第一話 出会い
【運命】それは人々が1度は考える魔のワードだ。その言葉は様々な状況に使われ、運命の人、運命的な出会いなどのプラスの意味で用いられることもあれば、運命の悪戯などマイナスの意味で使われることもある。
要は幸も不幸も全て人間の意思を超えた場所で既に決定しており、どの両親から産まれ、どの学校に通い、どの会社に就職し、誰と結婚し、そしていつ死ぬか。
これらは全て決定事項であり、不変のものであるらしい。
俺こと秋月修一はそんな話をぼんやりと聞きながら今週最後の授業が終わるのを待っていた。
「よし、今日はここまで、来週までにしっかり復習してこいよ〜」
切りが良かったのか、先生の号令と共に授業も早めに終わり、皆一様に活気が戻り、教室の中が騒がしくなる。なにせ今日は金曜日だ、どいつもこいつも浮き足立っている。
僕も机に出していただけの教科書とノートをかばんに詰め、ぱっぱと帰りの支度を始めた。
ふと横を見てみると、今頃目が覚めたのか大きな欠伸をしながら隣の席から幼馴染が声をかけてきた。
「修くんおは〜 もう授業おわり?」
「あぁ、とっとと帰るんでじゃあな」
「あ〜ちょっと待ってよ〜 私も一緒に行くから〜」
急いで机の横にかけてあるかばんを抱え、ぱたぱたと僕の後を追っかけてくる。 こいつの名前は朝日 唯。俺と同じ高校2年のクラスメートだ。両親が互いに仲が良かったこともあり、小さい頃からの腐れ縁が今も続いている。
俺が一人暮らしする際に引っ越したため、昔ほど話す機会も無くなってしまったが、今でもこうして普通に会話する程度には関係は続いている。
「それにしてもさっきの国語の授業の中での話、ちょっとおもしろかったよね!」
ようやく眠気から覚めたのか、いつものハイテンションで唐突にそんなことを言い出す唯。
「どうしたんだよ藪から棒に、てかお前寝てたんじゃないのか?」
「ふふ〜ん、私ともなれば寝ながら授業を聞くことも可能なのだよ」
えっへんと無い胸を張りつつドヤ顔をこちらに向けてくる。こいつはこんなんで成績が良いのだから納得がいかない。
「......あぁ、あの運命がどうたらこうたらって話か?」
興味はなかったが、無視しても仕方ないので、帰り道の間、こいつの話に付き合ってやろう。
「そう!特に、もうこの世界で起こることは既に決定していて、私達はそのシナリオ通りに動いているだけなんだっていう話!面白いと思わない?」
目をキラキラさせてこちらに語りかけてくる唯。そしてどう?どう?と言いたげな表情でこちらを見てくる。
つまり俺たちは常に行動の選択を繰り返して自分の未来を決めているように感じている。しかしそれは全くのまやかしで結果は全て既に1つの事象に決まっている、と言いたいのだろうか。
非常にオカルト地味ている見方だな......
「で、それが正しいとするとそのシナリオを書いたのは誰になるんだろうな」
「う〜ん、そうだねぇ......やっぱりカミサマとか?」
神様か......もしそんなのがいたとして、この世の全てのシナリオを作っているというならば、そいつは間違えなく脚本家失格の烙印を押されるだろう。
この世にはあまりに悲劇が多すぎる。幸福の絶対量というものが不幸の絶対量に比べて、あまりにも少なすぎだ。
罪無き人が幾億も無慈悲に死に、悪人に限って天寿を全うする。こんな脚本の舞台を見せられた観客は皆苛立ち、怒り、ブーイングの嵐が巻き起こるだろう。
「非常に非現実的だな」
思わず口に出てしまう。
しかし唯は俺がそう言うと予想通りと思っていたのかクスクスと笑う。
「修くんならそう言うと思ったっ」
「......悪いか」
「ううん、全然。寧ろ運命が決まってたとしてもそれに黙って従うタチの修くんでは無いって思ってるよ」
「......褒め言葉として受け取っとく」
そんなオカルトチックで側から見れば変な目で見られかねない会話をだらだらとしつつ今日もいつもと変わらぬ日常を送る......はずだった。
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俺は唯と別れた後、夕食の買い出しのために近くのスーパーに寄って家路に着いた。一人暮らしということもあり、普段はコンビニ弁当などでテキトーに済ますのだが、明日から休みなので買い溜めついでに久々に自炊でもしようと思った次第だ。
こうして週末ライフをエンジョイする準備を済ませ、俺の牙城であるオンボロアパートに戻って来た。年季はかなり入っているが、一人暮らしには申し分ない。
ミシミシと音をたて階段を登って行くとある異変に気がついた。
「......誰かがいる」
中学生くらいの背丈に長い黒髪、そして何より特徴的な巫女服を現代風にした様な身なりをした子が僕の家の前で突っ立っていた。
......うさんくさい宗教の勧誘か何かだろうか。
折角のエンジョイタイムの出鼻を挫かれ少し気落ちしたが、このままというわけにもいかない。 軽くため息をついた後、仕方ないと思いつつ俺はそのまま足を進め部屋の前まで行く。
相手もこちらに気がついたのか、くるりとこちらを振り向き、その姿に少し驚く。
よく見ると、その子の目は虚ろで、身体中ぼろぼろになっているのに気がついた。そして急に糸が切れたかのように、こちらに倒れこんで来た。
「......っつ!」
とっさに持っていた荷物を放り出しその少女を支える。見た目よりも華奢なその身体は触れただけで壊れてしまうのではないかと感じるほど弱々しかった。
「......お...」
その少女は何かを言おうと唇を震わせながら、こちらを見つめてくる。
「どうした! 何があった!?」
何か事件や事故に巻き込まれたのかもしれない。だとしたら早く警察や救急車に......!
「......お、お腹すいた......」
「......................................」
これが彼女の第一声であり、僕と【運命】との出会いだった。