第十四話 格下の扱い
「ったく何なのよ一体! アタシとあのクローンとで防護壁に囲われることってあり得るの!?」
防護壁による隔離は、あくまでSランク同士による苛烈な戦いを想定してのもの。
しかし赤い炎を身に纏う穂村が相手となると、その組み合わせは百を超える回数が記録された戦い。対して今までに本当の意味での穂村正太郎と戦ってきた中で防護壁に囲まれたのは、たったの一度だけ。それも測定不能でランク決定が保留となってからでしかない。
「何だなんだ? なんか壁で囲われたみてぇだが……」
「クッ、仕方ない――」
赤い炎が相手とはいえ、既に相手は物理的な攻撃が無効化されている。となれば時田はSランクの穂村向けに編み出していた戦法を再び繰り出すべく、その場から姿を消す。
「っ、どこいった?」
クローンの問いに答えは返ってこず、代わりに次々と周りのビルの支柱となる部分が音を立てて破壊されていく。
「なっ!? なんだ!?」
「アイツは何とかしてみせたけど、アンタはどうかしら!?」
次々とビルが傾き、それら全てが穂村の方へと向かって倒れていく。
「うおぉっ!?」
ビル同士の衝突音、そして大量の瓦礫と化したビル群がクローンを圧殺にかかる。
「一応ダメ押しでこれも!!」
ビルに備え付けてある防火水槽をいくつも蹴って穂村へと叩きこめば、炎への変化も防がれてしまう。
「くっ、これじゃ炎に変化すら――」
「ハイ、おしまい」
流石にその身を灰燼へと変えて逃げ去るまではできないようで、クローンの穂村はそのまま大量の瓦礫の下に生き埋めとなってしまう。
それと同時に防護壁も解かれ、公式にこの戦いが時田の勝利によっておさめられたと証明される。
「それにしても弱すぎ! アタシの知ってる正太郎より遥かに格下!」
遥かに、というのは時田の主観も入っているのかもしれないが、事実としてかつて穂村と戦った時にはこの戦法が破られている。それを何の抵抗も出来ずに生き埋めとなってしまっては、本物の穂村には遠く及ばないと結論づけるのも仕方がない事だろう。
「……ったく、なーんか嫌な感じなのよね」
勝敗もつき、クローンも今度こそ再起不能となっているはず。しかし時田にとっては気味が悪いとしか言いようがなかった。
「まるでアタシを使ってデータを取っているような……まさかね」
穂村正太郎を再現するという意味で、一番穂村と戦ってきた時田が検証相手として利用するのは筋が通っている。しかし時田が一番よく知っているのはAランクの関門時代の穂村であり、今の穂村ではない。
「……アタシだって知りたいわよ」
――今の穂村正太郎のことを。
◆ ◆ ◆
「――う、うわぁあああっ!? あれじゃ回収が難しすぎるぅうう!!」
瓦礫に埋められ真っ暗になったモニターを前にして、天木は悲痛の叫びをあげる。
「残念だが、今回のデータは取り直しだな」
隣で阿形が呆れた様子で天木を見ているが、天木はというとまだまだ諦めないといった様子で次なるクローンの生成に取り掛かり始める。
「く、くっそぉ……流石に一気に成長させすぎたか……し、しかし! これで分かった! 奴に当てるのは今後Bランクに調整した穂村正太郎にしよう!」
「ん? だったら今回仕上げたAランク程度の調整をした穂村正太郎はどこに当てるつもりだ?」
「そんなもの、決まっているだろう?」
――穂村正太郎と因縁深いもう一人の相手、今の穂村正太郎と渡り合った唯一の男、騎西善人がいるじゃないか。