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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 前編―
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第三章 第八話 首取屋

「ケッ! 俺達の他に人が集まるって言うからついて来たはいいが、どうしてこんなところなんだよ」

「仕方ないじゃないの。元はといえば貴方が自爆特攻とかいう頭の悪い考え方をしなければこんな普通のファミレスを貸し切る必要も無かったのに」


 真っ当な理由があれば、その道の能力者を使って即刻建物を“元通り”にしても良かったであろう。しかしながら市長から一任されている研究内容等も含めてしまうと、建物を再度元の状態に建て直すのは情報漏洩という相応のリスクが生じてくる。故に研究上の事故といった形で処理を行い、建て直す際にも全くまっさらに建て直した方が都合がいいという算段を数藤は持っていた。


「それで? ここに誰か来るのか?」


 機械化した右手で行儀悪く机をトントンと指で叩く騎西であったが、その疑問も最もだった。この場にいるのは数藤の息のかかった料理人が一人、そして騎西の他には数藤とほんの数刻前まで戦っていたSランクの能力者、アクア=ローゼズだけしか姿が見当たらない。

 店の方も貸し切りという形の為か、本来であれば窓の外から僅かな街灯と研究所から漏れ出す光が照らし出す通りを眺めることができるが、全席カーテンによって景色が遮断されてしまっている。


「そろそろ来る頃だと思うのだけど……」


 表のドアにかけられている貸し切り中という文字が一般人を遠ざけ、そして予約を入れていた人間だけを中へと誘う。数藤だけでなく騎西もまた、入り口をじっと睨みつけるように見つめ続けていた。


「……そんなに見てもそう都合よく来る訳無いでしょ」

「俺に指図するな」

「言っても無駄よ、アクア。この子基本全く人の話聞く気ないから」


 島で身の回りの世話をしている頃から長く騎西の世話をしている数藤の言葉は的を射ており、自分が強くなることそして穂村正太郎という男を倒す算段以外を聞かせる際には彼の機嫌を取らなければならないことを数藤はよく知っている。


「頼んでいたメロンソーダでも飲んだら?」

「チッ、マジでうぜぇなこいつ」


 とは言いつつもアクアに指摘された通り注文していたメロンソーダに口をつける様はなんとも言いがたいと、アクアはSランクばりに勝手気ままに行動する騎西を見てため息をついた。


「やっぱ止めとけば良かったかしら……」


 ハンデ付きとはいえ自分を追い詰める実力を目の当たりにして色々と判断力が鈍ったのかも知れない。そうアクアが後悔していると、今回初めて出会うことになる新たな『仕事仲間』の内二人が姿を現す。


