第23話 彼の思いと彼女の心
鏡華と一緒に暮らし始めてから、時々思う事があった。
俺はアイツの事を、どう思っているんだろうか。
そりゃ俺だって一人の日本男児だ。女の子の裸とか、胸とか、うんまぁそういうのに興味が無い……わけじゃあ無いし、人並みに知識だってある……多分。
でも恋とか愛とか、そういう物には昔から疎かったとは思う。
一番身近な参考例であるはずの親父とお袋はラブラブの夫婦とかそういうのよりかどちらかと言うと、長年の親友とか相棒とかそんな感じの雰囲気だし、俺自身誰かに惚れた事も無けりゃ惚れられた事もな無かったし。
そういえばそんな事を昔ちらっと守に話したら『惚れられた事無いって、それこそお前が疎い……あーこれだから朴念仁ってのは嫌なんだよ、豆腐の角にでも頭ぶつけて死ねばいいのに』とかよく分からんこと言われたが、まぁあいつの言う事は十中八九よく分からないものだし気にすることでもないか。
まぁそれは兎も角、俺は昔からそういうのがよく分からなかったんだ。
だけど鏡華と出会ってから、俺の中で何かが変わり始めた。
鏡華との出会いは、実にインパクトの強いもので今でも忘れられる気配すらない。
最初、何故か素っ裸だった鏡華を見た時――勿論裸が目に焼きついて忘れられないとかそんな不埒な理由じゃない……ないったらない!――なんとなく、既視感みたいな物を感じたんだ。
それはあいつと少し会話したら、すぐにある確信へと変わった。
『分かったから情けない声で微妙なフォローをするな馬鹿』
『着替え終わったからいい加減こっち向け馬鹿』
『おい馬鹿、今日は何月何日だ』
ああそうだ、彼女は似ているんだ。
俺のライバル、竜胆鏡夜に。
いつも無愛想だし会うたんびに人の事を馬鹿にしてくるし俺よりちっさい癖に妙に上から目線だし、正直むかつくところばっかなんだけどそれでも一つだけ、本当に憧れて尊敬してるところがあった。
それはアイツの『強さ』だ。
強さって言ってもただ単純に力が強いから、戦闘能力が高いから尊敬しているわけじゃあない。
鏡夜は絶対に認めようとはしないけど、アイツは相当な努力家だ。
鏡夜は俺と違って高校には通っていないが、その分は殆ど訓練と任務に当てている。それだけじゃなく土日も大体そんな感じで、たまの休みにも訓練は絶対に欠かさない。
そんな話をきららさんが『あの子も大概意地っ張りよねぇ』と、笑いながら教えてくれた事があった。
それに無愛想で生意気な性格の悪い奴なんだけど、根は凄く真面目なんだろう。仕事に対しては本当に誠実で、そしてどんな難しい任務にでも絶対に諦めずやり遂げていた。
そういった努力や信念の結晶があの強さだという事を知った時、俺はアイツの事を本当に凄い奴だと思った。
気づいたら俺の一つの目標として、勝手にライバルを名乗って張り合っていた。
そんなアイツに、鏡華はとてもよく似ていた。
小柄だったり黒髪だったり生意気そうだったりっていう外見もそうなんだけど、それより何よりも鏡華の『眼』が鏡夜とよく似ていたんだ。
鋭利さと知性を兼ね備えた様なすらっとした切れ目の中に収まる、その内に激情を秘めた様などこまでも濃い、黒の眼差し。
幾ら似ているとは言え鏡夜とはそもそも性別からして違う女性の肉体だから勿論似ているだけで終わるはずだが、それでも彼女の眼だけはまるで鏡夜本人のものの様に俺は感じた。
そんな彼女が鏡夜の妹だと判明して、成り行きから一緒に住む様になって。
