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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―不思議な少女と揺らめく焔編―
3/149

第2話 不思議な力を持つ少女

「――見とったで、昼の大騒動!」

「あんなくだらねぇの見てる暇あんのかよ」


 日が傾き始める街中、帰宅の一路を辿っている途中で伽賀は穂村に昼の出来事を切り出し始めた。穂村の方はというとそのような低レベルなものになど興味を示さない様子で、適当にあしらおうとしている。


「あんなかっこええ技、うちも使うてみたいなぁ」

「くっだらねえ。あれは痛めつけるための技だ。敵を倒すための技じゃねえ」


 戦った当の本人にとって、あれは昼のあれは戦闘ではなく、一方的な蹂躙にすぎなかった。穂村としてはランクに関係ないことには興味がなく、一方的な痛めつけもあまり好きではなかった。


「それにしては楽しそうにしておったと思うけどなぁ」

「……誰が楽しんでザコの相手をするかよ」

「そうかいな……まあまたバトったらValtube(ヴァルチューブ)に上がるから楽しみや」

「そうかよ……じゃあな」

「ほな、また来週な」


 伽賀と別れると、穂村は早く家に帰ろうと歩く速度を上げる。そんな穂村の姿を周りの人々はちらちらと見てはひそひそと話を始めている。


「……おい、勝負しかけてみようぜ」

「無理に決まってんだろ。昼の動画を見てないのかよ」

「でも関門を抜けば一気にAランクだぜ?」


 関門――とりとめのない会話のなかで唯一、その単語だけが穂村の耳の強く残っていた。穂村は足を働かせながらも、その言葉だけはキッチリと耳に入れている。


「……チッ、関門か……」


 関門とはランクにおいて現在最強の者が持つ称号であり、次のランクに確実に上がる方法でもある。関門を倒せば無条件でそのランクを制覇したこととなり、次のランクへと段階を踏む事無く一気にのし上がれるのである。

 そしてそれは穂村にとって、忌々しい言葉でもあった。


「時田……あいつさえ倒せれば俺は――」


 ――アイツの正体が分かる。


“……けて……!”


 穂村の耳に、ここでは割と聞きなれているもう一つの単語が入ってくる。


“……たすけて!”


 それは直接脳内に入ってくるのか耳からの情報なのかはわからない。穂村はその場に止まりその声がする方、裏路地の方をじっと見る。日も落ちてきているためか、そこは光の届かぬ闇を作り出していた。

 穂村はその他にあたりを見回してみるが、自分以外には聞こえていないのか、はたまた聞こえたとしても関わりたくないのか、皆いつも通りの行動をとっている。


“だれか……ぁ……!”

