無理難題
その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。
朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。
街の人々は、男のことを
「約束を守る男」
と呼んでいた。
気位ばかり高く、嫌味な男がいた。
少しばかり腕が立ったので、
周囲の多くの人は、その男の傲慢な態度を不快には思ってはいたが、
諫める者はなかった。
あるとき、その男は「約束を守る男」の噂を聞いた。
どんな依頼も受けるだと?高額な依頼料を要求するに違いない。
そんな奴は詐欺師に決まっている。
俺が化けの皮を剥いでやる。
その男は噂を頼りに、「生命の樹」へと乗り込んだ。
「約束を守る男」と思われる男は、喫茶店の隅の席で新聞を読んでいた。
他に客はいなかった。
その男は、店の中で怒鳴った。
「お前が、なんでも依頼を受けるという詐欺師か?」
「約束を守る男」は、読んでいた新聞を脇に置き、その男の顔を見て、
珍しい動物でも見つけたかのような表情をした。
「俺はお前に、太陽を西から登らせて、東に沈むようにすることを依頼する」
男は、下卑た笑い声を上げて、「約束を守る男」に指を突きつけて言った。
「どうする、詐欺師殿?」
「約束を守る男」は、小首をかしげた後、
依頼を受ける、49日間待て、と言った。
男は、せせら笑って言った。
「で、依頼料は幾ら要求するんだ、どうせめちゃくちゃな高額を吹っかけるんだろう?」
「約束を守る男」は、コーヒー代を一杯分、机の上に置いていくように言った。
男は、小銭を机の上に投げつけ、できるものならやってみろ、できなかったらお前がケチな詐欺師だということを言いふらしてやる、と大声で言ってから、喫茶店を出て行った。
男が、喫茶店の前の横断歩道を渡っていた時、
突然、横からトラックが猛スピードで突っ込んで来て、男をひき殺した。
「約束を守る男」は、店の外の騒ぎには、なんの注意も払わず、机の上に散らばった小銭を集めて、店に置いてある募金箱に入れてから、席に戻って、再び新聞を読み始めた。
地球で49日が経過した時、男は太陽系とは異なる星系の惑星に転生した。
男が転生した先の惑星では、地球に置き換えれば、確かに太陽は西から登って、東に沈んでいったが、大きな団扇のような生物に変化した男に、そんなことを認識する能力は、備わっていなかった。
たまには、こういうオチでも良いでしょ?
はい、小泉です。ショートショートのネタは尽きませんねえ。
長いものはサッパリ書けないのに。。。
短すぎ!って思った方は、もう少し長い、
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