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想い人

その男は、いつも「生命の樹」という名前の喫茶店にいた。

朝、喫茶店が開くと同時に一番隅の席を陣取った。

たまに向かいの店へ新聞を買いに出かけることはあっても、

またすぐに同じ席へ戻ってきた。


店が休みである安息日以外は、毎日やってきて、夕方の鐘がなるまで新聞や本を読み、コーヒーを数杯飲んで帰って行った。

昼食を取ることは無かった。


街の人々は、男のことを

「約束を守る男」

と呼んでいた。


誰のどんな依頼でも受け、その願いを必ず叶える、という評判だった。

ただし請求される依頼料は、とんでもない高額だという噂も、まことしやかに囁かれていた。


魔法使いだといって彼を忌み嫌う人もいれば、聖者だといって尊敬する人もいた。

人を平気で殺すという話もあれば、死んだ人を蘇らせたという話もあった。


何歳ぐらいなのか、誰も知らなかった。

50歳くらいの見かけではあるが、

半世紀前に終結した大戦の前から、同じ姿で同じ喫茶店に来ていたと、

真顔で話す老人もいた。

そして誰もその男の名前を知らなかった。


少女は数ヶ月の間、想い悩んでいた。

このままじゃだめだ、なんとかしないと、私、ダメになっちゃう。

少女はある晩、前々から噂に聞いていた「約束を守る男」に、

依頼をしてみようと決心した。


放課後、少女は「生命の樹」に寄った。

いつものとおり男は、指定席とおぼしき隅の席で本を読んでいた。

他に客はいなかった。

おそるおそる男に近づき、少女は声を掛けた。


「依頼があるのですが」


男は読んでいた本を閉じ、顔を上げて、制服姿の少女へ向かいの席に座るよう促した。


最初に少女は自分の名前を名乗り、通っている学校の名称を告げた。

そして少女は、ぽつりぽつりと話し始めた。

好きな男の子がいる。同じクラスの少年だ。

どちらかというと乱暴者で不良にカテゴリーされており、

さらには浮気者という評判で、彼のことを良く言う女子は少ない。

あんな奴とは付き合ってはダメだとはっきり言う先生もいる。


「でも彼は、本当は優しい良い人なんです」


少女は男に言った。


男は少女に、なにを自分に依頼したいのかと尋ねた。


「私は、彼のことが好きなんです。付き合いたいと思ってます。どうにかならないでしょうか?」


男はしばらく考えた後、じっと少女の目を見てから、

依頼を受ける、3日間待て、と言った。


「依頼料は?」


少女は男に尋ねた。

男は、コーヒー代を一杯分、机の上に置いていくように言った。


その日から4日後、再び少女は、「生命の樹」に行った。

少女は烈火のごとく怒っていた。

いつものとおり隅の席に座っていた男に近づいて大きな声で叫んだ。


「あんなひどいこと、あなたがしたんですか?許せません」


男は読んでいた新聞を脇に置き、顔を上げて、少女の目を見ながら不思議そうに尋ねた。

なにが不満なのか、今、君は彼と付き合っているのだろう、願いは叶ったのではないか。


少女は問い詰めた。


「あんな大怪我をさせたのは、あなたですか?」


男は肯定も否定もせず、少女に言った。

助けて看病をしている君は、一生彼に感謝されるだろうし、浮気をされることもないだろう。


少女は男の頬を平手打ちして、店から出て行った。


男は頬をちょっとさすってから、一つ溜息をつき、再び新聞を開いて読み始めた。

新聞には、ある少年がなにものかの暴行を受けて、瀕死の状態で病院に運ばれたという記事が載っていた。両手足とあばら骨を数本折られて、道に放置されていたという。

通りすがりの女子学生が通報して病院に運び、今は意識が戻り命に別状は無いとのことだった。


夕方の鐘が鳴り、男はコーヒー代を払ってから、いつものように帰っていった。

小泉です。恋愛もの?を続けて書いていたら、異なったテイストのものを書きたくなって、生まれたのがこのショートショート短編シリーズです。私の作品としてはブラックだし、ほのぼの要素ゼロだし、楽しんでもらえるかな・・・心配ですが、どれも短いのでサクッと隙間時間にでも読んでもらえたら嬉しいです。


ほのぼのしたい方は、


「死神見習いと過ごす最後の1年」https://ncode.syosetu.com/n9791fd/


を是非お読みください!(←清々しいまでの営業活動)


ではでは!

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