第十八話 因縁
「――ふぅ、これ結局いらんかったか」
「鷺倉さん、大丈夫でしたか?」
待つこと数十分、鷺倉の姿が見えるなり穂村はその場に立ちあがる。
「中はどうなっていた?」
「そこまで詳しくは見ちゃおらんわ。ただ一つ言えるのは警備員がわんさかおったくらいやな」
そういって鷺倉は中からさらってきた警備兵二人を穂村達の前で開放する。警備兵とはいっても均衡警備隊のような防弾チョッキに銃といった武装ではなく、軽装のローブに魔法使いらしく杖を持っていたり、腰元に魔導書を携えているだけであとは素手であったりといった様相である。
「こいつ等がリュエルの私兵って感じか?」
「そうなるな」
穂村は早速燃える右手で警備兵一人の襟首を掴み上げ、脅しをかけるかのようにそのまま近くの壁へと叩きつける。
「おい。てめぇ等のボスはどこにいる」
「そう簡単に話す訳が――」
穂村は有無を言わさず相手の顔面スレスレを炎の拳で殴りつけ、壁に大きな焦げ跡を刻みつける。
「てめぇも壁のシミになりたくねぇならさっさと答えろ」
「ぐっ……」
「喋らないなら用はねぇ。さっさと死ね――」
「わ、分かった! 話すよ!」
「相変わらず乱暴なやり方ね」
「こう言う輩はこうでもしないと口を割らねぇからな」
流石に自分の命を落としてまで組織に尽くす忠誠心は無かったようで、男は穂村の脅しに対してペラペラと地下施設について喋り始めた。
「ち、地下はさっきの魔法陣から行ける。先に進むには俺達の様な警備以外に、ロボットも徘徊していて、監視カメラもあるんだ」
「チッ、魔法使ってる割りには随分とハイテクなマネしてきやがる」
「そ、それも、アダムってやつが配置しているからだ」
「アダム……?」
穂村はその言葉を前に、一瞬動きが止まる。そして時田はその場で大きくため息をついた。
「……おい、時田」
「全く、いなくなっていたと思ったらそういう事だったのね」
「お二人とも、何をお話しされているのです?」
「何でもねぇよ。ちょっとした因縁のある野郎が敵にいるってだけの話だ」
アダムといえば、イノとオウギを製造した張本人であり、秘密結社のボスだと思われていた男だった。だが現実としてアダムの上にリュエルというSランクの魔導王がいることが判明し、そして現在に至っている。穂村は再び会いまみえるであろう宿敵に対し、更なる闘争心を燃やし始める。
「今度こそ徹底的に叩き潰してやる」
「あのロリコン野郎、今度こそバランサーに突き出してやるんだから」
穂村と時田はこの先にいるであろう敵を見据えながら、寂れたマンションの中へと足を踏み入れていった。