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第4話 妹が出来ました、もとい妹になりました

「そうか、分かったぞ!お前実は、鏡夜の妹なんだろ!!」


 その台詞を言った時、鶴来は目の前の少女が頭を抱えている間に導き出した、その彼女の正体に対して結構な自信を持っていた。

 まず少女は顔付きも性格もやたら鏡夜に似ている。もしあいつに妹がいたらこんな感じなのかなと軽く思っていたけど、よくよく考えてみると本当に妹だとしても納得出来る程に二人は似ていた。

 そして鏡夜が失踪した時の驚いた表情、あれはもしかして兄の行方が分からなくなった事にショックを受けていたのでは無いか。

 自分は名乗っていないはずなのに彼女が自分の名前を知っていたのも、鏡夜から自分の事を聞かされていたからだとすれば得心がいく。ついでに言えば少女がやたらと自分の事を馬鹿馬鹿言ってくるのも、鏡夜から要らぬ事を吹き込まれたせいだろう。

 今度会ったら覚えていろよあんちくしょうと一瞬思ったがそれはすぐに『目の前の少女の正体を見破った』と言う確信と優越感にとって代わられた。

 何故反転世界に居て、しかも全裸だったのかが未だに分からないがそれは今この時においては些細な事。


(どうだ鏡夜!俺だってやれば出来るんだぜ!)


 故に心の中で、何故か何処にいるかも分からない(あくまで鶴来視点では、だが)鏡夜に向かって、ガッツポーズを決める鶴来。

 そんな訳でテンションの上がった鶴来が、意気揚々と彼女に向かって吐いたのが冒頭のあの台詞だったのだが――。


「…………は?」


 ぽかんと開けた彼女の口から間の抜けた一言が漏れ出した事で、その自信はがらがらと崩れ落ちた。


「……え、あ、あれ?もしかして、実はあいつより背が低いけど姉だったとか?」

「何を言っているんだお前は」

「ええっと……いや、ほらでもせめて、いとことかはとことかだったりは――」

「違う、何がせめてだ馬鹿。大体――」


 呆れたかの様な顔と物言いをしていた少女の声がそこでぴたりと止まり、そして何かを考えこむかの様に右手を口の辺りに持っていった。

 一方鶴来は、自分の予想がかするどころか全然的外れだったのだと感じて、がっくりと項垂れていた。




(……そういえば、こいつは俺の身体が変わった事を知らないんだったか)


 裸見られたり自分が行方不明扱いになっていたりと、色々あってすっかり失念していたがよくよく考えてみると今の自分は肉体的には女で有り、男の頃の自分と姿かたちが違うし同一人物と思われなくても当然と言えば当然である。

 しかし鏡が無いので実際どの程度の差異があるかは分からないが、目の前の馬鹿が『妹』だと思う程度には似てもいるらしい。


(まぁ、全く別人みたいになるよりかはマシと言えばマシかもな……)


 と、妙なところで安堵を覚えた鏡夜だったが、ショックに打ちひしがれている鶴来が視界に入ったことで、自分の置かれた状況を思い出した。


(こいつの勘違いを正すには俺が竜胆鏡夜だと言う事を話さなければならないが……言うのか?こいつに?)


 唐突だが、鏡夜はプライドが結構高い。他人に弱みを見せるのも頼るのも嫌うその性分は、鶴来への『対抗心』を生み出す原因となった。


(『お前に助けられた上に裸見られて羞恥に悶えていたり涙目になったり服借りたりした謎の少女が、実は竜胆鏡夜だった』というのをか?)


 その上、鏡夜は意地っ張りだった。それが彼の中の『対抗心』を育てに育て、今の鏡夜と鶴来の関係を作った。


(……嫌だ……あいつに、あの馬鹿に……あんな恥ずかしい汚点を知られるのは、絶対に嫌だ!)


