シロイヘヤ‐1
とうとう始まります。
その日の夕食中の事やった。
『それでは次のニュースにまいります…緊急速報です。今話題のVRMMO『New Myth Online』の生みの親にして世界最高峰のプログラマー、兼脳科学の世界的権威である“平野 幸蔵”氏(53歳)が、先程緊急性心筋梗塞で亡くなられた事が判りました!』
「…ん?」
お味噌汁を飲んでた時、『New Myth Online』の言葉が耳に入り、音源であるTVに目を向ける。
そこでは、少し目元がキツイ中年のおっちゃんの姿が流れており、下には『平野 幸蔵氏(53歳)、その早すぎる死!!』の文字がデカデカと書かれとった。
ニュースの内容はこのおっちゃんの死であり、今後の各業界…特に『New Myth Online』が今後どうなっていくかについてやった。どうもこのおっちゃん、新神話の中心人物やったらしい。今はおっちゃんの同僚やったっていう額の眩しいおっさんが映されとる。
『こんなにはやく…。なんで彼なんだ、死ぬには早すぎる。』『どうして彼が…』『素晴らしい人…でした…。』
次々に映されるおっちゃんの関係者やっちゅー人達。今後どうなっていくのかは分からんが、とりあえず新神話については残った他の開発班の人達が力を合わせてやっていく言うてた。
『平野氏の、ご冥福をお祈りします。』
ニュースアナウンサーのお姉さんが頭を下げた。ワイも手を合わせ、目を瞑って冥福を祈る。
おっちゃん、新神話作ってくれておおきに…。天国で安らかにお眠り下さい。
次に目を開けた時、ニュースは別の話題になっとった。
その時、ワイは知らんかった。この人の死が、始まりになっていたなんて…。
~一週間後~
「よっしゃー!きたでーー!!」
New Myth Onlineの開始時刻。
ワイは即座に機器を装着し、ログインした。
『ようこそ、New Myth Onlineへ。Player『パキケファロ』様でよろしいでしょうか?Yes/No』
この前の真っ白い部屋で無機質な声が響く。ああ早よう、早よう!プレイしたい!!
「Yesや!」
『了解しました。初期装備をお渡しします。』
すると、何処からかポーンという音と共に、なんかごちゃごちゃ入った箱が目の前に現れる。
『初期装備、【初心者の防具】【初心者の弓】【初心者の矢×100】【冒険ポーチ】【初心者用ポーション×3】【携帯食糧×5】【初心者用木工セット】【初心者用料理セット】それと1000Gをお渡ししました。』
「お、おお!?」
いきなり豪勢やな!?
防具とか武器とか消耗品は兎も角、いきなり木工セットや料理セットやらの生産キッド貰えるたぁ思わんかったわ!!…っあ!?コレならいきなり《鍛治》取ってても大丈夫やったんちゃう!?うわー損したわー…。
『装備を着けてください。』
「お、おう。わかりました。」
声に急かされ装備を着けてみる。…あ、さっき服渡されないな思ったけど、ワイもう服も靴も装備した姿やったんやな。
防具は胸当てと肘と膝を守るサポーターみたいなやつやった。防具をつけ終わったワイはポーチを装着。中にお金と携帯食糧とポーション…って、
「すまん、ええと…。声の人、あんたなんてよべばええ?」
『私…ですか?そうですね…ナビゲーターなのでナビとお呼び下さい。』
「そか、わかったで。…で、ナビさん。コレ、ポーションとか入るの?口の大きさが合わんのやけど…。特に料理セットとか木工セット。」
『問題ありません。数量に限りは在りますが、生き物以外全て入ります。口に近づければ入ります。』
「そか。おおきに。」
意外と人間的な反応できるんやな。そう思いながらもナビさんの言葉を信じポーションをポーチの口に持っていく。お、するんと入った。
ポーションの後、木工・料理セットもするんと入った。おもろいなコレ。プレーヤーでも作れるんかな?作れるんならワイも作ってみたいな…。後で調べよ。
ポーチにモノを仕舞い、弓を背負い、あとは矢筒を装備するだけ…なんやけど…。
「あー…重ね重ねすんませんナビさん。コレ、腰に着けるタイプあらへん?」
入っとった矢筒は背中で背負う斜めタイプのモノでした。ワイ、弓はええんやけど、矢筒は腰に着ける方が楽なんよな…。
