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金持ちになりたい

その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。

朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。

街の人々は、男のことを

「約束を守る男」

と呼んでいた。


青年は、金持ちになりたかった。

なにか上手い手は無いかと考えていた。

ある日、青年は「約束を守る男」の噂を聞き、

依頼してみようと決心した。


いつものとおり男は、指定席である隅の席で本を読んでいた。

他に客はいなかった。

青年は男に近づき、声を掛けた。


「依頼があるんだけど」


男は読んでいた本を閉じ、顔を上げて、青年へ向かいの席に座るよう促した。


青年は、金持ちになりたいと、男に言った。

金持ちになって面白おかしく暮らしたい、と言った。


男はしばらく考えた後、青年の目をじっと見てから、

依頼を受ける、半年間待て、と言った。


「依頼料は?」


青年は男に尋ねた。

男は、コーヒー代を一杯分、机の上に置いていくように言った。


3日後、青年は職場の上司に呼ばれ、新しい仕事を任された。

面倒だな、と青年は思ったが仕方なく引き受けた。

その新しい仕事の打ち合わせのために、客先へ行く途中で、

青年に連絡が入った。

青年の両親の乗った車が事故にあったという知らせだった。


青年は慌てて客先と上司に連絡を入れて打ち合わせをキャンセルし、

病院へ向かった。しかし青年の両親は、すでに亡くなっていた。

次の日、長患いに伏せっていた祖母が亡くなったという知らせが伯父から入った。

3ヶ月後、その伯父夫婦の家が火事になり、家族全員が帰らぬ人となった。


青年は親類縁者をすべて失い、天涯孤独の身となった。


その翌月、3つの保険会社から青年に莫大な保険金が支払われ、3つの家と土地の相続を受けた。青年は、一人で住むには広すぎる3軒の家と土地をすべて売り、小さなアパートへ引っ越した。


半年後、青年の預金通帳には、これまで見たことも無い大きな数字が記録されていた。

しかし青年は生きる気力を失い、仕事を辞め、部屋に引き籠もった。


いつものとおり男は、指定席である隅の席で本を読んでいた。

他に客はいなかった。

青年は男に近づき、声を荒げて言った。


「あんたがやったのか、人殺しめ」


男は肯定も否定もしなかった。

男は読んでいた本を閉じ、顔を上げて、青年に尋ねた。

金持ちになったのに、何故面白おかしく過ごさないのか。


青年は、憤然として店を出て行こうとした。


男は、青年にコーヒー代を一杯分、払うように言った。


青年は、男になんで払わなければいけないんだ、

僕はなんの注文も依頼もしていないぞ、と答えた。


男は青年に、お前は依頼をしただろう、と言った。


青年は男に怒って言った。


「半年前に依頼した日、依頼料は払ったはずだ」


男は不思議そうに、依頼を受けたのは今だろう、と答えた。

そして、さっさと依頼料を払って自宅へ帰れと言った。

青年は、慌てて周囲を見回し、

店に掛けられていた日めくりカレンダーを見た。

日にちは、依頼したその日のままだった。

青年は、呆然と立ち尽くした後、コーヒー代を一杯分、男の前に置いて、

ふらふらと店を出て行った。


夕方の鐘が鳴り、男はコーヒー代を払ってから、いつものように帰っていった。

ショートショート2作目です。

楽しんでもらえましたか?


短くてすぐ終わっちゃった、とお嘆きの方には、是非


「死神見習いと過ごす最後の一年」 https://ncode.syosetu.com/n9791fd/


をどうぞ。


でわでわ

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