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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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第四章 第十四話 約束の日

「――決着をつけるにはおあつらえ向きってか」


 ――約束の日。

 全てに決着をつける日。

 あいつとの、騎西善人との因縁を終わらせる日。




 ――その日、穂村正太郎は第一区画に立っていた。

 目の前に相対する敵を、ブチのめす為に。


「ああ、ここなら広さも十分だろ? お互いなんの遠慮も言い訳も必要ねぇ」


 ――その日、騎西善人は第一区画で待ちわびていた。

 目の前に相対する宿敵をブチ殺す為に。


「そうかよ……だったら下らねぇ事仕込んでねぇで、最初から本気マジで来いよオラァ!!」


 あの時目に焼き付けさせた、蒼い焔。それが騎西善人の前で再び顕現する。

 赤ではなく、蒼。それはまさに穂村がこれまでの二戦とは違って一切の手心を加えるつもりが無いことを裏付けている。


「いいねいいねぇ!! その蒼い焔を消し去る為に、俺は更に強くなってんだからなァ!!」


 背中を突き破って精製される一対の鋼鉄の翼。そして脊髄を延長して精製される蠍の尾(スコーピオンテイル)。今の騎西にとってそれは最早手足のごとく使いこなすことができる代物と化している。


「何かと思えば、あの時と全く芸が変わってねぇじゃねぇか」

「ハッ、見た目だけで判断するなって学校で習わなかったかァ!?」


 まさにその言葉の通り、この日の為に騎西はありとあらゆる機械を喰らってきた。それをまさに今、発揮しようとしている。


「とりあえず挨拶代わりだッ!!」


 普通の水であろうと、極限まで圧力をかけて放出することで鋼鉄すら撃ち抜く極悪な兵器と変貌を遂げる。


「チィッ!」


 パッと見はただの尾の先からの放水。しかしその本質をすぐさま見抜いた穂村は一旦の回避行動をとる。


「ヒャハハッ! やっぱり水は苦手かァ!?」

「“水は”苦手な訳ねぇだろ。てめぇのことだ、どうせ普通の水じゃねぇんだろ」

「……まっ、そうなるわな」


 普通の水と同じ透明でありながら、その実体は高熱により化学反応を起こし人体に悪影響を与える薬品。何度も打ちのめされた騎西が今更普通の水かけ遊びを仕掛けてくるはずがないことなど、穂村にとってはお見通しだった。


「ここでてめぇの顔面が溶けてりゃ、そんな奴に二回も負けた俺が馬鹿だったってだけの話だ」

「そういうことだ」

「しかし安心したぜ。この前から思っていたんだが、てめぇの雰囲気が依然と変わってる気がしてな。こんな生温い攻撃で死んじまわねぇか心配でよ」

「ッ! ……てめぇも随分と勘が良いじゃねぇか」

 ――“どうする? あんな言われ方されてるみてぇだから今からでも変わってやろうか?”

「必要ねぇよ、すっこんでろ」


 灰色の力など必要ない。自分自身の蒼で勝つ。

 これはあくまで穂村正太郎対騎西善人の戦い。余計な手立てなどむしろ邪魔でしかない。


「ハァアアアア……ッ!!」


 全身に蒼い焔を纏った少年は、それまでの戦いで体得した高速移動ブーストでもって、瞬く間に機械の身体を持つ宿敵との距離を詰める。


「――ガッ……!? てめっ、また強くなってんじゃねぇか……!」

「雰囲気が変わったんだから強さも変わったんじゃねぇか?」


 ロケット砲の直撃を超える破壊力を持った膝蹴りが、轟音を立てて騎西へとぶつかる。しかし騎西はとっさに右腕を大楯シールドへと変形、それを真っ正面から迎え撃つ。

 だが――


「どうしたァ! 時間が腐るほどあった割にはそこまでアップデートされてねぇってかァ!?」

「て、てめぇの馬鹿力を甘く見てただけだってのォ!」


 大楯には無惨にも大きく凹み、そして右腕から来る衝撃が騎西の精神を大きく揺さぶる。

 それを見透かすかのごとく、穂村は更に両足に蒼い焔を灯したまま連続して蹴りを繰り出し、騎西からの一切の攻撃を許さない。


「屑鉄野郎が、今度こそ徹底的に叩き潰してやるよォ!!」

「ごっ、がっ!」


 何度も何度も踏みつけるように蹴りを繰り出し、防御している大楯をボコボコに凹ませていく。

 だが騎西もそれを受けてばかりという訳ではない。


「そう何度も蹴りやがって、調子こいてんじゃねぇぞ!!」


 盾の隙間から蠍の尾が飛び出し、穂村の肉体を貫かんと真っ直ぐな刺突が繰り出される。


「その程度の反撃かよ!」

「これがその程度って言えるか!?」


 尾の先が開き、小型の弾頭二発がその場に放出される。そして次の瞬間――


「なっ――」


 表面に氷柱の張った大楯の影で、騎西は穂村の愚鈍さにほくそ笑んだ。いくら焔の温度が高かったとしても、衝撃で周囲の熱を一瞬で奪う兵器であれば対処のしようがないと騎西は対策をたてている。