 『意地』と『プライド』によって形となった『対抗心』。

 それは鏡夜から合理的な選択肢やそれを考える機会までもを奪い、その代わりに一つの選択肢のみを提示する。

 『自分の正体は絶対に隠し通す』という選択肢を。

 そして鏡夜はそれを躊躇無く選んだ。


「……いや、よく分かったな。実は……お……わた、しは竜胆鏡夜の……妹だったんだ」


 故に彼女は『自分の妹』を騙り一人称まで変える事に対する迷いと羞恥に顔を引きつらせながらも、台詞そのものは迷う事無く言い切ったのだ。

 それを聞いた鶴来の顔が喜色に染まっていったのは、言うまでもない。


「やっぱりな!いやぁ、そうだと思ってたんだよ。でもさっきの反応からして間違ったのかと焦っちゃったぜ」

「え、あ、あれは……そう、お前はよく兄に突っかかってるそうだからな、関係者だと知られても面倒だと思っただけだ」

「いやいや俺が対抗心燃やしてるのはあいつ個人だけで、そんな身内だからってだけで突っかかったりはしないって。それにしてもあいつに妹が居たなんてなぁ、あいつもきららさんもそんな事全然言ってなかったし、うちの支部の職員の人らからもそんな話聞いた事無かったから全然知らなかったよ」

「た、たまたま話題に上らなかっただけだろう。別に大した話じゃないしな。それに、普段は遠方に住んでてこちらにはたまに遊びに来る程度だからこっちの人間には殆ど知られていない……と思う」

「あー、この街に住んでるわけじゃないのかぁ。遠路はるばる尋ねてきたのに兄ちゃんが行方不明って聞いてショックだったろ?でも大丈夫だ、『RWG巻波支部』の人たちが今全力で探しているから!勿論そこのブレイカーの俺も一緒にな。ちょうどさっき、君を助けた時もそういう訳で町中駆け回っている途中だったんだ。ディザイアを駆除しながらだけどな。そういえば、なんであの時裸だったんだ?」

「え゛。あー……あれは……しょ、諸事情だ」

「諸事情?……よく分かんないけど、多分大変だったんだな!」

「ま、まぁな」

「それにしても、何でかは知らないけどセイバーも持たずにこんな所うろつくなんて危ないぞ?……ってあれ?そもそも普通の人は反転世界に入れないし入れてもまともに動けないって聞いた様な……」

「じ、実は私もブレイカーだから、反転世界でも普通に動けるんだ。何でこんなところにいるのかと言うと、えー……諸事情だ」

「そうか、それならしょうがないな!」


 やたら嬉しそうな声色で話す鶴来に対して、しどろもどろになりながら話をごまかす鏡夜。

 しかし会話を重ねるにつれて徐々に言い訳が苦しくなっていったのと、このまま問答を繰り返し続けても事態が進展しないと思った為、鏡夜は思い切って一つの提案を鶴来にした。


「……おい赤金。お前任務中なら今スマホ持ってるだろ、きららさんに連絡を取りたいから少し貸せ」


 『竜胆きらら』。それはかつてとある事情で孤児となった幼い頃の鏡夜を養子に迎え入れて今まで面倒を見てきた女性の名であり、更に日本中に存在する政府直属の特務組織『RWG』の一支部である『RWG巻波支部』の副所長兼技術部門の部門長の名でもある。

 彼女は鏡夜が最も、というかほぼ唯一心を許しかつ頼る事の出来る人物だった。


「おう、いいけど使い方分かるか?それときららさんの電話番号なら登録してあるから――」

「使い方なら問題無いし番号も覚えている、少し他人に聞かれたくない話もあるからあそこの裏路地でかけるが、ディザイアがまた現れるかも知れない。そこら辺でしばらく見張っていろ」


 鏡華は、鶴来がズボンのポケットから取り出したスマホをひったくる様に勢い良く掴むとさっさと近くの路地へと入っていった。


 その遠慮しないどころかふてぶてしいとも言える態度の彼女を見届けて一人大通りに残された鶴来は、困った様に頭を掻きながら呟く。


「ああいうところとか、本当に似てるなぁあの兄妹は」


 しかし何故だろうか。鏡夜とその妹には、あんな態度を取られてもあまり嫌な気分はしない。

 鶴来がなんとなしに見上げた反転世界の空は雲一つ無い、灰色の空だった。

 反転世界は現実世界の景色を写し取る。

 だから今の現実世界には綺麗な青空が広がっているんだろうなと、ふとそんな柄にも無い事を感じた鶴来だった。



 暗く狭い裏路地に入った鏡夜は、そっと大通りを覗いて鶴来との距離が離れているのを確認すると手馴れた手つきでスマホを操作して電話番号の入力画面を開き、竜胆きららの電話番号を入力した。


