表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TRUE†LIE  作者: ひつじ
11/11

♰捜索♰

 西鈴警察署 警察庁長官室前

時刻は21時を過ぎようとしていた頃、扉の前で一人立つ男がいた。

彼は扉の前で丹念にネクタイをきゅっと引き締め、スーツのしわを軽く手で伸ばすと丁寧に扉をたたいた。


「櫻井です」


「どうぞ」


 扉の向こうから穏やかな声が返ってくる。櫻井は返事を確かめると、入り口で一礼して扉を閉めた。


「失礼します」


「ああ、急に呼び出してしまってすまなかったね」


「いえ。お話があると伺ったのですが…」


「うん。例の少年少女を君のとこで預かってるって聞いてね」


「は、東雲兄弟のことでしょうか?」


「そうそう。二人はどんな感じ?」


「そうですね…学生ですし、危険のないようにと思って主に情報収集を任せているのですが、弟の方が少しばかり無鉄砲と言いますか…」


 すっかり参っているのが眉間のしわと大きなため息でよくわかる。普段はしっかり者の櫻井が振り回されているというのに、藍田は相変わらずのんきに笑っていた。


「あはは。そういえば、前回の麻薬犯罪組織検挙にも一役買ったそうだね。ずいぶんお手柄じゃないか」


「はあ…それはそうなんですが…」


「まあ、でもそろそろ危険ではあるかもね」


 櫻井のため息に隠れるように、藍田が小さくつぶやいた。櫻井は思わず聞き返す。


「はい?」


「ほら、君も聞いているんじゃないかい?最近学校荒らしやらをしているイタズラ集団のこと」


「はい。ついこの間には東雲の学校でもその学校荒らしがあったそうで……現在、こちらも調査中です」


「へえ…それはまた物騒だね。実は君を呼んだのは他でもないこの件についてなんだけどね」


「? はい」


「君にはその調査を降りてもらう。代わりに、しばらくの間東雲の二人と行動を共にしてもらえないだろうか?」


「……承知いたしました」


「うん、ありがとう。話はそれだけだよ」


「は、それでは失礼いたします」


『どんな小さな変化でもいい。何か気付いたことがあればすぐに私に通してくれ』


 扉を閉め、背中を預けるとふぅっと小さなため息をこぼす。ふと、先ほどの藍田さんの言葉がリフレインする。

わざわざ調査を降りなくても、東雲のお守くらい並行してこなせたが、きっと気を利かせたのだろうと思い、黙ってその厚意を受け止めることにした。


(なんてったって、養子わがこだもんな……)


 東雲兄弟は幼い頃に両親を事件で亡くした。身寄りのなかった二人は児童養護施設に送られる予定だったが、責任を感じたのか当時その事件を担当していた藍田さんが二人を養子として引き取ったようだ。だから、本当は彼らの養育の条件に特殊捜査員である必要はないのだ。しかし、責任感で養子になったことを知ると彼らはきっとここに居場所を感じられなくなる。だからこそ、あえて特殊捜査員という役職を与えている。そんな優しい藍田さんの部下になれた喜びを、櫻井はしみじみと喜びを噛みしめた。













「と、いう矢先にまた君たちは…!!!勝手な行動をするなと前回あれほどっ!!」


「す、すみません…っ!!」


 ベッドの中で腰を起こしていた柚紀はそのあまりの剣幕に思わず肩が跳ね、反射的に反省の言葉をついた。直属の上司であるとはいえ、いつもはいじり倒すほど悪態をつく柚紀も今回ばかりは何の反論もできなかった。

 結局またしてもN.T.の能力にやられてしまったらしい。夜に部屋を訪ねて俺たちがいないことに気づいて探していた櫻井さんが校内で倒れていたところを発見したらしい。情けなさに頭を抱えそうになったとき、ふと歩のことが脳裏をよぎった。


「あ!そうだ、歩は?」


「歩?お前たち以外誰もいなかったが……誰かいたのか?」


「い、いえ俺の思い違いでした」


 どうして歩の姿がなかったかは気になったが、これ以上櫻井さんに追及されるのを避けたくて、真剣なまなざしで心配してくれる櫻井さんから視線を逸らす。


「で。誰にやられたんだ?例の組織に遭遇したのか?」


「い、いえ…ただ…」


「ただ?」


「忘れ物して忍び込んだんですけど寝不足のせいかめまいがしちゃって……」


「二人ともか?」


「ええ、まあ…」


 我ながら苦しい言い訳だと思った。寝不足と言えど二人同時にめまいで倒れるなんて普通あるはずがない。現に櫻井さんも怪訝そうな顔でじっとこちらを疑わし気に見つめている。


「なら、睡眠はしっかりとることだな。情報収集もいいから、しばらく静養してろ」


「……はい」


 俺の心中を察したのか、櫻井さんはそれ以上の追求はしなかった。ただ、冷めたようなその言葉が役立たずだと突き立てるようで伏し目がちに小さく返事をした。


「………ケガとかは、ないんだな?」


「え?あ、はい」


 よかった、という言葉が聞こえてきそうなほど櫻井さんは大きく安どのため息をこぼす。


「ああ、そうだ。静養の間、葉月にはしばらく署の一室を貸しているよ。たまには一人でゆっくり休むといい」


「え、そこまで……いいんすか?」


「まあ今回のように無茶されるよりはお安い御用なものだな。仕事が落ち着いたらまた来る」


「はい、ありがとうございます」


 柚紀は玄関先まで櫻井の背中を見送ると、再びベッドにもぐりこむと早々に寝息を立て始めた。








 長い廊下を歩く櫻井の靴の音が響く。軽快なテンポとは裏腹に、櫻井は悩んでいた。


(なぜ二人は隠すんだ?これも一応報告した方がいいのだろうか…)


