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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
155/156

第九章 二十六話 蒼と蒼

「…………」


 ――私を倒すなんかよりよっぽど決着をつける必要がある物事がある筈よ。


「……チッ、どいつもこいつも知ったような口利きやがって」


 言われなくとも分かっている――自分には確かに、向き合わなければならない問題がある。しかしそれと向き合うだけの度胸が、穂村正太郎にはまだ備わっていない。


「……俺に、どういうツラで向き合えってんだよ」


 地面に大の字で寝転がったまま、右手に炎を燻ぶらせたまま、穂村は星が見えつつある夜空を見上げていた。


 ――今でも時々夢に見る、あの日のことを。それこそ『傲慢』にその身を委ねていた時ですら、強制的に見せつけられるように、その夢を見てしまう。


 ――子乃坂ちとせを、守るべき存在を己が手で汚してしまったあの瞬間のことを。


「…………」

 あの時、自分にもっと力があれば――そう思って力帝都市に、足を踏み入れた。それが正解だったかどうか、今でもまだ答えは出ていない。

 蛇塚を倒しさえすれば、罪悪感は消えると思っていた。しかし結果は子乃坂をこの力帝都市に引き入れることとなってしまい、戦いの日々に巻き込んでしまっている。


「…………」

 結局今の自分があるのは、あの時の自分があるから。過去を動かすことなどできはしない。今の自分がいくら変わったとしても、それは過去の自分に上塗りをしてごまかしているだけに過ぎない。


「……そもそも最初から間違えていたんだ」


 間違いを正そうにも、何処から手を付ければいい? どうすれば過去は帳消しになっていく?


「最初から間違えていたんだから、どうしようもねぇ」


 ――“だからこれ以上、子乃坂ちとせには深入りしねぇってか”


「そういうことだ。あいつが困っている時は、俺はいくらでも手を差し伸べるし、この身を犠牲にしても構わねぇ。だがそれに対して俺が感謝されることがあってはならねぇ。俺にはそもそも、子乃坂と対等に付き合える資格がねぇんだよ」


 そうして自己嫌悪に陥っていけば、家に帰ることもまた億劫になっていく。

 明日になれば、また学校がある。その為にも家に帰るしかないのは分かっている。しかし今は、そんな気分になることもできない。


「……適当に十四区画あたりの隅で、今日は寝るか――」


 ――夜空に鮮やかな蒼い焔が舞い上がっていくのを目にしたのは、その時だった。


「なっ!? 蒼い焔だと!?」


 ――“オイオイ、テメェ以外でいるのかよ? そんな焔を出せるヤツ”


「っ、炎熱系最強っつー噂の緋山ですら噴火の炎だろ? どんな冗談だっつー話だ!」


 既にボロボロの身でありながら飛び跳ねるように上体を起こし、目の前で起こっている異常事態の原因を探るべく、両足に焔を灯しだす。


「チッ、防護壁も既に上がってきてやがる……何とか入るしかねぇか」


 ――“いいのかぁ? 家でガキ二人も待ってるぜぇ?”


「分かってる……だがそれよりもあの青い焔――」


 ――俺にとっては嫌な予感しかしねぇんだよ。



               ◆ ◆ ◆



「――火炎拳バーンナックルッ!!」


 炎熱系最強の戦いは、遂に空中戦にまで及んでいた。ジェット噴射による飛行をする穂村クローンと、砂によって爆風に乗るように滑空する緋山によって、第十二区画だった場所は、炎の海へと沈もうとしていた。

 そんな中でクローンの穂村が放つ赤い拳を、緋山は片手で掴んで抑える。


「この期に及んで赤の炎なんざ、効かねぇよんなもん」


 それまでの高熱を伴った蒼い焔ではなく、緋山でも火傷しない赤の炎による攻撃。それ自体は緋山にとっては、単なる煽りでしか受け取れなかった。


「ひゃはっ! やっぱりそうだろうな! 炎熱系最強が舐めプされてりゃ、そうやって抑えつけにかかるよなァ!?」


 しかしここで穂村の反対の手に青白い焔が収束されていくのを見て、緋山はようやく自分が釣られてしまった事に気が付くことになる。


「くっ、おいおいそんな卑怯な手を使うのかよ穂村正太郎はよぉ」

「見抜けなかったてめぇが馬鹿なだけだろうが!」


 砂と化して逃げようとする緋山だったが、そのそっ首が穂村の蒼い焔によって捕まれる。


「ぐ、がっ……!?」

「砂っつーことはほとんどが石英だから、二千度もあれば溶けるだろ? だったらこの炎で掴んでやれば、てめぇは砂じゃなくなる!」

「がはっ!?」


 溶けてしまえば砂ではなく、それは緋山の能力制御の管轄から外れてしまう。そうして緋山の弱点を炎熱の差でもって示した穂村は、そのまま緋山に止めを刺すべく更なる力を籠めて炎を収束させていく。


「あばよ、“元”炎熱系最強。原初の(マザー・オブ)――」


 獄炎によって緋山が文字通り火葬されそうとなったその時――


「――炎装脚レッグバーナーッ!!」

「ぐぁあああっ!?」


 何者かの燃え盛る蹴りによって、穂村の拘束が解除される。


「ッ!? 誰だてめぇ!!」

「てめぇこそ誰のつもりだ。……ふざけたツラしやがって、ブチのめすぞ」


 互いに鏡合わせの様に、全く瓜二つの存在が同じ場所で相対する。そしてお互いを認識するなり、ほぼ同時に眉間にしわを寄せ、怪訝な表情で互いに睨みつけ合っている。


「ぜひゅぅ、ぜひゅっ……っ、お前、本物の穂村か!?」


 溶けた喉を再び砂で再形成し、緋山は何とかその一言を口にするが、乱入者から返ってきたのは呆れの混ざった言葉。


「ハァ? てめぇ寝ぼけてんのか。そんな“どうでもいい”こと聞いてんじゃねぇ。むしろこっちが聞く方だ」


 そうして問題となっている人物に向けてクイッと顎で指した穂村は、緋山に向けて質問を返す。


「――何で俺がもう一人いやがるんだ」

「はは……ははははっ! 面白れぇ、偽物まで出てくるとはなぁ! 俺は俺を超えてみせる! そして――」


 ――俺こそが最強ってことを証明してやるよォッ!!

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