「……」


 何を立ち止まっているのか。弱いものが虐げられるなど、この都市では普通によくあることだ。


 ――何故なら穂村自身も、最初はそうだったからだ。


「……」


 穂村はその胸に何を思ったのか、黙って足を裏路地へと向け闇へと消えていった。




「――ぁ……うぅ……い、やぁ!」

「そうはいかねぇんだ。こっちも理由があるんでねぇ」


 裏路地では一人の少女を三人のフードをかぶった男が取り囲んでいる。

 少女の見た目はまだ幼い子供のようで、その柔らかそうな金色の長い髪をふりふりと横に動かし明確な拒否を示している。

 それを大人の体格の男が取り囲んでいるというのは、傍目に見て気分が悪いものである。


「大人しくついてこい! 貴様は必要因子なのだ!」

「もぅ……いやぁ……だれかぁ……!」

「誰も来ねぇよ!」

「ここに一人いるぞ」


 男たちは声のする方を向く。

 男たちが路地の入口を向くと、すでに紅蓮の炎をたぎらせて戦闘態勢にはいっている少年の姿がそこにあった。


「ば、馬鹿な!? 防壁呪文はきちんと組んでおいたはずだ!」


 その言葉を聞いた穂村は、防壁呪文など貼られていなかったが、と首をかしげる。

 しかし男たちの方ももはやそんな事などどうでもよく、この状況における乱入者の正体を暴こうとする。


「き、貴様何者だ!?」


 穂村はそれを聞いて少し自信ありげに答えを返す。


「――『フレーム』、と言えばわかるよな?」

「『焔』だと!?」


 相手がたじろぐ姿を見て、穂村は内心安心した。

 先ほどの通り穂村は関門として有名であるため、自分の能力名いみょうを言えば相手のおおよその実力をはかることができる。

 今回こちらの名前に恐怖したということは自分より下のC、もしくはDということがはっきり分かるだろう。

 そしてこの場合、相手がDランクではないことはその見た目を見れば予想に容易かった。


「お前ら魔術師マジシャンだろ?」


 魔法などという普通なら馬鹿げていると思われても仕方が無いような、空想的産物ですらこの街では力として認められる。そしてこの街において、魔法は実際にあることが証明されている。

 ――空を飛ぶ、稲妻を呼ぶ、大地を肥やす。こんなファンタジーじみたことは全て魔法によって可能とされる。

 そしてこの街で力を評価するために、魔法使いは四つのランクに分けられる。

 一番下のランクから順に魔術師マジシャン魔法師ソーサラー魔導師ウィザード魔導王ロードの順。

 魔法使いの時点でDランクはあり得ないため、この状況で相手の魔法使いのランクを推理すると、Bランクの穂村が恐れられていることからCランクに当たる魔術師マジシャンだと容易に推測できる。

 ちなみに魔女の場合、魔術師ウィッチ魔法師ソーサレス魔導師ヘックス魔導王女ローヤルの順となる。

 そして見事にランクを言い当てられた三人の男はフードで表情は良く読めないものの、明らかにたじろぎ始めている。


「大の男が三人がかりで小さい子いじめんなよ、みっともねぇ」

「う、うるさい! 貴様に関係ないことだろう!?」

「関係あるさ」


 穂村は少女の方を見る。穂村は少女がその澄んだ瞳から大粒の涙を流し、助けてほしいと目で訴えてくるのが分かる。

 そしてそれに返すかのように、穂村は少しだけ口角を上げる。


「助けてって言われたから、助けに来てやったんだよ」


 穂村の体が紅蓮に包まれ、荒々しき炎と同化する。周辺の温度は上昇し、熱気とともに相手に明確な敵意を伝える。

 それを見た魔術師たちは術式を組み始め、目の前のてきを消し去らんと詠唱を開始する。


「――麗しき水精すいせいよ、その力の片鱗を我が前に示したまえ! 水撃スプラッシュ!」


 押し固められた小さな水球が目の前に現れ、その火を消さんと飛び掛かってくる。

 しかし炎は消えることは無く水球は一瞬で蒸発、己と相手との実力の差を知らされるだけの結果となる。


「くっ、まだだ! どんどん撃てぇ!」


 いくつ飛ばそうが結果は同じである。それどころか炎はさらに勢いを増して燃え上がる。


「……この程度で消火される訳にはいかねぇな」


 焔がより紅くなり、うねる様に穂村にまつわりつく。心臓の鼓動が熱く鳴り響き、全身に燃料を送り込む。


紅蓮拍動ヒートドライブ!」


 炎を纏った少年は一瞬で間合いを詰めたかと思いきや、魔術師の男の顔には既に拳が突き立てられている。そして男はそのまま有無を言わさず壁へと叩きつけられた。


「一人目ぇ!」


 続けて二人目は穂村に首根っこを掴まれ持ち上げられたかと思えばすぐさま地面と向かい合うこととなり、その場に残る焦げ跡とともに叩きつけられた。

 そしてその場に残るは最後の一人となる。


「さぁ、ラスト一人だ……!」

「ひ、ひいぃぃ!」


 残った魔術師は恐怖に怯えながらポケットからビンを取り出し、何を考えたのか即座に地面に叩きつける。すると地面から魔法陣が浮かび上がり、それが開いて別の空間へとつながり始める。