 心配はもちろんしている。それは嘘ではない。しかし、本当は二人を引き離したのは他でもない、口裏合わせをして何かを隠そうとしている気がしていたからだ。結局、二人とも曖昧な回答で濁し何も語らなかったが、めまいや体調不良でないことなど現状見れば明らかだ。


(……そういえば例の集団は東雲たちと同い年という噂があったか。変に関わりあってしまっていなければいいが…)

























































目を閉じて寝息を立て、しばらくすると遠くの方でパタ…と静かに玄関を閉めるドアの音が聞こえた。


(行ったか…)


 俺はそっとベッドから身を起こし、玄関まで行き櫻井が去ったことを確認すると一人きりの部屋に鍵をかけてPCを起動する。PCの前の椅子に腰かけると、さっそく検索画面で『警察ネット』と検索をかけた。検索TOPに出てきた『警察ネット』の文字をクリックし、アクセスするとすぐにパッと青を基調としたページが開かれる。

 警察ネットは、警察署内のPCのみアクセスできる情報サイトだ。毎日日々のすべての事件、事故、死亡者、被害者などすべての警察がかかわった案件の詳細な情報が更新される。この情報を介して、俺たちは部署を越えて情報共有と把握を行っている。つい数週間前まではPCの不調によりアクセスできなかったため、全然把握できていない新規の情報ばかりがTOPに並んでいた。前回N.T.について調べるとき、いちいち新聞記事をかき集めて情報収集をしていた苦労を思い出し、少し苦笑いがこぼれる。リズムよく軽いタイピングの音が静かな部屋に響くき、タンッというリズムの後パッと画面に検索結果が表示される。たくさんの情報が表示されるが、どれもN.T.が最近イタズラ事件を起こした件のことばかりで、過去の犯罪歴や詳細のことは何一つ出てこなかった。そこで今度はリン、ユイ、マコトそれぞれの名前で検索もかけてみたが、名前しかわからない検索では途方もない数の結果が表示される。その膨大な量に、思わず頭を抱える。

(ダメだ…これじゃ効率悪すぎ。せめてフルネームとか)

 ろくな情報もつかめていない自分にため息を吐き、とりあえずここ数年のリン、ユイ、マコトがかかわる記事はざっと目を通してみたが、どれもあの三人とは同名の別人のようだ。

 残すは、ロックのかかったトップシークレット情報だけ。この情報はトップの藍田さんしかアクセスできない極秘情報だ。それほど重要な機密にN.T.のことが含まれているとはさすがに思えないが、調べてみる価値はあるだろう。

(でもどうやって…藍田さんはそう会えるわけでもないし…)

 少し考え込んで、俺はあることをひらめき、ページだけ閉じるとすぐにその場所へ向かった。

 警察寮からまっすぐ伸びる渡り廊下を突っ切って、警察棟の地下1F。そこが目指す目的地だ。たくさんのスーツが行き交う廊下を人を縫うように走っているとすれ違った背中に声をかけられ、思わず肩が跳ねる。


「お。東雲!」


「は、はい」


 恐る恐る振り返ると、そこには櫻井さんと同期の橘さんがいた。

(げ…こんなときに声かけられるとは…)

こっちが急ぎたい衝動とは裏腹に、温和な橘さんは目を細めて心配そうにこう言った。


「なんか襲われたらしいな。体、平気なのか?」


「え?ああ、ええ…まあ…」


(頼む…早く行かせてくれ…!)

心配する彼の優しさをよそに、そんな自分勝手を想いながら苦笑い。

そんな様子も気づかない彼は、優しく俺を叱った。


「そっか。一応学生なんだし、あんま無理すんな?櫻井も心配するぞ」


「あ、はい……そう、ですね」


その言葉が、胸に突き刺さる。

直線に続く廊下を走る中、その言葉がずっと繰り返された。

勝手に行動するたびに、葉月も危ない目に合わせて、櫻井さんにも迷惑をかけている。

そんなこと、わかっていた。

それでも、彼らのことを知らなくてはいけないという衝動が考えもなしに身体だけを走らせる。やがて警察寮に入り、一番奥の階段から薄暗い地下へと駆け降りる。地下に降りた途端、埃と黴臭さが鼻につく。

(さすが、もう使われていないだけはあるな…)

階段を下りてすぐ左手には古びたドアがある。





資料室だ。






 今はすべてのデータがデータベース化されてしまったため、以前まで使われていた資料室はすっかり使われなくなった。老朽化も激しく危険なため近々撤去される予定で、すでに立ち入り禁止になっている。

 使われなくなったとはいえ、一応ドアとその上に鎖と錠も二重にかけてあったが、そのくらい、警察ネットのセキュリティに比べれば可愛いもんだ。俺はあらかじめ持参した針金を鍵穴に突っ込み、手の勘を頼りにガチャガチャと動かせば、錠は容易く解かれた。

 もしピッキングまでして立ち入ったことが知れれば、間違いなく櫻井さんが何かしら言われるだろう。しかし、もしネットでアクセスできなかった情報が閲覧できる可能性があるとすればもうここしかない。


(ごめん…櫻井さん………………でも)


散々心配をかけているのは理解している。それでも、俺の中を強く占めたのはやつらのことを知りたいという本能に近い欲だった。奴らを知り、理解することが三人を止める解決策だと思った。


なぜ、警察をそこまで憎むのか。


あれほど悲しい目をするあの三人に何があったのか。



きっと、知らなきゃ、見えてこない。








湧き上がる罪悪感をかき消すように、俺は古びたドアノブを引いた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