「本当にここで合っているのか?」

「知らなぁーい。あたしはただ端末にしたがって場所を見つけただけだしぃ」

「ンだよ、あの二人組」


 片目を眼帯で隠している少女の問いに対し、長身のひょろりとしたスーツ姿の女性はハスキーボイスで適当な返事を返すばかり。


「おい、知らねぇ客が入ってきてんじゃねぇか。追い返してくるわ」

「ちょっと待ちなさい騎西君! 貴方そもそも集まってくる人分かってないでしょ!」


 数藤の制止を無視して騎西が二人組の女に向かって最初から脅しつけるかのように追い返そうと声を荒げる。


「おい、表の貸し切り中の文字見えなかったか?」

「あぁん? 貸し切り中って言われても知らないわよ、あたし達はここに用があんのよ」

「アァ? ガタガタ抜かしてねぇでさっさと表に――ッ!?」


 わざとのように機械化した右手で長身の女性の襟首を掴みあげ、カツアゲのように脅しを欠けようとしたその瞬間――騎西の右腕は何かによって切断され宙を舞った。


「ッ、てめぇ!!」


 右腕の切断面――騎西がそこに手の代わりに相手を殺す為のガトリングを精製するまでに一切の躊躇は無かった。


「ありゃ? 意外にも戦い慣れてる感じぃ? あるいは只の馬鹿かぁ?」

「ドタマぶっ飛ばしてやっからそのままくたばっちま――」

「――跪け」

「ぐごっ!?」


 そして弾丸が射出されようとしたその時――騎西善人の全身を、通常の十倍の重力が襲い掛かった。


「ぐっ……ッ!? どういうこった!?」

「貴様の方こそどういうつもりだ。私の友に、いきなり発砲しようなどと」

「ちょっと待ちなさいって言ったでしょ騎西君!」


 床に顔をこすりつけさせられ身動きがとれなくなった騎西の頭上から、数藤の憤りの交じった声がぶつけられる。


「この人達も今回の作戦に参加して貰う人たちよ」

「なんだと!?」

「だから言ったじゃない、待ってって」

「久しぶりじゃん、数藤……」


 そう言って長身の女性は病的なクマを抱えた目で睨みつけながら、口元を大きく歪めて再会したことへの喜びを、否、皮肉を吐いた。


「一度は逃げきったあんたの方から、コンタクトをとるなんてさぁ」

「貴方の方こそ、これがオズワルド関連だったからこそ来たんでしょ? こそこそと『反転リバース』のあの子と接触はかってたみたいだけど」

「ハッ……お互い様ねぇ」


 長身の女性はそれ以上は何も言わず、静かにこの短時間で仕掛けていたトラップの回収を始める。


「糸……?」


 先程から床と僅かな足下しか見えていなかった騎西の目が捉えたのは、埃を巻き込んでずるずると引きずられていく細い糸の一瞬のきらめきだった。


「なーにー? もしかして見えんのぉ?」

「埃がついてるからな……」

「へぇー……エルモアももう能力解除して良いっしょ」

「分かった」


 エルモアという名前で呼ばれた眼帯の少女が能力を解除した途端、騎西の全身を押さえつけていた重力が解放されていく。この時に騎西が理解したのは、さっきの糸が長身の女性の何かしらの力、そして今解除された重力が強くなる能力が眼帯の少女の力だということ。


「とりあえずこっちに来て座って、お互い自己紹介でもしたらどう?」

「どうやらこいつが数藤の新しいオモチャってことで把握できれば良いんでしょお?」


 無謀にも喧嘩を売ってきた改造人間サイボーグの素性さえ把握できれば、それでいい。女性の主張はあくまで仕事の関係で数藤に会いに来ただけで、それ以上の余計な言葉を交わすつもりなど毛頭無いといった様子である。


「相変わらずつれないわね、名稗なびえ

「昔散々嫌な目に遭わされてきたからねぇー」


 恐らくこの場に二人だけであれば、名稗の方が確実に数藤に向けて何かしら手を出していたであろう。それ程の剥き出しの敵意というものを、同じく穂村に対する異常な憎しみを持つ騎西は察していた。


「……まっ、今日はあたしにとってもメリットのある提案だからここでとやかくやり合うつもりは無いけどねぇ」


 そう言って名稗は通路を挟んで反対側の席へと腰を下ろし、不躾にも机の上に足を置いて横暴な態度を取っている。その反対にはエルモアが両脚を揃えて大人しく座っており、二人の性格をそのまま映し出している様な光景を作り出している。


「……それで! これで全員か!?」

「いや、まだ二人……『首取屋ネックハンガー』の二人が来ていないようだけど――」

「いいですかなるさん! 今回の依頼料は半端ないんですからちゃんと起きて聞いててくださいよ!」

「分かってるわよ……多分」

「……なんだあいつら」


 流石に今回は何も考えずに食ってかる様なことはしないという学習をした騎西であったが、こちらの方は名稗エルモアの二人に比べればさほどの脅威を感じることはなかった。

 ――騎西と同年代程度の少女の方が、背中に一振りの大剣を背負っていることを除けば、であるが。


「毎度ご利用ありがとうございます! 迅速丁寧! 即日遂行! 『首取屋ネックハンガー』の獅子河原ししがわら神流かんな椎名しいな鳴深なるみが、必ずあなたのご要望にお答えしましょう!」


