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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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第十五話 Collide

「いぇーい!! みんな盛り上がってるーっ!?」

「うぉおおおおおおっ!!」


 この日は不運なことに、空がどんよりとした曇り空へと変わっていく予報となっていて、その通りに怪しげな黒い雲が空を覆っていく。しかし会場はそんな怪しげな天候とは真反対の様相をしていた。

 一曲目からアップテンポな曲ばかりが続くライブの最中、水河の煽りによって会場は更に熱を帯びていく。


「妙に張り切ってるわね。けど、そんなんじゃ最後まで体力もたないんじゃない?」

「大丈夫! だって今日の私、なんでかすっごく身体が熱いの!」


 既に激しいダンスをいくつもこなした水河の顔には、汗が滴っている。しかし彼女はその姿すらもまばゆくも美しいと思えるほどの笑顔で、この一世一代のステージに臨んでいる。

 本来ならば本拠地である日本でも人気のポップな曲をメインとした構成だったものだが、水河の直前の提案により、まるでこの場でも戦いが起こりそうな、アグレッシブな曲を中心とした、聞く者の心を奮起させるようなセレクションが場をヒートアップさせていく。


「私達のラストライブ、最後の最後まで楽しんでいってねぇー!!」

「なんか今日、水河ちゃんすっごく張り切ってない!?」

「そりゃそうだろ! なんてったって力帝都市最後のライブだぜ!?」

「千宝院ちゃんはいつも通りだけど、今日の水河ちゃんは本当に凄いな!」


 客席も水河の最大限のパフォーマンスを受け、更に盛り上がっていく。そしてその一体感の中にはあの少女達もいる。


「すごいぞ! 今日はなんだかあついぞ!」

「ん! ん!」

「おねぇちゃんも楽しいだって!」

「それは良かったわ。……ごめんなさい、いきなり誘っちゃって」

「そんな、むしろこういうことをあまり経験したことがなかったから、新鮮な気持ちを味わえて嬉しいの」


 イノとオウギ、そして子乃坂の近くにいたのは他でもない、かの『決して届かぬ高嶺の花アンタッチャブルヒロイン』として最強格であるSランクの能力者、守矢もりや小晴こはるその人だった。


「あの子は誘わなくて良かったのかしら? Sランクの関門の――」

「えぇーっと、あの人は別件の用事があるみたいで……」


 苦笑いでごまかす子乃坂だったが、その理由が穂村関連であることを目の前の女性に知られる訳にはいかないと、Sランクの関門と事前に約束をしていた。

 ――力帝都市に住む殆どの人間が見ているであろうこのライブ、その裏番組で限定的に公開されている戦いを見届ける為に、時田マキナはこのライブの約束を蹴っていた。


「それにしても、穂村さんは今回お見えになられていないようですけど――」

「ほ、穂村君なら誘ったんだけど興味がないっていってどこかいっちゃって」

「まあ、今のあの人ならライブよりもバトルを取られるでしょうね」


 何とか誤魔化せたかとほっと胸をなで下ろす子乃坂だったが、守矢の方は既に知っていた。

 穂村正太郎もまた、一世一代ともいえる大勝負に挑んでいることを――





「――ふぅ、やっと蹴散らせたか」


 騎西の言うとおり、本人ほどではないとはいえど右腕が変形して形成された戦車の戦闘力には手こずらせられるものがあったと、穂村は少しだけ肩で息をしながら残骸を睨みつけていた。


「……それで? それがてめぇの全身全霊の力ってやつか?」

「“ひゃはははっ! 正直こっちにも手を出されるんじゃねぇかって冷や冷やしてたんだけどなぁ!”」

「そんなでっけぇオモチャを完成させる前にブチ壊すなんざ楽しくねぇだろ」


 解凍率、78.6パーセント――『超弩級大量破壊兵器ギガンティックデストロイヤー』の完全再現まで八割を越えようとしていたところで、穂村はその全貌を目の当たりにすることになる。

