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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 前編―
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第五話 圧倒

「――ッ!? なんだとッ!?」

「驚いている暇なんざねぇよ、ボケがァッ!!」


 スゥッと消える時は幽霊のように、そして派って追い回すは蛇のように足下深くから穂村へと急接近する魔人。相手の言葉に驚いてしまったが故の、穂村の油断が産んだ大きな隙だった。


「とりあえず臓物ブチまけてくたばっちまいなァ!!」

「恐らくは影の方なんだろうが……初対面相手にトばしてんな」


 魔人の右手に夜の闇よりも暗いオーラが纏われる。オーラは瞬時にドリルのような鋭く削り取るような形へと変形し、内臓をえぐり取るように下から上へとアッパーカットが繰り出される。


「ッ、フザけんじゃねぇぞ!!」


 伸びた腕をはたき落とすように穂村は自身の足に炎を纏わせ、前蹴りの要領で拳を踏みつけようとした。


「おっ!?」

「なっ!?」


 ――最初に纏わせた炎の色が蒼だったことが幸か不幸か、穂村の足は魔人の拳と互角にぶつかり、その場に苛烈な火花を舞わせている。


「押し通せねぇだと!? 俺の炎が!?」

「ヒャハッ! 足首くらいはもっていけると思ったんだがなァ!!」


 互いの目測が外れたことに驚愕し、そして目前の相手の実力を推し量りきれなかった事への賞賛が交わされる。


「市長と殴り合う仲って言うだけあるじゃねぇか!! 俺だって市長に一発ブチかましてっからよぉ!!」

「なるほどな、確かに今のレベルじゃ受け止められて当然か」


 更に爆熱にテンションを上げて声を張り上げる穂村に対して、先ほどまで嬉々として戦っていた魔人の方は急に冷めたかのように冷静な声で相手の分析を開始する。


「少し……レベルを上げるか」

「マジかよ穂村の奴、いきなり3パーセントからスタートさせるつもりかよ」


 レベルを上げる――それは今まで手を抜いていた分を、本気で殺しにかかるという意味である。


「黒い翼、だと……?」

「3パーセントだ……3パーセント、耐えてみろよ」


 うめき声のような地鳴りとともに大地が揺れ、挑発的に嗤う魔人を中心にマイナスのオーラが顕現していく。


「……ッ!」


 どこから来る? どうやって攻撃が繰り出される? しかしそれに答える程、魔人はお人好しではなく――


「――じゃあな、穂村正太郎」

「――ッ!?」


 ――穂村は最後だけ、最後の瞬間だけ目で追うことができた。先ほどと同じ懐への入り込み方、しかしスピードは圧倒的に違っている。今度はそのまま腕を降ろしてガードをしようにも間に合わず、穂村は下から上への蹴り上げに下顎を打ち抜かれ、そのまま遙か後方の商業施設の壁に叩きつけられた。


「えっ!? 何が起こったの!?」


 高速をも遙かに超えるスピード。店の外に出て直接この目で、時間すら止めてまで観ようとした攻撃は、止めようとする意識すら置いていく。時田に観ることができたのは、のけぞる穂村が失神したまま吹き飛ばされる瞬間だけであった。


「終わったな……相変わらずめちゃくちゃにしやがる」

「……あの野郎……」


 圧倒的勝利――の筈が、魔人は少しだけ不満を持っているかのような、魚の骨が喉に刺さっているかのような引っかかりのある表情を浮かべた。


「見えていやがったか……」


 時間を止める能力を持つものにすら観ることができなかった蹴り上げを、穂村正太郎は真っ正面に見据えることができていた。あまつさえガードすることすら考えようと行動を起こしていた。


「おもしれぇ……面白ぇぞ穂村正太郎!!」


 市長に一撃加え入れた実力を測るだけ。しかしながら予定以上の収穫を得られたことに魔人は驚喜し狂喜した。そして楽しませて貰ったお礼として、檜山達の方を振り向いてこう言った。


「面白いモンを見せて貰った餞別だ。余ったチケットをくれてやる」

「……は?」

「例の下らねぇアイドルチケット、五枚だ」

「五枚も!?」


 価値のない紙切れでもばらまくかのように、魔人はハラリと時田の前に五枚のチケットを投げ渡す。それを見ていた緋山は最初は何を考えているのかと首をかしげたが、しばらくしてハッとした表情で魔人を問い詰め始める。


「おいまて魔人、まさか席とか一緒じゃねぇよな――」

「勘が良いじゃねぇか。隣の席だ」

「クソがッ!! 折角良い雰囲気になってきたってのに!!」

「ヒャハハーッ! 全部テメェの思い通りにさせるかよ!! ガキは健全に付き合っとけ!!」


 散々場を引っかき回して満足したのか、魔人は翼を生やしたまま空を飛びどこかへと去って行く。


「……さて、アイツが気絶している内に誰が行くか決めるわよ」

「当然闘った穂村君は行くことが確定でいいわよね?」

「勿論、というよりそれが目的でしょう。ね? 和美」


 ここにもう一つの負けられない戦い――女同士の戦いが始まろうとしていた。

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