その内段々と鏡華の事が分かってきて、兄弟だからかやっぱり鏡夜とよく似てる所も多いけど、でもあいつと違うところも色々見えてきた。
鏡華は鏡夜と同じく努力家で、鏡夜の様に意地っ張りでもあった。
触れたら折れてしまいそうな体してるのに、わざわざ俺に付き合って必死に走ってた事もあったなぁ。あの時はこかされたりとかしたけど、そういう負けん気も良い所だと俺は思う。
時折鏡華が腹筋とか腕立てとかしては、へちゃって感じで倒れるのを見ては俺が『頑張れー』なんて声をかけて。
そうすると彼女はいつも『うるさい馬鹿!』なんて言って歯を食いしばって再開して……みたいなのは、いつの間にか俺達の日常の一部になっていた。
そういえば、鏡華も鏡夜の様に俺の事を何かある度に『馬鹿』って言ってくる。こういうところまで似なくてもいいのに……。
それはそれとして、さっきも言った通り鏡華には鏡夜と違うところも一杯あった。
まず鏡華は常に無愛想だった鏡夜と違って、コロコロと表情が変わる。
鏡華はよく俺に怒ってくるけどその怒り方も多彩で、ムスッと仏頂面決め込む事もあれば歯をむき出しにしてガーっと怒ってきたり。
甘い物食べる時の鏡華は、俺とかきららさんとか誰かがいる時だと笑顔を抑えようとして微妙ににやけてしまっている、あれはあれで面白い顔になるんだけど、誰もいない時だとそれはもうあんなの今この一瞬しか見れないんじゃね?って程の幸せそうな笑顔になるんだ。なんでそんな事知っているのかというと、俺が家に帰ってきた時、鏡華がその事にも気づかず実に幸せそうにデザートを食べている現場に遭遇できたからだ。一度だけだけど。
あの後は、それはもう理不尽なことに烈火のごとく怒られたけど、それでもあの笑顔は一生忘れられそうに無い。
鏡夜と違うところその2。鏡華は結構世話焼きだ。まぁ鏡夜も俺の勝負には付き合ってくれる辺り、案外そういう所もあるのかもしれないが。
最初、全く家事が出来なかった俺に鏡華は面倒くさそうな顔をしながらも一から十まで教えてくれた。
俺は何度も失敗したけど、鏡華はその度にやっぱ面倒くさそうに、本当に面倒くさそうだったけど付き合ってくれた。
他にも、俺は毎朝走りこみをするのが日課だけどそれを忘れてつい寝こけてしまっている時に起こしてくれたり、バイトの事を忘れている時に教えてくれたりもする。勿論、『馬鹿』って言葉もセットだけど。
鏡夜と違うところその3。鏡華はたまに脆いところがある。
いつも強気な鏡華は、本当にたまにだけど凄く弱弱しくなる時があった。
多分、鏡華は俺の知らない何かを一人で抱え込んでるんじゃないかと思う。
それのせいかたまに一悶着起きたりしたけど、結局その抱え込んでいるものを鏡華が吐き出す事は無かったし、俺もそれを尋ねる事は無かった。
人には知られたくない事だってあるのだと思うし、たとえ何を抱えていたって鏡華が良い奴だって言うのは間違いないから。
これは絶対に断言出来る。俺の直感と一緒に暮らしてきた経験ぐらいしか根拠は無いけど、でもそれで十分だろ。
だから俺は、鏡華が何を抱えてて何で悩んで傷ついているのかは分からないけどだからこそ、俺は自分の出来る範囲で鏡華の助けになってあげたいと、いつの間にかそんな事を思うようになっていた。
幾ら馬鹿にされたってそれで気が収まるならそれで良い。
こかされたり物ぶつけられたりもしたけど、それでも助けになるのなら構わなかった。
俺は馬鹿だから知恵も無いし、鏡華の気持ちを汲み取ってやれる程察しも良くない。
