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Crystal Brush  作者: 篠原ことり
第三章 Largo
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第二十五話 Festival Vivace・後編

「応援する必要もないと君は言うだろうな」

「まさか。オレは人の好意は喜んで受け入れる主義だぜ」

「あまり受け入れられすぎると私が困るのだが……」

「妬いてんの?」

「そうだな。陽が観客席にいる女子の半分の好意でも受け入れれば、妬くかもしれないな」

「今日は存外素直だな。つまんねぇの」

「本番前につまらないことで言い合ってもしょうがないだろう?」

 茘枝は肩をすくめて言い放つと、ソファの上に腰をおろし、撥ばかりをくるくると両手でもてあそぶ陽の肩に、後ろからそっと手を置いた。クリスと真央と来夏の一騒動がある一時間前、登校する前の二人の遣り取りだ。陽の膝の上では、白い雄猫のシャネルが満足そうに丸くなっている。茘枝は陽の小さく結んだ髪を解き、意外にも滑らかな黒髪を手櫛で何度か梳いた。まさか茘枝には敵わないが、男にしては十分長すぎる髪だ。本人が気に入っているらしいので、切れとも言うつもりはないが。しかし、一体いつ頃から彼は髪を伸ばし始めたのだっけ?高校の入学式で隣を見ながらふと、長くなったなと感じた記憶はあるのだが。

「また長くなったな」

両手を駆使して綺麗に髪を一つにまとめながら、茘枝は呟いた。

「ん?そういや最近忙しかったしな」

「そろそろ切るつもりなのか?」

「まっ、これ以上長くても邪魔なだけだしな」

カモメが一羽、窓の外に止まったのを見咎めて、シャネルがひらりと身を起こした。ビー玉のような緑色の目が爛々と輝くのを、陽がぽんぽんと叩いていさめる。12月の朝早くから窓を開けてやる気は到底沸かなかった。シャネルはぴょんと陽の膝を飛び降り、ガラス越しに何食わぬ顔をしているカモメをじっと睨んだが、結局何もできないことを悟ると、また陽の上に戻って体を横たえた。

「ほんと、シャネルってお前に似てるよな」

「私に?」

茘枝は怪訝そうな顔してみせた。先ほどの一連の流れの間に、陽の髪はいつも通りに束ねられていた。

「そっ。プライド高くて我儘で温室育ちなところとか。勝手にどこか行ったくせにまた勝手に戻ってくるところとか」

「少なくとも最後の一つは、むしろ君に当てはまると思うが……」

茘枝は陽の隣に腰をおろしながら抗議した。陽の手が茘枝の髪に触れ、項を晒すように頭の低い位置で結い上げた。荒れのない皮膚は確かに猫と同じ白さを晒している。そこに唇が落とされるのを待って、茘枝は陽の手をそっと振り払った。長い髪がベールのように陽の頭を覆った。

「そろそろ行くか?」

茘枝が尋ねた。陽も猫も、放っておけばずっとそのままの体勢でいそうな気がしたので。

「……君はリハーサルがあるんじゃなかったのか?」

「まあ、そんな気もしないでもねぇけど」

陽がどこか物足りなげな顔をしているのを、茘枝も「そんな気がしないでもない」でやり過ごした。二人の賢い愛猫は、主人が大理石の玄関で靴を履くのまで見守っていたが、外の冷気を感じた途端、「にゃあ」と鳴いて温かなリビングの方へ戻ってしまった。

