表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 前編―
85/157

序章 第一話 ……その前に

 全てにカタをつけた訳ではない。しかしそれでも穂村正太郎は穂村正太郎として、二年ぶりに己自身の肉体の、本当の意味での主導権を握った。


「……それで、結局どういうこと? アンタは結局どっちなの?」

「どうもこうもねぇよ。お前等が今まで相手してきたのが『アッシュ=ジ=エンバー』で、今表に出ている俺が正真正銘『穂村正太郎』、それだけだ」


 夏休みも終わり際になり、人によっては終わらない宿題を急いで片付ける時期へと差し掛かっているだろう。

 しかし今回ファミリーレストランに集まった穂村と子乃坂を除く五人には、この終わり際になって発生した新たな宿題がぶつけられることになる。

 夏休みとあってかダボダボのカーゴパンツと灰色の焔をバックにしたドクロ柄の半袖シャツという私服姿で目の前に座る黒髪黒眼の少年、穂村正太郎。ほんの数日前まで彼の身体は彼の内側に潜む『衝動』、あるいは『大罪』と呼ばれるもう一つの人格のような存在――アッシュ=ジ=エンバーが主人格だった。しかし今それを知る人間が力帝都市内の知り合いには誰一人居なかった為、このような説明を要する事態となっている。


「信じられないけど……でもそれなら納得がいくかもね、和美」

「そっ、そうだな。確かにあの時姉さんに触れることができたのも、『衝動』ならあり得る話……だな」


 席としては丁度穂村の反対側――机の上に重そうに胸の膨らみを乗せつつ肘をついては過去の事象と照らし合わせ、納得した様子を見せる守矢もりや四姉妹の長女、小晴(こはる)

 その隣に座っているのはいつものポニーテール姿の次女、和美(かずみ)。しかし次女の和美はというと、今回の件により自分の内に秘めていた感情がどちらに向いているものなのかという個人的な悩みを抱える羽目となる。


「どういうことだ? しょうたろーはしょうたろーなのだろう? ……えっ? おねえちゃんは薄々気がついていたのか!? ……そうか……変な感じだな……」


 それに対してまだ混乱が隠せない双子の妹イノと、まだ半信半疑といった様子で穂村の観察を続ける姉のオウギ。今回に限っては二人の考えはまとまっていないものの、それでも穂村の両サイドすぐ近くに居座ることに変わりは無かった。

 そしてもう一人、穂村側の席で納得のいかない様子で長い髪を指に絡ませ、猜疑心に満ちたまなざしで穂村を観る少女、時田マキナ。彼女は特に力帝都市にて穂村と戦いを重ねてきた立場にあってか、未だにこれまでの穂村と今の穂村に合点がいっていなかった。変異種スポアの偏見をなくす為に故郷で走り回っていた少年が『衝動』であり、超暴力的な姿勢に身を任せてきた少年が本来の『穂村正太郎』だという事実を、受け入れることができなかった。

 それ故に普段の冷静な判断を下せる時田ならば決して口から出さない不用意な発言を、この場でついポロリと言ってしまったのであろう。


「……それじゃアタシの実家に一緒に帰った時のアンタは、実は『アッシュ』だったってこと?」

「ああ、そうなるな。まあ、最後に蒼い焔を出した時は俺も――」

「ちょっと待って。穂村君、それどういうこと?」


 ここで口を挟んできたのは、他の誰でもなく昔から穂村の隣にいた子乃坂だった。数日前は穂村と同じく蛇塚恒雄という男と因縁があってか感情を押し殺したような雰囲気を纏っていたが、全てに決着がついた今となっては、少しずつではあるが元の明るい少女の姿を取り戻しつつある。


「もしかして、そういうことなの? 穂村君、時田さんと――」

「いや違うって、そんなんじゃねぇよ……なんだよその目は」


 そして離ればなれになっている二年間の長い時間もずっと一人の人間を想ってきた少女にとって、時田という恋のライバル(?)の発言は見過ごすわけにはいかなかった。


「ふーん……私はずっと穂村君のことを想ってきたんだけど、穂村君は力帝都市こっちに来てからいろんな人と浮気してるんだねー」

「浮気って、だからそういうのじゃねぇっての!」

「あーなるほどね、はいはい! だから後輩の栗木さんのところでご飯食べた時も言葉を濁したんだぁー」


 この二人のやりとりを見ていたずらに不敵な笑みを浮かべる少女が、更に場を混乱へと陥れていく。


「なっ!? あれはそういうことじゃ――」

「じゃあどういうこと? 穂村君、怒らないから正直に話して」


 怒らないと言いながらも穂村を握る手の力の入れようがそれを嘘だと告げている。


「いででででででっ!? 子乃坂お前ぜってぇ怒ってるだろ!」

「穂村君さ、その辺本当に酷いよね。中学校の時から不良ぶってかっこつけてるせいで、女子の間でもぶっきらぼうだけどワイルドで格好いいってしょっちゅう話題になってたし」

