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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー蘇る焔編ー
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第六章 第九話 戦乱の火種

 ――穂村正太郎、十四歳。子乃坂の家に住むようになってからも、彼の中にある空虚を埋めるものは少しずつ変化していた。

 しかし相変わらず彼の周りには闘いが常に付きまとっていた。そしてそれらに付随して、今とは違う方向性の人間が穂村の周りにいた。


「お前中坊の癖に彼女かよクソッたれ!」

「だから彼女じゃないっスよ」

「うるせぇ穂村の癖に生意気だぞ! 俺なんて彼女どころか女が寄りつく事すらねぇってのに!」


 自分よりも頭一つ高い学生服の男に囲まれて、そして薄雲のような煙草の煙に包まれて。ゲームセンターで適当なゲーム筐体に百円玉を投入しつつ、穂村正太郎は高校生に紛れて暇をつぶしていた。


「そりゃおめぇの面見たら大抵の女子は逃げるに決まってんだろ!」

「うるせぇこれは生まれつきだ!!」


 穂村が現在通う中学校から徒歩でおよそ二十分。そこには県内外から問題児が集まるとされる最悪の公立高校が建立されている。そして当然ながら既に中学校で悪名高い穂村も、その高校の面子からいい意味でも悪い意味でも目をつけられていた。


「つーかてめぇ顔が良すぎるから女なんかできるんだろ。もう少しボコられてこい」

「それ理不尽過ぎじゃないですかね……」


 既にタイマン最強の名前は高校の方でも有名のようであり、事実として穂村に喧嘩を売って返り討ちにあったという話もちらほらと流れている。そしてその腕っぷしを買って取り入れようとしているのが、今現在穂村を取り囲んでいる高校生グループであった。


「でも良かったんじゃねぇの? 獅子神ししがみさんの後を継ぐ『紅蓮隊』のトップ候補が二人もいるってことは」

「そうだな。一年の玉木たまきが丁度三年になる時にこいつが入ってくりゃ、とりあえず戦争に勝てるだろうよ」


 坊主頭にサングラスを額に乗せる男と、異様なまでの長身にマスクをつけたリーゼントの青年とが、既に穂村が高校に入ることが前提で話が進めている。

 無論そこに穂村の意向や意思など全く介在していなく、あくまで自分たちの都合に穂村を巻き込もうとしている。

 しかし穂村にとってはいつもと同じで――


「――別にどうでもいいっスよ。俺にとって」

「あぁん!? どうでもいい訳ねぇだろ!! 『紅蓮隊』は俺達にとっての象徴なんだぞ!!」

「おいおい、ここで問題起こしたら今度こそ出禁喰らうぞ。警察が来ても面倒事になんだしよ」


 短気なリーゼントの青年を坊主頭の男が諌めていると、それまで奥で静かに穂村がプレイしているゲームの画面をじっと見つめていた金髪の男がそこで初めて口を開く。


「……おい、穂村」

「なんスか」


 丁度一番重要な場面なのであろう、穂村は画面を見たまま返事だけをかえす。それに対してまるでライオンのたてがみのように金髪を逆立てた男が静かに立ち上がる。

 そしてそれを見た瞬間、リーゼントの青年と坊主頭の男が金髪の男を押さえようと同じく立ちあがった。


「ちょっと待って下さいよ獅子神さん! こいつバカだから普通なら真面目に話聞かなくちゃいけないところをゲームなんかしちまいやがってるから!! おい棒川ぼうかわ!!」

「分かってるっつーの千野原ちのはら!! 獅子神さん! ここで暴力沙汰はガチで面倒になるから止めた方が――」


 千野原と棒川の二人掛かりで獅子神を押さえようとしても獅子神は一切足を止める事無く、むしろ二人を引きずるような形で更に穂村へと近づく。そして背後から穂村の肩に手を置き、次の瞬間――


「お前いつのまにか段位俺より高くなってない?」

「フツーに暇つぶしでやってたらここまでなりましたよ」

「お前天才か!? 今度このキャラの使い方教えろよ」

「良いっスけど、コイツ使いこなすの難しいからこっちの方がおすすめっス」


 どうやら心配していた事とは真反対の出来事が起こっているようで、千野原と棒川は二人の様子を見てポカンとしている。


「えぇ……」

「獅子神さん……」

「おっ、こいつが相手ならちょっと変われよ。俺の方が得意だからよ」

「別にいいっスけど、負けたら百円返してくださいよ」

「分かってるっての」


 まるで昔からの知り合いであるかのような振る舞いをする二人に対して、千野原と棒川は唯々唖然とするばかりで、中々二人に声をかけることができずにいる。


「マジかよ穂村……よくそんな口利けるな……」

「獅子神さんも怒んないんスすね……」


 そうして二人の会話に割って入ることもできずにいるにいる千野原と棒川であったが、その時丁度辺りを見回すと、遠くに警官と警官に付随するスーツ姿の細身の男がこちらに向かってきているのを目にしてしまう。