『腰に…ですか?…矢筒をポーチのベルトで通して固定するタイプにしますか?Yes/No』
「そんなんあるの!!有るなら是非!それにしたいわ!!」
言ってみるもんやな!すぐに肩掛けタイプが消え、代わりに腰に着けるタイプのが出てきた。ベルトに通すと斜めになるよう設計されとるあたり、ほんま親切やなぁ。
「色々注文言ってすまんなぁ。…よし、着けたでー。」
『いえいえ、快適なプレイをして頂く為ですので…了解しました。チュートリアルを行いますか?Yes/No』
礼を言うと丁寧な返事を返された。…すごいな。wikiやとAIがナビゲーターやっとる書いてあったけど、ほんまは人が対応しとるんちゃうか?すごい人間的やでこのナビさん。
にしてもチュートリアル。チュートリアルかぁ…。ワイVRMMO初めてやし、やった方がええやろな…。ねぇちゃんと待ち合わせしとるけど、たぶんねぇちゃんもチュートリアル受けるやろし…大丈夫やろ。
「受ける。Yesや。」
『了解しました。フィールド:訓練場に変わります。』
次の瞬間、バタンっと部屋を覆う壁が後ろ向きに倒れ、開放的な運動場みたいな所に変化した。
お、おお…。なんや、すごいな…。
『まずは弓の訓練をします。表示に従い、案山子に向かって構えてください。』
目の前に弓の構え方が表示される。その後ろ少し先に(へのへのもへじ)と描かれた案山子がヒョコンと現れた。とりあえず、アレに向かって構えばええんやな。
ワイは肩幅に足を開き、弓を握り、弦に矢を引っ掛ける。
『そのまま射って下さい。』
「わぁーった。」
(どうせやし首狙たろ…疾!)
心の中で掛け声をひとつ。放たれた矢はワイの狙いより少し上、案山子の頭に向かい、突き刺さる。
『素晴らしいです!威力はモチロン、見事に頭を捕らえました。』
「まぁな。…ほんまは頭やのうて首狙ったんやけどな…。現実でやっとった分、少しは慣れてるつもりや。」
実はワイ氏、弓には慣れてたりする。っつっても、学校の部活にある弓道とかでなくて、うちの裏山に住む獣達からうちの畑を守る為に近所のじいさんから教わった実戦でも使えるようなサバイバルに特化したもんや。コレで数えきれん程害獣共を追い払ったで!!ま、使える言うても実際には矢尻の無い矢を足元ギリギリや目の前スレスレに当てて驚かしただけやけど。捕獲や討伐は猟師法が…鳥獣保護法が…。
だから当てたんは今日が初めて。ちゃんと出来てよかったわぁ…。
『そうでしたか。では、次は技の説明にまいります。よろしいでしょうか?Yes/No』
「あぁ。頼むで。Yesや。」
『了解しました。では、あちらの案山子に向かい、構えてください。』
新たな案山子が出現。…さっき外してもうたから、今度はいつものやり方で構えたろ。
さっきと同じように足を肩幅。そして、若干左向けに顔を傾ける。ワイは右利きの利き目も右なんで、これが一等安定するやり方や。
『まずは《弓》の一つ目の技、〈ショット〉を行います。矢を放つ前に〈ショット〉と唱えて下さい。』
「わかったで。…〈ショット〉!」
(今度こそ…疾!)
放たれた矢は僅かな光を纏い、先程よりも鋭く風を裂く。今度は外れず案山子の首に吸い込まれる矢。そして……
ボッ!!
〔Critical!!〕
真っ二つになった後……案山子がぶっ飛んだ。頭もやけど体の方もぶっ飛んだ。案山子の立っとった場所には〔Critical!!〕と書かれた赤い文字が浮かんどる。
「……なぁ、この技、威力高過ぎへん?」
案山子ぶっ飛んだぞ。
『……申し訳ありません。ですが、正常です。この〈ショット〉という技は〈MP3を消費してSTGの10%を威力に上乗せする〉という技なのですが…パキケファロ様の場合、ATK15(+1)に弓のATK+5で21。そこに〈ショット〉の効果で+2。更に首は弱点なのでクリティカル効果で威力1.5倍になり、1以下の端数は四捨五入で合計35。案山子の耐久値が25。案山子のDEF4を差し引いても31でしたので、耐久値の125%を超える攻撃だったため耐えきれず、吹き飛んだようです…。』
「そ、そうか…。耐久値の125%を超えると吹き飛んぶんか…。」
耐久値…在るんやなこのゲーム…。
物なんだから壊れる時は壊れる。