始まりの街ソフ‐2
戦闘描写って難しい
「…ええでねぇちゃん。承けたるわ。」
「そうこなくては。」
ワイも笑い返し、Yesを選択。
広場の真ん中に移動し、ねぇちゃんと対峙する。
『3』
自動のカウントダウンが始まる。
足場を踏みしめるように立ち、ねぇちゃんを見据えた。目線が交じりあう。
『2』
背中の弓を下ろし、構えた。ねぇちゃんも棒を構え直し、ゆるりと立つ
『1』
張り詰めた空気。ピリピリした闘気。心地ええなぁ…。ワイを映した空色が嬉々と煌めく。
『0』
ビーッと電子音が鳴る。
戦いが始まった。
******
「まずは一撃…先手は貰うでねぇちゃん!!」
ワイは即座に矢を放つ。
弓は先手必勝や。他の武器と違うて、“弓”っちゅー武器は“矢”があってこその武器や。矢を使わんと攻撃出来へん。そして矢は消耗品や。この世界では1度使うたら暫くは刺さりっぱなしやけど、一定時間が経てば消えるようになっとる。そして回収も出来へんようになっとる。時間が経てば経つほど不利になってく。それがこの世界の弓っちゅー武器や。
やからこそ…弓使いは短期決戦上等や!!
鋭く風を切る矢。
狙いはねぇちゃんの右太もも。軌道は良し。あと少しで刺さるという刹那…
「そう簡単に取らせる訳無かろう!!」
右に避け、そのままこちらに走ってくるねぇちゃん。…まぁ、当たり前か。そう簡単にいくとは始めから思うてへん。
「そないな事…知っとるに決まっとるやろ!!」
ワイは弓を鳴らし続ける。ワイは『ドワーフ』や。普通の弓使いと違うて、スピードは初めから捨てとるからなぁ。どれくらい遅いかはさっきのチュートリアルで色々試した。『ヒューマー』のねぇちゃんより遅いのは元から知っとる。
やから近づかせん為に、ひたすら弓を鳴らし続けた。
「当たらなければ意味が無いぞ!!」
右に左に、時には跳んで、ねぇちゃんは矢を避け続ける。そうしてねぇちゃんはドンドン近づいてくる。あぁ、ねぇちゃんと闘う事になるなら、他にも攻撃用のスキル取っといた方がよかったな…。今後の課題やな。
「だったら…当たってくれやねぇちゃん!!〈ショット〉」
向こうて来るねぇちゃんめがけ、ワイは〈ショット〉を放つ。今までの中で一番速くて重い一撃…ほんまええ加減…当たれやねぇちゃん!!
「ほう…これが…〈スイング〉!!」
ねぇちゃんは避けようとせず、上から棒を振るい叩き落とそうとしてきた!!若干ワイのと同じように光を纏っとるあたり…あれが棒の技か!?
ワイの矢とねぇちゃんの棒。
光を纏うお互いの一撃。その結果は…
ガギンッ!!
「ム!?」
ねぇちゃんの棒はワイの矢に弾かれた!弾かれたねぇちゃんの棒は右に跳ね、矢はねぇちゃんの脇腹を掠める。〈スイング〉当たった事で若干威力は落ちたみたいやけど、ねぇちゃんに一撃与えた事には変わりない。よっしゃ!!初ヒットや!!
「ほう…これがお前の一撃か…。中々痛いな。」
ねぇちゃんが顔をしかめる。どうやら予想よりHP削ったみたいやな。どうやねぇちゃん!ワイかて、やる時はやるんやで!!
「だが、これ以上はいかせないぞ!!」
「いいや、勝ち逃げさせてもらうで!!」
向こうて来るねぇちゃんに連続で矢を放つ。今回のPvPは“HP優先”。最後にHPが多い方が勝つ形式や。つまり、このままねぇちゃん近づかせなワイが勝つ!残り時間はあと少し。勝たせてもらうでねぇちゃん!!
「そうはいかせるかぁぁぁぁあああ!!」
ねぇちゃんは矢を気にせず、走ってくる。棒を突撃槍のように構え、そして
飛んだ。
「…は?」
しいて言うなら、棒高跳びや。
ねぇちゃんは棒を突き立て、勢いのまま跳び、宙を舞う。
呆気に取られるワイ。
ねぇちゃんはそのままクルクルっと回って…
「チェストォォオ!!」
「ハ!?しまっ…どぐほぉっ!?」
ドゴォ
〔Critical!!〕
ねぇちゃんの見事な踵落とし。防御すら忘れとったワイの頭にクリーンヒットする。いっ…痛ったぁ!!目が、目が飛び出るか思うたで!!てか飛ぶとかありか!ねぇちゃん!?…てかアカン!!もうここ、ねぇちゃんの間合いやないか!!はよ放れな…
「さすと思うか?」
ガシッと矢を持ったワイの手を掴むねぇちゃん。…あれ?おかしいな?確か戦闘中って人の体に直接接触出来へんようになっとる筈なんやけど…?
