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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
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第一章 第二話 どうでもよくない

「お前達久しぶりだなー、元気にしてたか? 宿題はちゃんと済ませたか?」


 二学期始めの終業式も終わり、教室では久しぶりに顔を合わせる面々がそれぞれ夏の思い出を語り合っている。

 長かった夏休みも終わったものの、まだまだ残暑の厳しい日差しが教室内に差し込む中で、穗村のクラスの担任、佳賀里かがりいろりが相も変わらず煙草をふかしながら教壇に立っていた。


「それはそうと、今日から転入生が一人このクラスに入ってくるようになったからよろしくな」

「転校生やて。男子女子どっちやろな?」

「知らねー、どっちでもいいだろ」

「実はウチ先に見ちゃったんよ。女の子やったわぁ」


 隣に座る胡散臭い関西弁を喋る少女が、穂村に話しかける。穂村の方はというと自身が炎の能力者であるにもかかわらず、残暑に参っているのかカッターシャツをパタパタとあおいでいる。

 窓際の一番後ろ――そこが穂村の席であり、そしてその隣が伽賀の席であった。そして今回、席の一つ前に空席ができていることに気がつかない穂村ではなかった。


「あーあ、可愛そうに。新入生さんはまさか後ろがこんな問題児とは思わんやろうなぁ」

「ケッ、誰だろうと伽賀かがには関係ねぇ話だろ」

「あんさんには関係あるんちゃう? 能力者やったとしたら、逆にAランクの関門として絡まれても――いや、あんさんはもうそんなんちゃうんやっけ?」

「あー、マジでうぜぇ。どうでもいいだろそんなの」

「……ほんまにこの夏で人でも変わったんか? ぶっきらぼうにもほどがあるやろ」

「……うるせぇ」


 穂村に直接話しかけてくる数少ないクラスメイト、伽賀かが師愛しあい。特筆すべき力、無し(D)。彼女を含め、まだ見ぬ転校生をお題に教室のいたるところでひそひそと話が飛び交っているが、穂村正太郎にとっては無論、それら全てが「どうでもいい」の一言で済むことだった。


「さて、入ってきてもらおうか」

「失礼しまーす」

「ったく、誰が転校してこようがどうでも――は?」


 “どうでもいい”と言いかけた穂村の口が、空いたまま閉じることができない。


「どうでもいい、はもう無しって言ったでしょ?」

「え? は?」

「何だ、穂村。知り合いだったか?」

「えっ、いや――」


 穂村は自分の目を疑った。そこに立っていたのが、他の誰でもない――


「うーん、復縁を狙ってる元カノっていうのが一番説明として合っているかな? この場合」


 小首を傾げて黒髪のショートボブを揺らし、にこやかな表情で穂村の方を見つめる一人の少女。それは夏休みも終わってとっくに日本に帰っていたと思っていた、穂村にとっては一番縁の深い少女の姿だった。


「こっ、なっ!? 一番面倒な自己紹介してんじゃねぇよ子乃坂!」


 ガタンという音とともに明らかに動揺して立ち上がる穂村を見た佳賀里は何かを察したようで、普段ならば扱いが面倒な問題児をここぞとばかりに弄るチャンスだとばかりに率直な感想を口にする。


「なるほどー、穂村のほろ苦い思い出の一つという訳かー」


 そして隣に座っている伽賀もまた、口には出さないもののニヤニヤという効果音が聞こえてきそうなほどの笑顔を穂村に向けている。

 ニヤケ面を浮かべる担任と面倒ごとの原因となりそうな幼馴染、そして隣に座る伽賀とを代わる代わる見ながら、穂村は顔を紅潮させつつ事態を力技で終わらせようと右手に炎を宿らせる。


「おっと、何をするつもりだ穂村?」

「もう! そうやってすぐに暴力に訴えようとするのは良くないよ穂村君!」

「せやせや! この際やから言うたれ言うたれ!」


 遂にはそれまで黙っていた他のクラスの面々でさえ、ここぞとばかりに穂村の文句を並べだす始末。


「大体おかしいだろ、何だよこれまでAランクの関門だった奴が夏休み明けには査定が入って真っ白なカード貰いやがって!」

「お、おい馬鹿! まかり間違ってBランクからSランクに上がったとしたら、そんな口きいたらどんな目に合わされるか――」

「でも流石に元カノさんがいる前でそんな感情爆発で動くなんて子供っぽいことをするかな?」

「分からんでー? 照れ隠しで逆上される可能性も無しやないからなー」

「ぐっ……言わせておけばてめぇら言いたい放題言いやがって……!」


 とはいえここで文字通り暴れ回ってしまえば幼い子供が癇癪を起こすことと何ら変わりはないのは自明の理。一度は立ち上がった穂村だったが内側で憤りを燻ぶらせながらも、再び腰を下ろしていく。


「…………」

「おや? てっきり教室でも爆破してこの場からけると思ったんやが」

「そんなことしてみろ。あいつのあの表情、分かるだろ」


 穂村が顎で指す方を見やれば、確かにそこには満面の笑みを浮かべる子乃坂の姿が。


「……まさか、あの姐さんに弱みでも握られとるんか」

「そこまでは言ってねぇだろ」


 しかしこの自由奔放な穂村を繋ぎ止められるだけの鎖を持っているには間違いない――そう理解した伽賀は、この場は引きつつも思案を巡らせる。


(さてさて、ここからどうやって穂村くんをおちょくってあげようか、楽しみやでぇー!)

お久しぶりです。四年ぶりでございます(´・ω・`)。書いていきます(決意)。

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