「待て!」

「待つ訳ないだろ!」


 残る一人は空間に穴を開け逃げ去ってしまったため、穂村は追うことができずに逃走を許してしまうことになってしまった。

 それはさておき今は目の前の少女の救出が先だと、穂村は改めて少女の方を向きなおした。


「おい、大丈夫か?」


 少女はうつむいたままこちらの顔を見ようとしない。穂村はその顔を見るため同じ目線に立とうとしゃがみこむ。

 そしてその顔を見ようと覗き込んだ瞬間――


「この!」


 軽快な音が鳴り響く。そして気づけば穂村の顔の左側は赤い手形がついていた。


「……は?」

「わたしはSランクに助けを求めたはずだ! なんでBランクのお前が助けに来る!?」


 穂村は一瞬自分がされたことと言葉の意味が理解できなかった。

 目の前の少女は輝くような金色の長い髪を揺らしていた。その髪を見た限り、それは染めているものではなく地毛だと思われた。サファイアのように澄んだ青い瞳からはすでに涙は止まっており、代わりに不満という感情を穂村に伝えている。


「おい、聞いておるのか! お前は呼んでおらぬと言っているのだ!」


 その言葉は何故か穂村に急ないらだちを覚えさせ始める。その右手の炎が消えずに轟々と音を上げて燃え残っている。

 少女はそんな事を気にすることもなく、足をプラプラと揺らし愚痴をはきだす。


「あーぁ、せめてAランクが来たならまだ希望があったのだが――」

「糞ガキが、言わせておけばなんだってんだ……」


 炎は消えたが穂村の両手は何かをつねるような姿勢をとって、威嚇をしている。しかしそんな威嚇など見てもいなかった少女は、穂村の方へ向きなおすと改めて結論を下す。


「だから言っているだろう! ひょまへひひゃひょひふゅひょーひゃいひょ、って痛いではないか!」

「ざっけんじゃねぇぞ糞ガキ! 散々助けを求めていたくせにこの野郎!」


 穂村は隙あらば頬をつねろうとするが、一度受けた痛みを忘れないのか少女はその攻撃を必死にかわそうとする。


「なんだよお前! Sランクが都合よく来るとでも思っていたのか!?」

「お前こそ、どうして来てしまっているのだ! 私はSランクにしか聞こえない様にしたはずだ!」

「どんな力を使ったか知らねぇが、Bランクの俺に聞こえているってことはポンコツってぇこったな!」


 激しい攻防を続けるが、やがて互いに意味がないということに気づき一時停戦をする。そして穂村は改めて少女について問う。


「はぁ、ったく……お前は一体何者なんだよ? どうして追われていた?」

「わたしの名前はイノ……Sランクになるはずだったものだ」



   ♦  ♦  ♦



 穂村はその素性を詳しく知ろうとしたが、その前に少女にお腹を鳴らされてしまってはどうしようもなくなってしまい、仕方なく近くのレストランへと足を運んだ。

 レストランは大通りの脇に二階建てで立っているため二階の方は見晴らしがよく、窓からは都市のシンボルともいえるひときわ高いタワーが見える。

 しかし少女にとって高い建物は興味の対象ではなく、逆に色とりどりの食事メニューにその目を輝かせていた。


「ファミレスがそんなに珍しいかよ……」

「う、うるさい!」


 穂村は自分の注文は既に決めてあるため、目の前の少女がその目をとめるのをじっと待っている。

 しかし少女はというとかれこれ十分以上メニューを見続けており、なかなか決まりそうには思えない。


「チッ、先に注文すっからそれまでに決めとけよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! もうすぐ決めるから!」

「それさっきも聞いたからな」


 しびれを切らした穂村は容赦なく呼び鈴を鳴らす。すると少女は明らかな焦りを見せ始め、ページをせわしくぺらぺらとめくっては戻しめくっては戻しを始める。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 少女がまだ決まっていないであろうというのにウェイトレスが注文を伺う。穂村はメニューを指さしてさっさと注文を始める。


「ステーキセット一つ。あとドリンクバー」

「はい、ステーキセットを一つにドリンクバーをお付けでございますね」

「おい、決まったかよ?」

「待ってくれ待ってくれ、えーと、えーと」


 こうして焦っている様は年相応にも見えて可愛らしくも思えてきたが、それも次の言葉で打ち消されることになる。


「チーズハンバーグセットに、ミートソーススパゲッティに、かにクリームコロッケに――」

「ちょっ、ちょちょちょちょっと待て! 馬鹿かお前!? 頼み過ぎだ!」

「決められないから全部頼むことにした!」

「ハァ……店員さんちょっと今の無しで……」


 店員が苦笑いでいるなか穂村は急いでメニューのあるページを開きなおし、そのなかの一つを指さして注文をし直す。


「こいつにお子様セットで」

「かしこまりました」

「ちょっと待て! わたしはお子様じゃないぞ!」

「どこからどう見てもお子様だこの野郎……」


 しばらくして少女の注文の方が先にテーブルに並べられる。


「どうだ! わたしの方が早かったぞ!」

「料理に早いもクソもあるかよ……」


 穂村は愚痴りながらも少女の注文した料理が目にはいる。ここの料理はお子様セットであろうと豪華なようであり、写真をよく見ず注文した穂村ははずれではなかったようだと少し安心した。