さっきの一撃といい今といい…まさか、
「ねぇちゃん…《蹴り》と《掴む》持ち?」
《蹴り》っちゅーのは《補助スキル》に分類されとるスキルの1つや。効果はそのまま、モノを蹴る事が出来る。蹴る対象は物だけでなく、人も入っとる。攻撃判定がある補助スキルや。
で、《掴む》も《補助スキル》の1つや。効果は《蹴り》同様、文字そのままにモノを掴むスキル。これだけや。武器をしっかり握る為のスキルやと思うてたけど…これ、人も触れるんやな…。
「ご め い と う だ !当てたご褒美だ…《スイング》!!」
「げぼぉぉ!!」
ニヤリと笑うねぇちゃん、反対の手に持った棒を振り落とす。
再びワイの頭に決まる攻撃。〔Critical!!〕と聴こえた気がする。当てられた勢いで落ちる頭。が、ガシッと頭を掴まれたと思ったら顎に蹴りが入れられる。頭がグラグラ、目がグルグルと廻る。目の端に〔気絶〕の文字。そして再び頭に重い一撃。〔Critical!!〕の声が再び響く。ホロホロ崩れる視界。
真っ暗になった視界の中で、
『Win 『プテラノドン』!!Lost 『パキケファロ』!!』
の文字が見えた。
*****
「酷いでねぇちゃん!!なにも頭ばっか狙う必要ないやろ!!」
いつの間にか広場の端に移動してた。
広場のど真ん中に立つねぇちゃんに詰め寄り、文句を言う。ねぇちゃん、軽くって言ったのに本気やったやろ!!最後、目が本気になってたで!!
「はっはっはぁ!!いや、すまんなぁ。つい楽しくなり、熱くなってしまった。許せ!それに今後の課題も分かったし、収穫はあったであろう?」
ん?とねぇちゃんがウインクして聞いてくる。これやからイケ女は…やなくて、確かにねぇちゃんの言う通りや。今のワイに、弓以外の攻撃手段は無い。さっきみたいに懐入られたら成す術無くやられてまう。ねぇちゃんみたいに《蹴り》かなんか取っといた方がええかな…。
てか、それ“戦闘職”としての課題やろ。さっきワイ、“生産職”になる言うたやろ!!何戦闘メインにして話しとるねん!!ワイ、生産職!生産メイン!!
「…む?そうだったか?」
「惚けるなねぇちゃん!!」
ハッハッハと笑うねぇちゃんをポカスカ殴る。システムに邪魔されて殴れてへんけど、こういうんは気分の問題や!!ムキーッ!ムキーッ!!
「あ、あの!すみません!!」
突撃声がかけられた。
振り向くとそこには、ワイよりも幼そうなヒューマーの兄ちゃんがおった。…えっと、誰や兄ちゃん?ワイらになんか用か?
「えっと、あの、僕もPvPしてください!!」
「む?私とか?」
そういって兄ちゃんがねぇちゃんに頭を下げた。
どうやら、兄ちゃんのお目当てはねぇちゃんのようや。兄ちゃんの手に槍がある事から察するに…ねぇちゃんに稽古つけて貰いたいんとちゃう?
「別にいいが…それでよろしいか?少年?」
「え、あ、はい!!よろしくお願いいたします!!」
顔をパアァと赤らせる兄ちゃん。顔文字にするとこんな( 〃▽〃)や。…にしてもねぇちゃん、少年って…。たぶんその兄ちゃん、ワイと同じか1つ下くらいやないか?…流石に15越えとる男に少年って、ねぇちゃんもまだ十代やないか。なにかっこつけとるん?
そんな場違いな事思いながらも、兄ちゃんとねぇちゃんの話は進んでく。そして、ねぇちゃんがPvPを了承しようとしたその時…
「ま、まって!!だったら私が先よ!!!!」
「?…なっ!?」
「だれ…うおっ!?」
声が聴こえた方を見ると一人の女の子が。やけど、問題はそこや無い。周りにいるギャラリーの数や。いつの間にか広場の周りに仰山の人の山が出来とる!
そして、女の子を皮切りに出るわ出るわ…ねぇちゃんにPvPを申し込む人の群れ。
「私とも!」
「いや、俺と戦ってくれ!!」
次々に群れてくる人、人、人…。その人達が手に持つは槍や棒が大半や。コイツら…さっきの戦いを見て、ねぇちゃんに指示を仰ぎたいんやな。
…ワイ?ワイなら今、人の山に弾き飛ばされて、さっきねぇちゃんにPvP申し込んどった兄ちゃん(一緒に弾き飛ばされた)と広場の隅で体育座りしとるで。(さっきの考察は兄ちゃん談)
にしてもコイツら…マナーなっとらんなぁ。ねぇちゃんが困っとるやないか。お前ら…ええかg「お前ら、いい加減にするにゃー!!」「マナー違反はいかんのじゃき!!」今度は誰や!?
ねぇちゃんとギャラリー連中の間に、茶髪の猫のちびっこい姉ちゃんとオレンジ色の耳した狐の兄ちゃんが立つ。
ええと…どちら様?
( プ・`ω・)「む?『大事な弟相手なのに攻撃がえげつなさ過ぎないか?』だと?ハッハッハ!!そう思うのも仕方ないだろうな。なぜなら…私自身やり過ぎだと思っているからだ!!だが、私は愛しい弟だからこそ一切の手加減はせん!!むしろ徹底的にヤる!!そう誓っているのだ!」