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最後の話

その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。

朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。

街の人々は、男のことを

「約束を守る男」

と呼んでいた。


科学者は、「約束を守る男」の噂を聞いた。

その男は、どんな依頼も受け、願いをすべて叶えるという。

調査してみると、どうもその噂は本当らしいことがわかった。

なぜそのようなことが可能なのか、科学者は疑問に思った。

様々な仮説、その男が創造神であるとか、太古の昔に滅びた魔法の使い手であるとか、考えてみたがどうも上手く説明できない。

だいたい神様がいたとして、喫茶店で相談に乗るわけも無い。


科学者は、「約束を守る男」の謎を解く良い方法を思いついた。

男にそのカラクリを説明するように依頼すればよろしい。


いつものとおり男は、喫茶店の隅の席で新聞を読んでいた。

他に客はいなかった。

科学者は男に近づき、声を掛けた。


「あなたが『約束を守る男』ですか?」


男は、顔を科学者の方に向け、世間ではそう呼ばれている、と答えた。

そして読んでいた新聞を脇に置き、科学者へ向かいの席に座るよう促した。


科学者は、男に言った。


「あなたは、どんな依頼も受け、願いをすべて叶える、と聞いた。どうしてそんなことができるのか教えて欲しい」


男はしばらく考えた後、じっと科学者の目を見てから、

依頼を受ける、今教えれば良いのか、と答えた。


科学者は小躍りして言った、今、この場で教えて欲しい。

そして男に尋ねた。


「依頼料は、いかほどか?」


男は、あなたの寿命を35年間、と答えた。


科学者は、男の言葉を冗談だろうと考え、笑ってそれを承諾した。

そして男を促した。


「さあ、教えてくれたまえ」


男は、少し沈黙を置いた後、話し始めた。


私は未来に起きることをすべて知っている。

どんな依頼が来るかも、願いがどのような形で成就されるかも知っている。

そもそも、叶う願い以外、私にもたらされないことも知っている。

それだけのことだ。


男は、科学者の願いをすでに叶えたというような表情をして科学者から目をそらし、傍らに置いていた新聞を、再び読み始めようとした。


科学者は、あわてて男に尋ねた。


「私が依頼しに来ることも知っていたのか?その依頼内容も知っていたのか?」


男は、当たり前だ、と答えた。


科学者は重ねて聞いた。


「私の未来も知っているのか?」


男は、諦めたように新聞を傍らに置き、

科学者の方に向き直って、知っている、と答えた。


科学者は、かすれ声で、自分の未来を教えて欲しいと男に言った。


男は、科学者にこれから半年間起こることを詳細に説明し、半年後に科学者が病院に運ばれた後、そこで死ぬ、と答えた。


夕方の鐘が鳴った。男は大きく溜め息をついてから、呆然としたままの科学者へ、お先に失礼する、と言った。そしてその日のコーヒー代を払ってから、帰っていった。


科学者は、男の言葉通りのことを経験し、気がおかしくなって半年後に病院に運ばれ、そこで数年後に死んだ。


その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。

朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。

たまに新聞を買いに出かけることはあっても、

またすぐに同じ席へ戻ってきた。


店が休みである安息日以外は、毎日やってきて、夕方の鐘がなるまで新聞や本を読み、コーヒーを数杯飲んで帰って行った。

昼食を取ることは無かった。


街の人々は、男のことを

「約束を守る男」

と呼んでいた。


誰のどんな依頼でも受け、その願いを必ず叶える、という評判だった。

ショートショート連作「約束を守る男」全10話、楽しんでいただけましたでしょうか?

私自身は、書いていて楽しかったです。

またいつか挑戦してみたいと思います。


縁がありましたら、またいつかお会いしましょう!

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