「おお! これはハンバーグからコロッケまでついているぞ!」

「ナポリタンまでついているようで何より」

「Bランクの割によくやったぞ! ほめてやる!」


 うるせーよと内心穂村は思ったが、少女の喜ぶ姿を見てまんざらでもない様子であった。

スプーンとフォークを持って食事態勢にはいった少女は、口元にケチャップをつけながらもその豪華な食事を楽しんでいる。


「ステーキセットのお客様―」

「こっちです」


 穂村の目の前にじゅうじゅうと肉が焼ける音が立つ。程よく焼かれた証拠であるこげ茶色の表面と、その香りが食欲を引き立てる。


「……さて、いただきま……なんだよ」

「……」


 少女はその手を止め、明らかの自分の料理とは違う方へと目線を向けている。


「……一口欲しいのか?」

「へ? ち、違うぞ! わたしはそれが何かなーと、気になって見ていただけだ! 決して食べたいわけでは――」

「ったく……ほら、食え」


 穂村はため息をつきステーキを一切れ切ると、少女の目の前へと置く。


「……どうした? いらねぇのか?」

「ふ、ふん! どうしてもというのなら貰ってやらんでもない!」

「いらねぇんだな。じゃあいいや」

「あぅ……」


 穂村がその一切れを突き刺し、口へと運ぶ。

 塩コショウで程よく味付けをされつつも、肉本来の味を阻害しないようにされているためとても美味い。

 穂村がさらにその味を楽しもうとするが、やはり目の前の少女の視線が気になる。


「じぃー……」

「……お前も素直じゃねぇのな」


 穂村はもう一度ステーキを切り出し、少女の方へ皿全体を動かす。

 少女は目を一瞬輝かせるが、先ほどの手前手を動かそうとしない。


「……いいから食えよ」

「ほ、本当にいいのか?」

「食っていいってんだから早くとれよ」


 少女は目を輝かせ、フォークを掲げる。そして――


「ありがたくもらうぞ!」


 フォークを大きい肉の方へと突き刺した。


「……ハァ!?」


 穂村は自分の目を疑った。疑った結果目をこすってみるが、やはりフォークが突き刺さっているものの大きさが変わらない。


「ちょ、お前そっちじゃねぇだろ!?」

「くれるといったではないか!」

「そっちじゃなくてこっちの小さい方をとれよ!」

「私は大きい方がいいのだ!」


 ギャーギャーと店内で騒ぐ二人に対し店内の注目が集まる。しかしそれ以上に窓の外に注目が集まり始めた。


 ――二人の頭上に影が伸びる。日が落ちるにしてはいささか早すぎる時間帯である。

 異変にきづいた穂村はその手を止め、窓の外を見る。その隙に少女は穂村から肉をぶん捕り、大きく口を開ける。

 窓の外に映っていたのは大型の戦闘用ロボットだった。鋼鉄でできたロボットは右腕を大きく振りかぶり、あるモーションをとる。


「――チッ!」


 次の瞬間、鉄塊が二階に突き刺さる。ガラスが割れる音と悲鳴が店内に響き渡る。

 穂村たちが座っていたはずのテーブルは跡形もなく粉砕されており、もはや見る影もない。

 しかしそこに倒れる二人の姿は無かった。


「……特撮ショーならよそでやってくれよ」

「あぁー! ステーキが……」


 穂村は間一髪のところで少女を抱きかかえ、その一撃を回避していた。そして食事にありつけず気を落としている少女を下へ降ろし、襲撃してきた存在と向き合う。


「飯食ってる時に勝負挑んでくる馬鹿がどこにいんだよ」

「貴様に用はない。『フレーム』」


 ロボットから通信越しの声が届く。どうやら相手は穂村が目的ではないらしい。ならば何が目的なのかと、穂村は聞き返す。


「そこにいる素体リソースに用があるのだ」

「……!」


 素体、という言葉に少女がびくつく。少女の身体の震えが、穂村の握られている手越しに伝わってくる。

