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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―夢幻の可能性編―
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第5話 不可侵

「――で、説明してもらおうかしら? 『フレーム』」

「せーんぱーい、この人達って誰ですか? ……えっ? ただのお友達ですよね?」


 時刻は既に七時を回っている。普通なら美味しい夕食を食べていてもおかしくはない時間帯だが、この日穂村が口にしているコロッケ定食に味など存在していなかった。


「……あんたの知り合いの子って病んでるの? 最初私に会った時にもあんな感じだったんだけど」

「知らねぇよ……」

「しょうたろー、どうして二人とも怒っているのだ?」

「分かる訳ねぇだろ……」


 ソース片手にどっと疲れたような表情で、穂村は死んだように二人の謎の口論を見守る。


「時田さん、ですか? 能力使って飛んでいる先輩に乗りかかるなんて、随分と迷惑をかけているようですね」

「アンタこそ、『焔』に随分とたかっているみたいじゃない。一体いくらもぎ取ったのかしら?」

「なっ! 私はその代わりに先輩に真心を込めた美味しいご飯を食べさせているんですよ!?」


 その割には今日のコロッケから味がしないのは俺の舌がおかしいのか? と穂村はこの状況に胃をキリキリいわせながら無言でコロッケを口に運んでいた。


「しょうたろーのそれ、おいしそうだな」

「お前もう晩飯は食わせてもらったんだろ? これは俺の飯だ」

「ケチ」

「うるせぇ」


 オウギにも物欲しそうな目で見つめられたが、穂村は無駄に消費した分の燃料カロリーの補給をしなければならず、皿を自分の方に寄せてから再び箸を動かし始める。


「むぅー……」

「大体、後輩のくせに先輩に対してそんな口のきき方をするの?」

「別に時田さんの後輩になった覚えはないですし」

「ぐぬぬぬ……」

「しょうたろー、ちょこっとだけ」

「ダメだ」

「むぅぅぅぅー!」


 イノも含めもはやそっとしておくほかないと思った穂村は、その場にいる者を無視して一人夕食を黙々と食べ続けている。


「大体、貴方は穂村先輩の何なのですか!? 私は後輩として、そしてここで働いている従業員として先輩をもてなすという役割があるんですけど!」

「フン、そういってなんとか気を引こうとしているだけなんでしょ? アタシはね、『焔』の方から色々とつきまとわれている方なんだから!」

「ハァ!? お前言い方がおかしいだろ!?」

「でもあながち間違ってはいないでしょ?」


 時田は勝ち誇るかのようにそう言うが、穂村にとっては意味合いが違っている。

 時田にはあくまでAランクの関門としてしつこくバトルを仕掛けているだけであり、時田自身には穂村は興味もなんともない。

 ……全くないと言えば、嘘にはなるが。


「ぐぬぬ……」

「フフン。所詮Dランクの定食屋の娘ってところね。アタシの方がまだ希望があるわ」

「一体何の話をしているんだよ……」

「……あんた、いつか女の人に刺されるよ」

「ラシェルまで意味わかんねぇ事言いやがるし……」


 女性に意識されていることに対して本当に鈍いのであろうか。ラシェルは自分の時も無造作に話を進まされたことを考えると、本当にこの男にはそういった感情がインプットされていないのではないかと思わざるを得なかった。