だからせめて鏡華の鬱憤を、あいつの抱えている物を少しでも肩代わりしてあげたかったんだ。
いつからそんな事を思っていたのかは自分でもよく分からない。
最初は多分、『鏡夜の妹だから俺が守ってやらないと』みたいな使命感とか、後は向こうが妙に嫌ってくるから『こうなったら意地でも仲良くなってやる』とかそんな意地みたいなのが多かったんだと思う。
でも鏡華の近くに居て、あいつの色んな所を見ていつの間にか俺は純粋に、鏡華の事を守りたい、もっと仲良くなりたいって思うようになっていた。
これが恋とか愛とかそういう物なのかって聞かれると、正直まだ答えは出ていない。
それでも一つ確かに言える事があった。
――俺は、鏡華ともっと一緒に居たい。
あの海水浴場での一件で分かった事だけど、鏡華は何者かに狙われている。
それについてはきららさんに一度聞いてみたが、鏡華を狙う人間の正体はあの人でも分からないらしい。
鏡華の抱えている物、アイツを取り巻く色んな事。鏡華の周りで何が起こっているのか、それら全てが俺には皆目検討も付かない。
こういう時鏡夜なら、俺と違って頭の良いアイツならば悔しいけどもっと色々と理解出来ていたのだろうと思うけど、そのアイツは今ここには居ない。
それでも俺は守りたい。鏡華が鏡華らしくいられる様に、俺が鏡華と一緒にいられる様に。
鏡華にどんな危険が迫っても――次こそはアイツが、泣かない様に。
鏡華が赤金家に来てから数日が経った。
今のところ鏡華にさしたる危険もその予兆も起こっておらず、彼女は平和な日々を送っている。
鏡華も赤金家に結構馴染んできており、家事を手伝いながら美羽と談笑する姿や、出向から帰ってきた鶴来の父親である赤金翔冶とも意外とあっさり打ち解けている様子が見られた。
だというのに鶴来はそれを素直に喜ぶ事は出来なかった。
それは彼に一つの懸念があったからだ。
今まで鶴来は鏡華の精神状態を鑑みて、その懸念には一切触れなかった。
だが今のままではこちらが不安で鏡華と真っ直ぐ向き合えない。
そう思った鶴来は今日、その懸念を晴らす為に鏡華にある問いをしようとしていた。
「あ、鶴来!今クッキー焼いたんだがお前も食べるか?」
真夏だというのに珍しくいつもよりも気温が落ち着いて過ごしやすい昼下がり。いつどうやって話を切り出そうかと、リビングに置かれている人二人は座れる程度の横長のソファーに座って思案していた鶴来の下に、お手製らしいクッキーが幾つも乗った大皿を両手に持った鏡華がトコトコと歩いてきた。
「ん?あ、ああ。ありがとう……」
相変わらず何処か違和感のある鏡華の行動に若干もやもやしたものを胸の内に感じながらも、話を切り出すには丁度良いタイミングだと思った彼は、鏡華がソファーの前の机に大皿を置いた後、鶴来自身の隣に座るまで素直に待った。
ソファーに座った鏡華はひょいと皿の上のクッキーを一つ摘んでその小さな口に入れると幸せそうに薄らと柔らかい笑みを浮かべたがそんな彼女とは対照的に、あまり彼女を刺激しない様自分の疑問について遠まわしに聞いてみるかそれとも直球でいくかどうかで悩んでいた鶴来は、眉間に皺が寄っていた。
鏡華は目の前の菓子にも手をつけず何やら考え事に没頭している鶴来の事が不思議に思ったのか、軽く首を傾げながら彼の名を呼ぶ。
「……鶴来?」
「え?……あ、ああ。別に大丈夫だから気にすんなって」
(……やっぱ回りくどくってのは性に合わない。とりあえず、当たってみてから考えるか!)