「へっ、いや! そんなことねぇだろ! 別に――」

「別に週に一回はラブレターが下足箱に入ってるか女子に呼び出されるかくらいで、それ以上はないよねー。まあ私と一緒に帰るようになってからは激減したみたいだけど、代わりに私の靴箱に時々画鋲が入るようになったかなー」

「ハァ!? マジで!?」

「うん、大マジ。そのときの穂村君には心配かけたくなかったから言わなかったけど」


 本人も自覚がないとんでもない女(たら)しだということをバラされてしまったその場において、いまいち理解ができていないイノ以外の全員がしばらくの間絶句をしてしまう。


「……ま、待て! でも俺は全然そんな付き合ったりとか――」

「へぇー、そうなんだぁー。確かに言われてみれば陽奈子ひなことか最初ツンツンしてたのに、最後らへんとかねぇー……」

「そ、それは俺じゃねぇから! 俺の方じゃなくて『アイツ』の方だから!」

「アンタに直接は言わなかったみたいだけど、陽奈子が「蒼い炎って、ちょっとかっこいいかも」って言ってたわよ。確か蒼い炎の方がアンタの元々の力よねぇ? てことは、そういうことでしょ?」


 完全に退路を絶たれてしまい目を泳がせる穂村と、疑いの視線を外さない女性陣。傍目には完全に浮気を重ねた男が詰め寄られている光景にしか見えず、そしてその場に浮気性の男とは正反対の存在がその場に姿を現す。


「おっ! お前は……何やってんだ?」

「あっ、この前励二と戦った……えぇーと、穂村君だっけ?」

「てめぇ、緋山ひやま! 丁度いいところに!」


 穂村正太郎と違いたった一人の少女だけを愛する純情派少年、緋山ひやま励二れいじ。彼は穂村と同じ炎熱系の能力者であり、そして『炎熱系最強』という称号を冠する最強格のSランクの少年である。

 そして隣にいるのは緋山励二のたった一人の正式な彼女、澄田すみた詩乃しの。普段は緋山に対してお節介をかくような母性的(?)ともとれる行動をよくとっているが、今回のデートはどうやら緋山の方がリードをしているらしい。

 丁度昼時となって緋山にとっては行きつけの店内で席を探しているところで偶然穂村と目が合うことなったが、即座に状況を察しては引き攣った笑みを浮かべている様子。


「あー、残念だが俺をダシにその場を抜け出すことはやめろよ。俺はお前とは違って詩乃一筋だからよ」

「あぁっ、もう! 励二ってば、恥ずかしいよ……」


 男女の交際としては模範となるであろうあるべき姿が、緋山励二と澄田詩乃によって体現されている。対する穂村の方はというと……言わずもがな、とでも言うべきであろう。


「違えっての! そういうことじゃ――」

「えっ、この人も穂村君の知り合い?」

「知り合いっつーか、同じ系統の能力者だから面を覚えているくらいで――」

「なら丁度いいわ。あなたからも穂村君に何か一言言ってよ」


 流石は元学級委員長とでも言うべきであろうか。子乃坂は同じ友達からも忠告して貰おうと緋山までもを巻き込もうとし始める。


「は? いや俺達デートしてるから――」

「もしかしてこの雰囲気からして浮気? それは駄目だよ! ほら! 励二もビシッと言わないと!」


 普段とは違う空気に興味を示したのか、あるいは自分達の立場から一言もの申さないといけないというお節介からか、澄田は緋山の袖を引っ張って近くの席に腰を下ろそうとしている。

 その場を仕切り始めた学級委員長に物申せるものなどこの場にはいない。もはや完全に空気を支配した子乃坂と、お節介やきの癖が出はじめた澄田との間には妙な連携ができはじめる。


「どうせならテーブルをくっつけてちゃんと話し合おうよ」

「おいおい、面倒くせぇことするなって――」

「確かにそっちの方がいいかも。ほら、テーブルくっつけるよ。穂村君も手伝って」

「チッ……そもそもあんたには関係ねぇってのに」

「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」


 こうして第三の部外者を含めた、穂村正太郎の魔女裁判(?)が行われようとしている。


「いいこと? 中学校の時から言おうと思っていたけど、穂村君はいい加減自覚を持たないといけないんだからね!」

 はい、ということで新編開始早々不穏な空気が流れておりますが、頑張っていきたいと思います(´・ω・`)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