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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―ガラクタの王VS炎獄の王編―
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第四章 第九話 絶望改造

「――ここはどこだ?」

「ここは私が力帝都市の外で唯一所持している研究施設だ。まあ、秘密の研究所とでも思っていてくれたまえ」


 時間にして時田が島へとはいるおよそ一週間前のこと。騎西善人は詳細不明のとある研究所の内部を歩いていた。

 研究所に来るまでの間、騎西はまるで誘拐されているかのようにアイマスクをつけられ、ここに来るまでは一切の外界からの視覚情報を遮断されていた。ゆえに今異聞がどこにいるのか分からず、ただこの場所が研究所だということだけが理解できていた。


「……ぐぁっ!」

「まだ疼くのか? 失った右目が」

「あぁ……失っている筈なのに、まるでそこにあるかのように疼くんだよ……ッ!」


 応急処置を受けているとはいえ、騎西の右目は完全に機能を失っていた。無用の長物と化していた右の眼球はここまで来る時に摘出され、溶媒液が詰まったビンに今は保管されている。

 右目に包帯を巻いたその姿は痛々しいものの、右目の奥に潜む欲望を隠すまでには至らない。そんな騎西善人の身にこれから何が起こるのか、それは騎西自身も知る由もない。


「俺はここで一体何をされるんだ?」

「力を手に入れるための実験……いわゆる人体実験さ」


 騎西善人はある研究者の男の後を追っていた。その研究者とは、イルミナスの崩落した地下施設にて行方不明となっていたはずだった男、アダムだった。アダムはそれまで他の研究に携わっていた研究者を全て集めて、騎西を含めて奥の一室へと引き連れていく。


「こいつ等は?」

「私と同じ研究者だ。まぁ、世間一般からは少々爪弾き者とされているがな」


 非人道的ともいえる実験に際し、何のためらいもなく実行のボタンを押すことができる集団。それこそアダムが求めた人材であり、研究団体なのである。


「それにしても人体実験とは、随分とえげつないことするもんだな」

「クククク……そこまでしなければ、我々が望む『力』が手に入らないからな」


 最奥の部屋へと続く扉を開けた先。そこにあるのは真っ白なベッドが一つと、そしておびただしい程の機械の数々。そして機械のコードが集約されるその先に、たった一本の注射器が装着されている。


「……ははーん、なるほどな」


 騎西はそれらを一瞥して全てを理解した様子で、不用心に注射器の方へと足を進めていく。


「この注射器一本で俺を強くしようと――」

「それに不用意に触るな!!」

「ッ!」


 アダムはそれまでにないほどの鬼気迫る声で騎西の行動を止めに入る。


「下手にそれに触ってみろ。貴様の願いと、私の野望は全て水の泡と化すぞ」

「わ、わりぃ……」


 騎西は恐るおそる伸ばしていた手をひっこめると、改めてアダムの方を向きなおす。


「で、だとすれば俺はどうすればいい?」

「黙ってそこの備え付けのベッドに横たわっていればいい。次に目を覚ました時が、貴様が最強の兵器として目覚める時だ」

「兵器……なんだ、それは……ぐがっ!?」


 そこから先は騎西の許可も有無すらも言わさぬまま、騎西は研究員の一人に背後から麻酔をかけられて、意識をそのまま混濁へと引きずり込まれていった。



          ◆◆◆



「――ここは、どこだ……?」


 騎西にとっては二度目の発問となるその言葉。そしてその言葉が発されたのは、研究所内の治療室にあるベッドの上だった。


「もう、終わったのか……?」

「ああ、術式は全て終わったよ」


 騎西が体を起こしてドアの方を向くと、そこにはドアを開けて中へと入ろうとするアダムの姿があった。


「どうかね? 身体に変化等見受けられたかね?」

「どうって……変化も何もねぇよ……」


 確かに記載の身体には何も変化が無かった。相変わらず右目には白い包帯が巻かれ、視界が晴れることは無い。

 だがアダムには既に結果が見えていた様子で、ニヤリと笑いながら騎西に右目の包帯を取るように促す。


「私には既に変化が出ている様にも思えるが? ひとまず包帯を取ってみたまえ」

「あん……? この包帯をか?」


 騎西は言われるがままに、包帯に手をかける。どうせ右目はそのまま、何も映さぬ空洞のままだと思われていた。

 だが――


「何だ……これは……?」


 視界が、ある。そして何かは分からないが、この右目は直感的にピントを合わせた対象物のパラメータを解析している。


「なんだよ、この目は……ッ!?」

「鏡でよく見るがいい。それはお前が手にした、新たな『義眼』だ。我々が作ったのではない。貴様自身が()()()()、新たな目だ」


 焼けただれた部分は全て機械化され、そして金属の球体の中心――瞳孔が禍々しい赤色で光り始める。騎西はこうして、新たな右目を手に入れることになった。

 だがこれは彼にとってはほんの小さな変化でしかない。彼が受けたたった一本の注射器による注入。全身麻酔を受けてまで打ち込まれたたった一本の注射器が、この程度の変化で終わる訳がないことを、騎西善人は知る由もなかった。


 ――三日目の朝、唐突にして残酷な変化が、騎西善人の身体を襲う。


「……オイ、オイ、オイッ!? どういうことだよこれはよぉ!?」


 騎西は普段通りに検査を受け終え、そして検査の時に毎回飲まされる謎の蒼い液体の苦みに顔をしかめながら廊下を歩いていた時のことだった。

 いつものように部屋へと戻り、いつものように生身の右腕を動かし、いつものように右手でコップを握るつもりだった。

 だが――


「俺の右手が、俺の右手がねぇ!?」


 右手だけではなかった。右腕が右肩の根元からまるで捥げとられたかのようにバッサリと消え去っている。


「どこだ!? どこに消えやがった!?」


 騎西は冷静に思い返しながら、部屋のドアの方へと振り返る。するとそこには――


「俺の! 俺の腕!?」


 騎西はドアのすぐそばで跪き、そしてそこに落ちていた自分の右腕を、生身の右腕を左手で持ち上げ、抱きかかえる。


「どうして、どうして俺が……!」

「それが貴様の望んだ変化だ。騎西善人」


 騎西が顔を上げると、そこには自らをこんな身体に改造したアダムの姿がそこに。


「……てめぇえええええええ――――!!」


 騎西はいつもの癖で無くなっているはずの右手でアダムの襟首を掴み上げようとした。だが生憎ながら右腕は、騎西が立ち上がると同時にその場に打ち捨てられている。


「俺に、俺に何をしたぁ!!」

「何って、力をくれてやると言っただろう?」

「右腕がもげるとは言っていなかっただろうがぁ!!」


 騎西は残された左腕を振るってアダムを殴りつけようとしたが、利き腕じゃない方で、しかも片腕を失ってバランスを取るのも困難な状況に陥っているからか、先頭に関して全くの素人のアダムに対し、一発も当てられずにいる。


「クソがッ!!」

「気にするな。腕ならそのうち生えてくる」

「ざけんじゃねぇぞ! 俺はてめぇ等の――」


 怒り狂った声を挙げる騎西に、突然としてアダムは目前まで詰め寄る。そしてにやりと笑ってこういった。


「そうだ。お前は我々の――」


 ――単なる実験動物モルモットだ。

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