 そしてそんな状況を更に面倒にする者が。


「しょうたろーが刺されるのか!? 大変だぞそれは!」

「そういう意味じゃないのよイノちゃん。大人の話なの」

「おいラシェル、面倒な言い方で片づけるなよ」

「大人の話!? それは前にときたも言っていたことか!?」


 大人のお話などという余計にこじらせるような言い方にイノは更に興味を示し始め、離しに何とか語れないかと色々と穂村に質問を投げかけてくる。


「しょうたろー! しょうたろーが喜ぶことなら、わたしは何でもするぞ!」

「だったら今は話に語らずに黙っていてくれ。それが一番喜ばしい」


 頭痛がひどくなっていく最中、とうとう話題が穂村自身に向けられていく。


「先輩もそろそろ決めたらどうですか!?」

「何をだよ……」

「これだけ女の子に囲まれて、何一つ思うところもないなんておかしいわね……それとも、『フレーム』はソッチ系だったりするワケ?」

「勝手に俺の好みを決めてんじゃねぇよ」

「だったらいい加減決めたら?」


 穂村にとっては今まで全然そういうつもりが無かったが、相手二人にとってはそれなりに女性としてのプライドも含めて張り合うところもあるようだ。


「アタシこれでも高校で結構人気者だしー、実力といった面でも『焔』とは切磋琢磨していけると思わない?」

「わ、私だってご飯ちゃんと作れますし! そのコロッケ私がつくったんですよ! 美味しいですよね!?」

「あ、ああ……そうだな」


 場に流れる空気のせいで味がしないなんて、今の穂村に言えるはずもない。


「私と、け、結婚すれば毎日タダで美味しいご飯を食べられますよ! 感謝してプロポーズしてくださいよ先輩!」

「話が飛躍しすぎだろ……」


 穂村は適当に話を濁そうとしたが、それを二人が許す様子はない。


「いいから」

「早く」

「決めてください!」

「決めなさいよ!」


 これ以上ないほどに詰め寄られた焔だったが、これ以上は我慢の限界だった。


「――どっちもうるせぇ!!」

「ひゃっ!?」

「わっ!? びっくりした!?」

「俺は誰とも付き合う気はねぇよ! バァーカ!」


 顔を真っ赤にした穂村は急いでテーブルに代金を置くと、その場から逃げるようにして店を出て行った。


「あっ! 先輩!」

「おーおー、鈍いかと思ったけど一丁前に照れ隠しってやつ? ってイノちゃん達置いて行っちゃっているし」


 穂村の様子を外野から見ていたラシェルは穂村の滑稽さに皮肉を言うが、イノとオウギを置いて行っていることに気がつくと、この状況でイノ達二人を穂村の家に送らなければいけないことに対し今度は愚痴を漏らした。

 栗城は最初穂村を怒らせてしまったかと慌てていたが、ラシェルの言葉に納得することで、今は焦った気持ちを落ち着かせている。

 そして時田はというと……穂村の様子を観察していて、大きな違和感を覚えた。

 あれは単に鈍感で、しかも照れ隠しをしていただけとは思えない。何かもっと大きなことを隠しているような、わざと特定の話題を避けているような雰囲気を時田は感じ取っていた。


「……とにかく、しばらくの間茶化すのは止めときましょうか」

「そういえば、時田さんは穂村先輩を狙っているワケではないんですか?」

「ハァ? 誰があんな朴念仁を狙うワケ? アタシは完全興味本位でアイツを弄っているだけだから」

「そ、そうなんですか……」

「それにしても面白かったわよ。アンタもまさかアイツの為にそこまで慌てふためくとは思っていなかったし」


 穂村がいなくなったことにより、時田は弄る矛先を今度は栗城に変え始める。


「そ、それは私もっ、先輩をからかうのが楽しかっただけで――」

「あーハイハイ、分かったから分かったから。さて、アタシも何か頼もっかなー」

 時田の図太い神経を前に、ラシェルは思わず呆れた声を漏らす。

「……あんた、本当に良い性格しているわね……」



          ◆ ◆ ◆



「――もう寝るぞ。布団に入れ」

「えぇー、眠くないのに?」


 部屋の時計はすでに十時を回っている。テレビのリモコン片手に不満げな小さな少女二人を前に、穂村は容赦なくリモコンを取り上げてテレビの電源を消す。


「規則正しい生活を身につけろ」


 そういうと穂村は明かりを消して、一人ベッドに敷かれている布団に潜り込む。イノとオウギはその様子にしぶしぶ床に敷かれた布団を被るが、それでもまだ目は冴えたままだ。


「……しょうたろー」

「……なんだよ」

「眠くないぞ」

「……目をつむっとけ」

「お話して欲しいぞ」

うちに絵本なんざねぇよ」


 イノはそこで布団から起き上がり、穂村に一つお願いごとをする。


「だったら、しょうたろーのお話をしてほしい」

「俺の?」

「うん」


 穂村とイノ。二人は一緒に過ごすようになってからまだ日が浅い。だからこそイノは、穂村のことを知りたいと思っていた。

 それからイノは、更にこう付け加えた。


「あの時しょうたろーは、どうしてあんなことを言ったのだ?」

「…………」


 無邪気な質問であったが、穂村にその問いかけは意外にも深く突き刺さった。


「……あれは三人の問題だ。お前は関係ないだろ」

「関係あるぞ」


 穂村のごまかしは、純粋な心を持つ幼い少女二人に通用しなかった。


「おねぇちゃんはずっと不思議そうにしていたぞ。嫌いってウソをついているって」


 だが少女二人は純粋すぎるが故に、人には触れて欲しくないところにまで土足で上がり込もうとしてくる。


「……誰が嘘をついているだと?」


 穂村は少し声色を変えて、二人を問い詰める。

 相手がイノであろうと、穂村にとって不可侵の域にまで踏み込まれてはいつもの対応をしていられない。

 大切な存在だからこそ、そこに触れられてしまっては今までと同じように一緒に過ごすことができなくなってしまう。


「……しょうたろー?」

「俺は嘘をついていない。それ以上は聞くな」

「でも――」

「黙って寝ろ!! お前には知る必要のない話だ!!」

「っ!」


 穂村はそれ以上何も言わなかった。ただ黙って何かから身を守る様に、頭から布団をかぶり、そのまま一切動かなかった。


「しょうたろーを怒らせてしまったぞ……」


 イノは穂村に対して素直に謝ろうと思い布団へと近づいたが、それまで大人しく布団に入っていたオウギが黙ってイノの腕を掴んでそれを制止する。


「おねぇちゃん? どうして引っ張るのだ?」

「…………」

「……そうか、今はそっとしておいた方がいいのか」


 穂村は一連のやり取りを聞いて黙ったままだったが、もしオウギが自分の心を読んでいるのであるならと考えると、心の中でこう強く念じた。




 “――次に俺の心に土足で踏み入ったなら、この家から追い出す”と。

取りあえず不定期書き溜めはここまでです。このあと少し(多分二週間くらい?)程空いてまた更新を再開したいと思います。頑張ります。

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