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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―夢幻の可能性編―
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第二十三話 強欲

「……畜生……俺は……が、はっ!」


 月明かりに照らされて路地裏に一人、壁にもたれかかる少年がいた。金色に染められた髪はもはや自らの鮮血に染められて赤く染まり、耳につけられたピアスや右目の周辺に埋め込まれた金属の装飾品は、ボロボロになった身体を更に痛々しく仕立て上げている。

 ――騎西きさい善人ぜんとはこの日、敗北の苦汁を嫌というほどに味わった。無能力者でありながらBランクへの関門までのし上がった彼にとって、今回の戦いは無能力者の限界をその身の苦痛でもって感じさせる戦いだった。


「俺には……どうして……」


 どうして、力が無いのか。どうして、能力がないのか。騎西善人は、唯々自分の運命を呪った。


「俺には力が必要なんだ……俺には――」

「えっ、ちょっとあんた大丈夫!?」

「あん……?」


 ズタボロにされた騎西の視界に映っていたのは、大学にて二日間徹夜で魔法研究をしていたラシェル=ルシアンヌだった。背中に大きな布袋を背負って帰る姿は深夜だと泥棒にも見えなくもないが、彼女の明るい雰囲気がそれを打ち消している。

 そんなラシェルであったがどうして遅くまで学校にいたのかというと、研究授業の担当であるリュエル=マクシミリアムがいなくなっていたため、仕方なく研究をしつつ帰りを待っていた。つまりあの時穂村に言い放ったリュエルの言葉は真っ赤な嘘であり、真実は単にラシェルを言葉巧みに呼び出してはイノとオウギを預かるという形でそのまま攫っていたというのである。

 そのような事の裏でとんでもないことが起きていたのはもう少し後の話になるのであるが、そんなラシェルが見つけたのが路地裏で血を流してもたれかかる少年であった。


「一体どうしたの? まさか自分より各上に戦い挑んで負けたとか?」

「…………」


 ラシェルは軽い冗談のつもりで励ますかのように言ったつもりだったが、今の騎西にとっては単なる挑発にも聞こえ、嘲り笑うかのように聞こえた。


「ッ、この野郎!!」

「うわっ! 砲火ファイアシュート!!」


 とっさのこととはいえラシェルは自衛のために負傷した騎西の目の前で砲撃に近い炎の火球を繰り出してしまい、そして騎西はそれをもろに直撃してしまう。


「ぐはぁっ!!」


 思わぬ一撃に騎西の右目周囲は焼けただれ、より惨たらしい姿へと変貌していく。


「あっ、やば! 救急車呼ばないと!」


 ラシェルは急いで電話を掛けようとしたが、その時――


「ん? うわっ!?」


 突然現れた陸戦型ロボット、単騎で突撃。ラシェルが今までいた場所を、地面ごと抉り飛ばす。


「ちょっと!? どういうつもりよ!?」


 あと一歩反応が遅れていれば、ラシェルはリュエルの言葉通りこの世にはいなかっただろう。しかし現としていまだにラシェルは空を飛び、存命したままである。

 そしてロボットもまた背中の装甲を変形させてジェットパックを装備すると、その場から飛び立とうとし始める。


「あーもう、あのロボットBランクなんだけどめんどくさいんだよねー!」


 ラシェルは一旦ロボットの追跡から振り切ろうとその場から飛び去っていくが、それこそがロボットを消しかけた張本人の思惑であり、理想であった。


「ククク、ようやく消え去ったか……」

「……あぁ……?」


 ラシェルの次に、また人影。騎西はもはや使い物とならなくなった右目ではなく、左目でその人影を視界にとらえる。


「騎西善人……無能力者でありながらキレ者で、Bランクへの関門と呼ばれている少年……実にすばらしい逸材だ」


 白衣を身に纏い、眼鏡の奥底に不敵な企みを宿す男。そんな男が、騎西のことを素晴らしい逸材だと評価している。


「魔法使いが使い物にならないと分かった今、やはり頼れるのは科学しかあるまい」

「て、てめぇ、何を言って――」

「力が欲しくないか?」

「……は?」


 騎西は間の抜けた声を返すが、男は依然として真剣ともいえる声色で騎西に問いかける。


「今のあいつを倒す力が、Sランクにも到達しえる力が欲しくないかと訊いているのだ」

「……力……が……」


 ――力が、欲しい。


 ムカつく奴を倒す力が欲しい。ふんぞり返っている奴をぶっ飛ばす力が欲しい。Aランクを超える力が欲しい。


 ――あいつを、穂村正太郎を倒す力が欲しい。


「……寄越せよ……力を……!」


 動けない体を無理やり動かし、騎西は再び立ち上がろうとする。


「全部、全部俺がぶっ壊してやるから、力を……力を、寄越しやがれ!!」


 騎西の目にはもはや渇望しか宿っていなかった。強欲ともいえるほどの力への執着心だけが、今の騎西善人を突き動かしている。


「……ッフフフフ、ハハハハハハッ! いいだろう、くれてやる。貴様になら私の全てを賭けるにふさわしいだろう!」


 男は騎西に手を差し伸べるが、騎西はあくまで一人で立ち上がろうとしている。


「これくらい、一人で立ち上がれる! ……あんたは――」

「私か? 私は、そうだな……」


 ――アダムとでも、呼んでもらおうか。

これでこの編は終わりです。次もまた頑張りたいと思います。

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