「……気化冷凍弾ってやつだ。一瞬で全部凍るんだから焔もクソもないだろ?」

「…………」


 盾の向こうからの返事がない。だが同時に騎西はまだ終わっていないとも確信している。


「凍ったてめぇが落下する姿が見えねぇってことは、まだ生きてるってところか」


 そういうことだ――と、穂村は大楯に姿を隠したまま、氷で塞がれた口を動かそうとした。しかしながら実際は今の穂村が置かれている状況として、上半身の所々が凍りついているというのは中々に不利なものだった。


「…………」

「だがいつもの軽口が聞こえてこねぇってことは、それなりのダメージはあったってことだよ……なァ!?」


 騎西が大楯を引っ込めると同時に、今度こそ穂村を貫かんと鋭く尖った蠍の尾が真っ直ぐに突き出される。


「――ッ!」

「チィッ、僅かにそれたか!」


 穂村はとっさに動かせる右手でブーストをかけて身体を無理矢理そらすと、いったんは距離を取る為に動かせる両足で更に後ろへとバーナーを焚いて逃げ去っていく。


「逃がすかよッ!!」


 しかしそれを易々と許すほど、騎西は甘くない。今度こそはと小型の無人機ドローン二機を射出すると、それらとともに穂村の凍った部分ごと身体を破壊するべくミサイルを次々と撃ち出していく。


「くっ……!」


 僅かに漏れる焦燥の息。普通の氷程度ならば、穂村もすぐさまに解除ができるであろう。しかし今の穂村の身に纏わり付いているのは、凍ると同時に即座に皮膚の感覚を失わせかねない凍傷を与えてくるような、想定しうる低温を遙かに凌ぐ代物。


「…………」


 こりゃ使いもんにならねぇ箇所が幾つも出てくるな――と、口には出せずに心の中で悪態をつきながら、辛うじて動かせる両脚と右腕を使ってミサイルの回避と迎撃を繰り返していた。


 ――“バトンタッチしてやろうか? オレ様が灰に変化すれば即座に手足とその減らず口が自由になるぜぇ?”


 いらねぇっつってんだろ――その意思を伝えるかのように、穂村は右手の平に溜めておいた蒼い焔をビームのように真っ直ぐに放出する。


「うおっとぉ!」


 とっさの反撃に騎西本人の攻撃の手が緩むがそれを無人機ドローンがカバーするかのように動き、サブウェポンであるマシンガンで一面がなぎ払われる。


「まだそれだけ余裕ってかァ!? だったらもっと苛烈にしてやらねぇとなァ!!」


 更に無人機を精製、追加。計六機の無人機が手負いの穂村に襲い掛かる。


 ――“ヒャハハッ! 今度こそどうするよ!? やっぱあいつの決着はこのオレ様が――”

 ――うるせえっつってんだよッ!!


「――ぐッ! ガァアアアアアアアアアアアッ!!」


 自らの頬を右手で殴り、亀裂を作って穂村は叫ぶ。


「――蒼蓮ブルー拍動ドライブッ!!」


 それとともに全身に一気に力を入れて蒼炎を身に纏い、一気に氷を溶かしていく――


「凍傷なんざ知ったこっちゃねェ!! こうなったらてめぇをブチのめすのに腕の一本くらいくれてやるよォ!!」

「へっ、ただの八つ当たりにしか聞こえねぇよバァーカッ!!」


 穂村と同じ炎熱系能力者を研究した上での特殊液体による瞬間凍結。しかし穂村が身に纏う蒼い焔までもは凍らせることができない。


「ちっくしょー、結構自信あったんだぜ凍結砲。大規模火災を鎮圧する時に使用する特殊弾頭まで吸収したってのによ……」


 騎西とてただ単に今までの手札で戦ってきたつもりではなかった。穂村正太郎という最強格の炎熱系能力者を倒す為に、あろうことかこの準備期間中にSランクで最強の炎熱系とも言われる存在に奇襲まで仕掛けた。