「温室育ち……」

茘枝と陽は顔を見合わせもせずに笑った。身を切るような寒さの中で、繋いだ手だけが春風の中にいた。


***

 朝一番の公演は目が回るほど忙しい。開会式の終わりと同時に衣装と一緒に更衣室に駆け込み、自分でも何をしているのかよく分からないほどの速さで着替え(おかげでTシャツの前後ろを逆さまに着ている部員ばかりか、ズボンとTシャツを間違えた者さえ何人か現れた)、ちょっとでも無駄口を叩くものがいれば柄にもなく怒鳴りつけて、リハーサルへと向かわなくてはならない。颯は廊下を走りながら、早くも汗が肌を湿らすのを感じていた。こんなにバタバタしなければならないのも、実行委員と颯を抜かした生徒会役員たちのせいである。ダンス部の集客力に目をつけて、人の少ない朝一番の公演を押し付けたのだ。これはほぼ毎年のことであったが、颯は自分の代でこそ何とかして部員たちの負担を減らそうと、慎に陽に茘枝に取り計らってみた。が、この点だけは、いつしか魔のトライアングル地帯とさえ評された三人も、なぜかがっちりと一致団結して、颯の頼みを頑として聞き入れないのであった。

 颯は音楽を止めてリハーサル用にとった小さな一室を見渡した。壁一面を覆った鏡を前に、部員たちはそれぞれ、不安な箇所を練習してみたり、体のまだ温まっていないところを動かしたりしていた。これで文化祭最後の公演になるのだ――実感の沸かない言葉だけが胸に浮かんできた。もう二度と学園の体育館で踊ることはない。そして、踊るその姿を菜月に見てもらうことも……颯は少し苦笑した。菜月にならこれからもダンスを見せる機会はきっとあるはずだ。あくまでも、ここで見てもらう場合の話であって。本番前に立派な演説をうてるほど颯には余裕がなかった。あとは皆のやる気に任せることにしよう。颯はコンタクトを入れた目を数回瞬かせた。それから、ふと左指に張り付いていた水晶の指輪に気付き、丁重にメガネケースの中にしまいこんだ。踊っているときだけは、何にも縛られない自分でいたかった。

「さっ、そろそろ行くよ」


 菜月は鉛筆を咥えながら、颯よりも汗を流し、周囲の興奮やざわめきにはまるで無関心なように、観客席の最前列に腰をおろしていた。隣の二人連れの少女たちがよほど気になるようにしょっちゅう自分の方を振り見ていたが、菜月は愛想にも微笑む気になれなかった。そもそもそんなものが彼の中にあるのかさえ怪しいが。

 胃をしめつけられるような緊張を覚えるのは毎年のことだ。颯がちょうど思っていることを、この文化祭の日だけはまるで自分のことのように感じられる――もしかして、菜月がただそう思い込んでいるだけで、颯はまるで平然としているのかもしれない。それでもよかった。だとしたら、自分が颯の身代わりになっているというだけのことだ。

 颯の公演がこれで最後だということを、菜月は痛いほど頭の中で繰り返していた。もちろん、颯のダンスを見る機会がこれで最後だとは思わない。ずっと一緒にいると約束したのだから、例えがこの校舎を去ろうとも、菜月には必ず颯のダンスを見る機会があるだろう。それでもどうしても切ない気持ちを隠しきれないのは、颯が自分より先に成長していってしまう恐怖があるからか。菜の花の黄色が消えていくのを、唇をかみしめて見ていたあの頃の要領で、今も自分は颯の晴れ姿を待っている。

 観客席の明かりが消え、隣の少女たちがぱっと黙り込んだ。菜月は期待と恐れのこもった目で、そっと空っぽの舞台を見上げた。その時、稲妻が閃くように突然、舞台が明るく映し出され、音楽が大音量で鳴り始めた。観客が言葉にならない声をあげた。

 颯は最初に舞台に乗り出してきた。正直、颯が最初だろうが最後だろうが、菜月にはあまり関係なかったが。どうせ彼しか見ていなかったのだから。菜月は手拍子にも声援にも参加せず、何か難しいものを一目で覚えようとするかのような厳かな思いさえ抱いて、颯の一挙一動を見守っていた。動くものをよく見慣れた菜月の目には、颯のどんなに細かい動きもよく見えた。颯の動きは相変わらず完璧だった。結局、何も変わってはいないのだ。「神社の子がダンスなんて変なの」と言ったあの日から。ダンスをするときの颯の顔はいつも輝いている。その時だけは嘘はない。そして、その嘘のない顔が、一瞬だけ菜月に向けられてちょっと笑った。菜月は胸の中が熱いもので満たされていくのを感じた。