「なっ!? 何で警察がここにいるんだよ!?」

「面倒なことになる前に裏口から出ようか。穂村、獅子神さんに出るってこと伝えろ」

「いや何言ってんスか。今一ラウンド取って良いところなんですよ」

「いやそういう問題じゃねぇから! サツが来てるっつってんだろ!!」


 そうこうしている内に警察側も四人をロックオンした様子で、足早に筐体の間を縫うようにまっすぐと向かってくる。


「獅子神さん! 何やってんすかさっさとずらかりますよ!」

「別に悪いことしてねぇからいいだろ。無視無視」


 獅子神はそう言って普段であれば逃げるはずの警察を無視しては、目の前のゲームに集中している。穂村ももちろん、警察に捕まろうがどうでもいいと昔から考えていたことから、同じく獅子神のゲーム画面を横から覗いていた。

 そうしてしばらくする間も無く、丁度穂村の反対側から覗きこむ様な声が二人にかけられる。


「おやおやー? 誰かと思ったら千欄せんらん高校の『猛獣』こと獅子神ししがみつかさくんと、『歩く核弾頭』こと穂村正太郎君じゃないですかー」

「…………」

「…………」


 明らかにこちらの怒りを誘発させようとしているような、苛立ちを覚えさせるような声。しかし肝心の二人は一切聞く耳を持つ様子など無く、あくまで格闘ゲームに夢中といった態度を取り続けていた。


「……おーい――」

「っしゃあ!! 勝ったぞ穂村ぁ!!」

「すっげー、それコンボ繋がるんスね」

「スゲーだろ? 多分俺しか知らない――」

「ちょっと聞けやお前等ぁ!!」

「……アァ?」


 年齢は明らかに自分の方が上。しかし中高不良界隈で恐れられている二人から敵意を持って睨まれようものなら、蛇に睨まれた蛙のように自然の身体が強張ってしまう。

 ――しかしそこで退く程、蛇塚へびづか恒雄つねおはあっさりとした男では無かった。

そしてこの出会いこそが、穂村と蛇塚の最初の出会いであった。


「……何だこのモヤシ。穂村、お前の知り合いか?」

「知らねぇっす。後ろの二人なら一回パクられたことあるんで知ってますけど」


 国家権力を前にしても特に緊張感もなく平然としている二人に対して、蛇塚は思った反応では無かった事に不満そうに顔を歪めて皮肉を並べる。


「はっ、不良やるくらい低能だと、こういうのを出しても理解できないだろうな」


 そうして蛇塚は細腕を懐に忍ばせると、警察手帳を取り出して二人の前にぶら下げて見せつける。


「どうだ? 何か言いたいことでもあるか?」

「何がだ?」

「知らねぇっス」


 皮肉すら通用せず、相も変わらずとぼけた様子の二人に対して、煽るつもりが逆に煽られた蛇塚が苛立ちを露わにして最寄りの椅子に片足をかけ、大声を挙げて脅しつけはじめる。


「警察手帳を知らないのか!? その気になれば、お前達を補導することも――」

「別に何も悪いことしてねぇだろ。帰るぞ穂村」

「うっす」


 これから補導という形で熱弁を振るおうとする蛇塚であったが、肝心のゲームがゲームオーバーとなった途端に、獅子神と穂村は席を立ってその場を立ち去ろうとしている。


「ち、ちょっと待て!! 話はまだ終わってないぞ!!」

「夕方七時で補導とか馬鹿じゃねぇのかあの警官」

「十時以降ってことくらい俺でもわかりますよ」


 そうして逆に本業の蛇塚をひとしきりコケにしきった二人は、警官相手に怖気付かずに言い負かした事に驚きを示す千野原と棒川を連れてその場を去っていこうとした。

 そしてその背中に対して何もできない新参者の刑事は、唯々捨て台詞を吐くばかり。


「そこまでするならいいだろう! いずれお前達を掴まえてやるから、その時は覚悟しておけ!!」

「はいはい、お疲れさん」


 傍目に見れば完全に不良にいなされる警察という光景であり、それは蛇塚のプライドを痛く傷つける。


「獅子神……穂村……貴様等だけは普通には終わらせんぞ……!」

「あのー、蛇塚刑事、ここでは能力者探しをするだけでは――」

「うるせぇ。警官風情がオレ様に指図するのか?」


 その時警官を睨みつける蛇塚の瞳は、まるで獲物を見つけた蛇のように鋭い殺気を放っていた。そしてそれに怖気づいた警官がそのまま口を閉じると、蛇塚は再び獅子神と穂村の背中を視界に捉える。


「オレ様にたてつく奴は、誰であろうと地に伏せるまで引きずりおろしてやる……!」

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