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紫陽花  作者: 芙蓉桜華
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ある日のこと

最近、私は変だ。



空はこの梅雨時には珍しく晴れていて、気分も自然とすがすがしい。陽光が水滴に包まれた、紫陽花に反射してまぶしい。そんな通学路を、桃愛は草也と並び、のんびりと歩いていた。

「桃愛は昨日の課題出来たのか?」

「ええ、できたわ」

(とび)色の瞳がこちらをちらりと見てそう言う。陽光にほんのり透けた、男子にしては柔らかそうな黒髪が、動きに合わせて線の細い頬を滑る。それだけで、心臓が脈を打つ。幼馴染の私だから、草矢(そうや)の長い前髪に隠れた、綺麗な顔を知っている。幼馴染びいきをひいても、最近またかっこよくなった気がするのも、気のせいではないだろう。

「全部出来たのか? 実は一問目が良く分からなくてさ……」

「それは……」

「二人ともーー!」

答えようとしたところで、元気な声が後ろから駆けてくる。声の主は桃愛の双子の妹、青だ。淡くカーブする短髪に、活発そうな光を放つ瞳。そのどちらも鮮やかな青で、軽やかな雰囲気の青と桃愛を初見で双子と気づく人は少ない。

桃愛が起こしてはいるのだが、青は朝に弱いので、いつもこうして合流してくる。桃愛と違って運動が得意なので、起きるのは遅いのに遅刻したことは一度もない。それを桃愛は少しうらやましいと思う。

「おはよーー!」

「おはよう、青」

私は笑顔で、追いついた彼女に挨拶を返す。

「……」

スタスタと、草矢は無視して歩くペースをあげる。いつもの事だ。

「ちょっ!無視ですかっ!」

笑いながら青が後を追う。

「草矢、そんなに急がなくても遅刻しないよ」

私も笑いながら追う。最近の私はやっぱりおかしい……。青が来ると決まって草矢の顔が赤くなること、それから早歩きになること。それがなぜだか少し嫌になる。

「無視しないでよ、草矢~!」

そう言って、青が隣に並ぶ。

「……遅刻したくないから」

「むぅ……何それっ!私が来たら遅刻フラグって事?」

少し膨れてそう返す。いつもの事だ。いつも通り、私と並んで歩く時より嬉しそうな草矢を見ながら、2人の後ろからついていく。ちょっとだけ(うつむ)いてしまうけれど……。



「「「おはようございます!」」」

教室に響く朝の挨拶の声。白を基調として、赤、青、緑、黄色の4色で、花畑で(たわむ)れる精霊たちが描かれた壁画のような結界の壁、1階なのに青空が広がるガラスの天井……。そんな不思議な教室で桃愛たちは授業を受けている。

「今日は応用の防御呪文を教えますね。その前に基本の復習を……」

緑のベレー帽を被った私たちの担任、フィリセ先生の言葉と視線が、一点を(にら)みつつとまる。毎朝のことだが、その視線の先は私の隣で眠る青に向けられている。

「お、起きて、青~」

小さな声で揺すりながら起こすも、起きる気配はない。

「んん……。カップケーキの山だあ……」

その寝言は教壇に立つフィリセ先生まで聞こえてしまい、先生は笑顔で指の先を青へと向ける。時間切れを悟った私は、簡易的な防御呪文を小さく呟き、青へかける。

「ダーガンサード」

ビシッ!その1秒後、先生の指から放たれた野球ボールほどの紫電が青の額に当たる。防御呪文なしにそんなものを食らえば、後ろの席の人を巻き込んで吹っ飛んでいたことだろう。

「うにゃあっ! 敵襲(てきしゅう)っ!?」

猫のように叫んで青が飛び起きる。

「そうですねえ……。先生にとっての敵ならいますよ」

にっこり、笑顔でそう言う先生の目はもちろん笑っていない。

「あ…ええとぉ……」

射抜かれた青は冷や汗と共に後ずさる。

「さすがに毎日こうだと先生、いつか手加減なしで青さんに雷当てそうなので……。いい加減起きていてもらえませんか?」

「は、はひっ」

……先生、もうすでに手加減できてないです。

心の中で突っ込みつつ草矢の方を見れば、机に突っ伏して笑いを噛み堪えていた。この先生の魔法圧は結構怖い。草矢の席が遠いのが羨ましい……。

「青、今日の放課後職員室に来い。では授業を再開する」

絶望的な顔の青。自業自得ではあるが、ちょっと可哀想だし後で手伝ってあげよう。


授業も終わり、放課後。いつもなら図書室に行くところだが、今日は自習室。お昼休みの間に借りてきた本を読みつつ、青の監視中である。

「反省文とか……今日中に終わらせられないよ~!」

今は六月も半ば。入学から今日まで、学校の授業を実技以外寝続けた結果こうなったわけで……。教師陣もよく我慢できたと思う。

「まあまあ、早く終わらせて帰ろう?」

「うー……」

本人はこのやる気のなさである。

「青、ちゃんとれよ」

ガラリ、反省室の戸が開いて草矢が入ってくる。男子にしては細身だが、緑の瞳と落ち着いた雰囲気が知的さを醸し出している。実際、草矢は学年で2位なので、頭はいい。。

「や、やってるよ」

慌てて青は反省文を書き始めるが……。

「さっきの廊下まで聞こえてたぞ」

教室の壁に寄りかかり、手に持っていた難しそうな本に目を落としながら言い放つ。

「ぐっ……。そ、そんなことより何で来たのよ」

「桃愛だけに任せるのは可哀想だと思ってな」

「うぅ……。別にいいよ、先に帰ってて」

「そうだよ草矢。私なら大丈夫だから」

「嘘だな。お前、読んでる本の新刊、楽しみにしてただろ」

「え? 何で知ってるの?」

いつも新刊の情報を司書さんが教えてくれるのだが、魔通(まつう)を通じてなので、校内で確認したことはない。魔通は少ない魔力で確実に届けたい人へ届くので重宝されているが、一度開いてしまうと5分程しか持続しないのである。それと文字が空に浮かぶため、文面が丸見えになってしまうのだ。

「だってお前が教えてくれたシリーズの新刊だろ、ほら」

「へ?」

『特別に』と司書さんの字で書かれた紙とともに本を渡される。

「頼まれたんだよ。借りていいってよ」

「あ、ありがとうっ!」

放課後に入荷するため、諦めた本。嬉しくて、早速開く……。


そこで、私の運命は変わった。

掲載し直し、修正版。再スタートといきませう♪

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