 正直身内に『突然女になってしまった』という胡乱な発言をするのは気が引けるし恥ずかしいが、それでもまだ赤の他人や鶴来に話すよりかは気が楽だし頼りに出来る。

 それに、せめて親ぐらいには本当の事を伝えておきたいという子心もあった。多分、行方不明になって心配しているはずだし。

 とは言え身体だけでなく声まで変わっている今、通話先のきららが自分の事を竜胆鏡夜だと理解出来る可能性は殆ど無いだろう。

 しかし鏡夜はある『切り札』を持っていた。このカードを切れば少なくとも話には応じてもらえるはずだ。


 後はスマホの画面に表示されている『発信』の文字を押すだけで繋がる。少しの躊躇の後、鏡夜は意を決して『発信』を押す。

 しばらくの間プルルルル……とごく一般的な発信音が続いたがそれが途切れると、直後に甘い女性の声がスマホから響いて来た。

 それは鏡夜のよく知った、竜胆きららの声だった。


「もしもし鶴来君?一体どうし――」


 きららの声を聞いた瞬間、彼女が話し終わるのを待たずに鏡夜は『切り札』を切った。


「――!」


 通話口の向こうから、声の主が息を呑むのが伝わる。

 鏡夜が行ったのはなんてことの無い、『ある2桁の数字』をぼそりと呟くというたったそれだけの行為。しかし、それこそが彼女の『切り札』だった。


「……貴方、何者?私の知ってる限り『アレ』を知っている人間に、貴方みたいな可愛らしい声の女の子は居なかったはずだけど。それに、何故鶴来君の携帯からかけているのかしら?」


 きららの声に警戒心が混ざったのが分かる。

 親しい人に敵意を向けられるのは多少きついものがあったが、臆している場合では無い。

 鏡夜は軽く息を吐くと、謎の男に襲われてから今までの経緯を一つずつきららに説明し始めた。


「――というわけなんだ」

「……話だけだと胡散臭いとかそういうレベルじゃあないけど、辻褄は合っている。それに貴方が鏡ちゃんなら『アレ』を知っていても当然だわ」


 一通り説明が終わると、きららの声色が少しだが柔らかくなった。どうやら信用はされていないにしてもある程度の納得は得られたらしく、その様子に鏡夜はほっと胸を撫で下ろす。

 ちなみにきららの言った『鏡ちゃん』は昔からきららがよく鏡夜に対して使っていた呼び名だったが、鏡夜本人としてはその可愛らしい響きがあまり気に食わなかったし男には似合わないとも思っていた。

 だが皮肉にも今の身体にはその呼び名が無駄に合っており、鏡夜はその事に釈然としないものを少しだけ感じたのだった。

 それはさておき、言葉と声で訴えかけるには限界がある。だから後は実際に自分の姿を見てもらい、その上で判断を仰ぐしかない。 

 たとえ変わり果てた姿を見せた結果、逆に信じてもらえなくなったとしても。


「信用してくれ、とまでは言わない。今から赤金と巻波支部に向かうから、そこで会って判断してくれればいい」

「分かったわ。丁度今私も支部に居るから……あっでもそういえば、RWGの基地内に入るには網膜認証通さなきゃいけないけど……身体変わっても通るのかしらね」

「あー……しまったな。完全に頭から抜けていた」


 RWGの各支部の基地には、機密保持の一環として全ての出入り口網膜認証によるセキュリティがかけられており、それをクリアしないと基地内に入る事すら出来ないのだ。

 鏡夜も当然それを知ってはいたのだが、今はついうっかり忘れてしまっていた。

 『今ので信用度下がったかな』などと鏡夜が心の中で心配するが、それを気にする様子の無いきららの声が新しい代案を提示してくる。


「だったらうちに来なさいな。貴方が鏡ちゃんなら場所は分かるでしょ?自宅なんだし」

「ん、分かった。それじゃあ今からそこに向かうよ。それじゃあ」


 鏡夜は画面の『終了』の文字を押して通話を切ると、裏路地を出る。

 ありがたい事に律儀に裏路地から距離を離し、見張りをしていた鶴来に近づくと借りてたスマホを差し出しながら言った。


「返す。それと今からうち……じゃなくて、きららさんの家に向かうぞ」

「ん?ああそういう事になったのか。そういう事ならおんぶ……はこう、柔らかいものが当たりそうでまずいから……よし、こうだ!」


 鶴来はそう言うやいなや、鏡夜の両足と背中の後ろに腕を差し入れてそのまま軽々と救い上げた。


「なっ、ちょっ、はぁ!?」


 所謂『お姫様だっこ』をされてしまった鏡夜は突然の出来事に目を白黒させるが、鶴来はにかっと笑って彼女を宥める。


「ディザイアがあっちこっちうろついてるこの世界で、普通にのんびり歩くのはさすがに危険だからな。俺が抱えて走ってった方が早いだろ?それに、こっちなら一目につかないからこの格好でも大丈夫だ!」

