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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―ガラクタの王VS炎獄の王編―
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第六話 権『力』者

 仕事ならあると警官につれられて穂村達がやってきたのは、南条と一緒に展望台まで登っていく途中に見かけた古い神社である。降りていた時には気が付かなかったが、どうやら奥で何か作業を行っているらしく、夏らしく白いシャツにジーンズを着た男集が出店の骨組みをくみ上げている。


「ここは?」

「実は明後日にはこの島の夏祭りがあってな。力仕事に自信は?」

「大アリだ」


 穂村は早速仕事に取り掛かろうとしたが、警官がまずは話を通してから出ないとまた面倒なことになると言われ、ひとまず待つことに。


「皆も多分知っていると思うが、ここにいるのが例の少年だ。名前は穂村正太郎。時田さんとこの一人娘のお友達だそうで、一応私の方から事情も聞いている。ここで祭りの準備の手伝いをしたいとのことだ」


 男達は警官の言葉には耳を貸すものの、それでも穂村自体への信用につながることは無いようで、怪訝そうに穂村の方を見ながら警官の話に耳を傾けている。


「確かにあんたの話を聞く限りそいつは余所者でも信頼できそうに思えるが、それとこれとは話は別だ」

「というと?」

「あんたの推薦だけじゃなく、そいつの言葉で俺は話を聞きたい」


 警官と同じくらい体格のいい男が、穂村の方を指さしつつ睨みつける。どうやらここで作業をしている男衆のリーダーのようで、話を聞けば穂村が警官に全てをまかせっきりに思えたようで、ここの手伝いをするのであれば自分でいわなければならないとでもいいたそうな様子に思える。

 しばらく場が静まりかえった後に、穂村はその雰囲気を察して自ら口を開く。


「……俺は穂村正太郎。警察のおっさんから聞いての通り、時田の友達だ。多分この中で見た奴もいるかも知れねぇが、俺は見ての通り変異種だ」


 穂村が右手で軽く払えば、その軌跡を追うように炎が中空に舞う。そしてそれを見た男衆はどよめきと驚きの入り混じった声を漏らし、そして一気に警戒心を強め始める。


「とまあ、この通り能力がある時点で皆からは避けられる。だから今回、それを解消するためにここに来た」

「つまり……?」

「つまりあんた等の役に立てば、その疑念も解決するだろ?」

「……なるほどな。考えの筋は通ってる。だが、駄目だ」

「何だと?」


 穂村の言い分を認めてはいるものの、外部の者に島の祭りを手伝わせるなど島民としてのプライドがそれを許さないようだ。そしてそれ以外にも、まだ理由はある。


「お前は本当に手伝うだけなのか? それにお前はともかくとして、その後ろの女の子はどうするつもりだ?」

「こいつ男だぞ?」

「えぇっ!?」

「しかも阿形ってやつが作ったロボットだ」

「……えぇーっ!?」


 穂村がこの場所に現れた事よりも数十倍の驚愕の声が響き渡る。


「あ、あの胡散臭い爺さんが!? それって何の冗談だよ!?」

「あんな役に立ちそうもない機械ばっか作っていた爺さんが!? どっかから攫ってきたんじゃねぇのか!?」

「失敬な! これでもボクはれっきとしたヒューマノイドボットですよ!」


 そう言ってヴィジルは上に来ていた服をたくし上げようとしたが、穂村がそれを食い止める。


「何でですか! ボクがロボットという証拠は、胸の突起につけられた――」

「お前の場合妙に精巧過ぎる上に、見た目が女の子過ぎるから色々と絵的にヤバいだろうが!」

「でもこうでもしないと――」

「する必要ねぇから!!」


 穂村の必死の制止に心(?)が折れたのか、ヴィジルは渋々脱ごうとしていた服の裾を綺麗になおす。穂村はやれやれと言った表情でヴィジルから再び男衆の方へと目線を向けなおし、親指を立てて後ろのヴィジルを指さしながら、こういった面倒な奴なんだという感情を込めつつ仕事の提案をする。


「俺達は本当に手伝うだけだ。そしてこいつはロボットだから、とにかく細かい作業ができるはずだ」

「そうか……なら、祭りで使う大縄を編んでもらおうか」

「任せてください! ……で、どうやって編めばいいんですか?」


 ヴィジルの間の抜けた一言に、その場にいる全員が一斉にずっこける。


「お、お前な……一通りの知識は備わっている筈じゃねぇのかよ」

「大縄を編む機会なんてそうそうにないですよ」

「ったくなんだよ知らねぇのかよ……こっちに来い! 教えてやる」


 ヴィジルが男の一人に連れて行かれる中、穂村に対して別の男が声をかけ始める。


「そこのお前、穂村とかいったか? お前は何ができる」

「力仕事でもなんでも。後はものを燃やすくらいか」

「そうか。頼むから山火事だけは起こすなよ」

「起こすワケねぇだろ。俺が何年(ほのお)を扱ってきたと思ってんだ」

「中々いうじゃねぇか。だが俺はお前より何年も歳をくってる。少しは敬語を使えよ」

「へいへい」


 そうして穂村は男の後を追い、出店の骨組みの手伝いに向かう。ひとまずは仕事にありつくことができ、そして島民の信頼を得る第一歩を踏むことができた穂村。力仕事もできると豪語するだけあって、金属の骨をいくつも軽々と肩に担いで持ち運んでは周りの大人達を驚かせている。


