表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間違いだらけの作品論  作者: ミン
22/35

「いじめ」のメカニズム

 教育や子育てについて社会が真剣に考えられるようになってこの方、未成年の「いじめ」問題ということが、ずうっと社会に横たわっている。括弧書きにしたのは、この「いじめ」、定義が曖昧なので、ざっくりと、世間一般的に言われている「いじめ」というくらいの定義だよ、という意味を持たせたかったためである。


 平和教育・平和学習でもそうだが、「いじめ」問題についても、我々社会は、特に日本社会は、なかなか、まともな取り組みができていない。それは例えば、「いじめ」問題において、「いじめは絶対ダメだ」「人間として許されない行為だ」といったような指導しかできていないからである。平和学習で言うところの「平和は尊い」「戦争は悲惨」という刷り込みのように、実は全く、戦争をなくすだけの力が無いのと同じである。「いじめ」についても、良くない良くない、と言っているだけでは解決しないのだ。医者は病気のメカニズムを知っているから治せるのであって、痛みを知っているだけでは病気は治せない。戦争も、そしていじめもそうである。


 まず、世間一般の「いじめ」についての考え方を批判するところから始めたい。まず、「いじめ」について、スピリチュアルな(?)観点から議論する人もいる。いじめは弱い心の人が~、とか、魂の汚れた人が~、とか、よくわからない神秘な価値観――いや、はっきり言うと、定義もできていない甚だ非科学的な価値観、といっておこう――それを押しつけて、前提にして議論しているものである。また同様に、「いじめは犯罪である。犯罪なのだから犯罪として重く対処すべき」などの論法にも騙されてはいけない。まずこの論法においては、「全てのいじめは犯罪行為である」という前提で話をしているが、その「いじめ」自体には色々な様態があるため、全てが犯罪とはいえない。また、「犯罪」行為かどうか、ということは「いじめ」の本質とは関係ない点。これはなぜかというと、法というのはその地域や社会、時代によって変化するものであるため、法(犯罪かどうか)を道徳の指針にするというのは、非常に危険な行為である。「いじめ」というものが人類に昔から存在したそのことを考えるならば、もっと普遍的な論拠をもって考察しなければならない。


 さて、「いじめ」のメカニズムは何なのだろう。社会生物学的な観点で問いを発するならば、「いじめが人類にとってマイナスな行為ならば、それはすでに淘汰されていて、なくなっているはずなのではないか」。言い方を変えると、「どうしてヒトは、いじめをするようにできているのだろう」である。なお先に断っておくが、科学と理論の場に、安易に感情というスパナを持ち込まないようにお願いしたい。感情では何も解決しない(感情で解決できるなら、多くの社会問題はもうとっくに解決しているはずでしょ?)ということに同意した上で、読み進めてほしい。


 人間は社会性生物である。古来ヒトは、まだ自然が強かった時代には、敵は外部にあって、皆で協力して、これを倒し、支配し、種の繁栄のため、集団を広げ、社会を大きくしていった。まずこの、人間が社会性生物である、という点が重要なところである。一致団結しなければ弱いので、ヒトは集団を作るのである。集団はしかし、個々勝手なことをしていたら崩壊するので、ルールが作られる。要するに、皆で協力しよう、ということである。しかし集団の中には、集団に貢献せず、その利益だけをむさぼる不届きな人間(これを「フリーライダー」という)が出てくる。フリーライダーばかりになっては社会が機能不全に陥り、種は滅びてしまうので、ヒトにはこれを見つける能力がそれぞれに備わっている。これを「裏切り者検索モジュール」という。つまりヒトの最大の敵は自分たちの社会の内部にいる人間であり、それを種として知っているから、DNAのレベルで脳にこの機能が備わっているのである。


 「裏切り者検索モジュール」とは何か。これは、自分や、自分たちと違う人間を見つける能力である。これを使ってヒトは、フリーライダーを見つけ、制裁行動サンクションを起こす。このサンクションも、それを躊躇いなくやる必要があるので、ヒトがこのサンクションを起こすときに、脳内では「快」を起こさせる物質が分泌される。社会のために起こす行動に「不快」が生じては、ヒトはサンクションを起こさなくなるので、脳はサンクションを「快」と判断するのである。