 それを見た穂村はロボットから少女を隠すようにさりげなく後ろへやると、ロボットにその目的を問う。


「一体何が目的か、俺にも教えてくれよ」

「貴様が知る必要などない。速やかに素体をよこせ」

「嫌だと言ったらどうする?」


 ロボットは再び右腕を振り上げる。それはお互いの交渉の決裂を現している。


「――力づくで奪うだけだ!」


 再び右腕が穂村へと向かう。ガラスを突き破る一撃をかわすと、穂村はとっさに少女を背負って両足に力をこめる。


「しっかり掴まっとけ!」

「う、うん……」


 穂村のかかとからジッポライターをつけるかのように不規則な火花を放たれ、炎が赤々と燃え上がり始める。


「こっちに来てみろよ! ポンコツ野郎!」


 割れた窓から飛び出し、手足の炎をジェットエンジンの様に轟々とたぎらせる。そしてそのまま宙に浮いて挑発し空へと飛びだす。


「逃がすわけがないだろう!」


 続けてロボットも背中のジェットパックに点火をし、穂村の追跡を始める。穂村は相手の予想外の行動に目を丸くした。


「おいおいマジかよ、あの機体飛べたのか!?」

「カスタムタイプだ。貴様の情報を分析した結果、あらかじめ対処できるように改造しておいたのさ!」


 穂村を追跡しているのは汎用的な無人タイプの陸戦ロボットであり、そのランクは穂村と同じくB。しかしこれはあくまで無改造の場合である。

 どうやら科学の結晶を動かしている相手は自分の能力のことをしっかりと研究していたらしく、対策もばっちりの様だ。


「チッ! 魔法使いだけじゃなく科学者にも人気とはなぁ! お前はアイドルかなにかかよ!?」

「ちがう! わたしは――」


 ロボットの背中のミサイルポットから複数のミサイルが向かう。その一発一発は明らかに人ひとりに対しオーバーキルなほどの威力を兼ね備えている。


「馬鹿が! 熱探知ヒートシーカーなんざ意味ねぇんだよ!」


 それを見ても穂村は一切臆することなく右手を振るう。

 火の粉は散り散りに振り撒かれ、熱探知型ミサイルはその火の粉ひとつひとつに向かっていき爆発した。


「研究不足だったんじゃねぇか?」

「――それはどうかな?」


 ミサイルは囮だった。

 視界が煙でさえぎられるなか、煙の中から飛び出したのはロボット本体。右腕を槌に変形させ、穂村を叩き落とそうと襲い掛かる。


「危ねっ!」


 穂村は仰け反るように後ろへと回転し、そのまま下へと急降下する。


「逃がすか!」


 ロボットも追従し、地面との挟み撃ちを狙う。


「このまま潰してやる!」

「一人で潰れとけ!」


 穂村の目に地面のアスファルトの模様が見え始める。

 その瞬間、穂村は地面ギリギリの所で裏路地の方へと方向転換をし、入り組んだ細い裏路地へと入りこむ。

 ロボットの方は急な方向転換に対応ができず、そのまま地面に轟音を立ててぶつかってしまう。


「次はそいつの機動力まで改造しとけよ!」


 穂村が捨て台詞を吐いた後に爆音が鳴り響くのを耳にすると、先ほどのロボットは追ってくる様子はないのが判る。

 黒煙が立ち上るのを後にして、穂村は帰宅の一路へと飛び去っていった。



   ♦  ♦  ♦



 穂村は学生の身でありながら一人暮らしであった。ヴァルハラ居住区の一角にある賃貸マンションの五階に穂村の住む部屋がある。

 部屋は非常に狭く、ただでさえ小さな部屋にベッドとテレビが置いてあるだけで既に座る場所など限られていた。


「今週まだ掃除してねえ……」

「本当だな。汚いぞ」

「うるっせえ! 文句があるなら出ていけよ!」


 穂村は少女の率直な感想に怒ってみせたが、少女は出ていくことなくずかずかと部屋へ入り込みテーブルの近くに座り込む。そして勝手にリモコンをいじくりテレビをつけ始めた。

