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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―ガラクタの王VS炎獄の王編―
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第二章 第四話 奇怪な機械

「まあひとまず家に上がれゲェッホゴホッ!!」

「おいおい爺さん大丈夫ゴホッ! ここ埃まみれじゃねぇか!」


 怪しげな店に一歩踏み入れれば年季の入った訳の分からない機械が穂村を迎え入れる。積み重なった埃の下から、赤やら緑といった光が漏れ出でるそのさまは、まさに島の住民の中でも怪しまれて当然といった様子でしかない。


「……なんか、すげぇな」

「おっ、もしかして分かるクチか?」

「いや、俺は機械いじりとかしねぇから分からねぇけどよ、この機械がそん所そこらじゃお目見えになれねぇってことくらいは理解できる」


 明らかにこの島の中でもオーバーテクノロジーともいえる代物が、穂村の目の前に乱雑に転がっている。それこそ力帝都市にでれば、それなりの技術力があると評価されてもおかしくはない。


「そうかそうか、お前には色々と見せてもよさそうだな」

「いや、折れは別に島の観光でぶらついている訳じゃ――」

「いいから来い! とっておきを見せてやる!」


 期待など一切していないが、見せてやると言われて断る理由もない。穂村はいざとなったら能力を使ってでも脱出を試みようと、本来の目的とは反対の考えを持ちながらも奥へと足を踏み入れていく。


「こっちが自動掃除機マシーン。自分で動いてなんでも吸い取ってくれるぞ」

「それもうあるぞ」

「何じゃと!?」

「しかもそういう手で持つタイプを動かすんじゃなくて、もっとコンパクトだ」

「何と!? どこから情報が漏れた!?」


 誰でも思いつくだろ、とは言えなかったものの、穂村はこの分だと他に期待はできなさそうに思えるが、一応見るだけ見ておこうと思いつつ足を進めていく。すると予想通りといったところか、どこか見た事があるような機械ばかりが目について、真新しさを感じることが出来ずにいる。


「おいおい、これ全部力帝都市だと既にあるもんばっかだぞ」

「力帝都市じゃと!? お前、力帝都市の人間か!?」

「お、おう……力帝都市がどうかしたのか?」

 穂村が何気なく呟いた中に、老人を掻きたてるキーワードが紛れ込んでいる。


 ――力帝都市。それは都市内にいようがいまいが、その言葉は知る者にとってはとても引っ掛かりのある単語となりえてしまう。


「お前、力帝都市に行ったことがあるのか!?」

「行ったことがあるっつぅか現在進行形で済んでいるっつぅか――」

「だったらお前、阿形あがた夢次郎ゆめじろうという男を知らんか!?」

「知らねぇし聞いたこともねぇよ」

「……そうか」


 老人は先ほどまでの興奮とはうって変わって肩をがっくりと落とし、そして穂村の方に背を向け始める。


「……阿形夢次郎というのは、わしの息子だ」


 今となっては老人のたった一人の肉親。父と同様機械いじりに没頭し、それが高じた結果、この世界で最も技術力を競い高め合う都市である力帝都市へと単身乗り込んでいったのだのだという。


「わしの名前は阿形あがた総一郎そういちろう。馬鹿息子とはいえ、気にならないと言えば嘘になる」

「そうか……どんなことをやっているんだ?」

「どんなって……まっ、わしも今やっとる事だし見せてやろう」


 そうやって総一郎は床下の扉を開くと、下へと続く階段をカンカンと軽快な音を立てながら降りていく。


「なんでこんなところに隠してんだよ……」

「あぁん? 秘密兵器は隠してこそ秘密兵器じゃろうが」


 さっきから見ている限りでは秘密兵器と聞いても下らないものしか想像できずにいる穂村は、期待半分といった様子で総一郎の後をついていく。

 階段を下りて行った先、先に歩いていた総一郎によって電気がつけられた先に見える光景――そこには一人のショートヘアの少女(?)が、いくつものコードがつけられた状態で眠っている。


「ッ!? てめぇまさか人体実験を――」

「くっくっく、その反応はわしとしては嬉しいな。見事に勘違いしているという事だからな」

「勘違いだと……?」


 総一郎はその勘違いだというものを証明するために、人間にしか見えないそれの首を引っこ抜き始める。


「おいおいおい、嘘だろ……」

「元々はお前の言う通り改造人間サイボーグを作ろうとしていたんじゃが……流石に人体を実験台にはできんからな。まずは人間に限りなく近いロボットを作ってみることにしたんじゃ」


 そっちの方が凄いのではないかというツッコミを穂村は押し込みながら、その精巧にできたロボットに近づいて、細部をまじまじと観察し始める。


「……マジかよ」

「ふっふっふ、断面が機械だとしても、それ以外は殆ど人間に近い。質感に触感、このために人工皮膚の研究に五年も費やしたからな」


 老人の無駄に難解な解説をよそにして、穂村はその精巧にできた人造人間(ヒューマノイド)を間近に見つめ、そして細い腕や手に触れようと手を伸ばし始める。


「おっと! 簡単に触るんじゃない!」

「んだよ、お触り禁止ってか?」

「違うわい、スイッチがオフの人形を触っても実感が湧かんじゃろが」


 そう言って総一郎は外した首を元に戻すと、眠っている子供を優しく起こすように、静かに電源を一つ一つ入れ始める。


「さあ起きろ、我が息子よ」

「息子!? こいつ男なのか!?」


 見た目はどう考えてもボーイッシュな女の子にしか見えないが、総一郎いわく男なのだという。穂村が今までで一番の驚きを見せると、総一郎はへそを曲げたように口をとがらせながら、穂村に後ろに下がるように告げる。