「颯!」

 拍手をしすぎた手がまだじんじんと痛む。更衣室から出来た背中に菜月は素早く呼びかけた。声もかすれていた。颯はもうメガネをかけていたが、まだ薬指に指輪をはめてはいなかった。颯が笑って聞いた。

「やあ、ナツ。どうだった?僕の高校時代最後の公演は?」

「最後とは限らないよ。留年って場合もあるしね」

菜月はそう言って、満面の笑顔で浮かべた。颯が少し驚いたのがまた嬉しかった。

「んー、でもね、とりあえず……今までで一番よかったと思う!」


***

「全く大繁盛にも程があるぜ」

 教室の前にずらりと並んだ人の列を眺めながら、落合は冷や汗すらかいて呟いた。

「一体全部入るのに何時間かかるんだか……」

その時、桃真は人ごみの中に、ちょうど階段をのぼってくる大河内の顔を見出した。実を言うとこれで三回目なのだが、一度として落合は大河内の相手をできずにいた。接客でばたばたしていたせいである。しかし、今はちょうど準備時間を経て営業を再開したところであり、席につく客たちもようやくフォークを持ち始めたというところで、落合の仕事は当分(といってもせいぜい五分か十分程度の話だが)ないように思われた。落合が手を振ると、大河内も落合に気付いた。

「よう。元気か?クラスの方はどうだ?」

「ああ、おかげさまで繁盛してる。こちらにはとても及びそうにもないがな」

大河内はそう言って微笑んだが、その笑い方は何となく、咎めるところがあるという風だった。落合はすぐさまその色に気付いた。

「どうかしたか?」

「いや、なんでもない。ただ……いや、関本はいないか?」

「ライ?あいつならずっと実行委員の仕事で出かけてるぜ」

「そうか……なら、構わない」

二人の間に沈黙が走った。全くもって二人の間のみだった。他の人々は相変わらず騒がしく、楽しそうで、何も知らなかった。子どもが廊下をかけまわり、大人がそれを叱っている。

「あー、あいつの携帯にかけてみようか?」

落合が申し出ても、大河内は何も言わない。何か言葉を探しているようだった。「うん」とか「いや」とか、ただ会話を繋ぐための言葉ではない。きっと、落合との絆を示すような言葉だった。

「そういえば、君の絵を見た」

「俺の?」

大河内が思いついたように言うと、落合は驚いたような顔をしてみせた。大河内は小さく頷き、なぜか赤面してみせた。

「ああ、美術部で絵を飾っていただろう?」

「あっ、そういやな。まあ、でも、展示なら全部石崎の個展の方に持っていかれそうだけど」

「そんなことは……ない」

再び沈黙が訪れた。今度こそ、二人は完全に話題を失った。固まりきった二人を動かしたのは十二時を知らせる鐘の音だった。大河内は「じゃあ」と言って行こうとし、そして落合はそれを引き止めた。不思議そうに見上げる大河内の黒曜石のような真っ直ぐな目に、落合はおずおずとであったが悪戯っぽい笑みを投げかけた。

「おいおい、ここまで来といて手ぶらで帰るって訳にはいかねぇだろ?」

「だが……」

大河内が込み合った店内を見渡して躊躇するように口ごもる。落合は取ったその手を引っ張って教室の隅に除けるように置かれていた椅子に座らせ、テーブルとして教室の机を持ってくると、俊敏なウェイターの動きでメニューを差し出した。唖然としている大河内に、落合は、他の客の元へと急いで駆け寄りながらも急いで付け足した。

