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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 前編―
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第九話 格付け

「とはいってもどこから手をつければいいのか見当もつかねぇな。そもそも今回とっ捕まえるオズワルドって奴について、俺は何も知らねぇし聞かされてもいねぇ」

「それなら既にある程度の情報が漏れているわ」


 ある程度の互いの素性を知ったところで、今度は目標ターゲットとなるオズワルドという人物についての話へと話題が転換されていく。この場に集められた者は皆、オズワルド=ツィートリヒという男の確保を目的として集められている。


「ほら、これ」

「……なんだこれ」


 数藤が持つ携帯端末を覗き込めば、そこには今日の夕方のニュースが表示されており、見出しのトップには「東京から来たアイドルライブに乱入者!? 二人の炎熱系能力者によって犯人撃退か!?」という大文字とともに写真が一枚添えられており、青白い炎を携えた少年が両腕に話題のアイドル二人を抱えて空を飛んでいるところが写されている。

 そして写真の少年の姿を見るなり、騎西は忌々しくその名を呟く。


「穂村……あいつ……!」

「どうやら向こうもこれより前のことだけど査定中の白のカードを貰っているみたいよ」

「そうかよ……だったら戦えば格付けできるじゃねぇか……!」


 騎西はそう言ってついさっきまで失われていたはずの右腕を再構築してグッと拳を握りしめるが、数藤は本来の目的とは違うとばかりにスッと画面を切り替えて情報欄へと話題を進めていく。


「ほうほう、この黒い包帯の男がオズワルドなんですね!」

「元々同僚だったってのに、見るも無惨な姿になってんなぁ」

「この時に君が目の敵にしている穂村君が焼失させたらしいけど、私はこれを完全に出来ていないと判断するわ。根拠は彼を追っているGPSがまだ生きているからよ」


 曰くオズワルドはその能力の性質上、ある意味他の身体強化フィジカルチューン型とは一線を画すと数藤は主張する。


「以前別の人に依頼した時は詳細をアクアにも話さなかったけど、彼の正体は虫よ」

「虫だと?」

「正確にはゴキブリね。一匹のゴキブリの体内にとあるデータチップと発信器が埋め込まれているから、それを捕まえるのが今回の仕事ってことになるわ」


 その瞬間獅子河原は怖気が走ったのか両腕で自分の身体を抱きしめ、縮こまって震え始める。


「いっ!? ゴキブリですかぁ!?」

「そう、ゴキブリよ。能力開発研究の際にちょっとした事故がね――」

「ちょっとしただとぉ? 自分のミス棚に上げてよく言えたよなぁオイ」


 どうやら二人の間にある因縁には、オズワルド=ツィートリヒという男が深く関わっているように推測できる。少しの失言に喧嘩腰で当たる名稗を見ている限り、そうとしか思えないと騎西は静かに耳を傾けていた。


「そもそも数藤、てめえがあんな実験しなければ――」

「何よ? 過去を掘り返しにここに来たわけ? だったら帰って頂戴、邪魔だから」


 先程から何度も起こる一触即発の出来事に、水を差すような発言をしたのはアクアだった。

 無料で貰える水の入ったコップを片手に戦闘準備を済ませたゴシック服の少女と、ストレスでギラついた眼差しを向ける長身の女性との間に妙な緊張感が生まれる。


「手を貸そうか?」

「その必要はないぜぇエルモア。あたしが潰す」

「いや、そうじゃない名稗。その女は――」

「ごめんあそばせ」


 相手を侮辱するシーンでよくある、コップの水を相手にぶちまけるという場面。それを検体名『(アンサー)』と呼ばれる少女が扱えばどうなるか――答えは明白だっただった。


「ごふっ!?」


 ぶちまけられたただの水が、散弾銃に比類する殺傷力をもって名稗に襲い掛かる――それがSランク『(アンサー)』の力であり、彼女をSランクたらしめる一因でもあった。


「――Sランクだから手を貸そうかと、言おうとしたんだが」


 水圧で壁に叩きつけられて動けなくなった名稗の代わりにソファから立ち上がったのは、それまで事態を黙って見届けていた少女、エルモアだった。


「流石に貴方まで相手にしては無理よ、エルモア=ハサウェイ。だって貴方もSランクじゃない」


 名稗の相方――検体名『グラビティ』で知られる少女、エルモア=ハサウェイ。彼女の力はその名の通り重力を操るという、規格外の力を持つSランクである。


「貴方と戦うなら本格的に水道を掌握しないと、この程度の水量だとすぐに重力に負けてしまうのよね」

「ほう、ならば水場にさえ行けば勝てるとでも言いたいのか? 面白い、マイクロブラックホールに抗えるかどうか、試してみるか?」


 相方の借りを返さんと右手のひらに真っ黒な小型の球体を生成してみせるエルモアだったが、既にある程度息を整えて立ち上がった名稗によって制止される。


「わりぃがそれは無しだ。こいつはあたしがいずれ潰す。それまでは手を出すなよなぁ」

「あら意外。もうちょっと気絶していると思ったけど」

「何も糸だけがあたしの能力じゃないんでね。ちょっとばかし気付けしただけだっての」


 一度倒されたことで気分を落ち着かせることができた名稗であったが、その髪の毛はまるで静電気でも帯びているかのように少しばかり浮いている。


「それで、話の続きだ。現在奴はどこに居るんだ?」


 口に含んでいた血をその場に吐き捨て、ドリンクコーナーから水を一杯ついで更に口の中を洗い流して名稗はドカッとソファに座り直す。一旦は事態が落ち着いたかと息を漏らした数藤は、改めて端末を皆の前に出して現在の目標ターゲットの位置を確認にかかる。


「現在は……運が良いわね貴方達」


 端末に映し出された地図、場所は騎西もよく知る区画であり、そして今現在も全員がいる区画となる。


「第十二区画地下下水道、ってところかしら」

「あら、だったらワタクシが何とかできるじゃない」


 まるで代表として向かうといわんばかりにスッと立ち上がる一人の少女。怪しく嗤っては早速向かおうとレストランの調理場へと足を進めていく――


「――ははっ、下水道にそんな服で向かっていくとか汚れとか気にしないタイプかぁ?」


 そう言われれば、と思い出したかのような表情を浮かべた後、この場で唯一の男である騎西がいるにも関わらず、アクアは目の前でスルスルと衣服を脱ぎ捨て始める。


「ちょ、おい!」


 顔を隠しながらもちゃっかり隙間を空ける騎西を尻目にして、アクアは厨房の洗い場の蛇口を全開にして自らも水と同化する。


「先に言っておくけどここの下水道、薬品まみれでどうなるか分かったものじゃ無いから貴方達は絶対に無理だから追ってこないでね」


 要約すれば、邪魔をするなという意味であろう。アクアはそのまま排水溝から地下へと、オズワルドの居る場所へと向かって皆の前から姿を消していった。

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