祖国再興
その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。
朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。
街の人々は、男のことを
「約束を守る男」
と呼んでいた。
青年は、祖国を取り戻したかった。
青年の祖国は、隣の大国に無理矢理吸収され、
抵抗する人々は投獄されたり、処刑されたりした。
青年は、少年時代、一つ違いの弟と、両親とともに他国へ亡命したが、
祖国を忘れることはできなかった。
いつか祖国を取り戻そう。
青年とその弟は、レジスタンスとして地下活動を行い、たびたび祖国に出入りしていた。
しかし、取り締まりは厳しくなる一方で、とうとう弟は秘密警察に捕まり、
「思想教育」のために投獄されてしまった。
レジスタンス組織も空中分解寸前であった。
そんなとき、青年は男の噂を聞いた。
青年は藁にもすがる思いで、
「約束を守る男」に相談しようと決心した。
「約束を守る男」と思われる男は、喫茶店の隅の席で本を読んでいた。
他に客はいなかった。
青年は男に近づき、声を掛けた。
「あなたに相談があるのですけれど」
男は読んでいた新聞を閉じ、顔を上げて、青年へ向かいの席に座るよう促した。
「私は祖国を我が民族の手に取り戻したいのです」
そしてこれまでの祖国の歴史と現状について男に説明した。
「弟も捕まり、レジスタンス活動も崩壊寸前です。どうにかして立て直し、祖国を独立させたいのです」
男は、青年に年齢を尋ねた。
「25歳です」
男は小首をかしげてから、祖国のために命を投げ出せる者は他にいるかと尋ねた。
青年は答えた。
「弟も、祖国再興のためなら、いつでも命を差し出すでしょう」
男はしばらく考えた後、青年の目をじっと見てから、
依頼を受ける、15年間待て、と言った。
「依頼料は?」
青年は男に尋ねた。
男は、二人の寿命を併せて100年間、と青年に答えた。
青年は言った。
「わかりました。私と私の弟の命を祖国に捧げましょう」
青年は、男を後に残して、店を出て行った。
15年後、新大統領は宣言した。
「我が国は、本日独立をする。30年間に渡る隣国の圧政をはねのけ、我が民族は自らの国家を再興した。ともに新たなこの国を素晴らしいものにしようではないか」
広場を埋め尽くした大群衆は、歓呼の声を上げた。
新大統領の側近であり実兄でもある男性が、喜びの涙を浮かべながら、
壇上で新大統領の左手を取り、高々と挙げた。
男はいつものとおり、喫茶店の向かいの店に行き、新聞を購入した。
新聞の一面トップには、航空機の墜落事故のニュースが載っていた。
飛行機には誕生したばかりの国の新大統領とその側近が搭乗していたこと、
その国の隣国の戦闘機による撃墜が疑われているということ、
そして生存者のいる可能性は無いことが書かれていた。
新大統領は、恩人へのお礼も兼ねて、男の住む国を表敬訪問する途上だったという。
夕方の鐘が鳴り、男はコーヒー代を払ってから、いつものように帰っていった。
なんか現実にありそうだなって、書きながら思いました。
国家ってなんなのでしょうね。。。
やっぱり今回も短かったので、物足りない方は、是非
「星に願いを」https://ncode.syosetu.com/n7658fc/
をご覧ください。
※読みにくいかも。。。投稿初心者なので。。。ごめんなさい
もうすぐ更新も再開します!
読んで損は無いですよぉぉ (自画自賛w)