「あっ、もちろん俺の奢りだから。特別招待席な。何でも選べよ!」

大河内の胸を締めていた不安は、一時的ではあったが、この少年によって取り去られてしまった。まるで手品のように。


***

 例え「やめろ」と言われたって、一歩ごとのスキップと、緩む口元と、お気に入りの鼻歌だけはどうしてもやめられない。前を歩く人はいらいらしている。歩調で分かる。自分を置いていこうとして、少しずつ早足になっているからだ。

「慎様、早いっす!」

「そのふざけた歩き方をどうにかしたら追いつけるようになるんじゃないのか?」

「そんなことないっすよ。慎様が早いだけで……」

「ご機嫌取りはいいからさっさと歩け。それができないなら付いてくるな、バカ」

「バカ……バカって……」

追いかけっこでもするように。次第に早くなっていく二人の足音は、一つ下の階の喧騒に紛れることなく、ここだけ静かな最上階の廊下によく響く。

 午後一時。クラス劇の宣言という午前の仕事が終わり、一息つこうと思っているところを、偶然捕まった。朝に飛びついた償いをしろ、とのことだった。もちろん、明音は大喜びで応じ、食べかけのハンバーガーも丸呑みして、慎の後をついてきたというわけだ。午後の仕事といえば、クラスの劇の出番があるが、どんぐりをヘディングしながら舞台を通り抜けるだけのリス役であるから、リハーサルが全く必要ないどころか、正直本番にいなくてもあまり支障はないのであった。

「慎様、俺が手伝うのって何の仕事っすか?」

明音は早くも立ち直って尋ねた。スキップはおさまっていたが、顔は相変わらず緩みっぱなしだった。

「力仕事だ。生徒会室のダンボールをゴミ捨て場まで運んでもらう」

「ダンボール?」

明音は空のダンボールを想像していたに違いない。もしかしたら、ご丁寧にもきちんと畳まれた状態まで期待したかもしれない。慎が生徒会室の鍵を開け、部屋の隅に詰まれた重そうないくつもの箱の山を指したとき、明音の顔は引きつるどころか、今日の空と同じぐらい真っ青になった。泣きぼくろでさえ、一瞬色素が薄れたように見えた。

「えっ、えっと、これって……」

「この間片付けたときにでた不要物だ。文化祭後に片付けるって手もあったが、今片付けたほうが手っ取り早い。全部で十五個ある。平均すると大体一つ十キロ程度だ。客にぶつからないよう北階段を使って行けよ」

「……これ、全部、俺一人で?」

慎はその時初めて笑った。ただし、明音には嬉しくない不敵で高圧的な笑みであった。

「俺がこんなことをやると思ってるのか?」

 何か唸り声のようなものをあげながら、ダンボールを引きずっていく明音を見送り、慎は天井に向けてぐっと腕を伸ばした。窓の外を見遣れば、木々と草の緑、花の虹色、いたるところを人々が埋め尽くしている。こんなに騒がしい日は文化祭をおいて他にない。そして、自分にとってはこれが最後の「騒がしい日」となるのだろう。

 慎は窓辺に椅子を引き寄せて座った。水晶の指輪が、真昼の日を浴びてきらきらと反射している。憎いのかどうかは分からない。この水晶のおかげで、自分は今の地位を得た。権力を得た。しかし、同時にどれだけのものを背負わされてきたか。義務、裏切り、嘘……

 何か重いものと人が階段から転げ落ちていくような音と、断末魔の悲鳴が聞こえたが、慎はあまり気にしないことにした。慎は溜息をついた。まあ、いい。あまり小難しいことは考えないことにしよう。水晶とて、文化祭中は行動を起こさないと言っていた。それが自分たちへの気遣いだとは到底思えなかったが。

 慎はコーヒーを淹れる準備を始めた。さて、あいつは一体どれくらい砂糖を必要としていたっけ?


