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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー蘇る焔編ー
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第十八話 世界を巻き込む災禍の種火

「――ハァ……ハァ……ッ、ククッ……フフッ、フハハハハッ!!」


 いつもであれば余裕綽々で座っている筈の椅子に、満身創痍でうなだれる。そうして薄暗いままの天井を見上げれば、自然と引き攣るような笑いがこみ上げてきてしまう。


「凄い! 凄いぞ!! 流石は穂村正太郎、あのような『衝動』を――『大罪』を二つ持っていることを差し引いても尚!! あの強さを持つか!? ハハハハハハッ!!」


 ほんの数分前に核爆発を遙かに凌駕する蒼い爆炎の直撃を受けておきながらも、今現在こうしてボロボロの服のまま椅子に腰をかけて笑っている――それが力帝都市最強の一角を担う存在、『全能メガロマニア』だった。


「……しかしあの壁を打ち破る程の超火力……外にも衝撃の余波が確実に観測されていただろう。いくら壁で衝撃を緩和できたとしても、ロシアの馬鹿げた爆弾すらをも凌駕するような凝縮された破壊力が生み出す衝撃は、なおも地球を一周はしたはずだ」


 そんな彼女の悠長な予測を肯定するかのように、暗い壁と一体化していたモニターが突然燦々と光を放ち始める。

 そして画面に映されたのは――それぞれ二つの国を治める長の姿だった。


「……おやおや、これはこれは。アメリカのドランプ大統領に、日本の和部わべ首相ではありませんか」


 片や世界最強の軍事力をもつ超大国の大統領。片や建前として力帝都市を領土内と認めている国の首相。いずれも力帝都市の内情をそれなりに知る者からの通信映像であった。


「何か要件でも? また下らない戦争の為の駒を貸してくれと?」

「要件ではない! 一体どういうことだ!? これだけの衝撃波が観測されるなど、あのロシア以来――」

「それは一人の少年が我に向けて放った一撃の余波だ。我がやったのではないとだけ言わせてもらおう」


 その一言を前にして、二つの国の長はしばらくの間口を開けたまま絶句していた。

 表向きとしてはこの世界最強の軍事国家とされている国ですら、力帝都市の一部の存在の前では塵芥に等しい。久方ぶりにその事実を突きつけられては、返す言葉も失せてしまう。

 ――表向きの力関係の評価として、力帝都市市民を向上心を煽る為に置かれた飾りとも言える最強たるランク、S。しかしながらそれすらも置き去りにするであろう潜在能力、そして成長性を加味した真の最強確たる評価クラスが存在する。


「あれは久方ぶりの、『メガデス』クラスの破壊力認定になるだろう。絶対防壁と我の身体で相殺してもなおあの威力、まともに放てば力帝都市はおろか日本海側が消し飛んでいただろうな」

「そ、そんな悠長な!?」


 和部の慌て様も当然のことで、すぐ隣で核実験も真っ青な破壊力を振り回されていたとなれば気が気でない。しかし市長はそれを一括してこう一言で締めくくる。


「だがこの力を貴様等は戦争に用いたいのだろう? その為に莫大な資金を力帝都市に投入しているのだからな」


 こう言われてしまっては、和部も閉口しなくてはならなくなる。事実次世代の戦争に向けた新たな軍事『力』を手に入れる為に、日本そしてアメリカは魔力や超能力というオカルト分野に力を入れ始めていた。そこへ現市長からの力帝都市の発足が投げかけられたとあれば、渡りに船と言わざるを得ない。

