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短編集

底辺作家詐欺

作者: 楠木 翡翠

 俺、小田切(おだぎり) 研人(けんと)は家でソファーで寛ぎながら、小説投稿サイトの「小説家になろう」で人気になり、書籍化された作品を読んでいた。


 プルルルルー♪ プルルルルー♪


 その時、俺のスマートフォンから着信音が孤独に鳴り響く。


「もしもし」


 俺はテーブルに本を置き、スマートフォンに手を伸ばす。

 画面を見ると、その電話は非通知からではなく、どこかの地方から普通の電話番号からかかってきているようだ。

 俺は警戒しながら電話を取る。


『こんにちは! 小説投稿サイト「小説家になろう」で連載している、小田切 研人先生の携帯電話でしょうか? 今日から、あなたの担当になりました。「なろうクリエイト」の笹川(ささがわ)です! よろしくお願いします!』


 元気いっぱいで可愛らしい女性の声が俺の耳に飛び込んできた。

 なんで俺の名前を知ってるんだよ?

 それ以前になんで俺の電話番号を知ってるんだよ?


「(……なんかの詐欺かよ……)いや、俺は書籍化作者でもありませんよ? お引き取り願います」

『おそらく詐欺だと思っていませんか?』

「(ギクッ……!)…………!」


 だったら、なんだよ。

 俺は「なんの用ですか?」と聞き返した。


『私達「なろうクリエイト」は底辺で活動しているなろう作家を中流なろう作家で活動できるようにサポートしていく業者です! これまでに約5万人のなろう作家がご契約から3ヶ月で底辺から中流になっており、書籍化までサポートを継続している方も多くいらっしゃいます!』


 あの女性は笹川って言ったっけ?

 彼女の説明を聞いて、「なろうクリエイト」ってスゲー! と思った。


 だって、底辺から書籍化までサポートしてくれるんだろ?

 たった3ヶ月で底辺卒業なんて夢みたいな話だ!


「マジっすか!?」

『本当です!』

「ちょっと考えさせてください……」


 それだったら、契約してみるか!

 いや、やっぱり書籍化は憧れるけど、地道にコツコツと書くことが1番だからな……。

 でも、1回やってみて駄目だったら、辞めればいいし。


『小田切先生、どうされますか?』

「お願いします!」

『かしこまりました! 今なら、通常10万円の入会費と年間登録料、サポート料すべて込みで7万円です。請求書を後日送らせていただきますので、指定された口座に振り込んでいただきます』

「分かりました」


 俺は電話を切ったあと、急いでストックを作り始めた。

 早く底辺から卒業するために、必死になって書き進める。

 今まで「なろう」で活動してきたけど、こんなに必死になったのははじめてのことだったから。



 φ



 1週間後、「なろうクリエイト」からA4サイズの封筒が家に届いた。


 俺はコンビニで指定された口座に7万円を振り込んだが、何も音沙汰がない。


「やっぱり、詐欺じゃねぇかよ……」


 よって、俺はまんまと詐欺に遭ってしまったのであった。



 φ



 あれから、1ヶ月後……。

 テレビのニュースで「なろうクリエイト」はやっぱり、詐欺グループだった。

 その組織の経営者は全員逮捕されたらしい。


 その被害者は電話で聞いた人数より倍の約10万人、被害総額は約70億。


 これにはたくさんのなろう作家は激怒し、訴え、何回も裁判を起こす。


 傍観席を目掛けて朝から何万人もののなろうユーザーが行列を作っていた。

 もちろん、被害者である俺もその列に並んだ。


 そりゃー、許せねぇよ!

 俺は元気いっぱいで可愛らしい声で騙されたんだからよ!


 「なろうクリエイト」詐欺、別名「底辺作家詐欺」はなろう作家を騒がせた大事件のお話であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 振り込め詐欺が大きな社会問題となっている中、この話はフィクションながらも実際にあり得るかもしれないということもあり、私自身も深く考えさせられる内容でした。 ちなみに、こういった業者の多くは…
[良い点] 設定が妙に現実味のあるところに興味を覚えました、特に詐欺側の電話の応対が主人公の思考を読み取っているように鋭く、押すところは押し、引くところは引くという交渉術をわきまえているところが良かっ…
[良い点] 読ませて頂きました! 読んでいて実際にありそうな出来事だなって思いました。
2016/08/15 10:34 退会済み
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