフ<森人>達は住むところを失い、街中で暮らさざるを得なくなった。


森の精霊であるエルフ<森人>は、森から離れると霊力を次第に失い、

寿命が無限にあるはずなのに、病に倒れるエルフ<森人>も続出した。


美しい容姿を持つエルフ<森人>は、人間の間で人気があり、

特に女性のエルフ<森人>は、闇の奴隷売買市場において、

高値で取引されるようになった。

霊力を失ったエルフ<森人>達には、それを防ぐ手立てがなかった。


そのエルフ<森人>は、まだ若く美しい女性のエルフ<森人>だった。

幾度か奴隷として捕まりそうになるなど、常に危険にさらされていた。

なんとか、人間界から離れたいと、そのエルフ<森人>は思っていた。


しかし、街を離れてどのように暮らしていけば良いか、彼女には見当もつかなかった。

森はすでに無く、霊力を補給できず、質の悪い人間の食物で命を繋がざるを得ない。

踊り子として見世物小屋で働き、小金を稼いで糊口をしのぐことくらいしか、

若い彼女には思いつかなかった。


そんなとき、そのエルフ<森人>は、「約束を守る男」の噂を聞いた。

どんな依頼も受けてもらえるの?

彼女は、男に依頼してみることを決心した。


いつものとおり男は、指定席である隅の席で本を読んでいた。

他に客はいなかった。

エルフ<森人>は男に近づき、声を掛けた。


「あなたが『約束を守る男』ですか?」

男は、顔をエルフ<森人>の方に向け、世間ではそう呼ばれている、と答えた。

そして読んでいた本を閉じ、エルフ<森人>へ向かいの席に座るよう促した。


彼女は、涙を流しながら、エルフ<森人>達の現状を訴えた。

このままでは、私もいつかは病に倒れるか、奴隷にされてしまう。

そしてエルフ<森人>が全員滅びてしまう。


男は彼女に、なにを自分に依頼したいのかと尋ねた。


「エルフ<森人>の森を元に戻して欲しい。そしてそこでみんなで静かに暮らしたい」


男はしばらく考えた後、じっとエルフ<森人>の目を見てから、

依頼を受ける、30年間待て、と言った。


「依頼料は?」


彼女は男に尋ねた。

男は、エルフ<森人>の森にあった木の苗を一株所望したいと言った。

エルフ<森人>は喜んで、明日の朝、持ってくると約束した。


半年後、街一番の大きな工場が不景気で閉鎖になった。

閉鎖直後に起きた不審火で焼け落ちた工場の建物は、すぐに解体されて更地にされ、木が植えられ、広い森林公園になった。

エルフ<森人>達は、時折、その公園で霊力を補充することができるようになり、次第に元気を取り戻していった。

街の中心部は、元工場から離れた鉄道の駅近くに移動していき、

5年後、森林公園は人の手から離れて、自然の深い森へと変化していった。

10年後、鉄道が廃止されて街全体が寂れ、

人々は、元の街から数百キロ離れた西の大きな街近くへと集団移住した。

森林公園への道も失われた。

30年後には、森林公園はさらにさらに広がって、精霊の宿る深い深い森になった。

エルフ<森人>達は、その森で幸せに暮らすようになった。

もちろんその中には、あの若く美しいエルフ<森人>も含まれていた。


喫茶店「生命の樹」も、西の街に移転した。

新しい店にも、「約束を守る男」は安息日以外は毎日訪れ、

隅の席を陣取って、本を読んだり、新聞を読んだりしていた。

男は、コーヒーを数杯飲んで、夕方の鐘が鳴ると帰って行った。

相変わらず昼食を取ることはなかった。


「生命の樹」の店先では、あの若く美しいエルフ<森人>が依頼料として持ってきた、もみの木の苗が立派に育ち、清々しい香りを道行く人にもたらすようになっていた。

いつか異世界冒険ファンタジーで、ベストセラーを!と夢見る小泉です(えっ?)


今日の話は、捻りがありませんでしたねぇ。

でもこういう直線的な物語は、書くのも読むのも好きだったりします。


短いなあって思ったそこの君、

もうすぐ更新再開する

「星に願いを」https://ncode.syosetu.com/n7658fc/

を是非どうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