令和元年年越し番外編 続き
まさか三が日ずっと拘束されるとは思っていなかったので今日が実質今年初投稿です(・ω・`)
「新年あけましておめでとうございます」
「おう、今年もよろしくな」
「どうして新年になるとおめでとうなのだ?」
「ふふ、それはね――」
子乃坂が少女二人に正月について説明をしていると、突然扉を叩く音がコンコンと二回鳴る。
「……来たみたいだな」
事前に知らせていた客人が、年をまたいでやってくる。穂村にとって客などどうでもいいものでしかないが、こうして来たからには迎えるしかない。
「入ってこいよ」
ガチャリ、という音と共に飛び出してきたのは――
「――ハァッ!!」
「ッ!? んだとッ!?」
礼儀正しく――かと思いきやそれもつかの間にドアは爆破という形で破られ、中から飛び出してきたのは銀色の髪を靡かせる女性。
爆破、という事象を挑発と受け取った穂村は即座に自身も赤い焔を身に纏って応戦しようと構えをとる。
「上等じゃねぇか……丁度退屈していたところだぜ」
「フフ……魑魅魍魎と違って少しは楽しめそうだ」
女性をよく見ると、銀色の髪に混じって狐のような三角耳が生えていた。そして九尾という言葉が想起されるような、九つの尻尾を後ろに生やしている。
「てめぇ、何者だ……?」
少なくともその風貌からして人間ではないことは間違いないだろう。そして現代の人間でもなさそうだ、ということも。
「初っ端からやる気満々なのだけは分かるがよ」
動き辛く思える和服も少し着崩して身軽に動けるようにしているところから、相手は最初からこちらを襲うつもりで来た事は明らか。
「面白い。人間を焼くなど何百年ぶりかな……?」
そうして銀髪の妖怪は手のひらに蒼い狐火を呼び出して喜びを露わにするが、それもまた穂村にとっては更なる挑発でしかなかった。
「アァ? 俺を前にそんなしけた焔を出しやがって……舐めてんのかてめぇ」
蒼い焔は俺の専売特許だといわんばかりに、両手をゴキゴキ鳴らしながら蒼い焔を両手に纏う。穂村はそれまでの威嚇の睨みつけから新年早々戦えるという不敵な笑みへと表情を変えて、その場に子乃坂や二人がいる事も忘れて殴りかかろうとしたが――
「――銀子さんストーップ!」
「なんだ? ここまできて儂の邪魔をするつもりか?」
銀子と呼ばれた妖怪と穂村は声のする方へとほぼ同時に顔を向ける。すると焦げ跡の残る玄関前に申し訳なさそうに立っている一人の少年の姿が。
「泉堂! 貴様何故邪魔をする!? 儂等は朝廷に言われてここに来たのではなかったのか!?」
「いや朝廷とかそれこそ何百年前の話になるんですか……今あるのは政府ですし、そもそも戦いに来たわけじゃないでしょ」
「政府だと……?」
穂村にとって政府という言葉が指すのはただ一つ、力帝都市も名義上所属しているという日本国、その政府である。
「一体どういうことだよ……」
「それはそうと、いつまでも玄関前だと寒いので……お邪魔します」
「寒いっつーかそいつが玄関ぶっ壊したせいで部屋の中も寒いんだが」
「フン、ならば自前の焔で暖まればいいだろうに」
「玄関ならオレがなおしておいてやるよ」
どこからか声が聞こえてくるなり玄関はまるで時間が巻き戻ったかのように元に戻る。
「……毎度の事ながら番外編は何でもありだな」
「フ、あの程度の妖術、昔の京の都ならいくらでも見られるが」
直感的にこの女とは仲良くなれそうにないと、穂村は睨みつけながらこたつの中へと足を入れる。
「イノ、オウギ、こっちにこい。子乃坂お前もだよ」
そうして四角のこたつから二カ所を占拠すると、銀子と少年は残りの二カ所から足を入れて暖を取り始める。
「……それで、結局は何の用だ?」
「単純な話です。新作の宣伝に来ました」
少年は手慣れたようににこりと営業スマイルを浮かべると、世間話のように彼自身の身の上話を始めた。
「海上にある力帝都市、今は確か千宝院家という陰陽師一族が訪れていたと思います」
「ああ、そういえばいやがったな」
「えぇっ!? あの人陰陽師なの!?」
とんでもない事を聞いてしまったと驚く子乃坂だったが、穂村は気にする事はないといつの間にか机の上に置いてあったミカンに手を伸ばす。
「ああ。どうせ本編では知らなかった体になるから気にするな。それで、そのはなしからするとてめぇ等も同胞ってことか?」