 千を優に超えるレーザー砲門。そして直下につけられた大口径を超える超口径の対地無反動砲。更にはミサイル、パルス兵器など考え得る兵器全てを搭載した最強の空中要塞が、穂村正太郎というたった一人の少年を消す為にその場に姿を現わそうとしている。


「“俺がてめぇの立場だったら、この時点で攻撃するけどなァ!?”」

「そりゃ余裕がねぇてめぇならそうするかもな」

「“ンだとゴラァ!?”」


 拡声器から聞こえる声との舌戦もそこそこに、穂村は折角与えられた時間を有効活用する為に、パワーアップする騎西と更に張り合う為にも自分の全身に力を込める。


「ハァアアアアアアアアアアアア……ッ!!!」


 両手両脚を広げ、全身に蒼い焔を走らせる。指先までもが高熱を帯び、心臓がハイペースで全身に血液を送り出す。


「足りねぇ……足りねぇんだよォ……!」


 この程度の焔ではない。この程度の、穂村正太郎ではない。


「っ!? てめっ、まだ隠し球を――」

「隠し球なんかじゃねぇよ……フルパワーってやつだッ!!」


 一瞬辺り一面を蒼炎が走っていく。それに遅れて高熱が、周囲を陽炎で歪めるほどの高熱が辺り一面をひた走る。

 そして穂村の背中に三対の蒼い焔が――鮮やかな紅で縁取られた蒼い翼が顕現される。


「――これが今の俺の最終形態……蒼紅煉葬ブルータルドライヴだ」


 辺りに舞い散る蒼い火の粉。そして美しくも荒々しい蒼い翼が、相対する者の目に強く焼き付けられる。


「“なんだそりゃ。ちょうちょにでもなったつもりか!?”」


 蝶のように舞い、蜂のように刺す――そんなことわざが互いの脳裏によぎったが、かたやそれを軽く見下し、かたやそれを更に先鋭化した考えをもって戦いに臨もうとしていた。

 ――そして遂に騎西善人の方も完全な武装を経て、究極の対国家兵器がその場に姿を現わす。


「『超弩級大量破壊兵器ギガンティックデストロイヤー』!! てめぇにこれがぶっ壊せるかよ!?」


 見上げても見上げ足りない、完全なる空中要塞。そしてそれを操作しているのが、齢十五になる少年ただ一人。


「サポートは頼んだぞ、ヴィジル」

「えぇーと……何とかやってみる」


 地面から遙か上空、騎西善人とそのお供である人造人間ヒューマノイドのヴィジル。この両名が要塞の上に立って全てを見渡す。


「それにしてもよかったの? 要塞の中の方が防御が堅いと思うし――」

「生身相手に引きこもっていられるかってんだよ」

「えぇー……それじゃそもそもこの要塞を出した意味が無いと思うけど」


 人造でありながら人間のように冷や汗をかいて苦笑を浮かべるヴィジルに対し、騎西はあくまで真面目に考えた上での判断だった。


「それにできる限りこいつとの連結は離しておけって数藤から言われてんだ。反動でナノマシンに一気にやられるってな」


 これだけ膨大な質量の精密機械の塊を吐き出すにあたって、相当な負荷が騎西善人の身体にかかっていたのは間違いない。最低限の生命活動以外の全てのリソースを要塞の構築にかけることでようやく完成された究極の破壊兵器を、更に同調シンクロしての操作も込みとなれば、疲弊した肉体をナノマシンが蝕んでいくのは間違いないだろう。


「さぁて、騎西善人様の一世一代の大勝負! ここでケリをつけようじゃねぇか、穂村ァ!!」

「ケッ、後で吠え面かくなよ屑鉄野郎がァ!!」


 『フレーム』対『G.E.T』。

 能力対科学力。

 これで全てに決着が付く。これで全てを――終わらせられる。


オレてめぇ(テメェ)――」

「どっちが強ぇか――」


 ――勝負だァッ!!

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