始まりの街ソフ‐3
「はいはい、おみゃーさんら落ち着くのナー。」
「こいつらはワシら、“獣王の道”のコジロウタとおコマが預かるきに。おんしらは散開じゃ散開。」
狐の兄ちゃんが言った途端、周囲がざわめいた。「“獣王の道”!?」「どうしてここに?」「なんでアイツらが…。」「アイツら『獣人』じゃないのになんで?」って言うとるけど…兄ちゃんら有名人か?それに『獣人』がなんか関係しとるん?
「はいはい、キミもこっち来るのナー。」
「お、おう…わかた。」
猫の姉ちゃんらに連れられ、ワシらは訓練所を後にした。
*****
「先程はありがとうございました。」
「おおきにでした。」
「気にすること無いのナー。おみゃーさんら、災難だったのナー。」
街の外れた通りにある一角、そこでワイらは茶を飲んでた。
ちゅーのも、ねぇちゃんがさっきのお礼したいと言ったからや。言葉だけでは足りない言うねぇちゃんに、2人が「じゃあ飲みもん奢ってくれ」って言うたからやな。案内されたのは小綺麗なカフェで、ちょっと古風な所がええ味出しとる。男一人なら入れへんレベルのおしゃれ空間や。
「いやはにゃー、新団員確保の為に行った訓練所にゃったけど…。いいもん観させてもらったのナー。」
そう言うんは猫の姉ちゃん…もとい猫科獣人の猫種、コマさんや。
「がはは!しょうまっことええ試合じゃった!!」
そう豪快に笑うんは狐の兄ちゃん…犬科獣人の狐種のレア、九尾種のコジロウタっちゅー兄ちゃんや。ちなみに土佐の出身らしい。発音的にK県あたりやな。
この2人はβテスターで、【獣王の道】っちゅー有名な『ギルド』に所属しとるトッププレイヤーの人達らしいんよ。さっき場を治められたのも、その知名度故の発言権の強さからやな。
「お待たせしましたー。アイスコーヒーとアイスティーとオンジのジュースとサロゲのジュースです。」
お、飲みもん来たな。
アイスコーヒーはねぇちゃんでアイスティーがコマさん。“オンジ”っちゅーのはこっちのオレンジみたいな柑橘類の果物らしい。これはワイや。
“サロゲ”はコジロウタの兄ちゃんが頼んだジュースなんやけど…
「コジロウタの兄ちゃん…ソレ、何?」
「なにって…サロゲのジュースじゃが?」
兄ちゃんが頼んだジュース…見るからに色がおかしい。シソジュースみたいな色なのに虹色の泡がボゴボゴ発生しとる。…それ、美味いんか?
「おお!美味い!!」
「一応言っておくけどにゃ、こいつ酷い味覚音痴なのナ。わたしも1度飲んだことあるけど…ドク○にコーヒーと黒麦酒ぶっ混んだようにゃ味だったのナ。」
うわ、マズソ。
誰や、そんなゲテモノ思い付いた奴。てか、大丈夫なん?ソレを美味い言うて飲んどる兄ちゃんの味覚…。ワイのは大丈夫やろか?
試しに一口。…お!美味い!このオンジっちゅーの、確かにオレンジによう似た味やけど、風味が全然ちゃう!もっとこう、匂いがミントみたいに鼻をすっと通るし、味も甘味と苦味のバランスがええ!酸味もあんま強うないからゴクゴク飲める!口の中が痛くならへん!!これは美味いわぁ!!
「それで…先程のあれはなんだったんですか?」
飲みもん飲んで暫く経った時やった。ねぇちゃんがおもむろに口を開いた。…さっき?さっきってなんかあったか?あ、そこのおねーさーん。オンジのジュースお代わりー。
「あれにゃー。あれはしいて原因を言うなら…“サポートシステム”が悪かったのナー。」
「“サポートシステム”が?ソレはどういうことですか?」
「にゃーは《棒》や《槍》を取っていないから分からにゃいのにゃが…。初期スキルで取ったにゃつら曰く、チュートリアルの戦闘説明がお粗末過ぎるらしいのナ。《槍》は突くばかりでソレ以外の説明がにゃく、《棒》も叩け以外の指示がにゃいらしいのナ。そんなお粗末にゃチュートリアルしか受けてにゃいから、棒系の奴等、特に攻撃力の低い《棒》を取った人達は初心者用の平原でも死に戻りににゃるのが後をたたないのナ。さっきの訓練所でも槍や棒持ちの子が多かったのは覚えているのナ?」
あ、さっさのって訓練所の事か。
…そー言われれば、確かに。よう扱いが難しい云われる弓よりも槍や棒持った姉ちゃん兄ちゃんが多かったな。
「(じゅー…ゴクン)そう言われれば確かに。棒や槍持った人多かったな。ねぇちゃん、そないにお粗末やったの?」
「…ふむ、確かに。私は元々慣れていたからさっさと終わらせてしまったが…かなり簡素な戦闘訓練だったな。」
「そうなのナ。そのせいで今、βテスターはともかく事前情報を観なかった槍や棒使いが訓練所に集まっているのナ。訓練所にはNPCの教官がいるのにゃけど人が多すぎて全員が受けられていないのナ。そんな中、キミらがPvPをしているのを見て…」
「……成る程、それででしたか…。」
ようやく納得した。『肉体が強い種族』が『攻撃力の低い棒使い』に負けたんがあん人等には衝撃的だったと。そう言う事か。あの試合、ねぇちゃん多彩な動きでワイの矢かわしとったからな…。攻撃パターンも叩くだけやなく、薙ぎや振り上げやら色々使っとったからな…。