「最初に軽く熱気を放つからな。気をつけろ」

「熱気なら大丈夫だ。それより早く起動して見せてくれ」

「ふんっ、どうなっても知らんぞ」


 総一郎が最後のスイッチを入れると、空気が抜けるような音と共にコードが抜け落ち、そして抜け落ちたコードからは熱を持った水蒸気が漏れ始める。


「この白い気体は?」

「ただの水蒸気だ。気にすることは無い」

「そうかよ」

「それよりも熱くないのか?」

「アァ? ……そういや爺さんには言っていなかったな」


 少年が目覚めていく中、穂村はほのかな明かりの他にもう一つの明かりをともし始める。


「実は俺、時田と同じ変異種スポアなんだよ」

「な、何じゃと!?」


 総一郎が驚きのあまり腰を抜かしていると、穂村の右手の炎に興味を示し始める者が穂村の後ろから飛びつき始める。


「なんですかこれ? 凄いですねこの人! 博士! この人炎を出していますよ!」

「な、なんだお前!?」

「ボクですか? ボクの名前はヴィジル。英語で目覚めって意味なんだよ」


 随分と人懐こい性格に設定されているものだと思いながら、穂村は自分に纏わりつくヒューマノイドを引き剥がす。


「えぇー、もっと見せてよー」

「見せもんじゃねぇんだよ!」

「だったらどうして炎をともしたの? そもそも人間って炎を灯せるの?」

「ええい、ヴィジルの前で不思議な事を起こすんじゃない! こいつの興味は底なしだからな!」

「それを最初に言えよ爺さん……」


 穂村は何とかヴィジルを引き離すと、腰を抜かして立てずにいる総一郎に手を差し伸べる。


「立てよ爺さん。このロボットの説明がついていないだろ」

「それより、お前も異能種スポアとやらだったとはな……」

「お前も……? てことは、前に俺以外にも会った事があるのか?」


 この時穂村は、あえて時田の名前を伏せて問いかけている。それは時田のことを気遣うと共に、時田の事を知らない場合、無意味に知らないところで時田を傷つけてしまうかもしれないと考えたからだ。

 そしてもう一つ、重要な理由がある。それは相手が時田以外の変異種を知っていた場合のことである。この島に時田以外の変異種がいたとして、それが友好的であるとは限らないと考えてのことだ。


「ああ。時田のところの一人娘じゃろ?」

「なんだよ、知ってたのか」

「それ以外に誰かいるのか?」


 穂村の勘繰りは徒労に終わると共に、穂村は少しばかりホッとしていた。

 それはこの老人に限っては、口ぶりから時田のことを忌み嫌っている雰囲気ではなさそうであったからだ。


「それにしても炎を出すとは……体細胞や組織構造が気になるところじゃのう」

「おいおい、人体実験なんざしないんじゃなかったのか?」

「それもそうじゃが、気にはなるしのう……」

「ボクも、興味があります」

「お前は少し黙っとれ!」


 総一郎から一喝されたヴィジルはしょんぼりとした様子を見せているが、総一郎は態度を軟化させること無く更に説教を並べ始める。


「大体お前には基礎的な知識は色々加えてやっているじゃろうが! それを学習型のAIに設定しているからといって、何でもかんでも――」

「その辺にしておいてやれよ爺さん。これでもあんたの息子なんだろ?」

「じゃがのう……そうじゃ!」


 総一郎の思い付いたような表情に、穂村は嫌な予感を覚え始める。そしてそれは見事に的中することになる。


「お前、こいつを連れて町を歩き回ってくれんか? そして色々と知識を与えてやってはくれんか?」

「ハァ? 何で俺が――」

「どうせ暇なんじゃろ?」

「うるせぇ! 俺はこの島で認めてもらうために、色々と手伝いを――」

「じゃったらわしの手伝いもせんか! わしならこの辺の住民にも口を利かせることはできるぞ!」

「ボクからも、お願いします!」


 どう見ても近所の奇怪な怪しい爺さんにしか見えねぇよとは言えず、しかも肝心の少年ロボットからは深々と頭を下げられると、穂村としては断る二も断れない状況に作り上げられていく。


「……知らねぇよ。ついて来るなら勝手についてこい。その代わり、途中で帰るとか言っても見送りとかしねぇからな」

「っ! ありがとうございます!」

「そんな事を言わなくても、ヴィジルには島内の地理情報をインプットさせているから安心せい」

「そういう問題じゃねぇと思うんだよな……」


 こうして穂村は、最初の人助けにありつくこととなった。

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