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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―ガラクタの王VS炎獄の王編―
42/157

‐序章‐ 第零話 少女の帰還

「ヒャッホー! やっぱり高速船はいいわねー!」

「お前よくまともに立ってられるな……」

「アンタが船酔いに弱いだけよ!」


 とはいっても、甲板では穂村以外にイノとオウギも顔を真っ青にしてうなだれている状況である。

 現在時刻、午後一時をまわったころ。夏休みに入った穂村達一行を乗せた船の行き先は、とある小さな島だった。


「ったく、どうしてこうなったんだか……」

「うるさいわねー、今までアンタの修行に付き合ってあげたんだから、少しくらいアタシの用事にも付き合いなさいよ」

「少しの用事じゃねぇだろ……」


 何故彼らは船に乗っているのか。それは今から少しだけ前に遡る――



          ◆◆◆



「――ハァ? 実家に帰る? 勝手に帰ってろよ」

「だーかーらー、最後まで話を聞いてってば!」


 夏休み前の最後の日曜日。もはや休日の定番となりつつある穂村と時田、そしてイノとオウギによるファミレス内でのランチタイム雑談。しかし今回はいつものような皆にとってどうでもいいお話はなく、時田にとってのみ重要な話となる。


「お願いだってば! アンタが来てくれないと、アタシもしかしたらここに戻ってこられないかもしれないのよ!?」

「何で話がそんなに飛躍するんだよ」

「本当なんだってば!」


 普段は余裕しゃくしゃくで穂村を小バカにする時田であるが、今回は立場が逆転している。


「アタシのおじいちゃんってば頭が固いのよ! もうすぐ十六になるからって、許嫁がどうとかってワケ分かんない! いつの時代の人間だって話よ!」

「で、何でそれと俺がお前の実家についていく話とがつながるんだ?」


 相変わらずの勘の悪さが冴えわたる穂村の様子にしびれを切らしたのか、時田はテーブルをバンッ! と強く叩いてテーブルから立ち上がってこう言い放つ。


「だーかーらー!! アンタがアタシの彼氏ってことで来たら向こうも諦めるでしょ!? その為に付き合ってって言っているの!!」


 興奮する時田の大声は閑静なファミレス内に随分と響き渡ったようで、それまで食事をしていた周りの客の視線が全て時田の元へと集められる。


「あ……」

「……とりあえず、落ち着いて座れよ」

「うん……」


 流石に変な注目の浴び方をしたせいなのか、時田は顔を真っ赤にして俯いてその場に座りこむ。


「ったく、それくらい一人で言い負かしてこいよ。いつも俺に言っているみたいによぉ」

「いつも言い負かしているアタシのおじいちゃんよ? アタシが勝てると思う?」


 その性悪さは遺伝だという雰囲気を匂わせる時田に対して、穂村は数拍おいて大きくため息をつく。


「……無理だな」

「でしょ?」


 しかしだからといって穂村には本来ついていく義理もない筈だが、これまで色々と厄介ごとに付き合ってもらっている負い目がある手前、無下に断る事も出来ずにいる。


「……いつから帰るんだ?」

「来週学校終わってからすぐ……って、もしかしてついて来てくれるの?」

「日程次第だ。何泊するつもりだ?」

「予定だと三泊四日……」

「微妙な日程だな……」


 一泊二日なら断ることなく行っていただろう。一週間なら迷わず断っていただろう。だが時田が提案してきたのは三泊四日。長すぎもせず、短すぎもせず、絶妙な日程を言い渡してきたのである。


「どうすっかな……」

「お願い! 一生のお願い!」

「なんかこの先何度も聞きそうな言葉を吐きやがったぞこいつ……」

「お願いだってば! この先アンタの言う事なんでも聞くから!」

 このままでは土下座すらいとわない雰囲気の時田を前にしてついに折れたのか、穂村はまたも大きなため息を一つついてこういった。

「……交通費とかその辺は全部お前が出せよ」

「来てくれるの?」

「ああ。だが俺達三人の旅行費は――」

「ありがとっ! 船で行くからその辺はアタシが予約しておくね! お金は後で貰うから!」

「いや、だから――」

「ありがとう『フレーム』! やっぱりアタシが見込んだ男なだけはあったわね! 終業式の後、第十区画の駅で待ってるから!」


 条件提示などさせぬと言わんばかりに時田は早口で穂村にお礼を言い、そして今後の予定を告げて足早にファミレスを去っていく。


「……ふ、ふざけんなよチクショウ」

「しょうたろー、お金はだいじょうぶなのか?」

「こうなったら手ぶらでいって時田に全額支出させてやる……絶対にだ……!」



          ◆◆◆



「そろそろつくわよ――って、全員ダウンしてるし……」

「うっせぇ騒ぐな……頭に響く」


 もたれかかってうなだれる穂村達をよそにして、時田は甲遠くに見え始める陸地の方へと手すりから身を乗り出す。


「久々に見るけど……相変わらず田舎よね」


 もしかしたら時田のオシャレ癖だったりチャラけた態度だったりするのは、自分の故郷の雰囲気を紛らわせるためだったのかもしれないという考えを、穂村はなんとか胃腸から上ってくる液体と共に腹の奥底へと押し戻していく。


「は、早く陸地を歩かせてくれ……」



          ◆◆◆



「――ようやくついたか……とりあえずトイレはどこだ?」

「アンタいきなりそれ?」

「とりあえず吐きてぇんだよ悪いか!」


 港に着くなり悪態をつく穂村に呆れかえりながら、時田は船に積んでいた荷物を降ろしていく。


「イノちゃんとオウギちゃんはここにいて荷物を見張っていてね。アタシはちょっと迎えのお願いの電話をしてくるから」

「けーたいを使えばよいではないか」

「力帝都市のVPは外では使えないのよ。あれって都市内にしか電波飛ばしていないからね」


 イノ達にそう告げると、時田は近くにある公衆電話の方へと歩きだす。その背中を見送り終えたイノとオウギはというと初めて見る木造の家や古びた電柱など、力帝都市では見られない街並みに興味を持ち始めた様子で、スーツケースに腰を下ろして辺りを見回し始める。