「はい。この僕、泉堂名利も同じ、陰陽師です」
この少年――泉堂名利は自らを指して陰陽師だと名乗りでた。しかし魔法使い、しかも『理を覆す魔道王』とまで言われたリュエル=マクシミリアムを相手に非公式とはいえ勝った記録も残っている。今更陰陽師といわれたところでそれがどうしたというのが穂村の本音であろう。
「で? だからどうした」
「それと先程銀子さんに言われちゃいましたが、日本も力帝都市に対抗するためにオカルト染みたものですら裏で支援することを決めたらしいですよ」
「へぇー」
本当にどうでもいいという感想が穂村の中にあるのだろう、ミカンを二、三粒纏めて口に頬張っては興味の無いといった様子でテレビのチャンネルを回し始める。
「おっ? てれびを見るのか? ならば漫才を見せろ!」
「やだね。俺はスポーツ皇帝は俺だを見る予定だ」
下らないことで再び火花が散りそうになる穂村と銀子であったが、子乃坂が仲裁に入ることでお互いに渋々と矛を収める。
「全くもう、新年早々喧嘩しないの」
「そうですよ。今日のところは平和に宣伝しに来たのに」
今日のところは、ということはいずれこの少年と――銀子と戦うことになるのだろうか。今はどうでもいいことかもしれないが、戦うとなれば穂村もその力を存分に振るうことになるだろう。
「それと……さっき白髪の魔人に、穂村さんを占うように言われたのでそれだけやって帰りますか」
「占いだと……? くっだらねぇ」
手相だろうが水晶玉だろうがその類いを一切信用していない穂村は興味を示さなかったが、ミーハーなのか子乃坂の方は占いの話題に食いつく。
「占い!? それって私も占って貰うこともできるの?」
「えぇーと、自分で言うのも何ですけど僕まだ見習いなので……」
「ケッ、ますますやる意味ねぇじゃねぇか」
しかし泉堂は最低限のノルマをクリアするためにも穂村の方をじっと見つめ始め、占いとやらを始める。
「……何ガンとばしてんだァ? 喧嘩売ってんのか」
「違いますよ。顔相を見てうっすら占っているだけですよ」
恐らくは彼なりの簡単な占いなのだろう。出てくる答えも穂村の内側をうっすらと掘り下げる程度で、穂村自身も驚くような内容など聞こえてこない。
「……今の穂村さんが本性の通り、つまり何も偽り無く露わにしている自身の心。この占いですらどうでもいいといった感じでしょうか。興味があるのはそちらの女の人にだけ?」
「ッ、ハァ!?」
「そ、そうなの……? ちょっと嬉しい、かな……」
「しょうたろーはわたしたちには興味ないのか!?」
「そういう訳じゃねぇよ……」
「そしてその裏に、灰色の……虚勢? 理性? が見えますね。一体どっちが本物なんでしょうか」
――“このガキ、オレ様を見ようとしてやがる。殺すか?”
「『テメェ』は黙ってろ」
流石に『高慢』まで見破られたのは少しばかり驚いたが、少年の占いは更に奥深くまで潜り込もうとしている――
「――『黒い焔』……それがあなたの“本能”ですか?」
「ホウ……興味深いな」
「アァン……何を言ってやがる?」
穂村正太郎の更に奥深くに潜む本能、あるいは単なる暴力装置――『憤怒』までも見抜く泉堂の占いに流石に気味の悪さを感じたのか穂村は立ち上がってあからさま二不機嫌な態度を取り始める。
「てめぇ、そんなに人の中身を覗きてぇならてめぇ自身の腑ブチまけさせるぞ」
「ちょちょちょ、分かりました分かりました! この話は止めましょ! 止め止め!」
喧嘩を売るつもりは全く無かった泉堂は即座に占いを中断すると、ノルマ達成だけを確認してその場を立ち去ろうと支度を始める。
「私は占ってくれないの?」
「ごめんなさい、ちょっとこの雰囲気だと長く残っても良いことないのは分かりきっているので!」
「待て名利! 儂はもう少しこのこたつに入っておきたいのだが!」
「家に帰ったらきつねそば作ってあげますから、今日は帰りましょ!」
「そうか。ならば仕方ない」
そうして見習い陰陽師は紹介も中途半端にドアへと向かい、最後に一礼をしてその場を去って行く。
「それでは、今年も一年よろしくお願いします!」
「……一体何だったんだ?」
ということで新年から新キャラ&新作予告させて頂きました。恐らくは一月中に目処が立つかと思いますが、また読んでいただければ幸いです。それでは今年も一年、よろしくお願いいたします。