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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
114/157

第十話 一体何時から……

「――あらあら、向こうも大概盛り上がっているみたいね。……こっちは――」


 ――もう殆ど終わっているみたいだけれど。


「ぐっ……がはっ!」

「もう下手に動かない方が良いわよ。貴方の『血液』はもう私の支配下にあるのだから」


 余裕の笑みを浮かべるアクアの足元に転がっていたのは、大量の血液をまき散らして倒れている名稗だった。


「ぐ、がはっ!」

「無駄よ。こうして貴方の傷口から流れ出る血に振れている限り、生かすも殺すも私の手のひらの上」


 血にまみれる名稗の手を踏みにじりながら、アクアは期待外れといった様子で名稗を見下ろしている。


「『最初期の能力者達プロトタイプナンバーズ』と呼ばれるくらいだからちょっとは期待していたのだけれど、この程度かしら」


 『最初期の能力者達プロトタイプナンバーズ』――名稗なびえ閖威科ゆりいかの持つもう一つの異名であり、この力帝都市における最古参の能力者を指す言葉だった。


「そして貴方が今捕らえたオズワルド=ツィートリヒ。彼もまた同じ『最初期の能力者達プロトタイプナンバーズ』……何か繋がりでもあるのかしら?」


 この一件について、数藤真夜は多くを語ろうとしなかった。

 普段から依頼には私情を挟まないようにと常に周りに言って回っていた彼女だったが、この件についてはむしろ自分自身の私情を挟まない為に口を噤んでいる節があった。


「一体どんな繋がりがあるのか気になるところだけど、今の仕事が終わってから聞いても問題ないわよね?」

「かっ……は、は、ははぁーん? そんなに、あたしのこと、知りたいのぉ? だったらベッドに呼んでくれたらいくらでも教えてあげるのにさぁ、がはぁっ!?」

「私、こういう戦いの場での冗談は嫌いなのよね」


 真面目な疑問にすら軽口で返す名稗に対して、アクアは苛立ちを隠せずにいた。

 この力帝都市における、『最初期の能力者達プロトタイプナンバーズ』――同じ能力者として、普通の人間ならぬ変異種スポアとしてその起源に興味を持っていたアクアは、問いに対する答えだけを求めていた。


「そもそもどうして、私達だけが特殊な力を持っているのかしらね。これが突然変異によるものだとして、貴方達が生まれた年度と今とで大きく世界が変わった訳でもないんでしょう?」

「……そりゃ、どうだろうねぇ」


 以前に自分の興味を満たす為だけに、アクアは能力を使える人間――変異種スポアの起源について調べていた時期があった。

 その時に目にした単語の中で、特に強く興味を引かれたのが『最初期の能力者プロトタイプナンバーズ』だった。


「貴方達は本当のことを知っているのでしょう? 私達変異種(スポア)が、何故ある時期を境に突然変異として姿を現わすようになったのか。どうしてそれを予知していたかのように、こうして力帝都市という受け皿ができたのか」

「……それを知りたかったら、あたし達と同じ――」


 ――後百年生きてからにしたらどぉかしら?


「――ッ!? やはり、私も貴方も、化け物にしか過ぎない……!」


 矛盾した存在。人間の寿命を超えて生きる存在。


「あの二人の『市長』も、一体いつからいたのかしらね……!」

「それを知りたければ、あたしの脳みそを直接かち割ってみない限り分からないかもねぇ。あたし自身、殺されようが喋るつもりは無いし。むしろ……殺して貰った方が幸せかもしれないしねぇ」


 ケタケタと笑うその姿には、不気味ささえ覚える。

 勝負としては勝っている筈なのに、敗北を感じさせる。しかしアクアは気持ちを切り替えたのかそれ以上会話を続けるつもりなどなく、名稗にそそのかされるがまま止めを刺そうとした。


「……あっそう。じゃ、死んだら――」

「――電撃ショック


 その一瞬のチャンスを、名稗は逃がさなかった。第一能力プライマリ第二能力セカンダリに続く第三の力(ターシャリ)――発電能力による電撃が、名稗の血液を伝っていく。


「っ!? きゃああああっ!?」

「へへっ、効果は抜群ってかぁ?」


 液状化したところで、肉体により通電するだけ。名稗はアクアの数少ない天敵となり得る力を持っていた。


「このまま、気絶させて――ぐぁああああああっ!?」

「かはっ……ったく、何を言ってるのかしら? 必殺技を持ってるのは貴方だけじゃないのよ?」


 アクアが踏みつけた名稗の手から、白煙とともに焦げ付くような腐った臭いが漂い始める。


「王水って知ってるかしら?」

「ぐ、あああああああぅ!?」

「あらあら、痛みで返事も返せないかしら? だったら一旦ひいてあげるけど」


 そうして電撃も無くなった名稗の手からゆっくりと足をどければ、ただれた皮膚が綺麗に靴の跡形を象っている。


「殆ど何でも溶かす最も危険な水……私には無害であっても、貴方には強烈に効くのではなくて?」


 これはアクアにとって、最初で最後の警告だった。電撃を流せば、確かに自分を仕留めることができる。しかしその為には王水に触れ続け、自身の身体を捨てる覚悟を持たなければならない。


「良くて相打ちのこの勝負、貴方は乗るつもりなのかしら?」

「ち、ちくしょ、う……」


 あまりの激痛を前にして、幸か不幸か名稗はようやく意識を失う。


「全く、事前に聞いておいて良かったわ」


 ――以前の調整担当者、数藤真夜からね。

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