 子ども向け番組にチャンネルを合わせるところはやはり子どもといったところか。


「ったく……しかしどうなってんだ? お前を狙っているのは一つの派閥だけじゃねぇってことか?」


 本来魔法使いと科学者の目的が被ることはあり得ることではない。むしろ対立的立場にすらあるほどだ。

 しかし今回いずれも、少女を狙って動いていた。


「……」


 先ほどまで元気だったはずの少女は、穂村の言葉を聞くと黙ったままうつむく。


「……なんか言ってくれねぇと、俺もどうしようもないんだよ」


 穂村は少女の近くに座り込み、少女の肩に手を置く。そしてそこで少女が震えていることに気づいた。

 穂村は何があったのかを聞くことは後回しにして、まずは少女を安心させることに尽力してみる。


「……なあ、俺の実力はさっき見たはずだぜ? お前を助ける実力くらいはあるはずだ……だから教えてくれよ、お前を狙っているやつらのことを」


 穂村はそう言って少女の頭を優しく撫でる。すると少女は目元に涙をためたまま穂村の方を向き、その理由を話す。


「に、逃げてきたのだ……」

「ハァ? おいおい、逃げるって何からだよ? 親子喧嘩とかなら俺が間に入って――」

「違う!」


 少女の強い言葉に穂村は茶化す口を閉じ、少女と改めて向き合い始める。少女は自らの知る限りの言葉でその逃げた理由を伝えようとする。


「……わ、わたしは、『きゅうきょくの力』を、宿す計画のために、生まれたときから研究所で過ごしてきたのだ……そして今日、その研究所から、私は逃げ出したのだ……」

「『究極の力』……?」


 『究極の力』とはなんなのか? 穂村が疑問に思っていると、少女は説明を続ける。


「……もともと、わたしが持っている力ではなく、人工的に力をつけることでSランクを生み出そうとするのだ……『きゅうきょくの力』とは、Sランクすら倒せるほどの力なのだ……」


 力の付与?

 穂村の能力、『焔』は生まれ持ってした能力であり後天的につけられたものでは無かった。

 更に言うと穂村の知る限りだと能力は生まれ持った限りのものであり、後から追加などできるということは無かったはずである。


「お前自身はもともとDランクだったのが、さっきの奴らがその『究極の力』ってやつを無理やりつけさせることでSランクにしようってしてたのか?」


 少女はゆっくりとうなずく。


「そ、そうだ……わたし以外にも、同じ素体は何人もいた……けれどわたし以外はみんな、死んでしまった……わたしはこわかった……次はわたしがそうなるのではないのかと、みんなと同じ、ごみばこに捨てられてしまうのではないのかと」


 その言葉に穂村は次に放つ言葉を失った。

 目の前に数多の犠牲を通り越して造り上げられたSランクがいる。その見た目はただの小さな少女だが、その内側にあるのは『究極の力』。

 そしてその力の犠牲となった子ども達の事を考えれば、穂村は自然と真剣な眼差しになって少女の話に耳を傾けている。


「さっきの追っ手は多分、研究所おうちの人だ……『きゅうきょくの力』に関わっている人はいっぱいいる……かがくしゃ、まほうつかい、たくさんの人がいる……そんな人たちが追ってくる……だからわたしは、より強いSランクに助けを求めていたのだ……けれどお前が来て、わたしを助けてくれた……」


 少女は穂村に抱きつくと、声を震わせ今まで溜めてきた感情を吐き出す。


「本当はこわかったのだ! ……だれも来ないと、思っていた……」


 穂村はやれやれといった表情で少女をあやすと、少女とある約束をする。


「……わかったよ。お前を守ってりゃ強い奴らとも戦えるんだろ? 俺にとっては願ったりかなったりじゃねぇか」


 穂村は少女の目を見て、優しく微笑む。


「イノ、だっけか? お前を俺が守ってやるよ」

「……ありがとう」


 その日やっと、イノの口から感謝の言葉を聞くことができた。









――“嬲ってやる……”

――“犯してやる……!”

――“ブッ殺してやる……!!”

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