 しばらくすると、二人はとある違和感を覚え始める。


「……おねぇちゃんも、気になるのか?」

「……ん」


 小さな島にいる人間にとって、現地の人やその知り合いなどすべて顔見知りと言っても過言ではない。そこに金髪と銀髪の幼い少女二人が港にいるとなると、奇異の目が向けられても仕方のない事だろう。


「……しょうたろー……」


 心細くなったのかうつむき始めるイノに、一人の島民の影が近づいてくる。


「チッ、ようやく胸糞悪ぃのが取れたぜ……あぁん?」


 そして時を同じくして港近くの公衆トイレから戻ってきた穂村の目に映ったのは、その坊主頭の怪しげな老人がイノ達に一歩一歩と近づいていく光景。


「まさか……!」


 穂村が足早に近づくが、このまま早歩きのままでは老人の方がイノに手を伸ばす方が先となってしまう。


「ッ、紅蓮拍動ヒートドライブッ!!」


 周りの人間にとっては驚愕の一言に尽きるだろう。トイレから現れた見知らぬ少年が、突然炎を纏って老人の方へと突進していくという、その光景が。

 そしてそんな事を知ってか知らずか、老人は俯く二人の少女の方へと声をかけ始める。


「おい」

「うん? だれだ、お前?」

「子ども二人が、こんなところで――」

「何やってんだ糞ジジイ!!」


 突然の声掛けに老人の手は止まり、そして後ろを振り返ればそこには炎を身に纏ってこちらを睨みつける少年の姿が。


「なっ、何じゃお前は!?」

「それはコッチのセリフだジジイ。てめぇイノとオウギに何手を出そうとしてんだ」

「何を言っておる! わしは子どもが二人で置いてきぼりにされて何事かと思ったんじゃ!!」

「言い訳を聞くつもりはねぇよ。イノとオウギに手を出してんじゃねぇ!」


 三度目は無いものと心に決めていた穂村は、その場にいない時田のことも気がかりながらにまずは目の前の老人を追いやることを排除することに全神経を傾けている。


「ジジイ覚悟し――いってぇ!? 何すんだ――」

「その場に座らんか!!」

「ハァ? ちょっと待て――」

「座らんか!!」

「くっ……」

「全く、最近の若者はなっちょらん! 年長者を少しは敬わんか! くどくどくど――」


 何故か頭頂部に鉄拳をくらってしまい、そのまま雰囲気にのまれてその場に正座をしてしまう穂村正太郎。そしてその姿を見て唖然としている少女が一人。


「まさか港に迎えに来ているなんて――って、おじいちゃん!?」

「くどくどくど――ん? おお、マキナじゃないか! 待っておれ、今この腑抜けた若造を――」

「チョット待って! アタシの彼氏に何しているワケ!?」

「彼氏……じゃと……?」

「……おい、まさかこのジジイがお前の爺さんなワケ――」

「まさかこのチャラけた若造が彼氏とでも言いたいのか!!」


 どうやらこの島において自分はまず発言権を得るべきなのだろうと内心思いながら、老人と時田の会話に耳を傾けることに。


「マキナ、よく考え直せ! どうしてこんな男と付き合って、しかも子供まで連れてき追って……まさかもう致してしまって、子どもができたという事か!?」

「は、ハァ!? 何言ってんの爺ちゃん頭おかしいんじゃないの!? どう考えたってあの子達五、六歳でしょ!? 常識考えたら!?」

「し、しかしいずれにしろこんな男にマキナちゃんが――」

「別に髪の毛染めていないし、ピアスとかしていないでしょ!? れっきとした普通の健全な高校生よ!」

「どこが健全じゃ! さっきこやつは身体から炎をだしおったぞ! そんなイカれた能力者が――」

「おい爺さん」


 時田程の観察眼がなくとも、穂村の目には一瞬表情が曇る時田の姿が映っていた。


「なんじゃい! お前には関係の無い――」

「関係あるだろうがジジイ。俺も、時田も、能力者だ」

「ッ! ……すまんかったな」

「いや、別にアタシはいつものことだし気にしていないんだけど……」


 穂村は薄々と感じ取っていた。時田の姿が見えるなり、島の様相に緊張感が生まれ始めているのを。

 そしてそれを知ってか知らずか、穂村はまるで島全体に向かって挑発するかのような言葉を言い放つ。


「別に俺は見世物になりにここにいるワケじゃねぇ。ただ時田の彼氏として、爺さんの婿養子決めを諦めてもらおうと思っているだけだ」

「お、お前何を――」


 穂村は老人の言葉を最後まで聞くことなく、時田の肩を抱き寄せて決め台詞を吐くかのようにこういった。


「言っておくが同じ能力者はぐれものとして、時田のことは多分お前よりもよく知っているぞ」

「ぐっ、言わせておけばずけずけと言いおって……」

「ま、まあまあ二人ともっ! 今日はアタシが帰ってきたんだから家に戻ろうよ!」

「フンッ! そうするのはいいが、わしのトラックにはこやつらがのる場所など無いぞ!」

「荷台にでものせろよ。それか俺が追従して飛ぶか」

「勝手にせい!」


 ――こうして、波乱万丈の帰省が始まる事となった。

 しかしこれが真の意味での戦いの序章になるとは、この時誰も想像できなかった。

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