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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
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第三話 黒いカード

「――ってことで、お昼ご飯も兼ねて色々とお話聞かせてもらいましょ!」

「うーん……そうは言ってもどこから話せばいいのか――」

「こいつには何もしゃべらなくていいぞ。こいつの口は拡声器スピーカーみてぇなもんだからな」

「ちょっ、なっ!? そこまで言わんといてもええやん!?」


 かつては『きゅうきょくの力』を持つと豪語していた幼い少女を連れて入ったこともあるレストランにて、穂村は子乃坂と伽賀の二人と席を一緒にしていた。


「それよりもイノちゃんとオウギちゃんを家に置いてて大丈夫なの?」

「あいつらもバカじゃねぇ。俺が学校に行くことも分かっているし、いざという時に連絡も取れる」


 そう言って携帯端末の画面を叩いて電話をかける。数コールもかからない内にスピーカーから聞こえてきたのは幼い少女の活発な声。


「しょうたろーか!? 今どこにいるのだ!」

「レストラン」

「えぇーっ!? 今日は家で食べるって言っていたのに!」


 イノとしては不満をぶちまける程度の発言であったが、言い分を聞く限りでは現在の穂村がこの場にいる状況は問題のように聞こえてくる。


「ちょっと、イノちゃん達のご飯はどうしたの!」

「家にも飯ぐらいあるし、腹減ったら勝手に食うだろ」


 穂村の方も流石に何も用意していないといったぶっきらぼうさはなく、いざという時の為の温めて食べられるレトルト食品を用意しておくなど、それなりの配慮をしているつもりだった。しかしイノを見たことがある子乃坂だからこそ、その程度の用意で納得できる筈がなかった。


「あのねえ……」

「その声はちとせか! しょうたろーとご飯とかずるいぞ!」

「あぁー、ゴメンゴメン! 今から穂村君連れて家に帰るから、そこで一緒にご飯を食べましょ!」

「分かったー!」

「伽賀さんも、それでいいですよね?」


 一連の流れを聞いていた伽賀も、当然といった様子で首を縦に振る。


「モチロンええよー。というかあんさんの家にまだ小っちゃい子がおること自体へのツッコミはさておき、こういうのは言ってくれんとアカンやろ」

「何でこれで俺が怒られなくちゃならねぇんだよ……」


 勝手にレストランに連れてこられた挙句、今度はこの場にいることを怒られてしまうなど、振り回されっぱなしの穂村にとっては理不尽としか言いようがない時間でしかなかった。


「ったくよぉ……」


 結局ドリンクバーもまともに飲まないままに会計に向かわされる穂村だったが、これまでと違う点がひとつだけ存在している。


「会計、このカードで」

「はい! ……えっ」

「ん? こいつ出せば何でもタダなんだろ?」

「しょっ、少々お待ちください!」


 この力帝都市において身分証代わりともいえるランクカード。その色は以前の穂村が持っていたものとは違って真っ黒なものだった。


「それ本当に凄いよね。何でも無料って噂のカードでしょ?」

「なっ、なななっ!? 噂には聞いとったけどあんさんホンマにSランクになったんか!?」

「んだよ、説明面倒だからしねぇけど、一応Sランクには上がったぞ」

「ってことは時田にも勝ったんか!?」

「まあ、完全に決着はつけてねぇけど実力的には勝ってんだろうよ」


 測定中扱いだった白のカードを経て、現在の穂村の強さを示すランクは事実上測定不能とされるSランク。つまりはこの力帝都市における最強の一角として扱われるようになっていた。


「ほんま、この夏休みの間で穂村の身に何が起こったんや……」

「色々起こったんだよ。色々とな……」


 そうして横目にチラリと子乃坂と目を合わせた後に、穂村は店員が戻ってくるのをじっと待つことにした。

 すると慌てた様子でこの店の店長らしき男が店の奥から姿を現すと、カードを手にとって本物かを確認し、そしてカードの所有者である穂村と交互に見ながら、改まった様子でこう述べた。


「大変お待たせいたしました! 確認が取れましたので、お支払いは結構です! ご利用いただきありがとうございました!」

「マジかよ、胡散臭ぇから貰ってからまだ使ったことなかったがいけるのか」


 そのままもらったカードを財布にしまい込むと、穂村は先に外で待っているであろう二人の元へと向かう。


「わりぃ、待たせた」

「ほな、家に向かいましょかー!」

「なんでお前が先陣切ってんだよ」

「別にええやんええやん! ほら、イノちゃんとやらもお腹空かしとるかもしれんから、ちゃっちゃと走って――」

「いや、走る必要はねぇよ」


 そう言って穂村が乱暴に子乃坂と伽賀の腰に手を回すが、当然ながら伽賀は突然のボディタッチに顔を真っ赤にし始める。


「なぁっ!? ちょっ!? あんさんいきなりセクハラやでぇ!?」

「うるっせぇな、さっさと行くんだろ?」


 そう言って穂村が地面を蹴れば、足の裏からジェットエンジンのように炎が真っ直ぐに吐き出される。そして軽い跳躍からそのまま空を飛ぶようにして、穂村は二人を抱えたまま地上の喧騒から離れ、比較的がら空きな空を飛んで行く。


「うわっと、あんさんが飛べるのは前から知っとったけど、こうするなら事前に言っといて欲しいわ」

「どうでもいいだろ。飛ぶことには変わりねぇし」

「コラッ、どうでもいいは無しって言ったでしょ!」

「へいへい……」

(ほんまにこの姐さん、穂村を上手いこと転がせるみたいやな……流石は元カノっちゅうことか)


 そうして穂村は自分の住んでいる区画の方へと、文字通り飛んで帰っていくのであった――

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