 察しの良い方ならもうわかったかもしれない。実は「いじめ」というのは、人間の種の存続に必要な「裏切り者検索モジュール」の作動と、そしてその作動の際に生じる「サンクションを起こさなければ」という感情によって生じている可能性が非常に高いのである。自分や自分たちと違うものに攻撃的になるのは、この「裏切り者検索モジュール」とそれに伴う「サンクション衝動」のためである。これの社会的に間違った認知によってもたらされる制裁行動を、オーバーサンクションという。つまりいじめは、オーバーサンクションの一種と考えるのが妥当である。


 「いじめは心の問題」というのがなぜか一般化しているが、それは危険すぎる勘違いで、「いじめは脳の問題」である。先ほど、サンクションを起こすとき、ヒトの脳はそれを「快」と判定すると言った。この「快」は、依存症によって生じる「快」と同じと思って貰って良い。要するにこの「快」は、やみつきになる、快楽のとりこになる類いのものである。この種の情動は、理性を凌駕してしまうのである。(例えば食事のときの情動と同じで、この場合でも、「食べ過ぎる」という事があると思う。これは、情動が理性に勝ることを証明する良い例の一つである)

 また、「裏切り者検索モジュール」についても、それが強く働くヒトと、そうでないヒトがいる。その強度は、脳内におけるセロトニントランスポーターの量によって決まる。これは、セロトニンをたくさん無駄なく使える物質と考えてもらえれば良い。この量の多い方から、LL型(楽天的)、SL型(普通)、SS型(不安傾向)の三つに分類でき、日本人の場合は、世界的に見てもこのS型遺伝子を持つヒトの割合が80%と、圧倒的に多いことがわかっている。S型の良い面は、一意団結できること、慎重であること、先々を考えることである。そしてコインの裏表のように、排他的、裏切り者を発見しやすい(モジュールがかなり強く利く)、心配性ということがある。


 また、年齢と脳の関係で言うと、ヒトは皆感情を理性によってコントロールしているが、その制御をしているのは脳みその前頭前野という部分である。ここは、感情にブレーキをかけたり、人の気持ちを思いやったりする場所で、「人間らしい脳」と言われている。これの完成が三十歳前後であり、未成年の年齢の場合には、ここは未完成状態である。つまり、感情にブレーキが利かない・利きにくいのだ。大人でもアルコールを摂取するとここの働きが悪くなって、理性のブレーキが利かなくなる。


 このように、ヒトをいじめに向かわせているのは「心」ではなく「脳」であって、しかもそれは、人類種の存続のために必要な機能の一つなのだ。しかも日本人の場合は特異的にS型が多く――つまり、「裏切り者検索モジュール」の強度が高い国民性であり、前頭前野の発達が未熟な未成年年代では、さらに「いじめ」の発生率が高いのである。ここに、日本特有の問題と普遍的な問題の終着を見ることができる。つまりいじめは、こういったメカニズムで日本では数多く発生している、または、発生しやすいわけである。


 さて、ではどうすべきか。この対処は、まさにこれらのことの正確な知識を、大人と、そして未成年の子供たちが得ることである。この知識のもとであれば、とるべき対応も、今の一般的なそれとは全く違ってくるはずだ。脳科学者で中野信子という方の著書を、是非読んでいただきたい。


 いつまでもうわべだけの、もっともらしい感情論で騒いでいないで、こういった、本質的、科学的な所へ考えを進めてほしいと思う。わからない人ほど、「心」とか「魂」とか「正義」とか言い出すが、そうではない。カウンセラーが精神疾患を鑑別できたり、その症状を改善できたりするのは、心が清いからではない。生理学、医学、精神医学の基礎をしっかり学んで、それぞれのメカニズムを知っているからである。「心」とか何とか、そういう定義の曖昧で非科学的な言葉を使って逃げるな。レッテルを貼って楽をするな。そしてまた、そういう声の大きい、間違った解釈に乗っからないでほしいと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