意を決した鶴来は、鶴来の様子を不思議そうに見守っていた鏡華に向かってある問いをした。
「鏡華……その、なんていうかちょっと聞きたい事があるんだけど」
「聞きたい事?」
「ああ。……あー、その……お前って最近俺の事全然馬鹿にしなくなったよなって思ってさ」
「え……」
何か気づいたかの様にハッと目を見開いた鏡華の様子を見た鶴来は、鏡華の気に障ることを言ってしまったのかと思い、慌てて雰囲気を軽くしようと努める。
「あ、いやそんな大した事じゃ無いんだけどさ!ただいつもと違うから、何か悩みでもあるのかなって思っただけで!」
「……別に、大した事じゃないよ。ただこの間お前に助けてもらって、今もこうして住まわせてもらってる身だから……もうそういうのは言わない様にしようって。それだけだから」
鶴来の弁明に、鏡華は困った様に眉尻を下げながらも何処か引きつった、無理矢理さを感じる笑顔を浮かべて返答した。
彼女の表情を見た鶴来は何か言わなければと、直感的にそう思いとりあえず何か言おうと口を開こうとする。
だが、その前に鏡華が勢い良く立ち上がると先程と同じ表情で言った。
「ごめん、ちょっと眠たくなってきたから部屋に戻ってる。それ、全部食べても良いからな」
「あっ、ちょっと鏡華……」
鶴来の言葉も聞かずに、鏡華は早足で歩き出す。
鶴来は彼女を引きとめようと立ち上がって手を伸ばすも、そそくさとリビングを出て行く鏡華には届かなかった。
鏡華がリビングを出て行った後、鶴来はソファーに座りなおすと先程の明らかに何かおかしかった鏡華の様子を思い出した後、自分の失敗が情けなくなり顔を両手で覆うと、大きくため息をついた。
「はぁー……やっちまったかなぁ……」
やはり今の鏡華は不用意に刺激するべきでは無かったのか。
もう少し上手く聞き出せる術は無かったのか。
後悔して凹む鶴来の耳に、母である美羽の声が届いた。彼女は先程まで別の部屋にいたはずだが、どうやら鏡華と入れ違いになったらしい。
「おい、今鏡華が部屋戻ってったんだが……どうしたお前。なんだ、もしかして振られたか?」
「ちげぇよ!てかあいつとはそういうのじゃないし!……はぁー……」
からかう様な美羽の声に、思わず顔を覆う手をどけてツッコミを入れる鶴来。
だが彼は不意に、先程の鏡華の表情を思い出してまたため息をついてしまう。
底抜けな明るさが影を潜めている、いつもと違う息子の様子に見かねたらしく困った顔をした美羽は頭をがしがしと掻いた後、鶴来に向かって叱る様に言った。
「あー……おい鶴来!お前が何に悩んでるかは知らないしどうでもいいけどな、どうせお前は馬鹿だから下手に頭使ったって意味無いんだ。もうちょっと頭空っぽにして考えろ!」
「空っぽにして考えろってそれ矛盾してるだろ……てか頭空っぽにして突撃してみたら失敗したんだよ……」
「はぁ……そうじゃなくてだな、結局お前は幾ら知恵絞ったってお前でしか無いんだから、自分の持ってる物でやれるだけやるしかないだろって事だよ」
「何に悩んでるのかも分からない癖になんつう言い草……でも、俺の持ってるものか……俺は……」
美羽の言葉を聞いて、鶴来は考える。自分が鏡華に対して出来る事を。
鏡華を泣かせたくないと思っていた。彼女の不安を取り除く手伝いを少しでもしたいと思っていた。もっと彼女の笑顔を見たかった。
自分は馬鹿だ。だから先程も鏡華を不用意に傷つけてしまった。だがそれでも自分にはああいう方法しか取れない。元より持っている選択肢は少ないのだ。だったら――。
鶴来からは、いつの間にか陰鬱な雰囲気は消え去っていた。
それを見た美羽も、安堵からなのか軽く息を吐くと薄らと微笑みを浮かべた。
「ほら、分かったらさっさと行け馬鹿息子。全く、幾つになっても世話の焼ける」
「くっそ仮にも母親のくせに息子を馬鹿馬鹿言いやがって……でもそうだよな、自分だって分かってる。どうせ俺は馬鹿なんだから、だったら馬鹿なりにやってやる!」
アイツはいつも暑苦しくてしつこくて、そしてとことん馬鹿だった。
だから俺とは全くの正反対な性格で全然反りが合わないくせに、負けず嫌いな面とか妙に似ているところもあって。
そんなアイツがなんとなくムカつくから、アイツにだけは絶対に負けたくなかった。アイツはどんどん強くなっていったけど、だからこそ負けてやれないって思った。