 背中に大剣を背負い髪を後ろで短く束ねている方は獅子河原ししがわら神流かんなと自ら名乗り、数藤と一緒の席について商談を始めようとしている。もう一人の何処を見ているのか視線の読めない糸目の女性、獅子河原から椎名しいな鳴深なるみと紹介された方はマイペースに周囲の空いた席に腰を下ろしてはそのまま机に突っ伏し始めている。


「というわけで、早速契約の話を――ってなるさん!? 流石にいきなり怠けすぎでは!?」

「無理、眠い、お休み……」


 すぅすぅと寝息を立て始める椎名に一同絶句するも、当の本人は至って気にすることなくものの数秒で眠りこけている。


「……とまあ、なるさんの方は仕事以外ではこんな感じですが、仕事が始まればきちっとやる気がありますので!」

「どう考えてもやる気のある人間がやる行動じゃねぇと思うけどぉ……」


 その瞬間は名稗と同じ考えに至ったものの、やはり彼女達が口にしたとある単語の方が気がかりとなる。


「『首取屋』って、あの『首取屋』か?」

「そうですよ! って、以前仕事とか一緒にしましたか? 少なくとも子供からの依頼は断っているのでそっちの線は無いと思いますけど!」


 自分と同じ程度の年齢の少女が何をほざいていやがる――と口から出かかったものの、騎西はここでまた新たな火種を産んでも意味が無いと、素直に最寄りの空席に腰を下ろした。偶然にもすやすやと眠る椎名の向かい側となるが、騎西は何ら気にすること無くテーブルに肘をついて数藤と獅子河原の会話に耳を傾ける。


「さてさて、今回の依頼は例のオズワルドの首に掛かっている懸賞金の半分となる五億となりますが――」

「全額十億で良いわ」

「えっ……えぇーっ!?」

「なっ!? おい馬鹿数藤!! 十億って一体どういうことだよ!?」


 眠っている一人を除いて、そのばにいる誰しもが十億という言葉に驚きを隠せなかった。


「うるさいわね貴方達。たかが十億でしょう?」

「流石にたかがで済む値段じゃ無いわよ! 騎西の反応が正しいわ!」

「おーい、懸賞金ってことはまさか殺すわけじゃ無いだろうなぁ?」


 驚きから殺意に切り替わった名稗は両手にピアノ線を絡め始めるが、数藤は一切同様や恐怖といった感情は見せず、あくまでこれは『首取屋』に提示した契約金だと冷静に言葉を返す。


「貴方との約束を破るつもりは無いわよ名稗。当然生け捕りにして貰って構わないわ」

「その言葉に嘘は無いだろうなぁ?」

「無いわ」


 きっぱりと打ち切ることで名稗の殺意を抑えた数藤であったが、それでもまだ十億という衝撃はその場に残り続けている。


「十億円ですよなるさん! これで私達お金持ちです!」

「おい数藤! 俺達タダ働きかよ!?」

「あら、十億の催促をするつもりなら貴方の定期メンテナンスにかかった代金を過去の分も遡って次回から全て請求しようかしら」

「くっ……」

「当然。貴方は数藤の手によって強くなった改造人間。その点(ワタクシ)は――」

「水道代」

「ぐぬぬ……」


 研究所での世話代を言われてしまっては黙りこくらざるを得ない二人を前にして、数藤は何事も無かったかのように改めて獅子河原と契約について話を纏める。


「ひとまず今話した通り、生け捕りでお願い」

「了解しました! アクアさんからお聞きした前回の依頼者は有耶無耶になってしまいましたが、今回はきっちりと仕事をさせていただきます!」

「それ、私に何か落ち度でもありましたの?」


 アクアに対する皮肉を述べながらも獅子河原は元気よく返事を返し、そして数藤のサインを貰った契約書に笑顔で獅子河原はペンを走らせている。


「ではこれで正式な契約となりました! 迅速丁寧! 即日遂行! 『首取屋ネックハンガー』が見事オズワルド=ツィートリヒをとっ捕まえて見せましょう!」

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