 しかしその為に莫大な犠牲を支払うことになったことを両国首相は覚えている。そして今現在対話をしている市長の機嫌を損ねればどうなるかも、知っているのである。


「力が欲しいのだろう? ならば貴様等は黙って我に資金を回し続ければよい」

「……っ、そのように……!」


 苦情を入れようにも、弱者が強者に刃向かうだけの力は無い。こうして毎度毎度市長にあしらわれては通信を切るのが、この世界における日米両国の最適解であった。

 しかし今回はふと面白いことを思いついたといって、通信切断を中止する『全能』の姿がそこにある。


「ふむ……しかし毎回貴様等に対して一切のチャンスもなく資金を吐かせ続けるのもつまらんな」

「と、言いますと……?」


 今までも何度も、市長の不敵な笑みはテレビ通話越しに見てきた。しかし今回は今まで以上に不敵さを含んだ笑みを携えて、椅子の上で足を組んで両国の思いを見透かすように一つの提案が投げかけられる。


「現在、変異種スポアに関する重大なデータがとある研究者によって持ち逃げされている。『全知ソシオリズム』が選定した能力者達が後を追っているが、我としてはそれだけではつまらないと思っていたこところだ」


 それまでの負傷など無かったかのようにスッと椅子から立ち上がり、『全能』はたった一つのチャンスを両国に与える。


「そのデータ、見事貴様等で奪い取ることができたとあらばそのままくれてやろう」

「いやいや、そんな我々に変異種スポアのデータを与えたところで宝の持ち腐れ――」

「しらばっくれる必要は無い。貴様等も中東の紛争地帯でこっそりと我々の真似事をしていることは知っているぞ」


 『全知』『全能』に掌握できないものなど存在しない。既に『魔人』という名の規格外の化物を送り込んだこともあった。そして両国には分からないうちにとある可能性を一つ潰している。


「貴様等のところにちょっかいをかけたこともあるぞ。……結局フィクサーがもう一人いたせいで不発となったが、そんなことはどうでもいい」


 後半小声で自身の失態を毒づきながらも、『全能』は二人を相手に常に対等ではなく上から見下すような姿勢で隠し事を暴く。当然ながら力帝都市には決して明かされることのないようにしていた筈の両国からすればドキリとなってしまい、思わずそれ以上の秘密を口走りそうになってしまう。


「ま、まさか他にも――」

「ああ、知っている。だからこそ、だ」


 相手の手札を見透かした上で、挑戦状を叩きつける。それが今回の『全能』の焚きつけ方である。


「――暗号名コードネーム、『鉄人スティーラー』」

「ッ!?」

「ククク、まさか力帝都市の研究者の名付け方に乗っ取った呼び名をつけるとはな……」


 隠し事の奥の手、その更に切り札を言い当てられてしまえば、いかにアメリカ合衆国大統領といえども動揺は確実なものとなる。


「なっ、何故それを!?」

「フッ……脱獄付加の監獄(アルカトラズ)から解き放ってはどうだ? 責任はこちらが全て持つぞ? データを手に入れることが出来れば恩赦をくれてやるとでも言ってやればやる気も出すだろう」


 完全に『鉄人』と呼ばれる人間の全てを知った上での提案であると、ドランプは即座に理解した。目の前の女の前には、いかなるセキュリティも無駄、全てが筒抜け。しかしながらドランプにとってはまだ、この市長が『鉄人』を解き放つことの意味を理解していないと考えていた。何故ならば一度でも目の前に相対すれば、戦いさえすれば、誰しもが出すことを禁ずるに判断するに決まっているからだという根拠があるからだ。

 しかしここでドランプは同時にチャンスだと踏まえた。ここで上手く目の前の『全能』の鼻を明かすことができさえすれば、この先の取引においても対等か、あるいは有利に運べる。その為ならば『最強最悪の強盗犯』を野に放つくらいのリスクは、いくらでも背負える。


「……いいだろう。後悔しないことだ」

「クククク……そうでなくては、そうでなくては!」


 満足げな市長にこれ以上の通信は不要と判断したのか、アメリカ側から一方に通信が途絶える。そんな無礼があったとしても、『全能』にとっては半分満足のいく展開となっている。