***

「出来た!」

 叫んだのが最初か、椅子から飛び降りたのが最初か。絵の具が完璧に乾いていることを確認すると、クリスはすぐさま描き終った絵を小脇に抱え、絵の具がパステルの上で乾くのもそのままに、美術室を飛び出した。しかし、夢中で廊下を駆け抜けるという訳にはいかなかった。それをするのにはあまりにも人が多すぎたので。途中で幾人かに声をかけられた気がしたが、クリスは適当に手を振って対応しただけだった。一刻も早く出来上がった絵を飾りたかった。これで、親友が救われるのならば。

「あら、坊ちゃん、順番よ……」

 視聴覚室から続く列の横を抜けようとすると、優しそうな老婦人がささやき、そして口をつぐんだ。クリスの金髪は並んでいる客たちの目をよくひいた。何人かがひそひそと興奮したように話し始めたのを、クリスは遠い呼び込みの声や歓声にまじって聞いた気がした。しかし、こうしたものはまるでクリスに対して意味を持たなかった。クリスは視聴覚室に素早く滑り込み、唖然とする客たちの目の前で堂々と絵をかけ換えた。来夏が恐れたあの田舎町の絵から、たった今完成したばかりの新しい絵へと。クリスは少し満足そうに微笑んだ後は、何か客から訊かれる前にと急いでその場を離れた。

 いい加減教室の様子を見に行かないといけない。客は来ているだろうか。ノアは上手くやっているだろうか。それに、他のクラスメートたちも……期待と不安に胸を膨らませながら階段を駆け上る途中、クリスは踊り場で危うく何者かと正面衝突しそうになった。二人は驚いて飛び上がり、クリスは自分の声にまた驚いて数段階段を滑り落ちた。相手の生徒も膝に手をあて、ごほごほと咽こんでいた。

「落合!」

クリスは心臓を押さえながら言った。

「びっくりした……シフトは終わったの?」

「それが、エーリアル、ちょっとした事件が起こったところでよ」

荒く息を吐く落合の顔には、めったに見られない心配の色が見えた。クリスは嫌な予感がした。昨夜思い描いていた不安が、テロリストの学校占拠も含めて鮮やかにクリスの脳に蘇った。一体何が起きたんだ?

「その、客が予想外に多すぎて、急遽また料理を作らなきゃいけなくなったんだけど――まあ、それはいい。幸い調理室も借りられたから。それに、店の方もなんとかいってる――ただ、有瀬の奴が突然消えちまって……」

「有瀬が消えた?」

クリスは困惑を以って呟いた。あまりノアに友好的でないはずの落合は、こくんと頷いてこう言った。

「別に店に影響があるわけじゃねぇけど、調理室に入った瞬間、血相変えて飛び出してったからやっぱり心配でよ。エーリアル、お前、有瀬のこと探してこられるか?俺、実はまだシフト終わってねぇんだ」

二人はその場で別れた。クリスは「任せて」とは言ったものの、すっかり混乱していた。ノアがどうしてしまったのか、全く見当もつかない。落合はノアが逃げ出したのは、「調理室に入った瞬間」と言った。調理室に何かあったと考えるのが適当だろう。もしかして、理事長がその場にいたということは?しかし、ノアに養父を恐れる理由があるのだろうか。

 調理室に入った瞬間、クリスには全てが分かった。ノアが血相変えて飛び出していったのと、寸分違わないタイミングで、クリスは全てを悟った。一瞬のうちに、クリスの目の前を様々なものが通り過ぎていった。不自然な我が家のキッチン、何度か違和感を覚えたノアの言葉、最近の食事、味噌汁の味、そして、白のアトリエ――

「有瀬!」

 調理室で焼きそばを焼いていた一年生が振り向くような大声をあげ、クリスはくるりと踵を返した。行き先は分からない。でも、とにかく、足の赴く場所へ。ノアが恐怖に小さく凍えていそうな場所へ。




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