 だがそれらのデータをもってしても、目の前の穂村正太郎の動きを完全に制限できずにいる。


「何だってんだよてめぇはよ……! この騎西善人様が調べに調べ上げたってのによぉ……!」

「てめぇの調べが甘ぇだけだろ」

「……仕方ねぇ」


 完全な戦闘態勢をとる穂村に対し、騎西善人はその場で機械化した右腕を切り離してその場の離脱をはかり始める。


「“ちょっと騎西君!? 貴方そんなことをしたら――”」

「言ったはずだぜ数藤……俺は穂村をブチ殺す為なら、腕の一本や二本くらいくれてやる覚悟ができてんだよッ!!」

「待ちやが――うおッ!?」


 騎西によって切り離された右腕の断面から幾つもの電線らしきコードが生え始めると、そのまま騎西の脊髄から伸びていた蠍の尾と似た形状を模って穂村へと襲い掛かる。


「っ、なんだ!?」

「そいつ単体でも俺の半分程度の戦力はある……ぶっ殺せるなんざ思ってねぇ、時間稼ぎ冴えできたらいいんだよッ!!」

「あっ、まてゴラァ!! チィッ!」


 戦う為だけに作られた区画、第一区画。その広さは外部で見るよりも遙かに広い空間が広がっている。

 そこで離脱を成功させてしまっては、相手に十分すぎるほどの時間を与えてしまうことに直結してくる。


「クソッ! 逃がすか――」


 しかし現在穂村の周りを取り囲んでいるのは六機の小型無人機と、騎西が切り捨てて残した右腕が一つ。そしてその右腕はたった今穂村の目の前で変形を繰り返し、新たな兵器へと姿を変えていこうとしている。


「……質量保存の法則って俺でも聞いたことはあるけどよ――」


 ――右腕から戦車ってのはあり得ねぇだろ……!



          ◆ ◆ ◆



「――数藤! 今すぐあいつを連れてこい!」


 遠くで連続した爆発音が響き渡る中、騎西は必死の思いで身体に付属している通信器具に話しかけていた。


「“やっぱりアレを使うつもりなのね……”」

「ああ。俺一人じゃ制御が追いつかねぇみてぇだからよ、ヴィジルの野郎を今すぐこっちに転送しろ。こっち側の転送装置は既に展開してある」


 そうして騎西は既に再生しつつあった右腕を再び切り落とし、物質転送装置テレポーターを展開させる。


「“そうして何度も機械化マシナライズを進めてみなさい、もう貴方の肉体は――”」

「ああ、既に土手っ腹も機械化済みだ」


 穂村との戦いではまだ衣服に傷はないものの、めくってみればそこには既に心臓部から腹部にかけて金属の皮膚が覗き見える。


「分かっているのよね!? 貴方の大脳部分まで機械化してしまえば、まさに――」

「まさにターミネーターってか? へへっ、かっこよくていいんじゃねぇの?」


 自虐気味に笑っていると、頼んでいたとおりの一人の少年が、転送装置を通して騎西の前に姿を現わす。


「え、ちょっ!? 大丈夫かい!?」

「気にすんな。それよりも例のアレ、動かすからオペレーターを手伝え」


 中性的な見た目の、ショートヘアの人造人間(ヒューマノイド)ロボット。その見た目と心配する様子は完全に普通の人間にしか見えないものの、騎西はあくまで彼をただの機械の操作ができるロボットという認識しかしていない。


「阿形産のロボットは優秀だって聞いてるからな……期待してるぜ」

「そ、そんなことよりもキミの怪我が――」

「いいから黙って手伝えっつってんだよ!!」


 人工知能(AI)の判断を上書きするような叫び声。それは騎西善人という男の、人間の意地が詰まった叫びだった。


「今から俺は『超弩級大量破壊兵器ギガンティックデストロイヤー』の構築をする。三分もあれば完全に展開が終わるから、それから操作を手伝え」

「手伝えって……一体どうやって――」


 戸惑っていたところでヴィジルの手のひらに、一枚のチップが渡される。


「操作マニュアルだ。そいつを読み取ればゴーカートの運転より簡単に操作できる」

「で、でも……」


 チップを手に取ってもなお戸惑ったままのヴィジルに対して、騎西は手を重ねて手をギュッと握らせ、命令するかのようにヴィジルの前まで顔を近づける。


「お前しかできないんだ。頼んだぞ」


 そうして押しつけるようにヴィジルに依頼すると、騎西は改めて自分の身体からとある最強の兵器を精製する為に目を閉じて意識を集中させていく。


「解凍率、0.02パーセント――」


 ――『超弩級大量破壊兵器ギガンティックデストロイヤー』の展開を開始する。

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