あん人等、ねぇちゃんに棒術を教えて貰いたかったんやな。ねぇちゃんの腕は確かやからな~。事実、ねぇちゃんにも棒術のお師匠さんがおるんやけど、数年前にそん人から免許皆伝を頂いとる。
やけど、ソレがねぇちゃんを困らせてええ理由にはならんで。
「しかも、どうやら動画撮られとったみたいじゃ。おんしらの戦っちゅう樣があげられちょるき。URは×××…じゃ。」
コジロウタの兄ちゃんが顔をしかめた。…兄ちゃん、さっきっから話さへん思っとったら調べものしてたんやな。
兄ちゃんに言われた通り、URを検索してみると確かにワイとねぇちゃんのPvPが上げられとった。題名も『棒持ちの期待の新人!』で、再生回数がスゴい事なっとる。コメント欄には『棒術の期待の星』『棒術王子現る!!』『イケメン爆発しろ!!』等と書いてあった。…おい、おい。ねぇちゃんは女や。男やあらへん。王子って書くな。
「な!?」
「わ~、スゴい再生回数やな。」
「掲示板でもおんしの事でお祭り騒ぎじゃ。今はワシの《光魔法》でここらを隠しちょるが…」
「そっちのドワーフの子は兎も角、キミは間違いなく注目の的になるのナ。PTやギルドの勧誘祭り…嵐になるのナ。元々何処かに入りたいという気があるなら兎も角、ソロをやりたいとなると難しくにゃるのナ。」
はぁ~と3人息を吐く。ワイはジュースを飲み込む。これが有名税か…。ねぇちゃんと組んでやりたかったけど、一気に難しくなってもうた…。てか、今誰にも見つかっとらんの兄ちゃんのお蔭やったんやな…。いつの間にやったんかは分からんけど、おおきに。ほんまお世話になります。…あ!
「そや!コマの姉ちゃんら有名なギルドなんやろ!!だったらワイらそこ「ダメなのナ。“獣王の道”は『獣人限定』。他種族お断りのギルドなのナ。」…さよか。」
入れて言う前に断られた。あぁ、“獣王の道”って名前だけあるな…。そうか、さっき誰かが口走っとった「獣人じゃないのに!?」ってそないな意味やったんやな…。
「とは言え…ここではいサヨナラはないのナ。ここで別れたらにゃーの名が廃るのナ。という訳ではい、コレ。」
そう言ってコマさんがナニカを取り出した。なんや?コレ?耳飾りみたいやけど?
「これは…、なんですか?」
「コレは【潜入者の耳飾り】と言うアクセサリーなのナ。効果は《変装》で、他者に自分を偽ることが出来るアイテムなのナ。にゃーは《細工》持ちなのにゃけど、ソレはβの時に色々作ってたら出来たアイテムなのナ。にゃーには必要ないからプレゼントするのナ。」
「「えぇ!いい(のですか/んか)!?」」
姉ちゃん《細工》持ちなん!?やなくて、ええの!?確かに今のワイらに必要なモンやけど、コレ高いんちゃう?ほんまに貰うてええの!?
「気にすること無いのナ。困ったらお互い様なのナ。先輩が後輩を助けるのは当然なのナ。」
「し、しかし、コレ以上の恩を受けるわけには…。」
「じゃったら、先行投資と思えばええ。おんしはワシの見た中で一番の棒使い、へちの坊主も中々の弓捌きじゃった。もしこの先のどっかでワシらが困ってたらお助けとうせ。」
「しかし…「ねぇちゃん、それでええんちゃう?」なっ!?お前まで!!」
いいやないか、ねぇちゃん。それだけ兄ちゃん等がワイらに期待しとるっちゅー事やろ?こんなエエもん貰たんや。早う強なって恩返したろ?この兄ちゃん等が「ワシらの目に狂いなかた。」言わせるくらい強なってやろ?目標あった方が、ワイもねぇちゃんも頑張れるやろ。
「…そう、だな。うん。コマ殿、コジロウタ殿、有り難く頂戴します。」
「んにゃー。」
「そがら固くなる事は無い。ワシらの事は呼び捨てで呼んでええの。」
「ワイは一番年下そうやから兄ちゃん姉ちゃん呼ばせてもらうでー。あ、兄ちゃんらフレンド登録はええか?さっき言った万が一の時、連絡着かんかったら意味無いからな。あ、そこのおねーちゃん。ジュースおかわりー。」
「了解なのナ。…あ、そうにゃ。ついでに虎種の獣人で杖と刀を持った男女の二人組を見つけたら連絡してほしいのナ。年は弟君と同じくらいなのナ。そいつら、うちのギルドマスター達にゃんだけど、仕事サボってふらついているのにゃ。捕まえに行くから連絡くださいなのナ。」
「わかりました。見つけしだい、すぐに連絡いたしますね。」
こうして、ワイらは兄ちゃん等とフレンド登録して別れた。…余談やけど、会計の時にワイがジュースお代わりしてたのがバレてねぇちゃんに拳骨貰た。…チェ。たった3杯やないか。ちゃんと自分の金で払うたからええやんか。ブーー。
ゲームはマナーとルールを守って、楽しく遊びましょう。
コジロウタの土佐弁は某変換サイトを使わせてもらってます。主人公にも使えばいいじゃないかとかは言わないでください。
にしても、主人公より主人公してるねぇちゃんえぇ…(;´_ゝ`)