令和元年年越し番外編
「本編で騎西とこれからぶん殴り合いをするところで今年は年越しか」
「うーん、物騒な年末年始になりそう。はい、年越しそば」
「わーい! おねえちゃんも食べよう!」
「うん!」
今年はいつものごとく騒がしくなく、穂村と子乃坂、そしてイノとオウギの姉妹だけの静かな年越し番外編。今回年越しのために用意された部屋は穂村の住む部屋と酷似した部屋で、間取りも普通のマンションと変わらない。ただ一つ違うのは普段の穂村が自前の炎で調理をしていたものが、今回は備え付けのコンロで子乃坂が年越しそばを作っているという光景である。
和室の真ん中に敷かれた敷かれたこたつに身体を半分埋めながら、穂村は戦う時のアクティブな姿とは正反対のごろごろとした姿を見せつけている。
「つーか今回は俺達じゃなくてポイント跳ねたあっちでやれば良かったじゃねぇか」
「そんな事言わないの。今日はお客さんも来るみたいだよ?」
「アァ? 誰だよ客ってよ」
それまで寝正月を過ごす気満々だった穂村だったが、客人が来ると聞いて身体を起こして玄関の方を向く。
「誰が来るんだよ一体……」
とはいってもすぐに来る様子など全く無いようで、仕方なく穂村は子乃坂手作りの年越しそばに手をつける。
「……今年一年」
「うん?」
エビの天ぷらを口元まで運んでいた手が止まり、子乃坂は穂村が言い出そうとしている言葉に耳を傾ける。
「お前を助けることに必死だった気がする」
「……クスッ」
「……チッ、何笑ってんだよ」
メタ的な発言になるとはいえ、穂村は至って真面目だった。
自分の過去に決着をつけるために、穂村はそれまでの偽りを捨て、己の本当の力で戦った。その結果が今のこの平穏な年越しに現れている。
「かっこよかったよ。穂村君」
「茶化してんのか」
「ううん、本気で思ってる」
いたずらっぽく笑いながらエビ天を頬張る。しかしその心境は本物だった。
穂村正太郎が居てくれるからこそ、子乃坂ちとせはこの世界に居る事ができる。どちらかが居なくなれば、どちらとも居なくなる。それが子乃坂がこの力帝都市に来てから改めて想ったこと。
そして事実だと強く断言できる程に、感じる事だった。
「……一年、長いのか短いのか分からねぇなぁ」
「とはいっても私達、まだまだ高校一年生のままだよね」
「ちょっと待てそれを言うのは無しだ」
ピッと指をさしてそれ以上のメタ発言を止めようとする穂村。既にメタ発言などあの魔人で充分、これ以上そちら側の人間が過剰供給で増えるなど面倒極まりないということなのだろう。
「……ったく」
しかしこうしてたまには平穏な正月があってもいいのだろう。既にこっくりこっくりと首を揺らしているイノと、ウトウトと目を半開きにしているオウギを前にして、穂村はこの一年間で一番の安堵を手にしている。
「……決着をつけねぇとな」
「決着って、今戦っているあの人のこと?」
騎西善人――それは力帝都市に来てからの穂村にとって因縁深い相手の一人でもあり、そして今叩き潰さなければならない敵でもある。
「でも、無茶はしないでね」
「アァ? ……分かってるよ」
年が明けても、彼らは戦いつづけるだろう。どこかに終わりがあると信じて。どこかに結末があると信じて。
――彼らの物語を紡ぐ為に、その咲きに未来があると信じて。
――それでは皆様、良いお年を。
「……ちょっと待て。客が来るって話はなんだよ」
「それはー……年明け番外編に続くみたい」
「何だそりゃ……」
ということでいつもより静かな年越しとなりましたが、来年もまた力帝都市での物語を書いていきたいと思います。それでは皆さん、よいお年を。(年明けての更新は3日の予定です。)