「そういう問題じゃない!下ろせ、下ろせ馬鹿!せめておぶれ!」


 頬を赤くしながらじたばたして、何とか鶴来の腕から逃れようとする鏡夜。

 男にお姫様だっこされるとか普通に気持ち悪いし、鶴来にそれをされるとかプライドをゴリゴリと削られて物凄い辱めを受けた気持ちになる。

 しかし鶴来の言う事も分からないでもないのだ。鏡夜としても早くきららに会えるに越した事は無い上に、先程の様にディザイアに襲われたら今の鏡夜に戦う術は無い。鶴来に護衛してもらいながら歩くという手もあるが、それはそれで癪だしその間自分と言う足手まといをつれて鶴来が戦いきれるとは限らない。

 故に暴れながらも『おんぶ』と言う折衷案を提示したのだ。

 とは言えその案は鶴来の中では既に否決されている物だった。主に思春期の男子的な事情で。


「えっ、いやでもおんぶはちょっと……わっ、ちょっ、落ちるって分かった!おんぶするから!」


 だから鶴来はそれを断ろうとしたのだが、鏡夜が更に動きを強めたために受け入れざるを得なかった。

 その旨を伝えて動きが落ち着いた鏡夜をそっと下ろして屈んだ鶴来。

 しばらくして、その背に柔らかな双球の感触が伝わってくる。


(うおおお雑念を消せ!この程度でうろたえてちゃ強くなれねぇぞおれ!)


 鶴来に、再び試練が訪れた。


 セイバーには、所有者の身体能力を向上させる力も備わっている。

 それは魂と一体化された状態でも常時発動する力でありその為現在、鶴来はその背に鏡夜を抱えながらも尋常ならざる速度で街中を疾走していた。


(まぁさっきの体勢よりかはマシか……)

 お姫様だっこに比べればまだおんぶぐらい。

 そう言い聞かせながら鶴来の首に腕を回してその背に揺られていた鏡夜は、今に至るまでの経緯にふと思いを馳せていた。


(今日は、というか昨日と今日か?まぁ兎に角本当に散々だったな……ボロクソに負けるわ女になるわ全裸になるわ非力になるわセイバー出せなくなるわ赤金の馬鹿なんかに恥ずかしいところ見せる羽目になるわ泣きそうになるわ、挙句の果てにお姫様だっこされそうになるわ……)


 しかしこれだけ合ったのに、鶴来曰くまだ今日という日は半日も残っているのだ。

 この後もきららに自分が竜胆鏡夜である事を信じてもらわなくてはいけないし、多分それが無事解決したとしても何と無くだが、まだまだ色々有りそうな気がする。

 こんな状況は聞いた事も想像した事も無かったから、実際の所一体何が待ち受けているのかは分からないが。

 鬼が出るか蛇が出るか……というのとは若干違うかもしれないが、何があるか分からない今後の事を思うとつい不安になってしまう。


(ずっと分からない事だらけで、これからもどうなる分からない……いや駄目だ、こんな弱気じゃ。気持ちが落ち込んでいては出来る事も出来なくなる)


 落ち込んでいく思考を振り払う為に、鏡夜は別の方向に考えを巡らせる。

 何気なしに浮かべた顔は、最後に戦った大鎌の男のものだった。


(女になったのはあいつに負けた後。あいつが何者かは分からないが、俺をこんな身体にした張本人、もしくは関係者の可能性は高い)


 とは言えもしあの男がそうだったとしても何故、そしてどうやって人一人の性別を変えたのかは分からない。

 また分からないが増えた、本当に分からない事だらけだ。

 だが幾ら分からない事があっても、真実がなんであっても、一つだけ確かな事がある。

 それは――。


(あの野郎……いつか必ず、一発ぶん殴る!)


 ぐっと拳を握り、堅い決意を胸に秘める鏡夜であった。

【本日の戯言コーナー】

TS娘にはお姫様抱っこ(勿論抱かれる側)が良く似合うけど、それよりもおんぶ(無論おぶられる側)の方が似合う気がするという、そんな個人的感覚。

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