 もう半分は――


「あ、あらら……流石アメリカは即断即決――」

「貴様もだ、和部」

「わ、私ですか!? そんな、我々日本にはそんな武装勢力など――」

「『千宝院』……これでいいか?」

「っ! …………いいでしょう。ならば覚悟を、しておいてください」


 『千宝院』――その名を耳にした途端に、それまで温厚かつご機嫌取りのような雰囲気で応対していた和部の態度が一気にこわばる。それはまるで力帝都市を仮想の敵国と認めているような姿勢ともとれる。


「蛇塚恒雄の能力……あんなものが『A(アンチ)A(オール)A(アビリティ)』な訳が無かろう。死に際も遠隔操作で火の海に落として証拠を消し去りおって」

「所詮Aランクまでの能力の封印しかできない外様の出来損ないでしかありませんから。それに国内でも婦女暴行で目立ち始めていましたから、丁度いい機会でしたよ」

「貴様も中々の悪よのう、和部よ」


 そうして今度は日本国と力帝都市のとの間にビリビリと張り詰めた空気が流れ始め、しばらくの沈黙の後に和部もまた、無言のまま通信を切断する。


「……これでいい。これでこそ更なる混沌カオスを生み出すことができる」

「支離滅裂。そこまでのリスクを背負わなければならない」


 それまでその場にいるはずの無い者の声が響き渡ったかと思えば、薄暗い部屋に突如としてもう一人の市長が姿を現す。


「……『全知ソシオリズム』よ、これでいいのだな?」

「順風満帆。こちらもまた、現状そろえられるだけの手札をそろえた」


 そうして『全能』の前に投げるように差し出されたのは、六枚の写真だった。


「……ククク、なかなか面白いメンツを揃えたな」

千思万考せんしばんこう。その結果……」


 『グラビティ』、エルモア=ハサウェイ。

 『喰々(イートショック)』、名稗なびえ閖威科ゆりいか

 『アンサー』、アクア=ローゼズ。

 『重圧プレッシャー』、椎名しいな鳴深なるみ

 『救世主セイバー』、獅子河原ししがわら神流かんな

 そして――




「――『G(ゲット).E(エネミーズ).T(テクノロジー)』、騎西きさい善人ぜんと……こいつは確か一度穂村正太郎に敗れたはずじゃないか?」

高談雄弁こうだんゆうべん。その結果、数藤真夜の推薦により参加することとなった」

「しかしこうもAランク上位以上が並んでいる中、何故――」

「何故なら彼は『大罪』の器になる素質を持っているからよ」


 暗闇からもう一人――この場に入ることを許可された数少ない人物のひとりである数藤真夜が、白衣に袖を通した状態で姿を現す。


「ほう、『大罪』か……それは面白い。しかしどれだ? もう空きも少ないだろう?」

「分からないわ。それでもこちら側に一つでも多く『大罪』を控えておいた方がいいじゃない?」

「まあ、な……」


 数藤のもっともな意見に後ろを押され、『全能』は次なる“狂宴”の準備を着々と進めていく。


「……さて、三つ巴の奪い合い――」


 ――久方ぶりに楽しませてもらおうか、狂気の宴を。

 次回予告代わりに市長の前に名前だけ出てきた六人で小芝居をさせてみました。

(´・ω・`)<チェンジオブワールドで先に出てきているキャラもいるというのは秘密です……それではどうぞ。


「どうやらこの中に一人、既に『大罪』とやらを持っている者が居るようだな……まさか貴様か名稗!?」

「たーだでさえ力帝都市に賞金賭けられてたあたしがぁ? それはないわぁ~」

「はっきり言っておきますけど、私ではありませんわ」

「そんなのどうでもいいわぁ……ふぁあ……すぴー」

「ちょっとなるさん!? 折角この場を借りて『首取屋』の宣伝ができると思ったのに何寝てるんですか!? あっ、ちなみに私は能力の名の通り、そんな罪は犯していませんので!」

「『大罪』だかなんだかウダウダうるせぇんだよ! 俺は穂村さえぶっ殺せればどうでもいいんだからなぁ!!」

「……本当に大丈夫なのだろうか」


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