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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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序章 第一話 問答無用

 巨大なビルの壁面に取り付けられた巨大な液晶画面が、衝撃のニュースを報道している。


「ご覧ください! 時間にしてわずか二分! 一瞬の出来事でした!」


 監視カメラに映し出された強盗劇ショータイム。その男はまるでコンビニにでも寄るかのように両手をポケットに突っ込んだまま入店すると、次の瞬間に地面を踏みつけて鉄の柱を幾つも打ち立てて、銀行員を呼び出してこうひと言。


 ――「金を出せ」。

 一体何人もの強盗がこの言葉を吐いてきたのだろうか。しかし客がレジの店員に話しかけるかのごとく、軽々しく吐く人間はと聞かれたら一人しかいないであろう。


「たった今入った情報によりますとこのラテン系アメリカ人、その名もジャスティン・ジェイソンといって、出身地のアメリカでも『鉄人スティーラー』という異名で恐れられている凶悪な強盗犯のようで――」

「あーあ、たった一日でこれだけ有名になっちまうとは、俺も中々人気者だな」


 以前の彼ならば絶対に歩けなかったであろう往来のど真ん中で、自信の活躍を満足げに見ながらのひと言。ジャスティンにとってこれは単なる景気づけの一犯でしかなかった。


「しかしこの都市は俺にとってはまさに理想の街だな。実力主義だから誰も俺に文句言えねぇし、刃向かってきたとしても合法的にぶちのめせるっていうからサイコーだぜ!」


 ギルティサバイバル以降のこの都市では、相変わらず市長の宣言が後を引いている。以前であれば彼のような犯罪者が表通りを歩こうものなら均衡警備隊バランサーに即座に通報がなされ、更には賞金稼ぎの輩が昼夜を問わずバトルを仕掛けてくるなど、犯罪者にとっては一切心休む暇も無かった。

 しかしある一定のラインを超えた実力者には、誰も手を出せない。以前ならばある程度の秩序の保証をしていた市長が放った、「ルール無用、犯罪など知った事ではない」という言葉が、この街の正義に足枷をつけてしまっている。


「この街だと俺はそこそこの強さみてぇだし、早々ヤバそうな奴にさえ手を出さなければいけるって事だよな?」


 この都市に入る際に受けたランクの評定結果はA。つまり一個軍隊を相手にしたとしても普通に渡り合える程の実力を持つということと等しくなる。


「後はカワイコちゃんの一人でもとっ捕まえれば最高なんだけどなぁ。中々これが見つからねぇんだよなぁ。この前戦ったゴシックロリータの子も悪くなかったけど、最低後二年は様子見しねぇと、俺がロリコンって奴に思われてしまうからな」


 野心もあるこの男にとって、この力帝都市はまさに夢の楽園そのもの。

 実力さえあれば何をしようが許される。ある意味では最もこの力帝都市に適した人物なのかもしれない。


「まーじでどっかにいねぇかな――って、あの子レベル高えな! よし、彼女候補一号として早速声をかけよう!!」


 長髪ロングヘアーを揺らしながら歩いて行く後ろ姿。夏休みということもあってか制服ではなくデニムのショートパンツに上は白いシャツというラフな格好が、ジャスティンの目を引いた。


「そこのロングヘアのキミー!」

「ん? えっ、アタシ?」


 声に振り返るとそこにはキョトンとした表情と、クリッとした瞳がジャスティンと視線を合わせている。


「そうそうキミキミ! やっぱり予想通り超可愛いねぇ! 実はさ、俺この都市に初めて来たのよ! ちょっと色々と敢行しようと思ってさ、キミみたいなこの都市を知っていそうな子に案内して貰えないかなーってさ」


 ナンパもお手の物のこの男、当然相手が格下だと確信した上での声かけである。

 いざというときは実力で引きずり回すのもやぶさかではない。そういった完璧な算段をした上での声かけだった。


「ねぇねぇ、いいだろ?」

「……ハァ? 悪いけど、アタシちょっと急いでるから」

「……アァン? 俺の誘い断っちゃう系? そんなの良くないと思うけどなぁー?」


 ――そう、完璧なはずだった。


「ウッザ、キモッ。ていうかアンタ噂の銀行強盗じゃん」

「ッ! ……分かってんなら、否が応でも――」


 ――相手がSランクの関門、時田マキナでなければ。


「ガッ――グハァッ!?」


 気がつけば次の瞬間には、ジャスティンの身体はくの字に折れ曲がり、そして建物の壁に叩きつけられていた。

 初めてくらった規格外の衝撃に、ジャスティンは身体を起こすことができずにいた。息もままならぬまま中空に手を伸ばし――そのまま気絶をしてしまった。


「ったく、同じAランクなら、そのランクのトップのことぐらい調べておきなさいよ。まっ、新人さんにはいい受講料になったんじゃない?」


 時田は一瞬通報しようか迷ったが、通報したところで均衡警備隊バランサーの事情聴取を受ける暇などあるはずもなく、これから先の予定を優先するためにこの場を去って行った。

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