「お前腰とか大丈夫か?」

「あぁん? これくらい大丈夫だっての」

「そうか。それは頼もしいな」


 男達の指示にも素直に従い、疲れたなど文句も一言も漏らさぬその姿に少しは男衆も認め始めたのか、次第に色々な人が話しかけてくるようになってくる。


「ここは溶接した方が早いのか……?」

「どうしたんだ?」

「ああ、見てくれ。ここの骨組みがもろくなっているから、もう一度溶加材なりを継ぎ足して溶接した方がいいと思ってな」

「だったら俺に任せてくれ」

「できるのか?」

「やってみるさ」


 男に場所を譲ってもらうと、穂村はその脆くなった骨組みの部分を右手でつかんでそのまま右手ごと炎で包み込んで熱を加えていく。


「無茶苦茶なやり方をするな……」

「でもこれで一応くっついただろ?」


 穂村の言う通り何とかくっついたものの、処置後の見た目はお世辞にもいいとはいえない。


「……こりゃもう一回ちゃんとやり直しだな」

「ま、待ってくれ! もう一度俺が――」

「いや、そんなに無理するな。俺達もできることをするだけだからな」

「……分かった」

「……溶接、ありがとうよ」


 祭りの準備を通して少しずつだが島にもなじむことができて来た穂村。しかしそれもすぐに打ち壊されることとなる。


「皆さん、作業の方お疲れ様です」

「ん? 誰だあいつ」


 およそこの場に似合わない、細身で上品そうな雰囲気を纏った少年が穂村達の前に現れる。その服装は作業に適しないもので、明らかにこの場を手伝う気などゼロといった様子である。


「手伝いでもなさそうだが」

「しっ! 俺達が応対をするから、お前は何も聞かずに作業を続けていろ」


 男衆の間にピリピリとした空気が流れていく中、何も知らない穂村はただ首を傾げて設営作業を続けていくことに。

 リーダー格の男が少年の前に出ると、少年はにんまりとした笑顔のままで作業の守備を聞き始める。


「祭りには間に合いそうですか?」

「もうすぐ骨組みも終わって本格的に組み立て作業に移る。お立ち台も明日にはできるだろう」

「そうですか。それは上々」


 穂村とはまた違った意味で、大人に対するものとは思えない態度を露わにする少年を前に、穂村は内心いら立ちを募らせていく。


「今回の夏祭りは特別ですからね。気合を入れてくださいよ」

「そう何度も言われなくとも分かっていますよ」

「そうですか。ならばいいのですが」


 その時、穂村と少年の目が一瞬あってしまった。

 穂村は一切、目をそらすことは無かった。そしてまた少年の方も、目をそらすことは無かった。それはまるで目を逸らした方が負けだと言わんばかりに、互いに睨みつけるかのようにじっと視線を合わせ続けている。

 しばらくして少年の方が下らないとでも思ったのか、軽く肩をすくませた後にその場に背を向け始める。


「……今回の夏祭り、期待していますよ。なんてったって、僕の父もいつもより多く投資をしているのですから」

「おい、待てよ」

「なっ、馬鹿、お前!?」

「……何ですか? 貴方は」

「俺か? 俺は穂村正太郎ってんだ」

「そうですか。島の外の人間でしたか」


 少年は穂村に対して今度は露骨に見下した態度で応待するが、穂村もそれに負けじとガンを飛ばして少年に詰め寄る。


「お前は手伝わないのか?」

「手伝う? 何故です?」

「そんなに祭に期待しているんならお前自身も手伝ったらどうだって言ってんだよ」

「よせ、やめろ穂村!」

「ふっふっふ、これだから外部の人間は」


 少年は穂村に向かって嘲笑を浮かべると、淡々と自分と穂村との立場の違いについて語り始める。


「僕の名前は有栖川ありすがわすばる。この島でも金銭面を支援させてもらっている一族でもあります」

「それで?」

「それでって……手を汚したくないからせめて金銭面で支援させてもらっているのに、何故部外者の貴方から色々と言われなくちゃいけないんですか?」


 有栖川はさっきとはうって変わって横暴な態度を穂村に対しとり続けるが、穂村は依然として有栖川の目を睨みつけるだけで、決して手を出そうとはしなかった。


「おや? てっきり力任せに来るかと思っていましたが」

「てめぇに力を揮うほどの価値なんざねぇよ」

「くすくす、僕も貴方に構っているほど暇ではないのでね」

「そうかい、だったらさっさと失せろ。作業の邪魔だ」


 穂村の切り捨てるような言葉にムッときたのか、有栖川が更に何か言おうとした瞬間、リーダー格の男が穂村に怒鳴りつけながら頭を殴りつける。


「おい穂村! いい加減にしろ!」

「いってぇ! 何すんだよおっさん!!」

「お前こそ、口が過ぎるぞ! すまねぇ、後で俺達で言って聞かせておくから勘弁してやってくれ」

「……いいでしょう。きちんと言って聞かせておいてください」


 有栖川はひどく不愉快といった様子で神社を立ち去ってゆき、穂村は殴られた頭をさすりながらその背中を最後まで睨み付け続ける。


「なんだよあいつ……それよりおっさん、どうして俺を止めた」

「世の中には、抗っちゃいけねぇ有力者ってやつがいるんだよ。あいつがそうだ」

「あんなヒョロガキがか? 俺なら十秒とかからずにボコボコにできるが」

「穂村、覚えておけ。何も腕力だけが力じゃねぇ」


 リーダーは穂村に向かって厳しい視線を向けながら、注意を促すようにこう述べた。


「権力もまた、ある意味力を持っているってことだよ」

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