俺はアイツと俺がライバルだなんて絶対に、認めたくないって思っていたんだ。
そう、思っていたはずなのに――。
「お前って最近俺の事全然馬鹿にしなくなったよなって思ってさ」
鶴来の口からその言葉を聞かされた時、鏡華が最初に感じたのは息が詰まった様な胸の苦しみだった。
次に『いつもの自分ってどんなのだったのだろう』と思った。
「あ、いやそんな大した事じゃ無いんだけどさ!ただいつもと違うから、何か悩みでもあるのかなって思っただけで!」
いつも。いつもってなんだ。
鶴来の様子を見る限り、どうやら自分はいつも通りに振舞えていなかったらしい。
たったそれだけの事だと言うのに、鏡華はまるで自分自身が否定されてしまったかの様な感覚に陥った。まるで、いつか見た夢の時の様に。
「……別に、大した事じゃないよ。ただこの間お前に助けてもらって、今もこうして住まわせてもらってる身だから……もうそういうのは言わない様にしようって。それだけだから」
誤魔化す為に笑いながら言ったつもりだが、本当にちゃんと笑えていたのかは分からない。
だがそんな事はもうどうでも良かった。今は兎に角その場からすぐに逃げ出したい。これ以上鶴来にこんな自分の姿を見られたくない。
「ごめん、ちょっと眠たくなってきたから部屋に戻ってる。それ、全部食べても良いからな」
「あっ、ちょっと鏡華……」
静止の声も振り切って、足早にリビングを出て行った鏡華は自分の部屋として使わせてもらっている一室へと戻った。
(寒い……)
夏だと言うのに全身の血液が冷えていく様な錯覚。
鏡華は急いで薄手の毛布を手に取ると、部屋の隅に縮こまって毛布に体を埋めた。
鏡華は今になって漸く本当の意味で理解した、いや理解してしまったと言うべきか。
自分の心がどうなってしまっているのかを。
今まで目を逸らしていたそれを自覚してしまった彼女にはもう、涙を流すことしか出来なかった。
「うっ……くっ……うぁ……」
いつの間にか鏡華のかすかな嗚咽だけが、部屋に虚しく響きだしていた。
直球勝負しか選択肢が無いのなら、全力で直球勝負を挑むまでだ。そう鶴来は決心した。
鏡華の事を傷つけるかもしれない。と言うのは勿論本意では無いが、それでも彼女一人に抱え込ませたくは無い。自分が取り除ける障害があるのならば、せめてそれだけでもどうにかしたい。それが自分の嘘偽らざる本音だ。
だから知らなければならなかった。鏡華の抱えている物を、彼女が先程見せたあの表情の理由を。
その為にまずはどうすれば良いのか……なんていうのは単純な話だ。
先程みたいに鏡華に直接聞いてみれば良い。
自分は馬鹿だ、絞る知恵も巧みな話術も持ち合わせていないから、絶対に鏡華を傷つけないという自信は無い。
そう、自分は馬鹿だ。だから何も考えずに自分の思いを曝け出す事が出来る。腹を割って自分の胸の内を鏡華に伝えて、その上で鏡華にも抱えている物を話してもらいたい。それしか自分の出来る事は無いから。
赤金家の2階には、前まで物置として使われていた余りの部屋が一つあった。
今そこは整理され、一時的に鏡華の部屋となっている。鶴来は今、その部屋の前に立っていた。
「何度もしつこくてごめんな、鏡華。それでもさ、前に言ったけど俺は……諦めが悪いんだ」
かすかな声でぽつりと呟かれたその言葉は、間違い無く扉の向こうの鏡華には届かないだろう。
だがそれは鏡華に聞かせる為の物では無く、鶴来の決意表明代わりの独り言だった。
「……よし!」
腹を括った鶴来は意を決して目の前のドアノブに手をかける。
元より鍵の存在しないタイプだ。ドアノブを回して押せば扉はあっさり開いた。
「鏡華!さっきの話なんだけど――」
決意と共に部屋の中へと足を踏み入れた鶴来は、しかし部屋の隅のそれを視界に収めた瞬間、金縛りにあったかの様にその場で立ち止まって絶句してしまった。
「鏡……華……?」
「ぁ……!」
鶴来が見たそれとは、身を守る様に毛布で全身を包み何かに怯える様な表情で涙を流す、鏡華の姿だった。
【今日の戯言コーナー】
もうそろそろ語る事も無ければそもそも需要も怪しいこのコーナー。
次回以降、もし消滅してたら「あっ……(察し)」みたいな感じでそっとしておくのが吉。




